Advanced Coating先進コーティング技術

光反応コーティング、ハイブリッドコーティング技術を用いる
高機能膜創成と循環型モノづくりの構築

About研究の取り組み

当ユニットでは、循環型モノづくりの構築に向けた産総研オリジナルの新しいセラミックコーティング手法の開発に取り組んでいます。光MOD法はその一つで、化学溶液法をベースにして光を用いてセラミックス膜を結晶化させる低温成膜手法です。セラミックス膜のフレキシブル化や成膜エネルギーの低減、省資源性に優れる新たな成膜手法として期待されています。また、ハイブリッドエアロゾルデポジション(HAD)法は、緻密膜から多孔質膜までを形成することが可能で、三次元複雑形状部材への表面機能付与技術として期待されています。当部門では、HAD法をさらに深化させ、カーボンニュートラリティの実現や産業競争力の強化に貢献していきます。

Pointsポイント

  • 1機能向上と高耐久性を両立する、インク、塗布・成膜、光反応技術開発
  • 2循環型モノづくりの構築に向けたオンデマンドリペア、アップグレードサイクルプロセスの開発へ
  • 3カーボンニュートラルなど環境制約への対応を可能にする機能表面の創製
キーワード

光MOD(光金属分解、ナノ粒子光反応法、ハイブリッド溶液光反応法)、マルチマテリアル、ハイブリッドエアロゾルデポジション(HAD)

Feature研究の特色

光MODなどの光反応コーティングでは、光エネルギーを利用した低温成膜と同時に、多種多様な金属を均一に混合できるため、低温・高速な新材料開発が可能です。特に、従来困難であった樹脂上へのセラミックスコーティングにより、フレキシブルで・軽量な機能部材を実現します。また、金属や樹脂部材へのコーティングにより高機能×高耐久性部材も可能となります。こうした部材の実用化には、信頼性評価が必須であることから、加速劣化試験、製膜、機能発現、劣化などのメカニズム解明などの研究も行っています。
HAD法は、固相状態でセラミック粒子を堆積するAD法と液相状態でセラミック粒子を堆積するプラズマ溶射法を重畳したセラミックコーティングプロセスです。メゾプラズマとも呼ばれる非平衡プラズマジェットによってセラミック粒子を活性化、加速させて堆積させることにより、三次元複雑形状部材にセラミックコーティングを付加することができます。例えば、多孔質材料の封止といったことが可能になります。

Result研究成果

  • 1.光反応コーティング(光MOD,光CVD,光スパッタ等)

    光MODは、セラミックス、金属、樹脂基材に各種方法で金属有機化合物、若しくはナノ粒子、更には、その混合溶液(ハイブリッド溶液)を塗布し、乾燥後、紫外光反応により金属酸化物膜を作製する方法です。レーザエネルギーや繰り返し周波数を変えた多段階の光反応によりコーティングと同時に結晶化膜を作製することができます.また、CVDやPVD等の気相製膜における結晶成長工程に適用することが可能です。/高充填性/低欠陥性を付与するなど、AM利用に適した粉末に加工することに成功しています。

    光反応コーティング
  • 2.多結晶膜及びエピタキシャル膜とそのメカニズム解明

    レーザの光吸収を持つ基材を用いることで、低温かつ高速に多結晶膜及びエピタキシャル成長が可能である点も特徴で、La1-xSrxMnO3(LSMO)薄膜、Pb(ZrTi)O3(PZT)薄膜, SmBaMn2O6薄膜及びSnO2薄膜,VO2薄膜などのエピタキシャル膜が作製されています。また、光反応を用いたセラミックス基板上への複合酸化物のエピタキシャル成長や多結晶成長機構については、光化学反応と光熱反応の定量解析から詳細に調べることで、プロセスの高度化や次世代デバイスの提案を行っています。

  • 3.フレキシブルセラミックス膜

    従来、セラミックス膜は、500℃以上の高温プロセスで製膜するため、主にガラスやセラミックスなどの基材が用いられてきましたが、産総研では、光反応プロセスのパルス反応や波長選択性を利用することで、様々なセラミックス材料を樹脂上に作製する新しい製造プロセスを開発しました。本技術により、フレキシブル抵抗体膜、フレキシブルサーミスタ膜、高輝度蛍光体膜、高移動度透明導電膜などを実現し、部材の軽量化や高機能化を実現します。

  • 4.三次元駆動型プラズマトーチの開発

    HAD法では、誘導結合型高周波プラズマ(rf-ICP)が用いられることが多いですが、装置が大型で、三次元駆動することが困難でした。このrf-ICPトーチを改良し、産業用ロボットに搭載可能なレベルに小型化することに成功しました。

    三次元駆動型高周波プラズマトーチによるHAD製膜の様子。産業用ロボットにプラズマトーチをマウントし、直径40 cmのアルミニウムリングにセラミックコーティングを施工します。

  • 5.HAD法による緻密なアルミナコーティング

    HAD法によって緻密でクラックのないセラミックコーティングを堆積することが可能になります。ビッカース硬度も1800 HVとバルクに近い硬度のαアルミナコーティングが得られています。

    図 HAD法で堆積したアルミナ皮膜とプラズマ溶射法で堆積したアルミナ皮膜の比較。プラズマ溶射皮膜で観察されるマイクロクラックや気孔がありません。

  • 6.HAD法による多孔質構造体の封止技術

    HAD法では、プラズマ援用によって粒子同士の結合力が向上します。このプラズマ援用によって、多孔質基材上に緻密なセラミック皮膜を堆積することが可能になります。