塩化ビニルモノマー(分子量62.5、常温常圧下で甘い香りの無色の気体)は、最も一般的な合成樹脂の一つである塩化ビニル樹脂の製造原料であり、国内で年間約300万t
が製造されている。
塩化ビニルモノマーは、1997(平成9)年に改正された大気汚染防止法において、有害大気汚染物質の優先取組物質の一つとして取り上げられた。これに基づき、自主管理計画の対象物質の一つとして、事業者団体による排出削減計画が策定された。その後、中央環境審議会の第七次答申において、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値)として年平均値10μg/m3が提案された。また、同物質は、1970年代より国際がん研究機関(IARC)やアメリカ環境保護庁(U.S.EPA)をはじめ各国、各機関によって、発がん性の有無が検討され、各種の動物試験、労働者への影響、疫学調査などの結果に基づき、ヒトに対する発がん性を持つとされている。さらに、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の化学物質総合評価管理プログラム「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」において初期リスク評価(初期リスク評価書「クロロエチレン v1.0」)が実施され、塩化ビニルモノマーは水生生物へ影響を及ぼすことがなく、ヒト健康においても非発がん影響による懸念はないと評価されているが、発がん影響が懸念されることから、詳細なリスク評価が必要であると判断されている。以上のことから、塩化ビニルモノマーを詳細リスク評価の対象物質として選択した。
本評価書では、発がん影響を対象とした、ヒトに対するリスク評価を行った。すなわち、発生源解析を通した一般住民の暴露評価(対象は2001年度)、既存有害性評価書の検討によるエンドポイントの選択・定量的評価、リスクの推定、自主管理計画によるリスク削減効果とその排出削減費用に基づく経済性評価を行った。なお、生態リスク評価、労働者を対象としたリスク評価は本評価書の対象外とした。本評価書の特徴としては、産総研−曝露・リスク評価大気拡散モデル(AIST-ADMER)を用いた全国の大気中濃度の推定を行ったこと、また経済産業省−低煙源工場拡散モデル(METI-LIS)を用いた詳細な固定発生源周辺の大気中濃度の推定を行ったこと、これらの大気中濃度を暴露濃度とし、人口分布を組み合わせることで詳細なリスクの推定を行ったこと、また、過去の事業所排出量を推定し、自主管理計画の費用対効果について評価したことが挙げられる。
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