私たちのチームでは、チップおよびウエハスケールでの電気特性評価装置を多数管理しています。これらの評価装置を活用して、シリコン量子ビットやクライオCMOS、トンネルトランジスタの研究を進めています。
シリコン量子ビットやクライオCMOSの研究開発には、極低温の測定環境が必要となります。当チームでは、半導体デバイスの極低温評価に特化した国内有数の測定設備を管理・運用しています。絶対零度に近い15ミリケルビンの測定温度を作り出すことができる希釈冷凍機に加え、計5台の冷凍機を管理しています。また、測定装置として計5台の半導体デバイスパラメータアナライザとノイズ測定装置を導入しています。これらの装置を利用することで、チップサイズでの高精度な極低温評価を行うことができます。
チップサイズの評価装置に加えて、室温および極低温で測定可能なウエハスケール評価装置も保有しています。従来、極低温では一度の測定サイクルで評価できる素子の数は非常に限られていました。そのため、大量データの取得には膨大な時間がかかるため、研究開発が遅れる一つの要因となっていました。そこで我々は300 mmウエハ極低温オートプローバを導入し、極低温での高速・大量測定を実現しました。同装置はアジアでは産総研に初めて導入されたもので、これまでに公表されている中では米・インテル社、仏・電子情報技術研究所(Leti)に次ぐ世界で3台目の装置です。
当チームでは上記装置に加え、スクライバーやワイヤボンディング装置、ペーストボンダー装置を保有しています。これらの装置を利用して、ウエハの切り出しやセラミックパッケージへのデバイス取り付けを行います。
当チームで研究に用いる半導体デバイス(量子ビット、MOSFET、トンネルFETなど)は、産総研内の未踏デバイス試作共用ラインCOLOMODE(Communal Fabrication Line for Outstanding Modern Devices; コロモデ)を利用して作製しています。シリコン半導体デバイス作製に必要な成膜・エッチング・リソグラフィなどのプロセス装置が一通り揃っている施設で、この施設内で素子作製を完結させることができます。私たちのチームが主体となって、COLOMODEは運営されています。 COLOMODEの装置は全て4インチウエハ対応で、量産品質グレードの自動動作機ばかりです。ウエハをカセットに入れ装置にセットし、レシピを選択して実行ボタンを押すだけで、ウエハの搬送からプロセスまで全て自動で行われます。4インチウエハ面内やウエハ間のばらつきが極めて小さく、安定したプロセスを次々と高速に実行することができます。また、リソグラフィについてはマスクレス露光装置と電子線描画装置を併用しているのも特徴です。マスク(パターンの原板)を作ること無く研究者の描いたレイアウトのデジタルデータを直接インプットすることができ、大きなパターン(umオーダー以上)から小さなパターン(30nm~umオーダー)まで対応可能です。これらの特徴を最大限に生かせば、研究者の思いついた新しいアイデアを即座に精度よくデバイス試作に取り入れることができ、次々と『アイデア→試作→測定検証』のサイクルを回すことができます。