概要我が国における1,3-ブタジエンのヒトの健康に対する詳細なリスク評価を行った。評価の方法は以下の通りである。
1,3-ブタジエンを生産,使用している工場や自動車等の移動発生源からの1,3-ブタジエンの排出量について解析を行ない,その結果を広域大気濃度・曝露評価モデルAIST-ADMERに適用し,関東地方における暴露濃度の推計を行った。
さらに高濃度地域については,低煙源工場拡散モデルMETI-LISを用いて,高排出量地区であるコンビナート周辺の1,3-ブタジエン濃度を推定した。また,これらとは別に,関東地方の沿道における暴露濃度を評価した。
1,3-ブタジエンの各種有害性について検討し,吸入暴露による発がんユニットリスクとして疫学調査結果から得られた5.9×10-6
/(μg/m3)を,また,非がん性の影響として2年間の吸入毒性試験の影響がみられた卵巣萎縮の結果を採用した。
暴露濃度及び有害性評価結果から,1,3-ブタジエンに生涯暴露した場合の生涯発がんリスクを評価し,全体の約4分の1の人口が,大凡10-6の生涯リスク以下になり,残りが10-5と10-6の間にあり,極めて少ない人口が10-5を超えるという結果が得られた。また,非がん性の影響点として選んだ卵巣萎縮に対するリスクは,当面考慮の必要はないと判断した。
1995年度から始められた事業者による自主管理の効果を検証した。1999年度に行われた対策の費用対効果分析を行った結果,1ケースの発がんリスク削減のための費用は2億円程度になった。
以上の評価結果から,現状では,1,3-ブタジエンの濃度は大部分の地域において懸念されるリスクレベルではなく,また,高濃度地域であるコンビナート周辺においても,自主管理計画による排出量削減が濃度低減に対して効果をあげていると判断されることから,更にコストをかけて規制する必要性は薄いと考えられる。 |