Japanese Exposure Factors Handbook (English summary)
暴露係数とは,暴露量を評価する際に用いられる様々な係数や原単位のことで,それらをまとめたものが暴露係数ハンドブックである.
■ 暴露係数ってどんなもの?
 暴露量の評価は,多くの場合,大気や水といった媒体中の化学物質濃度とその媒体の摂取量に基づいて行います.媒体中の濃度と媒体摂取量を掛け合わせると,その媒体からの暴露量が得られ,それを様々な媒体で足し合わせることによってトータルの暴露量を得ることができます.
暴露量計算式
この式で,Eは暴露量(mg/日など),iは媒体の種類,Ciは媒体i中の化学物質濃度(mg/kgなど),Iiは媒体iの摂取量(g/日など)です.最も典型的な暴露係数は,Iiの部分,すなわち大気,水,魚といった媒体の摂取量です.
 
 暴露係数ハンドブックでは,そういった媒体の摂取量に加えて,暴露量評価で用いられる様々な項目を暴露係数として取り上げています.たとえば,生活時間や自給率などといった項目です.こういった項目も,直接・間接にIiを算出するのに必要なものです.
 
 この種のデータ集は,米国環境保護庁(USEPA)におけるExposure Factors Handbookを始めとして,ヨーロッパにおいても整備が進んでいます(リンク暴露係数ハンドブックとの比較表).その目的は,暴露評価を行う際になるべく妥当な値を選択すること,暴露係数の値を取得する労力を低減し効率化をはかること,共通の値を用いることで暴露評価結果の比較可能性を向上させることにあります.
 
 日本版の暴露係数ハンドブックを作成しようと考えた理由は,一つには,従来,用いられてきた様々な暴露係数(大気の吸入量として20m3や15m3,水の摂取量として2Lなど)の値は,しばしば根拠が明確でなかったことです.暴露評価では,根拠の明確な値を使うべきだと考えました.もう一つの理由は,そもそも化学物質への暴露は,評価対象とする集団の特徴を強く反映したものですから,日本人における暴露状況を適切に評価するためには,日本独自の値を用いる必要があることです.例えば,日本人は欧米に比べて魚を多く食べるので,欧米で一般的な魚摂取量の値は,日本人の暴露量評価には全く不適切だと考えられます.
 
 暴露係数ハンドブックでは,さらに,暴露の個人差に関する情報も整理しました.暴露量評価においては,暴露の個人差に関心がある場合が少なくないですが,暴露量の個人差を検討するのに十分なデータがあるケースは多くありません.そこで,暴露の個人差に関する情報が得られない物質の評価において,類似した物性や暴露経路の物質での暴露の個人差の大きさをデフォルト値として援用することも有益だと考えました.
■ 暴露係数ハンドブックの作成方法
 暴露係数ハンドブックにとりあげている項目は,一般にどのような項目が暴露量評価に必要だろうかという考察に加えて,CRMが開発したソフトウェア「Risk Learning」に含まれている項目,また,さまざまな詳細リスク評価書の暴露量評価で言及された項目をもとにして選びました.
 
 資料の検索や収集は,インターネットでの検索,各種の論文検索によって行いました.当然のことながら,日本における調査結果の示されている資料を収集しました.極力,最新のデータを集めるよう心がけました.
 
 各項目について,暴露量評価で用いるのにもっとも適していると考えられる値を「代表値」として示しました.代表値の決定の仕方としては,まず,得られた資料の中で最も信頼性が高いと思われるものを選び,その資料から得られる値を「代表値」として選定するアプローチをとりました.ちなみに,別のアプローチとしては,関連するデータを全て考慮した上で,何らかの集計や計算を行うことで値を算定する方法もあります.
 
 代表値の信頼性は,もとにした資料のサンプル数および調査の方法に基づいて評価しました.すなわち,「全国調査に基づいている」「無作為抽出や集団代表性を担保する抽出方法を採用している」「サンプル数が数千以上である」「最近のデータである」といった基準(これらをまとめて「一般的な判断基準」と称している)を満たすものは信頼性が高いと判断しました.
■ 暴露係数ハンドブックの構成
 「暴露係数」「暴露の個人差」ページには,様々な暴露係数について代表値の一覧が示されている.また,各項目の名称をクリックすることで,下記のような内容のドキュメントを得ることができます.
<代表値>
 当該項目について,暴露量評価で用いることが推奨される値を示した.
 
<代表値のもととなる資料>
 上記代表値を得た資料について,調査の背景や概要を示した.当該項目に直接関連するデータを中心に,いくらか周辺的な情報も紹介している.
 
<追加的情報>
 代表値の基礎となる資料としては採用されなかったものの,それに準じるデータを供する資料を2,3紹介した.各資料について,調査の背景や概要が記述される.
 
<数値の代表性>
 代表値として示された数値については,その信頼性を「高」「中」「低」の3段階で示した.これは,資料としての信頼性を示すものではなく,代表値としての信頼性を示すものである.概ね次のようなルールに従っている.
 
高:一般的な判断基準(全国調査,無作為抽出や集団代表性を担保する抽出方法,サンプル数が数千以上,最近のデータ)を満たしている.
 
中:次のようなケース.1)一般的な判断基準のうち,1つか2つの項目が合致していない.2)資料自体は一般的な判断基準に合致しているが,追加情報との間に著しい値の不一致がみられる.3)一般的な判断基準に照らせば不十分であるが,複数の追加情報との間である程度の整合性がみられる.
 
低:一般的な判断基準に合致しておらず,複数の追加情報との整合もとくにみられない.
 
 その上で,代表値のもととなる資料,追加的情報のそれぞれについて,サンプル数やサンプルが選ばれた範囲,選ばれ方といった情報の概要を示した.また,当該項目について入手できた資料の数を示した.入手できた資料の数は,一定程度のデータ量に基づいた平均値などの統計量の記載があるものとした.
 
<参考文献>
 このドキュメントで言及されている全ての資料について,引用文献の書誌情報を示した.
 
<米国EPAのExposure Factors Handbookの推奨値>
 当該項目について,米国環境保護庁(U.S.EPA)のExposure Factors Handbookの推奨値が存在する場合,その値および背景の概略を示した.
■ 暴露係数ハンドブックへの期待
 この暴露係数ハンドブックに触発されて,従来の暴露レベル≒媒体中濃度という近似的な暴露の捉え方ではなく,なるべく現実的な暴露シナリオに基づいた暴露量評価が普及することを願っています.暴露シナリオとは,人が化学物質に曝されるかの状況を記述したものです.現実的な暴露シナリオの整備と利用が進めば,暴露量評価の質の向上が期待できます.
 
 暴露シナリオに関心が高まることで,今回公開した暴露係数の項目以外にもたくさんの項目についてデータが必要だということに皆が気付くと思います.我々自身,今後も項目や情報の追加を行なっていく予定ですが,ユーザからのフィードバックによって,暴露係数ハンドブックはさらに充実したものになるでしょう.内容についてのコメント(クレームでも),追加項目の要望,項目に関連する資料の情報などは,いつでも歓迎します.
連絡先は「連絡先」のページに示しました.
 
 また,この暴露係数ハンドブックを通じて,ニーズはあるにもかかわらず,データがない項目が明らかになり,それが行政や研究機関への動機付けとなって,関連するデータの収集が促進されることも期待しています.
※ 暴露係数ハンドブックは,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による
  プログラム「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」の成果です.
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