金属部品の脱脂洗浄剤や代替フロンの原料として使用されることの多いトリクロロエチレンの,ヒト健康影響と生態影響についてリスク評価を行った。トリクロロエチレンの土壌汚染・地下水汚染の問題は社会的関心が高いが,一般住民が摂取することのない媒体(汚染の判明した地下水)については評価対象としなかった。ただし,飲料水を飲用井戸からの地下水のみから摂取するケースでは,空気経由と同程度の暴露を受ける可能性があるため,リスク評価を行った。
トリクロロエチレンの排出は金属部品を扱う小規模事業所からのものが多いことが予想されるが,PRTR制度ではそれらの事業所は「すそ切り以下」事業所とされ,届出の義務がない。一方で,国によるトリクロロエチレンの「すそ切り以下」排出量推計値は,推計方法の変更によって経年的に大きなばらつきがあった。よって本評価書では,小規模事業所からの排出量を正確に把握することが重要であると考え,独自の推計方法を用いてすそ切り以下排出量(届出漏れも含む)の推計を行い,PRTR値を上回る排出量が推定された。
ヒト健康リスクについては,非発がん影響についてMOEを用いた評価を,発がん影響について生涯発がん確率を用いた評価を行った。生態リスクについては,水生生物の個体群レベルでの存続を評価対象とした。大気へのトリクロロエチレン排出削減対策がヒト健康リスク(発がん影響)に及ぼす効果を対象に費用効果分析を行い,他の物質に対する排出削減対策との比較を行った。
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