脳波で気持ちを伝えるニューロコミュニケーター®
話すことも書くこともできなくても気持ちを伝えたい!
長谷川さんが開発したニューロコミュニケーター
は、運動機能に障害を持つ患者さんのこの夢を実現する画期的な装置です。この装置は、脳と機械を直結するBrain-Machine Interface
(BMI)の一種で、小型のヘッドギアを用いて計測した脳波をリアルタイムで解読し、多様なメッセージを瞬時に生成します。それをCGやロボットのアバターを介して周囲の人々に伝えることができるのです。
長谷川さんは人間にとって、コミュニケーションは衣食住と同じかそれ以上に重要なこと
と言います。既に実用化に向け、患者さんのモニター実験が進められています。
部門付 上級主任研究員 長谷川 良平 博士(理学)
研究のはじまり
長谷川さんは、最初は実験動物を対象として、脳でどのように意思決定がなされるかについて研究していました。
やがて、脳と機械を直結する装置Brain-Machine Interface (BMI)
の開発が世界的に盛んになったため、こうした装置を使って脳内意思決定を解読する技術の開発やその臨床応用に取り組むようになりました。
脳内意思の解読に注目
長谷川さんは、脳活動から意思決定を解読するために、通常とは逆の考えをしました。認知課題を遂行中の脳活動に対する一般的なデータ解析では、条件ごとに多数の試行のデータの平均値を求め、その平均値を比較して差があるかどうかを調べます。これに対して、長谷川さんは1試行ずつのデータがどのような実験条件に属するのかを推測する手法の開発に取り組みました。このアプローチにより、まず神経活動の変動と課題の成績変動との関係性の予測に成功しました(2000年にScience誌に掲載)。また、少数の神経活動から二者択一の意思決定を予測する手法の開発にも成功しました(2006年及び2009年にNeural Networks誌に掲載)。これらの研究成果に基づいて、脳内意思解読の対象を動物からヒトに広げていきました。
脳波で意思を知り
、脳波で話す
高齢化が進む中、話すことも書くこともできない、重度運動機能の障害者が増えています。
長谷川さんは、閉ざされた世界に生きる患者さんたちに再びコミュニケーションの窓を開く、脳波BMI技術による意思伝達装置の開発を始めました。そして、2010年3月、脳波で気持を伝えることができるニューロコミュニケーター®
の試作開発に成功したことをプレス発表しました。この装置において、8択でメッセージを3回選ぶことで、512通りもの意思を伝えることができます。その時間は、わずか20秒から30秒足らず。
実験の体験者によると選びたいメッセージに意識を集中する必要はあるが、特別に難しいことではない。
と言います。
患者さんがご家族とコミュニケーションができた瞬間に、長谷川さんは何度も立ち会ってきました。とても感動的で素晴らしい瞬間でした。人間にとってコミュニケーションほど大切なものはないのでは。革新的な技術を世の中に活かす手応えを、改めて感じました。
と言います。
家庭に入るニューロコミュニケーター
ニューロコミュニケーター
を患者さんの自宅でテストすると、様々な課題が浮かび上がりました。
特に大きな問題は電気的ノイズでした。脳波はとても微弱な電位変化であるため、患者さんの身の周りの医療機器や介護機器、家電製品などが出すノイズがその計測に影響を与えるのです。また、誰でも使えるように、操作が簡便な装置にするのも課題です。
研究室を出たニューロコミュニケーター
は、協力企業と共に、誰でも使える装置を目指して開発が続いています。
患者さんの生活の質の向上へ
長谷川さんは、最新医学に基づく治療やリハビリによっても完全に治癒することが困難な病気にかかっている患者さんがおられます。そのような方々に、意思伝達等の失われた機能を補完する福祉機器があれば、生活の質(QOL)を飛躍的に向上させることができます。ニューロコミュニケーターにはそのような革新的福祉機器になってもらいたい
と言います。
その先を目指した研究も始まっています。動けない患者さんの代わりに、自由に動いて意思を示すロボットです。
さらに、脳波で本格的にロボットを操作できれば、患者さんはロボットをアバターとして操作し、外を散歩することや、買い物に行くことも可能になり、自分自身をロボットで介護する未来も考えられます。
脳波から人の意思を解読する研究は、身体が不自由な方だけでなく、一般の人が使う道具にも活用できます。考えるだけで、様々なサービスが受けられる未来、ボディーフリーの時代
がやがてやってくると、長谷川さんは言います。