●生体分子動態センサー開発を指向した先端オペランド計測技術の深化
バイオ分子やナノマテリアルの性能・機能を評価することを目的に、我々はピコメートルオーダーの分子運動をリアルタイム観測できる新規X線計測法を開発し、1分子動態解析システムの更なる深化展開を行なっています。タンパク質分子のねじれ運動や、化学反応による結晶構造変化などの計測を通じて、分子ダイナミクスに基づく作動機構の解明や、次世代バイオセンサーの開発を推進します。低温電子顕微鏡等による先端1分子解析技術も併用して究極的分子動態オペランド計測を実現させ、有機・無機・ポリマーなどの新規材料開発への貢献を行います。さらに喫緊の社会的課題であるウイルス対策に関しても、分子動態の新視点からウイルス検出器開発を目指しています。産学官連携を通じてこれら課題解決を推進し、我が国のモノづくりの社会実装に貢献します。



●エネルギー貯蔵材料の動作下超高分解能放射光軟X線電子状態解析
エネルギー貯蔵材料を用いる代表的なデバイスである高性能Liイオン電池(LIB)が注目されていますが、市場が求める性能の実現に向けて、電池材料開発におけるブレイクスルーが必要です。LIBは未解明な点が多いため、真に革新的なLIB開発に向けて、新たな学術的知見に基づいた材料開発の指針を確立する必要があります。本研究は、放射光軟X線を用いた電子状態計測を軸として、動作状態におけるLIB電極電子状態を観測し、これまで未知であった電子軌道レベルでの充放電メカニズムの解明と新材料設計指針の立案を目指しています。また、電解液を用いた既存のLIBに留まらず、性能と安全性の向上が期待される固体電解質を用いたLIB開発も行い、ウェアラブルな低コスト全固体デバイス開発に繋げます。



●超伝導を用いた近・中赤外単一光子分光イメージング技術の開発
近年、超伝導を用いた光検出器は、単一光子レベルでの光の検出が可能な超高感度検出器として注目されています。特に超伝導転移端センサ型の単一光子検出器は、マイクロカロリメータとして動作するため、検出した光子のエネルギー(波長)まで検出することでき、単一光子分光も可能です。赤外の波長領域でこのような感度を有する検出器はこれまでに存在しておりませんでした。本研究では、このような超伝導を用いた単一光子検出器の開発を行うとともに、それを利用した近・中赤外の波長領域での単一光子分光イメージング技術の確立を目指しています。この開発により、例えば、ある種の化学反応の過程で放出される、分子の振動や回転状態に応じた中赤外光子の波長や光子数強度などを観測することで、化学反応の量子状態のダイナミクスを観測することが可能となります。