化学と化学工業の発展により様々な化学物質を「大量」にかつ「安価」に供給することが可能となってきた一方で、使用する原料、触媒、あるいは副生する化学物質が、地球環境や人体へ悪影響を及ぼす例も多く指摘されています。筆者らは「超臨界二酸化炭素溶媒と固体触媒とを組み合わせた多相系反応システム」を提案し「環境負荷の小さい、高効率・省エネルギー型化学プロセス」の応用展開をしてきました。一連の研究は、社会と経済のニーズのための技術開発であり第二種型に分類されます。その一方で、超臨界二酸化炭素溶媒中での固体表面の触媒作用は通常の有機溶媒中とは異なった挙動を示すことも見出してきました。今回のワークショップでは、この第二種基礎研究中に見出された未知現象を解明するための第一種研究が、「目的が明確化され」かつ「時限付の」センター内で本格研究を遂行するに重要であることを議論しました。
 ワークショップでは、「ナノ空間制御膜における基礎研究と応用研究」という題目で、拙いながらも話題提供をさせていただきました。個人的には、製品開発が主導的な役割を果たしながら行われる基礎研究は、製品の品質向上に繋がる重要な研究であるという程度の認識でしかなく、新しい学問領域を構築するという発想には至りませんでした。そのため、ワークショップの趣旨に沿った発表ができたのだろうか?と疑問に思うところもありました。しかし,ラボの研究課題に対する私の研究内容の位置づけを認識する良い機会であったと感じています。また、本来の目的ではないかもしれませんが、今回のワークショップを契機に、今までとは少し違った視点も持ちながら、研究を進めたいと考えています。
 産総研における第1種基礎研究の役割は、第2種基礎研究の迅速化であり、さらには、産総研独自の研究分野の創製であると考えます。そのためには、産総研の第1種基礎研究が大学など他の研究機関と差別化でき優位に立つことが重要かつ必要です。ワークショップに参加して感じたことは、未知現象の発見や解明などの第1種基礎研究を動機付けする発端をどこに求めるかということです。産総研の一つの特徴が様々な専門分野の研究者の集積にあるとすれば、知識や情報の---あるいは、第1種と第2種基礎研究の---融合や共有化が実りあるフルーツを新たに生み出すものと期待されます。また、付け加えるならば、その過程で研究者個人の知的好奇心が十分に“擽られる”ことが、ビッグフルーツの必要条件であると思われます。

=本格研究における第1種基礎研究ワークショップ=

 さる6月28日、東北センターOSL棟2階セミナー室において、吉川理事長を迎えての「本格研究における第1種基礎研究ワークショップ」が開催されました。当日は、吉川理事長と東北センターの4名の研究員から話題提供があり、それを受けて活発な討論が交わされました。東北センターの発表者からの感想などを見ながら当日の様子を振り返ってみたいと思います。
超臨界流体研究センター
 有機反応チーム長 白井誠之
超臨界流体研究センター
 流体特性解明チーム
   金久保 光央

当日の会場の様子

話題提供する吉川理事長

メンブレン化学研究ラボ
      長谷川 泰久
メンブレン化学研究ラボ
        伊藤 徹二
 今回のワークショップでは、産総研のさまざまな立場の方からの意見を聞くことができ、おぼろげながらも産総研の研究事情を肌で感じることができました。また、私が行っている研究もこのまま続ければ産総研にとって重要なものになるとのコメントをいただき、とても自信になりました。私は産総研に入所してまだ3ヶ月しかたっていません。その私にとって今回のワークショップは産総研を知るうえでとても重要なものであり、半日という短い時間でしたが、理事、若手、中堅、室長クラスの方々の活発な議論は今後の産総研にとって有意義であったと感じています。今回このような機会を与えてもらわなければ、真剣に第1種基礎研究、第2種基礎研究について考えることはなかったかもしれません。今後はこの経験を生かし研究を進めて行きたいと思います。
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