産総研 東北 Newsletter
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研究者紹介
清住さん
 本連載では、研究者の方との対談形式を取り、研究内容をわかりやすく解説することをコンセプトとし、研究者個人にもフォーカスをあてた内容を目指しています。
 連載第6回は、ナノ空間設計チーム 清住嘉道さんです。清住さんは平成15年より産総研東北センターで研究を始め、ゼオライト膜を用いた物質分離についての研究に取り組んでいます。
 なお、本文中の研究キーワードアイコンは、3ページの‘研究キーワード’に掲載された専門用語を示していますので、そちらも合わせて御参照ください。

ゼオライトは世界一小さい網として使える
 ゼオライトは18世紀半ばに地質学者が発見した鉱物です。加熱すると水蒸気が出てくるため、沸騰と言う意味のギリシャ語に由来するzeoと、石の意味のliteで、ゼオライト(沸石)という名前がついたのです。ゼオライトはケイ素やアルミニウムなど、地表付近に広く存在している物質を原料としてできています。宮城県にも天然のゼオライトの産地があるほか、人工的にも合成することができます。水熱合成といって、水、ケイ素やアルミなどの原料を加熱することで合成します。
 ゼオライトの特徴は、幅が数ナノメートルの孔が規則的に並んだ構造をしていることです(図1)。この孔の形や大きさには様々な種類があって、天然・人工合わせて約200種が確認されています。私は、規則的な孔を持つゼオライトの構造が、世界で1番細かい網として使えるのではないかと考えて、ゼオライトで膜をつくり、この膜を用いて物質を仕分けする方法を研究しています。
 ゼオライト膜が物質を仕分けする原理を説明しましょう。ここでは例として、エタノール分子と水分子の分離を考えてみます。もし、ゼオライトの持つ孔がエタノール分子より小さく、水分子よりも大きいサイズだった場合、ゼオライト膜を通り抜けることができるのは水分子だけとなります(図2)。この現象を“ 分子ふるい”と呼んでいます。
 また、ゼオライト膜には結晶粒界研究キーワードという隙間があります。この隙間はエタノールや水の分子より大きいサイズなので、どちらも通り抜けられるように思えます。ところが、ゼオライトは種類によって水分子をよく引きつけるタイプ(親水性)と、引きつけないタイプ(疎水性)があります。親水性のゼオライトは、結晶粒界の隙間に水分子が集まって、エタノール分子をシャットアウトするため、この隙間を通り抜けることができるのは、水分子だけとなります。したがって、1)ゼオライトの孔のサイズが水分子より大きくエタノール分子より小さい、2)ゼオライトが親水性のタイプである場合、このゼオライトで作った膜は、エタノールと水の仕分け(脱水)ができることになります。ゼオライト膜は、条件次第ですが、10万個の水分子に対してエタノール分子が1個混ざるかどうかというレベルまで高純度で水分子を脱水できます。近年はバイオマスエタノール研究キーワードが注目された結果、ゼオライト膜によるバイオマスエタノール溶液の濃縮方法が脚光を浴びるようになりました。
確かに、生物由来のバイオマスエタノールは、回収・精製の過程で脱水処理が必要です。この脱水をゼオライト膜で行うのですね。

ゼオライト膜を使い
 通常、バイオマスエタノール溶液は蒸留研究キーワードによって濃縮しますが、実は、96%程度から製品濃度の99.6% に濃縮する際に、多くのエネルギーを消費するのです。現在、宮古島にはサトウキビからバイオマスエタノールを製造するプラントがありますが、そこでは、96% から99.6% に濃縮する部分でゼオライト膜を用いた濃縮装置が実用化されています。ゼオライト膜による濃縮は蒸留に比べて、水とエタノールでは、約20%も省エネルギーですし、水と酢酸ですと、約80%とさらに省エネルギーであることが分かっていますので、環境への負担が少ない濃縮方法が実現できるのです。

図1

図2
 実は、化学工業全体を見渡すと、蒸留により水を取り除く操作をする化学反応は非常に多いことが分かります。蒸留による二酸化炭素排出量は、化学工業全体の約40%にもなります。蒸留は電気や熱エネルギーを多く消費するためです。そこで、ゼオライト膜による物質分離法で蒸留装置を代替できれば、その分、化学工業の省エネルギー化、コンパクト化が実現できると考えました。
  現在、宮古島で利用されているゼオライトは、A 型というタイプのものですが、このタイプは脱水性能が高い反面、耐酸性がないために、酸性条件の化学反応に利用できません。化学工業の世界では、香水や医薬品などの原料となるエステルを合成する化学反応が広く行われています。この化学反応では、副産物として水が生じます。この水を取り除くためにゼオライト膜を利用したいのですが、そのためには耐酸性を向上させる必要があるのです。
  私たちは、A 型ゼオライト膜と同程度の脱水性能があって、なおかつ酸にも強い、pH=3程度の酸にも耐えられる新しいゼオライト膜(MER型やCHA型)を開発しています。今後は、このゼオライト膜を用いて脱水装置を組み立て、性能試験を試みる予定です。この装置の開発に成功すれば、エタノールの濃縮以外にもゼオライト膜が幅広く利用できる可能性が示せます。省エネルギーな分離システムとして、ゼオライト膜の実用化が進んでくれるのではと期待しています。
Qゼオライト膜に耐酸性を付与することで、汎用性の高い分離装置を実現するということですね。装置の実現に向けて他に工夫はありますか?
  私たちは、よりコンパクトで高耐久性の装置を実現するために、α-アルミナ研究キーワード支持体を使ったゼオライト膜の開発を行っています。一般的に、ゼオライト膜は非常に薄くてもろいために、膜を支える構造として支持体を使います。現在実用化されている装置では、コストの問題からα-アルミナではなくムライトという支持体を使っています。一方、α-アルミナはムライトに比べて高価であるものの、支持体のサイズを1/6〜1/7にできるため、周辺装置の規模も含めてコンパクトな装置づくりが可能になります。その分、ランニングコストも減らすことができると考えています。加えて、α-アルミナ支持体は表面が非常に滑らかなため、ゼオライト膜も均一な厚さのものが作れます。そのため、ゼオライト膜の性能を安定化させることができました。
  先ほど、ゼオライト膜には結晶粒界という隙間があると話しました。実はこの隙間がどれ位あるかで、脱水処理のスピードや分離操作後の純度が変化することが分かっています。私たちの研究成果では、ゼオライト膜を作る際に、種となるゼオライトの結晶をどのくらいの密度で支持体に撒くかによって、結晶粒界の数をコントロールできることを見出しました。この結果、同じ方法で合成したゼオライト膜は、均質な性能を発揮できるようになりました。
Qゼオライト膜の処理量や分離性能をコントロールできると言うことは、要求される分離操作に合わせて膜の性能をカスタマイズできることにもなりますね。

研究を進める上で、異分野融合はとても大事
Q産総研で研究を行うメリットはありますか?
 産総研には、地質分野や装置設計ができる方など、様々な分野の研究者が集っています。そのような異分野の研究者と情報交換することで、効率的に研究ができました。たとえば、ソーダライトというゼオライトを合成したときですが、研究当初、ゼオライトの合成がうまくいかず、層状ケイ酸塩という鉱物が合成されました。私たちから見ればこの結果は失敗だったのですが、地質学者の側から見ると、層状ケイ酸塩はゼオライトの出来損ないだから、もう一工夫でゼオライトになるのでは、とのことでした。このような層状ケイ酸塩を解析の専門家に見てもらったところ、アルミナを混ぜて化学反応させればゼオライトになることが分かり、試してみると実際にソーダライトが合成できたのです。
 他にも、研究手法でアドバイスをもらったことがあります。従来、ゼオライト膜の性能試験では、長さ5cm程度のサンプルを用いていたのです。ところが、化学工学の研究者の意見では、このサンプルは小さすぎて物質の流れなどの条件が異なるために、実用化の際のデータとして使えないとの事でした。今では長さ20cmの膜を使ってデータの検討をして、より実用的なデータをとるようにしています。産総研での研究は、最終的に産業化を意識したものですから、このように実用化を踏まえた条件検討を行うことが大事だと考えています。
Q異分野の知識を結集することで実験が円滑に進んだのですね。
 研究を進める上で、異分野融合はすごく大事です。いろんな観点から問題をみて、新しい方法を見つけていくというやり方が進歩も早いですし、よりいい成果が出せるのです。その点では、産総研は様々な専門家がいるのでいい環境ですね。
Q今日はどうもありがとうございました。

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  自宅で飼っているネコ「ちょこ」と共に。ちょこちょこ歩くから「ちょこ」と名付けたそうです。

http://unit.aist.go.jp/tohoku/ UP