研究部門の概要
工学計測標準研究部門では、自動車に代表されるものづくり産業の高度化に役立つ、幾何学量・質量・力学量・流量などに関連する国家計量標準の整備と普及、関係する計測・評価技術の開発・高度化を行います。これら開発・高度化した計測・評価技術および計測機器を用いて、ユーザーが必要とするソリューションの提供に務めます。また、アボガドロ定数精密測定による質量標準など、次世代計量標準の開発を推進します。さらに、工業標準化や国際標準化をはじめとする基準認証業務への貢献を図ります。加えて、計量法の規制が要求される、特定計量器と呼ばれる計量器の型式承認や、その検定に必要な基準器の検査など、商取引における消費者保護などを目的とした法定計量業務を実施します。
研究内容
1. 長さ標準研究グループ
「角度測定を利用した超高精度平面形状測定装置(Scanning Defrectmetric Profiler)」
物体表面の局所的な角度の分布を、オートコリメーターと呼ばれる角度測定装置により測定し、得られた角度分布を積分することで物体表面の平面形状(凹凸)を得る手法を新たに開発した。
この手法は、フィゾー干渉計のように基準となる平面を必要とせず、角度測定の精度のみによって平面度の測定精度が決まる。
今回開発した装置は、測定原理と装置構成がともに非常にシンプルであるにもかかわらず、平面度測定の再現性として、口径300 mmに対し±1 nm以下という非常に高い精度を達成した。
写真1:Scanning Defrectmetric Profiler(SDP)の原理 写真2:SDP
2. 質量標準研究グループ
「アボガドロ定数を世界最高精度で測定。SI基本単位「キログラム」の定義に向けて」
人工物に頼る最後のSI基本単位「キログラム」の定義を改定するために、質量標準研究グループではアボガドロ定数を高精度化するための研究を行っています。そのためにシリコン28同位体濃縮結晶球の直径を測るレーザ干渉計や精密質量計測技術などを開発し、2015年3月にアボガドロ定数を世界最高精度で測定することに成功しました。
写真1:シリコン球の直径をサブナノメートルの精度で測るレーザ干渉計
写真2:真空天びんによるシリコン球の質量の精密測定
3. 流体標準研究グループ
「高温・高圧用のPVT性質計測装置を開発」
エアコンやヒートポンプ給湯器の高効率化は省エネに大きなインパクトがあります。近年では地熱や廃熱を利用して発電するORC(有機ランキンサイクル)も再生可能エネルギーのひとつとして注目されています。これらの機器に用いられる冷媒・作動流体の熱力学性質はシステムの性能を左右するため,特に基本となるPVT性質(広範囲な温度・圧力下における流体密度)の測定が望まれています。
当研究グループは特定標準器(単結晶シリコン球体)に基づいた国家標準にトレーサブルな計測を可能とする、高温・高圧用のPVT性質計測装置を開発しました。音速や気液平衡性質など,他の熱力学性質測定と併せ、地球温暖化係数(GWP)が小さい代替冷媒の開発を支援するための研究を進めています。
写真1:磁気浮上密度計を用いた150 ℃,20 MPaまでのPVT性質計測装置
写真2:従来のチタン製に代えて,密度の不確かさが小さいシリコン単結晶製シンカーを採用
4. 気体流量標準研究グループ
「高速域の風速測定を高精度で実現する気体大流速標準」
高速域の風速測定を高精度で実現する気体大流速標準の開発を行っています。閉ループ式流量計校正設備に設置した流量流速変換ノズルで整った流速分布を生成し、この分布を精密に測定することで、ノズルに流入した流量を測定断面上の任意の位置での流速に変換することにより、高速の風速標準を確立しました。現在はさらに不確かさを低減するための研究を行っています。