亜鉛の暴露評価と有害性評価を行い,主に淡水域の生物へのリスク評価を行った.既存の生態リスク評価のエンドポイントである個体レベルの評価に加え,近年研究が進みつつある個体群レベルでの評価を行うことで,生態学的な解釈が可能なリスク評価を目的として本リスク評価書を作成した.以下,本評価書において明らかになった点を記述する.
亜鉛の水域への発生源の同定と環境排出量の推定を行い,亜鉛メッキ製品の腐食・流出,大気沈着および自動車のタイヤ・ブレーキパッドの摩耗等に起因する面的排出源からの排出量がかなり大きく全体の70%をしめることが明らかになった.
1991年から2002年までの全国2075地点のモニタリングデータを用い解析を行ったところ,全国での幾何平均濃度は10.8µg/Lであり,環境基準値(30µg/L)を超過している地点は全モニタリング地点の17%であった.幾何平均濃度は年々減少していることがわかった.
毒性試験の調査を行い,無影響濃度を用いて個体レベルの種の感受性分布を作成したところ,95%保護濃度は26.7µg/Lであった.いくつかの生物において数理モデルを用いて個体群が維持できなくなる濃度を推定し,その結果を用いて個体群レベルの種の感受性分布を作成したところ,95%保護濃度は107µg/Lであった.全モニタリング地点のうち,約20%が個体レベルの保護濃度を超過しており,約2%が個体群レベルの保護濃度を超過していることがわかった.超過地点は減少傾向にあるもののリスクは無視できない程度であることがわかった.
具体的な河川を事例に取り上げ亜鉛の収支解析を行った結果,亜鉛の主たる排出源は流域によって異なり,排水規制の生態リスク削減は流域によって異なることが確認された.さらに,対策にかかる費用と生態系の改善率をもとにした費用対効果の指標を作成し,対策に優先順位をつける方法論を開発した.
本評価書により亜鉛の水生生物に対するリスクは無視できないレベルにあると明らかにできた.今後,どのような対策をとり,生態系をどのように管理してゆけば良いのかについて我々の考え方を示した.
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