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本評価書では船底防汚物質である銅ピリチオン(CuPT)を対象物質とし、東京湾におけるCuPTの排出と挙動を数値モデルで再現し、モデル計算より算出された溶存態CuPT濃度を用いて生態リスク評価を行った。
CuPTの主な用途は船底塗料防汚剤、漁網防汚剤、海洋構造物防汚剤、防藻剤である。CuPTの排出源としては、1)移動商船と商業港、2)養殖場と定置網、3)その他の排出源として、漁港とマリーナ、ドックと造船所、臨海発電施設の取水口、都市下水、廃棄物処理が挙げられる。
CuPTの環境水中濃度は、化学物質の海域環境濃度推定モデル(化学物質運命予測モデル)を使用して推定した。汚染源は移動商船とそれが入港、碇泊する場所であり、船底塗料の影響が大きいと考えられる商業港とした。CuPTの船底塗料からの溶出量は、塗料中のCuPT含有率(1.45〜3.66 wt %)を想定し、最大、最小,平均の溶出量について検討した。計算の対象年度は、TBT塗料が全てTF塗料(CuPT)に置き換わるAFS条約の発効を想定して2008年とした。
本評価書では海洋生物に対するCuPTの毒性について既往文献から、Skeletonema costatumの96時間NOECの0.25 µg・L-1を基準毒性値として、暴露マージン(MOE)が100(UF)以下となるか否かを生態リスクの判断基準として用いた。
含有率3.66 wt %での生態リスクは、各港湾の表層水ではMOEが100 (UF)以下となり、生態リスクは無視できないと推定された。含有率1.45
wt %および含有率2.00 wt %の生態リスクでは、各港湾の表層水でMOEが100 (UF)以下となり生態リスクは無視できないと推定された。その他の海域・季節ともに生態リスクの懸念は小さくなった。一方、航路では、含有率3.66
wt %、1.45 wt %および2.00 wt %とも、年間を通してMOEが100 (UF)以上となり、生態リスクの懸念が小さくなることが推定された。
TBTとCuPTの生態リスクを比較したところ、TBTについては、ほぼ全湾で年間を通じて生態リスクは懸念されるレベルであった。CuPTについては、含有率3.66
wt %の場合には港湾で生態リスクの懸念があったと考えられる。含有率1.45 wt %の場合は,港湾以外の海域ではリスクの懸念はなくなった.
これらの結果から、防汚物質をTBTから代替することにより生態リスクは減少することが示された。 |