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{ナノチューブ実用化研究センターの最新の研究成果の紹介}

高品質な単層カーボンナノチューブの成長のメカニズムを解明

| 研究のポイント

触媒となる鉄の蒸着量と酸化マグネシウム下地のアニーリング温度が、カーボンナノチューブの層数選択と収率を左右することを解明。 高収率の単層カーボンナノチューブの合成に最適な成長領域が存在することを確認。

|研究の概要

高効率に単層のカーボンナノチューブ(CNT)フォレストを成長させる手法としてこれまでに酸化アルミニウム(Al2O3)下地層を用いた手法が多く報告されています。また、Al2O3の下地層の空隙率が、触媒の鉄(Fe)ナノ粒子のオストワルド熟成を抑制して触媒寿命を延ばすこと、この触媒の長寿命化が高さのある単層CNTフォレストの成長にとって重要であることが報告されています。

本研究の著者らによって、下地へのFeの表面下拡散を低減する適切な熱アニーリングで、酸化マグネシウム(MgO)触媒下地を用いてミリメートルスケールの単層CNTを成長させることが可能であると報告されています。また、MgOの過アニーリングによって結晶度は劇的に改善されますが、同時に過剰な表面結合Feとオストワルド熟成が起こるために単層CNTの選択性が失われることも報告されました。多孔質MgO下地を用いて高収率の単層CNTフォレストの成長を実現するためには、表面結合Feに影響するMgOのアニーリング温度とFeの初期蒸着量のバランスを取ることが重要であることが明らかにされています。

| 研究の詳細

マグネトロンスパッタリングで110nm厚のMgO膜をシリコンウェハ上に形成し、アニーリング無し(室温)のMgO膜と500℃から950℃までの異なる複数の温度でそれぞれ20分間アニーリングして作成したMgO膜に、1~2nm厚のFe触媒層を蒸着し、管状炉でCNTを成長させて、複数種類(21種類)のCNTを合成しました。

得られたCNTの状態を分析し、CNTの高効率成長領域は、十分に高いFe蒸着量または十分に高いMgOアニーリング温度の領域であること、この領域は短い触媒寿命に由来する低収率境界で制約されていることが分かりました。この領域内でCNTフォレストは約400μmに成長します。これは筆者らが高効率成長と定義する「成長時間10分で高さ400μm以上」という条件を十分に満たしています。

さらに、前記のCNTの成長領域には高効率に単層CNTフォレストが成長する領域が存在していることを確認しました。この高収率領域は、△短い触媒寿命に起因する低収率領域(低収率境界)と、△多層CNTの高効率な成長領域(多層境界)という2つの境界によって制約されています。MgOのアニーリング温度が低下するつれて蒸着したFeの表面結合の量が増加して多層CNTが成長を始めるため、効率的に単層CNTが成長できる領域は狭くなります。

Fe/MgO触媒系では、Feの蒸着量とMgOのアニーリング温度という二つの要因の集合的効果が、表面結合Feの量を決定し、これがCNTの層数の選択と収率の両方に影響すること、また、三つの明確なCNTの成長領域の存在を確認しました。高収率単層CNTの成長領域は低収率単層CNTと多層CNTの境界によって制約されていること、2つの境界が集約していることから、単層CNTが効率的に成長できる領域は狭いことが分かりました。触媒の状態の解析により、高密度・小径の触媒ナノ粒子の安定した形成が単層CNTの選択性に影響することが明らかにしました。


論文タイトル:Modulation of carbon nanotube yield and type through the collective effects of initially deposited catalyst amount and MgO underlayer annealing temperature(初期の触媒蒸着量と酸化マグネシウム下地層のアニーリング温度の集合的効果によるカーボンナノチューブの収率と層種の変化)

著者:Takashi Tsuji, Guohai Chen, Don N. Futaba, Shunsuke Sakurai(ナノチューブ実用化研究センター)

掲載雑誌:MRS Advances, 4(3-4), 139-146.(04 December 2018)

DOI:10.1557/adv.2018.624

ナノチューブ実用化研究センター:研究成果(論文リスト 2019)

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