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詳細リスク評価書シリーズ7 p-ジクロロベンゼン 概要
p-ジクロロベンゼン(1,4-ジクロロベンゼン。以下文中pDCBと表記する)は、1915年にアメリカで最初に市販品として生産された(IARC 1982)。pDCBはその有用性から防虫・消臭剤としての利用の歴史は長く、また、工業的には有機合成の原料などとして使用されている。
室内の空気に存在するpDCBは、主に、家庭等で衣料用防虫剤や消臭剤として利用されるものに由来している。そういった用途でのpDCBの利用は、ある程度の空気中濃度を形成しリスクの懸念を生じる一方で、防虫効果や消臭効果といった便益をもたらしている。このリスク評価では、pDCBの中心的な用途が衣料用防虫剤としての使用であることから、室内空気の吸入による暴露に主に着目し、その上で、暴露と有害性に関する知見を整理・解析することによって、現状での使用実態におけるリスクの大きさを見積もった。ここでは動物で観察された有害性のヒトへの適用性を吟味すること、短期モニタリングデータから中長期暴露濃度の分布を推定することを特徴とした解析を行った。
このリスク評価では、経口暴露を含めて総合的な有害性評価の情報を整理し、リスク評価に用いる慢性吸入の有害性について、(独)産業技術総合研究所 化学物質リスク管理研究センターの参照値の決定根拠に関する見解をまとめた。
pDCBの慢性暴露での毒性のエンドポイントは肝毒性であった。肝毒性は経口および吸入の両暴露経路によって実験動物に出現し、肝臓の逸脱酵素の増加と病理組織学的変化を伴う肝重量の増加がみられた。慢性吸入の試験結果を詳細に検討した結果、参照値の根拠とする有害性試験は、質が高く、適正に実施されたマウスの2年間試験を用いることにした。この試験でみられたマウスの肝臓の非腫瘍性変化をエンドポイントとし、NOAELとしては、試験結果としての75ppmを1日24時間の連続暴露で等価な濃度に換算して80 mg/m
3
を導いた。参照値は、この濃度を、不確実性係数100で除して得た800μg/m
3
とした。
このリスク評価では、pDCBの環境中排出に関する情報(発生源とその量)をまとめ、室内濃度、環境中濃度についてまとめた。
室内濃度については、「居住環境内における揮発性有機化合物の全国実態調査」(厚生省1999)の生データより、「居室」濃度に関して解析を行った。この解析の結果より、pDCBの室内使用がある家庭群の割合は0.9、室内使用のない家庭群のそれは0.1と判断された。さらに、室内発生源寄与濃度([室内濃度]−[屋外濃度])のヒストグラムより、室内使用がある家庭を「室内使用大の家庭」と「室内使用小の家庭」とに分けることが妥当であると考えられた(構成比率はそれぞれ0.61:0.39)。それぞれの集団の分布が対数正規分布に従うと仮定し、最も適合する分布について幾何平均(GM)と幾何標準偏差(GSD)をそれぞれ求めた。このように「室内使用大の家庭」、「室内使用小の家庭」、「室内使用なしの家庭」の3群において、それぞれ「居室」における室内発生源寄与濃度の分布を求めることができた。これらの分布を用いてリスク評価を行うものとした。屋外濃度については、AIST-ADMERによる予測値を用いてリスク評価を行うものとした。
ヒトに対するpDCBの暴露評価を、上記の室内濃度分布、屋外濃度を用いて、それぞれの生活時間を考慮することによって行った。暴露集団は、生活時間パターンについては「主婦、幼児、老人等」、「勤労者と学生」の2群、室内使用のタイプについては「室内使用大の家庭」、「室内使用小の家庭」、「室内使用なしの家庭」の3群、全部で6つの群に分類した。暴露濃度が参照値800μg/m
3
を超える割合は、最も割合の高い暴露集団(「室内使用大の家庭」における主婦、幼児、老人等の群)で5.4%であった。また、その割合は全人口に対して2.4%と計算され、その内訳は、「室内使用大の家庭」に居住する「主婦、幼児、老人等」の群に属する人、「勤労者と学生」の群に属する人で半々であった。これらに該当する人は、室内のpDCB濃度を低減する行動をとることが必要である。その行動が必要となる基準についても示した。
p-ジクロロベンゼン詳細リスク評価書は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託のプロジェクト「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」のテーマ「リスク評価、リスク評価手法の開発及び管理対策の削減効果分析」の研究成果です。
評価書の全文は、「詳細リスク評価書シリーズ 7 p-ジクロロベンゼン」(丸善株式会社)として2006年1月に刊行されている。
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