研究トピックス


▶ バイオ界面活性剤の製造と利用技術の開発

 バイオ界面活性剤(BS)は、植物油脂や糖類などのバイオマス資源を原料として微生物を培養することで得られる両親媒性脂質です。環境適合型の界面活性剤としてだけでなく、ユニークな自己組織化特性や生理活性をもつ機能性バイオ材料として注目されています。現在、ソホロリピッドやラムノリピッドといった糖脂質型BSの実用化が世界的に進められています。当グループでは、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を中心に糖脂質型BSの研究を20年以上前から継続して行ってきました。東洋紡株式会社との連携で、MELが高い保湿機能を持つことが分かり、現在、化粧品への応用が広がっています。


 MEL製造技術に関して、MEL生産酵母スクリーニング技術の開発、ゲノム解析、遺伝子組換え技術による育種・改良、培養・発酵技術の開発、などを中心に研究成果を蓄積し、その製造技術を技術移転するとともに、企業連携で機能性バイオ材料の社会実装を達成することが出来ました。
 応用微生物学の研究者として興味深いのは、なぜMEL生産酵母は大量のMELを生産できるのか?という点ですが、これについても最近の研究である程度分かってきました。環境中からMEL生産酵母をスクリーニングした結果、全て葉の表面に棲んでいることが分かり、疎水性の強い葉の表面に付着するための界面活性物質として分泌(菌体外に生産します)しているようなのです。もちろん、葉面で生活するためには、さらに付着するためのメカニズムが必要ですが、この点も、葉面のクチクラ層を分解する酵素を分泌していることが分かっています。一方、植物病原菌のように葉を枯らすことはないようで、実際、類縁菌がもつ病原性に関与する遺伝子群はゲノム中に保存されていません。そして大量に生産できる理由としては、遺伝子発現を抑制する因子が今のところ見つかっておらず、発酵培養条件を整えれば、投入した原料を効率よくMELに変換できるためと考えています。
 その他、MELの構造解析で苦労しながらもかなりの経験を蓄積し、様々な同族体の構造的特徴を明らかにすることが出来ました。生産に使用する酵母の種類や培養条件を変えることで、脂肪酸やアセチル基、さらに糖骨格を改変することが出来るのですが、それら全ての結果は、細かな部分を解析する技術を蓄積してきた成果といえます。さらに構造-機能相関の観点からも研究を進めることが可能になり、界面活性剤としての比較、さらに保湿剤としての応用へと研究が加速していくこととなりました。応用微生物学、高分子化学、界面化学の異分野融合でなしえた研究成果ですが、企業の皆様の努力なしで「技術を社会へ」を実現することは不可能であること、また知財・事業戦略を考慮した研究計画と組織的な体制作りが重要であり、チームとしての円滑なコミュニケーションと高いモチベーションが何より大切であることを経験することができました。
 現在も、製造および利用技術の更なる高度化を目指して、特に遺伝子・代謝解析を中心にMEL生産酵母の改良を進めており、化粧品以外の事業展開を見据えて研究を進めています。