ポリ塩化ビフェニル(PCB)やダイオキシン類は,環境残留性,生物蓄積性,長距離移動性,有害性といった性質をもち,国内外で様々な社会問題となってきた化学物質群である.これらの物質群は,残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約(POPs条約)(2004年発効)の対象物質とされ,国際的にその削減や廃絶が決められている.
ダイオキシン類は,ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD),ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF),コプラナーPCB (Co-PCB)からなる.この中で,Co-PCBと呼ばれる12種の化合物は,PCBの一成分でありながら,ダイオキシン類と同様な毒性をもつ.現在のダイオキシン類暴露の状況において,Co-PCBはダイオキシン類全体の毒性の半分以上の寄与を占めている.
1997年に世界保健機構(WHO: World Health Organization)と国際化学物質安全性計画(IPCS: International Programme on Chemical Safety)が,PCDD・PCDFと合わせてCo-PCBに対してダイオキシン様毒性の毒性等価係数(TEF)を決めて以来,Co-PCBは特に注目されるようになったが,PCDD・PCDFに比べ実態の解明は遅れている.
そこで,本評価書では,行政,企業,市民の理解や意思決定に役立つ科学的基礎情報の提供を目的として,Co-PCBを中心にPCBおよびダイオキシン類の既存の情報を集約し,我が国の実態把握のために包括的な解析を行った.発生源・排出量,環境中濃度,暴露量,体内動態・体内濃度等の情報をまとめ,Co-PCBのダイオキシン様の毒性(TEFによって算出される毒性等量(TEQ))に対する日本のヒト健康リスクおよび生態リスクを評価した.
本評価書の構成を以下に示す.
第T章の「序論」では,本評価書作成の目的や本評価書の特徴・構成について記した.
第U章の「基本情報」では,Co-PCBおよびその関連物質の種類・構造・物性,PCB製品の生産・使用・保管・廃棄・処理,環境中濃度・食品中濃度・体内濃度の実測報告値,各種基準等をまとめた.
第V章の「発生源・排出量」では,Co-PCBおよびその関連物質の発生源情報の積み上げによる排出量の推定,環境データを用いた各発生源の寄与の推定を行った.
第W章の「暴露量」では,Co-PCBの経路別・食品種別の暴露量の把握,国内環境と国外環境の寄与の推定,暴露量の地域差と個人差の評価を行った.
第X章の「体内動態・体内濃度」では,Co-PCBおよびその関連物質の体内動態に関する既存の情報をまとめるとともに体内動態予測モデルを作成し,体内動態や体内濃度の推定,体内濃度の地域差と個人差の評価を行った.
第Y章の「有害性評価」では,ダイオキシンに関する各国・機関における有害性評価・耐容摂取量算出についてまとめた.また,疫学データや動物試験データで観察されている毒性影響やその論点についてまとめた.動物試験で毒性影響が見られた際の試験動物の体内濃度(体内負荷量)を推定し,本評価書のヒト健康リスクの評価に用いる毒性影響および指標濃度の決定を行った.
第Z章の「ヒト健康リスクの算出」では,過去から現在,そして将来のヒト健康リスクを算出した.また,可能性のある高暴露者の健康リスクを評価した.ダイオキシン類全体についてのリスク評価も行った.
第[章の「生態リスク評価」では,高次栄養段階に位置し,特に高濃度の蓄積が見られる魚食性鳥類への影響について,個体レベルのリスク判定から個体群レベルのリスク判定まで段階ごとにリスクを定量化し,魚食性鳥類の地域個体群の存続性を評価エンドポイントとしたリスク評価を行った.
第\章の「結論」では,本評価書の結論をまとめるとともに,本評価書の解析の限界,今後の展望や課題などについて論じた.
第X章には,外部レビュアーのコメントとそれに対する筆者らの対応を示した.
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