リハビリテーションに科学的基盤を!ニューロリハビリテーション

肥後範行の画像

肥後さんのお話を伺っておどろいたのは脳卒中などのリハビリテーションには科学的な根拠が充分ではないということでした。
これまで、経験で行われていたリハビリに、肥後さんは脳の研究で科学のメスを入れました。
2015年、肥後さんたちのグループは世界で初めて、リハビリで機能が回復すると、脳の別の部分に損傷した脳の機能を代替えする神経回路ができることを、モデル動物を使った研究で明らかにしました。
現在は、まだモデル動物を使った基礎研究の段階で、人間の患者さんに適用するにはまだ時間が必要です。しかし、やがて脳の状態を外部から観測しながら、患者さん一人ひとりにあった科学的なリハビリをする時代がやってきます。

ニューロリハビリテーション研究グループ
肥後 範行ひご のりゆき 博士(医学)

研究のはじまり

肥後さんは、学生時代から動物を使った脳研究に取り組んできました。産総研入所とともに、動物を用いてリハビリの基盤となる脳の変化の研究を始めました。
これまでのリハビリの研究は脳損傷の患者さんを用いた臨床研究が主流でしたが、患者さんによって脳の損傷領域がまちまちであること、人を用いた研究では詳細なメカニズムの解析が難しいことなど、問題がありました。
動物を用いた研究であれば、再現性の高い検証や詳細なメカニズムの解明が可能です。

リハビリテーションを科学に!

脳卒中などで麻痺した身体のリハビリテーションは、時間がかかり肉体的にも辛いトレーニングを伴いますが、充分に回復しない患者さんも多くいました。その原因の一つとして、脳の損傷による障害を、脳を研究しないで解決しようとしていたことがあげられます。
近年、脳を変えることを目指す新たなリハビリテーションである、ニューロリハビリテーションの考え方が普及し、リハビリの背景となる脳の変化に関する研究が注目を受けています。

リハビリによる運動機能回復に不可欠な
脳の変化を解明

肥後さんたちは、モデル動物を使った実験を行い、脳の損傷がリハビリで回復する過程を、PET(陽電子断層撮影)を使った脳活動計測装置で計測しました。
その結果、2015年、リハビリで手の運動機能が回復した時、損傷した脳の機能を脳の別の場所が果たしていることを、世界で初めて明らかにしました。
脳や脊髄の損傷からのリハビリでは、失った脳の機能を取り戻さなければ回復は望めず、脳を適切に変えることが回復に必要だと言うことが分かったのです。

リハビリで手の運動機能が回復した時、損傷した脳の機能を脳の別の場所が果たしている図
リハビリによる脳活動変化(モデル動物)

新しいニューロリハビリテーション技術を確立せよ

肥後さんは、多くの研究者と協力して、どのような運動と、脳刺激、薬を組み合わせたら、脳に失った機能の代替えが生じるか、その手法を確立しようとしているのです。
脳損傷モデル動物を用いた機能回復時の脳内変化の解明、運動や電気刺激、薬を用いて神経突起の伸長や神経回路の形成を促進する介入技術、そして脳活動のモニタリングし正しい脳の変化が生じているかを確認する評価技術。
この一連の研究を連携させ、新しいニューロリハビリテーション技術の確立を目指しています。

脳機能解明、評価技術、および介入技術が連携する図
ニューロリハビリテーション技術の確立

10年後の実用化を目指して

新たなニューロリハビリテーションが実用化されると、脳の状態を外部から観測しながら、リハビリを効果的に行うことができるようになります。
これまでの一律のリハビリから、患者さんの脳の状態にあわせて、運動や刺激、薬を組み合わせたリハビリを行うことができるので、短時間で高いリハビリ効果が期待できます。言わば、テイラーメイドのリハビリテーションです。
リハビリの介入・評価統合システムを世界に先駆けて開発し、10年後の実用化を目指しています。

医療スタッフが患者に、脳の画像を見て、脳の中が繋がってきてますよ!と伝える図
ニューロリハビリテーション