AIST 表層型メタンハイドレートの研究開発
AIST 表層型メタンハイドレートの研究開発



研究開発の概要
PROJECT_OUTLINE
研究開発の概要
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2022年度の研究成果報告会で天満則夫が行った報告を元に、本プロジェクトの概要を紹介します。

「表層型メタンハイドレートの研究開発」2022年度の取り組み


1. メタンハイドレートとは?
メタンハイドレートは、非在来型の次世代天然ガス資源として期待されており、日本周辺海域に相当な量が存在していると考えられています。
○砂層型メタンハイドレート:海底面下数百mの砂質層内に砂と混じり合った状態で存在しています。
表層型メタンハイドレート:海底面及び比較的浅い深度の泥層内に塊状で存在しています。




2. 表層型メタンハイドレートの開発に向けた3分野の取り組み
表層型メタンハイドレートの開発は世界的にも未経験の試みであり、
1.「生産技術の開発」として、表層型メタンハイドレートの回収技術・生産技術、さらに生産システムの検討、生産技術に係る環境への影響等の研究開発が必要です。
2.「海洋産出試験の実施場所の特定に向けた海洋調査」として、開発された生産技術を適用する海洋産出試験を行うために必要な、賦存状況を把握するための海洋調査や、開発技術の検討に必要な海底環境条件などの情報を提供するための、地質状況や地盤強度などの調査研究が必要です。
3.「環境影響評価」の研究として、試験候補地の特定に向けた調査、環境パラメータの調査、環境ベースライン観測、環境モニタリング手法の高度化・最適化などの環境への影響の評価のための調査研究開発が必要です。
さらに、表層型メタンハイドレートの「資源」としての経済性の確保や環境保全など、商業化に必要な様々な条件の検討、技術開発が必要です。



3. 表層型メタンハイドレートの開発に向けた工程表
平成30(2018)年に閣議決定された海洋基本計画に基づいて、下図のような表層型メタンハイドレートの開発に向けた工程表(ロードマップ)が作成されました。なお、新型コロナウィルス感染拡大の影響等もあり、2019年-2022年度の4年間で計画された実行計画は、図に示したように2023年度までに延長されました。




4. 生産技術の開発(1)
平成30(2019)年度に実施された評価に基づき、研究開発を進めてきた表層型メタンハイドレートの回収技術に係る要素技術(採掘技術・分離技術・揚収技術)に関して、研究進捗を踏まえて令和3(2021)年度には更なる技術評価を行いました。この評価に基づいて各要素技術開発を実施しています。
1) 採掘技術に関しては、三井海洋開発グループにより提案された「大口径ドリルを用いた広範囲鉛直採掘方式」の開発を実施しています。
2) 分離技術に関しては、船上分離方式の技術開発を進めるとともに、泥水処理の法制等の検討も進めています。
3) 揚収技術に関しては、ガスリフト方式ないし水中ポンプ方式を採掘、分離技術との組み合わせ等も考慮した技術開発を進めています。
4) さらに、共通基盤技術として、要素技術との組み合わせ、生産システムとしての検討に必要な技術として、「膜構造物の利活用」および「貯留層物性・メタンハイドレート分解挙動の検討」の研究開発を進めています。
5) 海洋調査・環境影響評価等の研究は、上記要素技術開発、生産システムの検討に必要な情報の提供の観点からも実施しています。



5. 生産技術の開発(2)
採掘技術の要素技術開発として実施している「大口径ドリルを用いた広範囲鉛直採掘方式」の開発のため、表層型メタンハイドレートが分散して存在している海底堆積物(メタンハイドレートを20%含む泥質堆積物)を想定した模擬地盤及び100%メタンハイドレートからなる塊状ハイドレートを想定した大型氷を大口径ドリルで掘削する試験を実施しました。模擬地盤の掘削試験は2022年10月に、大型氷の掘削試験は2023年1月31日以降、2月13日までに実質6日間にわたって実施しました。



6. 海洋調査・海域環境調査の実施海域と調査項目
「海洋産出試験の実施場所の特定に向けた海洋調査」のために、日本海の表層型メタンハイドレートの分布域のうち、電磁探査、掘削調査、潜航調査等の詳細データが揃っている、海鷹海脚・上越海丘(上越沖)、酒田沖(最上トラフ)、丹後半島北方(隠岐トラフ)の3海域をモデル調査海域として、今後の産出試験に係わる必要な図に示した調査項目の海洋調査の実施を進めています。



7. 海洋調査(1)賦存状況等の把握
「海洋産出試験の実施場所の特定に向けた海洋調査」は、回収生産技術の研究開発に必要不可欠な情報(表層型メタンハイドレートを胚胎する堆積層の深度、連続性、地盤強度、海底環境など)を取得するために実施しています。その賦存状況等の把握のための調査の例として、2019年度に酒田沖(最上トラフ)で実施した高分解能三次元地震探査と2020-21年度に実施した熱流量調査の状況について、下図で紹介しました。



8. 海洋調査(2)海底の状況等の把握
「海洋産出試験の実施場所の特定に向けた海洋調査」の回収生産技術の研究開発に必要不可欠な情報取得のための調査として、海底地盤強度調査を2021年度に酒田沖、2022年度に上越沖で、また海底現場状況調査を2020~2021年度に酒田沖、2022~2023年度に上越沖で実施しました(2023年度は進行中)。これらの調査の概要を下図で紹介します。海底地盤強度調査では、掘削調査船を用いて海底にCPTプローブという地層の強度を測定するセンサを一定速度で差し込む手法、地層の試料を採取し実験室で測定する手法などによって海底地盤強度を測定しました。海底現場状況調査では、ROV(水中ロボット)を用いて、海底面を詳細に観察したり、様々な計測装置を用いて海底や海底付近の海水の環境情報を調べました。また、長期的に環境情報を観測するための機器を海底に設置しました。



9. 海域環境調査
「海洋産出試験」を実施するためには、「環境影響評価」のための調査研究として、産出試験前の様々な環境ベースラインの把握、生産水の動きや影響の予測、メタンハイドレート胚胎域の生物地球化学的環境の把握等が必要です。下図に示したのは、海水柱の物理場の計測、採水による海水の化学的、生化学的分析、プランクトンの採取分析、海底面付近の堆積物、岩石の採取分析による生物地球化学的環境の調査の状況です。



 本研究は、経済産業省「国内石油天然ガスに係わる地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」の一環として実施しました。関係各位に謝意を表します。