1) 種々のVOCに応答するガスセンサを用いた呼気ガスセンシングシステムの開発
2) 新しい材料及び原理のガスセンサ技術の開発
3) 排熱の有効利用に向けた熱電変換技術の開発
4) 導電性酸化物材料と熱電材料の探索
1) 種々のVOCに応答するガスセンサを用いた呼気ガスセンシングシステムの開発
ヒトの呼気には、主成分の窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気の他に、様々な微量成分が含まれており、代謝・口臭・疾患との相関が指摘されている。疾患の一つである肺癌は、定期健康診断の胸部エックス線検査でスクリーニングが行われているものの早期発見が難しい。呼気は肺からの検体のため、呼気検査は肺癌スクリーニングの新たな方法として期待されている。ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)であれば、肺癌と相関のある呼気中の揮発性有機化合物(VOC)の分析は可能だが、装置が高価でかつ持ち運びが出来ず、更に専門知識が必要であることから、簡便に使用可能な装置の開発が望まれている。
我々は、知の拠点あいち「超早期診断プロジェクト」において、フィガロ技研株式会社、愛知県がんセンター、愛知県立大学と共同で、肺癌を検知するための呼気VOC検知器プロトタイプの試作、呼気計測、およびデータ解析を行った(図)[1]。本プロトタイプは、呼気中のVOCを濃縮するガス濃縮部、VOC種をGCカラムで分離する分離部、ガスセンサでVOCを検知する検知部で構成される。GCカラムは検知すべきVOC種の分離に対象を絞ることにより、計測時間の短時間化(10分)を実現した。産総研は、検知すべきVOC種の選定と、ガスセンサの開発を担当した。
GCカラムと併用する方式のため、ガスセンサはあらゆるVOCを検知できるものが望ましい。この場合、検知するVOC種の変更が必要になれば、GCカラムの交換で良い。そこで、過去にシックハウス症候群の対策として開発し、種々のVOC種が混合された模擬室内空気に良好な応答を示す、複数の貴金属添加型酸化スズをガスセンサ材料に採用し[2-5]、本プロトタイプへの搭載に向けてセンサ素子の小型化および更なる高感度化を図った(図)。酸化スズはナノレベルの微粒子を用い、ペーストの作製、基板への塗布から、焼成による厚膜化の条件の最適化を行い、ガスが内部まで浸透可能なポーラスの多い厚膜を作製した。更に、センサ素子作製後、エージング等の前処理の最適化も検討した。ガスセンサの改良においては、肺癌との相関が高いとの報告があったノナナールを評価ガスとして用いたところ、ノナナールを濃縮することなく、センサ素子単独で数十ppbの濃度を高感度に検知するセンサ素子の作製に成功した[6]。また、貴金属添加型酸化スズはアルデヒド系のガスには非常に高い応答を示す傾向がある。センサ材料のパウダーを反応管に詰め、反応ガスを流通させながら昇温し、アウトガスを分析する昇温反応法(TPRe)を行ったところ、ガスセンサ駆動温度において、貴金属添加の無い酸化スズでは変化はみられないものの、複数の貴金属添加型酸化スズではアルデヒドガス濃度の減少、二酸化炭素濃度の上昇の他、アルデヒド基がカルボキシル基に酸化していることが分かり、添加貴金属がアルデヒド系のガスの酸化に寄与し、これがセンサ感度の向上に繋がっていることを明らかにした[7]。
肺癌と相関のあるVOCについては、ノナナールの他にも候補があると考え、プロトタイプに採用した方式と同じ分析装置に相当するガス濃縮装置付GC/MSを用い、患者の呼気の分析を行った。
2種の組み合わせによる評価で幾つか候補となるVOC種を見出し、プロトタイプで検知可能な4種に絞り評価を行ったところ、開発したプロトタイプは、ガス濃縮装置付GC/MS測定データから判定した結果と同等の性能を得た[8]。更に判定精度を高めるため、得られた呼気ガス成分と濃度の計測結果を用い、多次元のデータを二値に分類する機械学習アルゴリズムである、サポートベクターマシン(SVM)で学習させ、被診断者に関する一個抜き交差検証を行ったところ、特定の肺がんマーカー物質のセットにより高い真陽性率と真偽性率でのスクリーニングできることが分かった[1,9]。 この結果に基づき、呼気中のVOC成分のデータから肺がんと健常を高精度で判定できるアルゴリズムを開発し、呼気VOC検知器プロトタイプに組み込んだ。
図.開発した呼気VOC検知器プロトタイプ(デザイン担当:椙山女学園大学 滝本 成人 教授)と小型化した貴金属添加型酸化スズガスセンサ(基板サイズ:4×4 mm2)
<参考文献>
- 産総研プレスリリース「呼気で肺がんのスクリーニング-健康管理のための呼気ガスセンシングシステムの開発-」2015年10月27日
- M. Kadosaki et al., Electro. Commun. Jpn. 93 (2010) 34-41.
- Y. Sakai et al., J. Ceram. Soc. Jpn. 117 (2009) 1297-1301.
- T. Itoh et al., Sens. Mater. 21 (2009) 251-258.
- T. Itoh et al., Sensors 10 (2010) 6513-6521.
- T. Itoh et al., Sens. Actuators B 187 (2013) 135-141.
- T. Itoh et al., Sens. Mater. 28 (2016) 1165-1178.
- T. Itoh et al., Sensors 16 (2016) 1891.
- Y. Sakumura et al., Sensors 17 (2017) 287.
2) 新しい材料及び原理のガスセンサ技術の開発
触媒燃焼を熱電変換するガスセンサを搭載した呼気水素検知器
図.開発した水素検知器と熱電式水素センサ
<参考文献>
- D. Nagai et al., Sen. Actuators B 206 (2015) 488-494.
- T. Goto et al., Sen. Actuators B 223 (2016) 774-783.
一酸化窒素ガスセンサ開発
気管支炎などの呼吸器疾患になると、呼気中のNOガス濃度が25ppb以上となると報告されています。我々は、p型半導体の酸化コバルト系において、50~250ppbの範囲で良好なセンサ応答を示すガスセンサを開発し、さらなる低濃度検知を検討しています。
図.p型半導体の酸化コバルトを用いたガスセンサとNOガス応答
<参考文献>
特開2015-040753
T. Akamatsu et al., Sensors 13 (2013) 12467-12481.
T. Akamatsu et al., Sensors 15 (2015) 8109-8120.
T. Akamatsu et al., Sensor. Mater. 28 (2016) 1191-1201.
3) 排熱の有効利用に向けた熱電変換技術の開発
熱電発電システム ~未利用排熱からのエネルギー回収~
熱電発電は,温度が低く小規模な熱源からも効率良く発電できるため,工場や自動車などから膨大に排出される「排熱」や太陽熱・地熱などの「自然熱」から電力が得られる,新しい熱利用技術として実用化が期待されています.本研究では,熱電発電技術の広範囲への普及を目指して,従来のレアメタルから構成されるBi-Te系を代替し,毒性が無く,豊富で安価な元素から構成される熱電材料の高性能化を試みています.また,耐久性や耐酸化性に優れ,熱源の形態に対応した熱電モジュールを開発することで熱電発電の実用化を促進しています.
Fe2VAl合金系熱電材料の開発 ~実用材料と高耐久性熱電発電モジュールの開発~
ホイスラー型のFe2VAl合金について,粉末冶金技術を用いた材料開発により,300℃以下の低温で高い発電性能を発揮する熱電材料を開発しました.本合金を用いて作製した熱電モジュールは,0.6 W/cm2(300℃の熱源)の出力密度を発揮します.この熱電モジュールは,熱電材料と電極を強固に接合しており,機械的な強度が高く,熱サイクル耐久性に優れています.この高耐久性を活かして,自動車の排熱を利用した熱電発電ユニットの開発を進めています.
<参考文献>
三上祐史 等, 日本金属学会誌 79 (2015) 627-632.
M. Mikami et al., Journal of Electronic Materials 43 (2014) 1922-1926.
M. Mikami et al., Journal of Applied Physics 111 (2012) 093710.
M. Mikami et al., Journal of Electronic Materials 38 (2009) 1121-1126.
M. Mikami et al., Japanese Journal of Applied Physics 47 (2008) 1512-1516.
M. Mikami, et al., Journal of Alloys and Compounds 461 (2008) 423-426.
4) 導電性酸化物材料と熱電材料の探索
ガスセンサなどの高温動作型電子デバイスには、抵抗体、電極、ヒーター材料として多くの導電性材料(例えば、白金)が用いられている。我々は、それら各種デバイスの材料コスト低減や新たな機能性付与を目的に、導電性酸化物材料に注目した部材化プロセス開発や性能制御、物性解明に取り組んでいる。
導電性酸化物材料としてはCaCu3Ru4O12やLa4BaCu5O13などの秩序型ペロブスカイト酸化物に注目し、粒子合成やペースト化、スクリーン印刷を含む塗膜プロセスを中心に部材化プロセス開発を実施。その他にも、焼結体や薄膜など様々な形態でのプロセス開発や更なる材料コストの低減に向けた材料開発を行っている。
<参考文献>
特開2013-051063
A. Tsuruta et al., Jpn. J. Appl. Phys. 55 (2016) 04EJ08.
A. Tsuruta et al., Phys. Status Solidi A 214 (2017) 1600968.
A. Tsuruta et al., Crystals 7 (2017) 213.
A. Tsuruta et al., Materials 11 (2018) 981.
A. Tsuruta et al., Materials 11 (2018) 1650.