環境動態評価研究グループ
Environmental Impact Research Group


  研究内容

  大気エアロゾルの発生源予測

PM2.5やSPMなど環境基準値が設けられている大気中の粒子状物質(エアロゾル)濃度への、国外などからの長距離輸送による影響が社会的関心を集めている。 大気エアロゾルの国内・国外発生源の寄与割合の推定は、これまで鉛と亜鉛の比など金属2成分比法などにより試みられてきた。この考え方を拡張し、Chemical Mass Balance法の変則運用により、 福岡で日毎に捕集されたPM2.5中の一次粒子に対して、3種の発生源(黄砂・長距離輸送・ローカル発生)の寄与割合を推定した。

また、上記の金属2成分比法による大気エアロゾルの発生源推定と、燃焼によるO2の消費量とCO2の発生量の比であるoxidative ratio (OR = ΔO2/ΔCO2) の高精度測定を同時に実施し、 高濃度イベント時に両指標が示したPM2.5の発生源は整合的であり、両手法の相補的使用が可能であることを示した。


(a)長崎での国環研ライダー解析による2011年4月29日〜5月7日の土壌粒子(非球形)と球形粒子の割合, (b)CMB法変則運用で推定された福岡のPM2.5中の8種の一次粒子に対する黄砂、長距離輸送汚染物質、ローカル発生汚染物質の寄与割合 (兼保ら, エアロゾル研究 31 (4), 287-297 (2016)より転載)。



東京都渋谷区代々木での観測によるPM2.5中の元素組成とORの比較 (Kaneyasu, N. et al., ACS Earth Space Chem. 4 (2), 297-304 (2020)より転載)

関連論文
Kaneyasu, N. et al., Atmos. Environ., 97, 416-425 (2014).

個人HPへ


  炭素循環の定量化と気候変動シグナルの検出を目指した大気主成分組成の高精度観測

大気の主成分である窒素(N2)・酸素(O2)・アルゴンArについて、そのO2/N2比およびAr/N2比や安定同位体比を高精度で観測することにより、陸上生物と海洋による化石燃料起源CO2の吸収量や、海洋貯熱量および大気循環の変動として現れる気候変動のシグナル等、地球温暖化の実態解明と対策立案に有用な情報が得られると期待される。本研究ではこれらの成分の高精度観測手法を開発し、他機関と連携しながら各種の観測プラットフォームにおける長期広域観測を展開している。


大気中の酸素濃度(O2/N2比)とアルゴン濃度(Ar/N2比)の変動要因とその観測から得られる情報の例。



つくばにおける大気中O2/N2比(上)、CO2濃度(中)およびAr/N2比(下)の観測結果。
 

関連論文
Ishidoya and Murayama. Tellus 66B, 22574 (2014); Ishidoya et al. Atmos. Chem. Phys., 13, 8787-8796他

個人HPへ


  陸域生態系の二酸化炭素固定能評価・炭素循環解明に関する研究

将来の気候変動の予測や地球温暖化の緩和策、適応策を策定していくためには、長期間にわたって大気中の温室効果ガスの動態に関する観測を行い、その循環を定量的に評価していくことが必要です。これまでに観測・評価手法の開発を行い、各研究機関や大学等と協力して、国内外において観測を実施してきました。その中で、産業活動等により大気中に排出された二酸化炭素(CO2)の吸収源として重要な役割を担っている陸域生態系のCO2固定能を、気象学・大気化学的なアプローチにより評価する研究にも取り組んできています。岐阜県高山市の森林観測サイトでは、1993年から現在まで、観測タワーを用いた森林生態系による正味のCO2吸収量(NEP:正の値が吸収)、大気中CO2濃度、各種気象要素等の観測を実施し、NEPのデータは、アジア域で最長、世界的にも有数の長期のものとなっています。また、安定同位体比等の観測も実施し、さらに生態学やリモートセンシング等に関する研究者と協力して、NEPやCO2濃度の変動要因や当森林における炭素循環の解明に関する研究も進めています。得られたデータは、観測ネットワークのデータベースに登録し、様々な分野の研究者等に利用されています。


岐阜県高山市の森林観測地おける観測タワー


岐阜県高山市の森林観測地で観測された(上)大気中CO2濃度の日平均値および(下)正味のCO2吸収量の月平均値の変動。

関連論文
Murayama et al. Journal of Geophysical Research, 115, D17304 (2010) 他

個人HPへ


  熱帯アジアにおける陸域生態系と気候変動、人為活動の相互影響の研究

当グループでは、岐阜県高山市の広葉落葉樹林のほか、熱帯アジアの大陸部の陸域生態系の典型例として、タイ中西部カンチャナブリ県にある国立公園野生動植物保護局メクロン流域研究ステーション、東北部ナコンラチャシマ県にある科学技術研究院サケラート環境研究ステーションの熱帯季節林において、現地機関の協力のもと、観測塔を利用した森林生態系による大気中二酸化炭素の吸収量をはじめとする環境諸量の長期観測に取り組んでいます。熱帯アジアでは、エルニーニョ現象などにより年々の気候の差が大きく、生物季節が大きく変動し、また頻発する森林火災や開発など、人為活動の直接的な影響も受けて絶えず変化し、気候変動問題のみならず、生物多様性、広域大気汚染などの地球環境問題も関与しています。長期連続観測と並行して、このような変化を検出・記録するための、定点カメラ映像の長期記録を用いた植生の動態、特に生物季節の解析手法を開発し、現地で運用するなど、産総研ならではの環境計測・情報技術の研究開発にも取り組んでいます。


サケラート環境研究ステーション内森林観測塔



メクロン流域研究ステーション内森林観測塔

関連文献等
Maeda, T. et al., Tropical Forestry Change in a Changing World, 167-182 (2009)
特許第4280823号(2004年2月24日出願)


  都市キャノピー・建物エネルギーモデルの開発と応用

当グループ独自の都市キャノピー・建物エネルギーモデルの開発と応用を進めている。開発では、首都圏の詳細な電力消費量データを用いたモデル入力データ整備およびモデル検証を実施している。また、全球都市気候・エネルギー計算を目指し、統合陸域シミュレータとのカップリングを進めている。応用では、新型コロナ感染症拡大に伴う人間行動変容(外出自粛)の都市気候および電力消費量への影響の推定(下図参照)などをおこなっている。


概念図 外出自粛による気温(左)および電力消費量(右)の変化(都市気候モデルによる推定値)。Takane et al. (2022)の図を改変。

関連論文
Takane et al. (2022) NPJ Clim. Atmos. Sci. 5, 44.
Nakajima et al. (2021) Urban Clim., 35, 100728.

個人HPへ


  窒素酸化物と硫化カルボニルの濃度・同位体比を指標とした炭素循環の定量化

二酸化炭素(CO2)と一部生成源を共有する窒素酸化物(NOx)、植物に光合成で吸収される硫化カルボニル(OCS)の濃度と安定同位体比を指標とすることで、それぞれCO2の放出源と光合成による炭素固定量を高精度化できると期待される。当グループではこれらの分析手法の開発から行い、観測を実施している。これらの手法と当グループの既存技術(CO2や酸素)を融合させてCO2の放出/吸収量の定量化を目指している。


NOxとOCSを用いたCO2排出/吸収量の高度化



導入した同位体比質量分析計(MAT253 plus)

個人HPへ


  The impact of climate change and social system on urban/forest ecosystems

Analyzing the impact of socioeconomic factors and climate factors on the ecosystem, which, in turn, affect the social system. The figures show the landslide risk on photovoltaic power stations and wildfire risk on PM2.5 mortality at the regional and global scales, respectively. The impact of urban vegetation on climate is also analyzed based on the group urban climate model.

Landslide risks on photovoltaic power stations [Park et al.,2024a]
 



Wildfire risk on carbon emissions (a) and PM2.5 related mortality (b). [Park et al., 2023; 2024b]

関連論文
Park et al. (2024a) Geomatics, Natural Hazards and Risk
Park et al. (2023) Global Environmental Change
Park et al. (2024b) Environmental Research Letter

個人HPへ


  高感度分光法による環境分子の観測

大気中には様々な分子・微粒子が存在し、会合・光反応等の物理化学的過程を経ることで我々を取り巻く環境に大きな影響を与えています。 そのような分子の振る舞いを、実験室の制御された条件下で高感度計測技術(マトリックス単離分光法、CRD分光法)を用いて観測し、計算科学的手法を援用した解析により、基礎的な知見を積み上げていくことを我々は目標としています

ページTOPへ