当研究グループで得られた知見や開発した技術の例をご紹介します。
ナノセルロースの凝集特性評価
- 内容
- ナノセルロース(セルロースナノファイバー/CNF)は、様々な用途への展開が期待され、技術開発が進んでいます。これらナノセルロースの利活用で課題になることは、ナノセルロースの「凝集」です。一般的なナノセルロース製造では、水が必須です。そのため、材料化の際には、水を除去する必要が出てくる場合が多くあります。しかし、脱水・乾燥プロセスを工夫しないと、ナノセルロースは容易に凝集します。一度凝集したナノセルロースは、再び、ナノ繊維にほぐすことは相当に困難です。
ナノセルロースは、原料や製造方法により多種多様ですが、化学処理を併用せず機械処理のみで製造する場合,高純度のセルロース原料からは、高純度のナノセルロースが得られます。木粉や粗製パルプを原料とした場合、セルロース以外のヘミセルロースやリグニンは、ナノセルロースの表面に吸着・堆積しています(リグノセルロースナノファイバー/LCNF)。材料として利用する場合、用途によってナノセルロースは選択する必要があります。その指標の一つとして、ナノセルロースの凝集性も大切です。
説明図では、「水晶振動子マイクロバランス(QCM)法」を用いて、ナノセルロースの種類による凝集性を評価した結果です。粗製パルプ(針葉樹/広葉樹)から製造したナノセルロースは、酵素を用いて表面のヘミセルロースのみを加水分解しで、その量を調節しています。このようにして製造した様々なナノセルロースを用いて、水晶振動子センサーをコートし、そのセンサーをフローセルにセットして、同じ種類のナノセルロースをポンプで流しました。相互作用によって、センサーの表面に流した同じナノセルロースが吸着する程度を調べることで、凝集性が評価できます。
評価の結果、高純度のナノセルロースは、高い凝集性を示しましたが、粗製パルプからのナノセルロースは、凝集性は低く、その程度は、ヘミセルロースにより影響を受けることが分かりました。つまり、高純度ナノファイバーは凝集しやすく、粗製ナノセルロース(リグノセルロースナノファイバー)は凝集しにくいという結果です。ヘミセルロースの凝集抑制効果は、ヘミセルロース同士の相互作用が弱いことや、イオン的官能基の存在などが理由と考えられます。
このようなナノセルロースの種類による特性は、当研究グループでの複合材料化などのプロセスでも実感しており(リグノセルロースナノファイバーの方が、高純度ナノナノセルロースよりも樹脂補強性が高い)、用途によっては、形状・形態以外にナノセルロースの成分組成も重要であることが確認できました。
※セルロースは、物質としては1種類ですが、ヘミセルロースは、グループ名であり、様々な種類があり、針葉樹と広葉樹でも大きく異なっています。
- 説明図
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- 参考文献
- 1. Akio Kumagai, Takashi Endo, Cellulose, 28(1), 259–271(2021), “Effects
of hemicellulose composition and content on the interaction between cellulose
nanofibers”
2. AkioKumagai, Seung-Hwan Lee, Takashi Endo,Biomacromolecules,14(7), 2420-2426
(2013). "Thin Filmof Lignocellulosic Nanofibrils with Different Chemical
Composition for QCM-DStudy"
3. AkioKumagai, Shinichiro Iwamoto, Seung-Hwan Lee, Takashi Endo,Cellulose,21(3),
2433-2444 (2014), "Quartz crystal microbalance withdissipation monitoring
of the enzymatic hydrolysis of steam-treatedlignocellulosic nanofibrils"
- 参考 リンク
- 「研究紹介」
水晶振動子マイクロバランス法によるナノセルロース表面特性解析技術
- 装置・設備への リンク
- 「物質特性評価・解析装置、サンプル調製用機器」
・水晶振動子マイクロバランス測定装置/アルテック(株) QSense QCM-D E1
追記事項
セルロース材料グループ