日本国内における短鎖塩素化パラフィンの生態系とヒト健康に対する詳細なリスク評価を行った。評価方法は以下の通りである。
短鎖塩素化パラフィンのライフサイクルに沿って生産・使用量と排出量を推定し、その結果を欧州のリスク評価書システムであるEUSESに適用し、日本国内、関東地域、局所の3つの空間スケールで環境中濃度と食品中濃度を推定した。また、関東地域を中心に環境中濃度と食品中濃度の実測を行い、モデルの妥当性を検証した。その結果、リスク判定に使用する環境中濃度とヒト1日摂取量を導出した。
一方、短鎖塩素化パラフィンの生態毒性およびヒト健康毒性について検討した。生態毒性については、種の感受性分布を用いて河川水質、底質、土壌のスクリーニングレベルを導出した。また、ヒト健康毒性については、雌ラットの尿細管色素沈着をエンドポイントとする無毒性量(NOAEL)として100
mg/kg/dayを、ラットにおける発生影響のNOAELとして500 mg/kg/day
を導出した。 以上の暴露評価および有害性評価の結果から、生態リスクおよびヒト健康リスクを評価した。その結果、ライフサイクルのすべての段階で環境中濃度がスクリーニングレベルより低く、生態リスクを懸念する必要性は低いと判断した。また、ヒト1日摂取量とNOAELから算出した暴露マージン(MOE)は105〜106と十分に大きく、環境中からの暴露によるヒト健康リスクを懸念する必要はないと判断した。
ただし、主要発生源である金属加工事業所による水系への暴露状況を監視していく必要があり、企業の自主管理の段階的な手順を提案した。2005年に短鎖塩素化パラフィンが化審法の第1種監視化学物質に指定されたことから、生産・使用実績にもとづいた具体的な暴露解析が今後期待される。
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