オゾンは自然界に広く存在し,「オゾン層」と呼ばれるオゾン濃度が極大を示す層が成層圏にて維持されていることはよく知られている.一方でオゾンは対流圏にも存在する.この対流圏オゾンは,人為的に多量に排出されている窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などの前駆物質の光化学反応により生成され,光化学オキシダントの主要構成成分となっている.日本では,大気中のオゾン濃度や大気中へのオゾン排出濃度を直接規制する法令はないが,1973年に制定された大気中の光化学オキシダント濃度を対象とした環境基準(1時間値が0.06 ppm以下であること)があり,この濃度規制により結果的に大気中のオゾン濃度は規制されることになる.しかしながら,常時監視測定局における大気中濃度モニタリングによると大気環境基準値を超過する地点が多く,直接的なヒト健康や植物への影響が危惧されていることから,対流圏オゾンの詳細リスク評価書を策定した.
本評価書では,ヒト健康影響リスク評価として呼吸器系への影響と非事故日死亡率の増加(余命短縮リスク)を対象とした解析を行った.また,植物への影響評価としてイネの減収率,減収量の解析を行った.本評価書の特徴は,大気中の反応過程を考慮できる非定常型グリッドモデルを骨格とするリスク評価用次世代大気モデルを用いて,リスク評価で必要となる大気中濃度などの曝露指標分布を推定した点である.
直接大気中へ排出されるような物質であるならば排出量の削減にともなって大気中濃度も低下するが,一方で二次生成物質の代表的な存在であるオゾンは単純に前駆物質であるVOCを削減しても大気中濃度が低下しないことが知られている.光化学オキシダント濃度の削減を目的として前駆物質であるVOC排出規制が進められていることから,上述のモデルによってVOC排出抑制を実行する場合としない場合の大気中オゾン濃度を予測することで,オゾン濃度の低減によるリスク削減効果(余命短縮リスクの削減)を推定し,その費用対効果を検討した.
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