介護と医療の架け橋
セラピー用ロボットパロ
世界で最もセラピー効果があるロボットパロ
を開発した柴田さんは、脳の研究者。パロはどのような動きや機能が、脳の活動に良い影響があるか?
の検討から生まれました。
1993年から研究開発が行われ、今では世界30ヶ国以上で4,000体のパロが活躍しています。
アメリカではパロは神経学的セラピー用医療機器
として承認を受け、ヨーロッパでも医療機器化の作業が進んでいます。国内では、岡山市で介護保険を適用した実証実験を実施しています。
柴田さんは今、各種疾患に対するパロの治験によるセラピー効果の科学的エビデンスの蓄積と、より良くパロを活用するための人材育成の仕組み作りに取り組んでいます。
部門付 上級主任研究員 柴田 崇徳 博士(工学)
研究のはじまり
パロは、アニマルセラピーをヒントに、動物と接することが難しい病院や施設で活躍できるセラピー用ロボットの研究から生まれました。
変わらないパロの長生きの秘密
1993年から研究開発を開始し、2003年に誕生した、第7世代のパロ。
外観は殆ど変わっていませんが、パロの中は改良され、現在は9世代目。
癒しを与えるコミュニケーション能力に最適化し、故障せず長く使われることを想定して設計したので、外観はあまり変える必要がないのだと言います。すべてのパロが使い続けられるように、交換が必要な部品は第8世代以降の分が用意されています。
世界30ヶ国以上で活躍するパロは、国によって認識する言語が違います。また、利用する患者さんによって、パロの反応の仕方が違います。認知症の場合、ネガティブな反応はマイナスなので、パロをたたいても怒ったような動作はしないようにする。発達障害の場合は、たたくなどいけない行為には、パロがいやがる動きをします。
同じ姿でも、セラピー効果を最大化するために、パロには様々な細かい配慮がこめられているのです。
世界で実証される、パロのセラピー効果
世界各地での臨床試験や治験により、人がパロとふれあうことにより、うつ、不安、痛み、孤独感、睡眠等の改善が報告されています。また、ストレスの低減や、血圧の安定化等の効果も示されています。さらに社会性やコミュニケーション能力の改善も報告されています。
認知症の場合には、パロとふれあうことにより、徘徊や暴力・暴言等の周辺症状が改善し、介護者の負担が軽減し、必要に応じて用いられる各種の抗精神病薬の投薬が低減します。
発達障害の子供達の場合には、まずパロを受け入れ、徐々にパロをシェアすることにより他の子供達とコミュニケーションをできるようになる場合や、ADHD(注意欠陥多動性障害)の子供が穏やかにパロとふれあっている場合などがあります。
ガン患者が、化学療法時にパロとふれあうことにより、不安、痛み、疲れが低減したり、緩和ケアで用いられたりしています。
老衰やガンなどで亡くなる方の穏やかな看取り
にも用いられています。
回復期のリハビリにおいても、動機付に用いることにより、より高い改善効果を示しています。
また、嚥下障害がある方が、パロの抱きかかえ、話しかけ、歌いかけを通して、体幹を鍛え、口を動かし唾液を飲み込むことにより、嚥下リハビリとなり、経鼻経管が不要になる事例もあります。
世界で活躍するパロたち
- アメリカのパロ
2009年に神経学的セラピー用医療機器
として認められたアメリカ。
テキサス州立大学と共同で、認知症ケアユニットにおいて、パロの認知症患者に対するセラピー効果について、パロを用いた場合
と、パロを用いない場合
で、60名について、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trials: RCT)を行いました。パロを用いた場合には、統計的に有意にセラピー効果が確認されました。例えば、パロを用いることで不安
を改善し、通常はその際に投薬する抗精神病薬が30%低減し、パロの効果は薬よりも2時間以上持続しました。認知症ケアユニットでは、一人当たり、1か月に約1,000ドルの抗精神病薬を使っていますが、パロを用いることにより、副作用をなく、そのコストを低減できます。パロの導入費用を大きく上回る薬の費用の削減が期待できます。 - ヨーロッパのパロ
デンマークは、パロが活躍している国の一つで、認知症ケア施設や、発達障害の子供たち向けの施設等に、約80%の地方自治体により、公的導入されています。
パロを扱うスタッフは、研修を受け、免許を取得する必要があるなど、パロは専門家のためのセラピー用ツールとして位置づけられています。
オランダ、フランス、イギリス等、他の欧州諸国でもパロの導入が広がっています。 - アジアのパロ
シンガポールでは、政府とアルツハイマー病協会とによるパロの臨床評価結果を踏まえて、高齢者向け施設に対して、パロの導入時に最大100%の補助金が支給されています。 - 日本のパロ
岡山市では、在宅介護においてパロを活用する際に介護保険を適用する実証実験を行っています。要介護者の良い状態を維持し、家族等の介護負担を軽減することで、在宅介護を維持しやすくなることを検証しています。
パロをより良く使うために
パロは、その活用方法を知るスタッフの存在によって、その効果に大きな違いが出ます。そこでパロのユーザー会議に加え、教育用のビデオの制作やeラーニングの提供などを進めています。
パロは、これからも世界で介護と医療の架け橋として、それぞれの国や地域の社会制度にパロが組み込まれるよう、柴田さんの研究は続きます。