映像の新時代に向けて
映像の生体安全性を確保せよ

氏家弘裕の画像

氏家さんの研究室で映像酔いを体験しました。映像を見ていると、座っているのに、まるで体が下に落ちていったり、ぐるぐる回されたりといった面白い感覚に襲われます。見続けていたら、乗り物酔いのように気分が悪くなりそうでした。
家庭用ディスプレイの大型化、いつも持ち歩けるタブレット端末、街の至るところに設置されたディスプレイ、また最近のウェアラブルディスプレイ。私たちは映像に囲まれ暮らしています。でもその映像が生体に影響を与えるなどとは思ってもいません。
氏家さんは、映像の生体影響研究に基づいた映像の生体安全性に関する国際規格化で、映像を安心して利用できる環境づくりを目指しています。

行動情報デザイン研究グループ 氏家 弘裕うじけ ひろやす 工学博士

研究のはじまり

氏家さんは元々視覚の研究者ですが、やがて映像が人にもたらす影響について研究するようになりました。本来、娯楽として楽しんだり、ビジネスで活用されるべき映像が、見る人を疲れさせ、めまいや不快感を与えては困ります。
21世紀に入り、映像は街や駅など公共の場でも珍しくなくなりました。映像が人間に与える影響の研究の重要性も、日増しに高まっています。

映像の生体安全性に関する人間工学指針の策定

映像による好ましくない生体影響として光感受性発作3D映像による視覚疲労映像酔いが知られています。氏家さんたちは、こうした映像の生体安全性に関する人間工学指針の国際標準化に取り組んでいます。このうち3D映像による視覚疲労映像酔いについては、基盤となる生体影響データの集積にも努めてきました。

  • 3D映像による視覚疲労
    3D映像は、視差のある2つの映像を左右の眼に別々に提示することで立体感が生じます。視覚疲労を軽減するための左右の映像のズレや、ピント調節と両眼輻輳などに関する指針がISOから国際規格として2015年5月に発行されました。

  • 映像酔い
    ダイナミックな動きのある映像を見て乗り物酔いのように気分が悪くなったことはないでしょうか?これが映像酔いです。氏家さんが現在取り組んでいるのがこの問題で、個人差が大きく、重症な場合1日中不調が続くこともあります。
    映像酔いは、個人差が大きく、また映像表現の複合的な要因で起きると考えられるため、指針を検討する上でより慎重な検討が必要だと氏家さんは言います。
建物の部屋の内側からドアを見たCG映像が左に傾いている図
実験映像の一コマ

映像酔いの生体影響特性の解明

氏家さんは、研究室で様々な映像が人間の身体に及ぼす影響を実験し、映像酔いを生じやすい映像表現を、主観評価ボックスと身体につけたセンサーで調べました。動きの軸、振幅、周期など様々な映像の動きのパラメーターによっても、影響は変わります。その中である程度映像の速度が影響することを突き止めました。

0から7まで番号が割り当てられた赤い押しボタンが8個入列にならんだ白い箱の写真
主観評価ボックス

映像酔い評価システムの開発

どうしたら映像酔いを防げるか?
氏家さんが明らかにした映像酔いの生体影響特性を基に、他の大学の研究者らと協力して開発したのが、映像酔い評価システム。映像の酔いやすさをコンピュータプログラムが分析し評価してくれるシステムです。現在プロトタイプまで完成し、さらに実用化を目指して開発が進んでいます。

コンピュータのモニタに表示されたソフトウェアの出力画面の図
映像酔い評価システム

映像の時代を楽しむために

現在いろいろと注目されているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)は、視野を覆い身体の動きに合わせた映像変化を起こせるため、これまでのスクリーンで見る映像よりはるかに没入性が高くなります。
映像の時代だから必要な、映像と人間のより良い関係のために、研究を通じた映像酔いのガイドライン作りが進んでいます。