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詳細リスク評価書シリーズ9 鉛 概要
  鉛は約5,000年前(紀元前3000年)から使用されている金属であり、加工し易さ、腐食され難さ等の特徴を持つために産業界で幅広い用途を持ち続けている。しかしその一方で有害性の歴史も古く、世界的には古代ギリシャの医者であるHippocrates(紀元前460〜375年頃)の時代から、また我が国においては明治時代から、鉛によるヒト健康影響が問題となっている。

現在では、有鉛ガソリンの使用規制および労働環境の改善等によって、高濃度の鉛暴露による鉛脳症や貧血などの典型的な中毒症例は世界的にも非常に稀となったが、その一方で、低濃度の環境中鉛の長期暴露により起こりうる、通常の臨床診断法では所見が見出されない不顕性の健康影響に関心が集まっている。米国環境保護庁(U.S.EPA)や世界保健機関(WHO)では、小児の不顕性毒性、特に中枢神経系への影響をエンドポイントとしたリスク評価を行っている。また、欧州では鉛の有害性に対する認識から、電気・電子機器における特定有害物質の使用制限(RoHS)指令のように製品中の鉛の使用を規制する法律が策定され、2006年7月から施行された。このように、環境中鉛のリスクに対する懸念は、国際的にも非常に高い。

しかしながら、現在の我が国の一般環境中に存在する鉛が、ヒト健康および生態系に対して、どの程度の有害影響を及ぼす可能性があるのかについては、未だ定量的な評価が行われていない。また、我が国において現在行われている環境中鉛の削減対策は、ヒト健康リスク削減の観点からどれだけ有効性があるのかについても、十分な評価が行われていない。

そこで本評価書では、既存の情報を収集するだけでなく、独自の解析によって、我が国の一般環境中に存在する鉛に由来する、ヒト健康および生態系に対するリスクについて定量的な推定および評価を行った。本評価書は、国や地方自治体および鉛を日常的に取り扱う事業者が、環境中鉛の削減対策を行うべきかどうか、あるいはどのような削減対策が有効であるのかを判断する際に有用な情報となると考えられる。

ヒト健康リスク評価では、一般人のみを対象とした。すなわち、大気吸入、食品および飲料水等の摂取による日常的な鉛暴露により生じるリスクのみを対象とし、鉛を取り扱う工場の労働者などが労働暴露によって生じるリスクについては対象外とした。一方、生態リスク評価では、公共用水域における水生生物を対象とし、陸生生物については対象外とした。ただし、野生鳥類の鉛中毒については、生態リスクに関わる重要な問題と考えられることから、現状と対策についてまとめ、今後の課題について言及した。

 
 
 


評価書の全文は、「詳細リスク評価書シリーズ 9 鉛」(丸善株式会社)として2006年9月に刊行されている。ここをクリック


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