ナノデバイス・評価研究グループ
我々デバイス・評価研究グループでは、産総研が開発してきたナノカーボン材料に対するデバイス・材料開発および評価技術開発で培った要素技術を活用し、本格的な社会実装が始まったカーボンナノチューブ(CNT)を中心とした、ナノカーボン材料の社会実装に貢献していきます。
ナノカーボン材料は、その微細構造・結晶性・表面状態およびマクロ構造により、他の物質に類を見ない多様な物性発現をする事が可能な一方で、それらをいかに使いこなすかが非常に重要となります。
我々は、独自の評価技術を活用した高度な物性制御により、デバイスや材料毎に目的とする特性を最大化する事で、先端的な新規デバイス・材料の開発を目指していきます。また、そこから得られた知見を、幅広いナノ材料物質へ展開する事で、ナノカーボン材料を含めたナノ物質の社会実装に貢献していきます。
グループ長ひとこと

森本 崇宏 デバイス・評価研究グループ長
「フラーレン・カーボンナノチューブ・グラフェンなどのナノカーボン材料は、その物性の多彩さゆえに、特性を活かして使いこなすまでに長い年月を要してきました。現在では、長年蓄積した知識・技術を使いこなす事で、これまでにはない実用的な材料・デバイスを実現できるまでになって来ています。新たな現象理解・プロセス開発・評価技術開発を通じて、是非一緒にナノカーボン材料の社会実装に取り組んで参りましょう。」
研究テーマ一覧(主担当)
・CNT不揮発メモリ (藤井健志、藤井香里、森本)
・セラミック部材の評価技術 (中島)
・CNT線材および複合繊維の評価 (小橋、森本)
・ナノ材料評価技術 (小橋、藤井香里、中島、森本)
研究テーマ紹介
次世代電池 (鈴木、周)
電池の正極・負極および電解質に適した最適材料を探索し、CNTをはじめとするナノカーボンの本来の優れた特性を最大限に引き出すことで、容量密度、出力、寿命、安全性を飛躍的に向上させる次世代電池の開発に取り組んでいます。たとえば、CNTによる三次元ネットワーク構造を構築することで、高耐久なLi金属負極やSi負極の実現を目指しています。さらに、これらの高度な技術と、ウェアラブルデバイスの研究で培ったフレキシブル固体電池の技術を融合することで、ユーザビリティーに秀でた次世代電池の開発にも注力しています。(プレスリリース):
電流密度、寿命を飛躍的に改善し、大容量のリチウム金属電極を実現
CNT不揮発メモリ (藤井健志、藤井香里、森本)
エッジAIデバイスやコンピューテーションインメモリなどのベースとなるCNTを用いた新規メモリ素子の開発に取り組んでいます。この素子を開発するに当たり、微細加工技術を駆使した100nm以下の電極構造形成、電極表面の酸化状態制御、研究室レベルから300mmプロセスの間を埋める原理検証素子の作製・評価などに取り組んでいます。これらの開発を早期実施することで革新的デバイスを実現します。
セラミック部材の評価技術 (中島)
ナノカーボン材料のみならず、幅広いナノ材料物質への研究展開も精力的に行っています。たとえば、ファインセラミックス材料の評価技術開発に取り組んでいます。セラミックスは現代のデジタルインフラを支える日本の強い産業分野ですが、その製造プロセスは長年の「勘と経験」によって蓄積されたノウハウが多く、今後の技術発展のためにはプロセス過程で起こる現象理解やメカニズム解明が求められています。当グループでは、ナノカーボン材料で培った評価技術や知見を活かすことで、十分に理解されていない物理現象やその原理原則を明らかにし、最先端のセラミックス材料開発への貢献を目指します。
(論文):
J.Eur.Ceram.Soc., 44, 4141-4149 (2024).
Sci.Rep., 14, 18508 (2024).
(参考サイト):
NEDOプロジェクト 次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発
CNT線材および複合繊維の評価 (小橋、森本)
CNT線材は軽くて強く導電性が高いため、電線等の社会実装が期待されています。種々の市販CNT線材を評価すると、CNT有効長が長く高密度であるほど高い導電性を示すことが分かってきました。また、タイヤコード、スマートテキスタイル等の社会実装が期待されるCNTセルロース複合繊維の評価にも取り組んでいます。紡糸用CNT分散液の粒子径分布を遠心沈降法で測定する手法を開発し、CNT粒子径と繊維特性の相関を明らかにしています。加えて、CNT線材における電気伝導特性の基礎原理解明にも取り組んでおり、長年起源が不明であった負の線形温度依存性の起源を解明するなど、各種CNT線材の特性最大化に繋がる設計指針の確立にも取り組んでいます。
(論文):
Nanomaterials, 12, 593 (2022).
Compos. B Eng., 283, 111643 (2024).
Nano Res. 15, 889-897 (2022).
Appl. Phys. Lett. 126, 173103 (2025).
(プレスリリース):
高強度レーヨンに迫る強度と伸度を両立した低環境負荷カーボンナノチューブ複合セルロース繊維を開発
ナノ材料評価技術 (小橋、藤井香里、中島、森本)
世界で多種類の市販CNTが利用できるようになりましたが、直径、層数、長さ、結晶性、比表面積等の構造や物性は各々異なり、用途に適した種類の選定がCNTの社会実装の課題となっています。そこでラマン分光法やCNT表面へのガス吸着法など、汎用的な評価手法を用いた市販CNTのカテゴリー化を提案いたします。
ナノカーボン材料の開発においては、ナノメートルからマイクロメートルの空間領域での物性・構造を、材料の特徴や状態に合わせて適切に評価できることが非常に重要です。ナノカーボン材料・セラミックス材料の品質評価および製造プロセスの最適化を目的として、電子顕微鏡をはじめとした汎用的な評価手法の深化および光・熱に対するこれらの材料の応答を利用した新たな評価手法の開発に取り組んでいます。(論文):
ACS Appl. Nano Mater., 2, 4043-4047 (2019).
(プレスリリース):
高強度レーヨンに迫る強度と伸度を両立した低環境負荷カーボンナノチューブ複合セルロース繊維を開発
これまでにカーボンナノチューブのバンドル(束)上の元素・官能基分布をナノスケールでマッピングする技術の開発や、電気伝導性の違いを利用したグラフェン上の血管構造のマイクロメートルスケールでの高精度な可視化に成功しています。
(論文):
・ACS Nano, 8, 9897-9904 (2014)
・Sci. Adv., 5, eaau3407 (2019)
・Sci. Rep,. 9, 14572 (2019)
・Nanoscale 11, 21487-21492 (2019)
・Powder Technology, 407, 117663 (2022)
(プレスリリース):
・走査型電子顕微鏡での元素組成分析を高い空間分解能で実現
・大面積グラフェンのさまざまな血管構造を高速・高精度に可視化する技術
グループの構成メンバー
所属・役職・氏名 専門分野 業績 研究グループ長森本崇宏物性物理、半導体物性、低次元伝導物理 上級主任研究員小橋和文高分子化学 主任研究員周英薄膜 主任研究員
藤井健志薄膜成長、半導体デバイス接合 主任研究員
鈴木宗泰電池、誘電体 主任研究員中島秀朗分光技法、半導体物性、量子光学 研究員
藤井香里溶液物理化学、レーザー分光 招聘研究員
村川惠美