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化学物質リスク管理研究センター
19年度 本研究センターの目標

1.ミッションと課題

1−1.センター最後の年

本研究センターは,環境安全と化学物質の有効利用を両立させるために必須のリスク評価,リスク管理のための理論を構築し,その研究結果の実例を提示することによって,行政機関,企業,市民の意思決定が,科学的,合理的に行われるよう支援することを目的に,2001年4月にスタートしました.2005年4月から始まった第2期中期計画では,「マルチプルリスク評価・管理」という新しい課題を掲げました.
 
今年は,本研究センターの7年目で,いよいよ最後の年になりました.これまでの成果をまとめ,次なる発展につなぐ大事な年です.研究の面で,次なる発展が求められるだけでなく,センターが終わった後にどういう研究組織にし,また,その組織のmessageは? mission は? という問に答えを出し,つぎに踏み出す重要な年です.

1−2.当初目標


設立当初以下の目標をかかげました.

<手法開発>リスク評価手法,ベネフィット評価手法を開発する.

<評価書>その実例として,30物質についての詳細リスク評価書を策定し,公表する.(物質の評価を通して,評価手法を開発すると同時に,この結果を行政の政策に反映させる)

<読み書き・そろばん>行政,事業者,市民がリスク・ベネフィット解析に基づく意思決定ができるように,リスク評価支援ツールを開発し,公表する.基礎データを集積し,公表する.

1−3.第二期中期計画の目標 マルチプルリスク

平成17年度から始まった第二期の中期目標を以下のようにしました.
“最適なリスク管理を提案するマルチプルリスク評価技術の開発”―“最適なマルチプルリスク管理を目標にして,化学物質の使用に伴うリスクとベネフィットの評価手法を開発,それらを用いて解析した結果を社会に公表し,評価ツールの利用を推進する−”.

基本線は不変ですが,マルチプルリスク,つまり多くの化学物質があり,化学物質以外にも多くのリスクがある,そのことを据えたリスク評価・管理をしなければならないことを強調した目標としたのです.

この目標達成のためのひとつの課題として,「リスクトレードオフ解析手法開発」の焦点を定め研究を進めたいと考えています.今までとはかなり違った研究内容になりますので,「何のために」「どういう方法で」「誰が」という議論が沸騰するでしょう.沸騰の後に,エネルギーがわき上がるようにしたいです.

1−4.産業の内部へという課題

予防原則ということがしばしば言われています.それが,今よく言われているように少しでもリスクについての不安があれば禁止というものであれば,新しい技術開発はありえません.今手持ちの技術しか使えないとすれば,人類はものを取り合う戦争に明け暮れることになるでしょう.人類は新しい技術を必要としています,それに対して少しでも早い段階でリスク評価・管理という手法を適用したいと私たちは考えているのです.新しい技術の可能性を追究し,なおかつ,できるだけ早い段階でリスク評価をし,管理をする,生産に反映させる,これが最も現実的な方向性だと考え,その道を歩くことにしたのです. “産業の内部へ”という新しい方向性は,こういう考えから出ているのです.

1−5.全体を見るという課題−個々の物質から化学物質全体へ

この5年間の仕事の中で,私たちが最も苦しんだのは,詳細リスク評価書策定でした.海のものとも山の物とも分からぬところから出発し,政治的な意味ももつことから,種々の批判にさらされもしましたが,続々と成果が出始め,かなりの社会的評価を勝ち得たと自負しています.

30物質のリスク評価書を仕上げる間に,個々の化学物質の評価方法がかなり把握できました.その経験を一つの理論と法則に仕上げること,これがこれからの目標です.より具体的に書けば,個々の化学物質のリスク評価で得た知識,手法から,より一般的な法則を見つけ出し,2万とも言われる化学物質の全体を見通すことに一歩でも近づこうということです.“全体を見る”というのはこういうことです.


2.19年度の重点的方針

こういう中で,19年度は以下のことに,研究の重点をおくことにします.

2−1.30物質の詳細リスク評価書の完成と公表

センターの存続期間7年の間に,30物質の詳細リスク評価書を作るというのは,この研究センターの公約です.今年度中にそれを完成すること,これが第1に重要な課題です.すでに,いくつかのものについて,英語版も出していますが,極力英語版を出すことも心がけたいとおもいます.

2−2.ナノ材料のリスク評価と結果の国際社会への発信

新技術や新物質には,スペックのひとつとしてリスク評価の結果,リスク管理の方法がつけ加えられるべきだという我々の主張は,広く受け入れられることになり,ナノ材料のリスク評価研究がはじまった.
 
平成17年度から産総研のfundによる部門重点課題として出発し,平成18年度からはNEDOのfundによる研究プロジェクト「ナノ粒子の特性評価手法の研究開発」が加わり,産総研のみならずいくつかの大学との共同研究に発展し,日本を代表する研究と目されている.さらに,国際的にも高い評価を受けている.

融合研究という点でも,このプロジェクトは新しい地平を開いた.産総研内だけでも,環境管理RI,計測標準RI,計測フロンティアRI,先進製造プロセスRI,ヒューマンストレスシグナルRCと共同で研究プロジェクトを進めている.これは,従来考えられていた融合研究の枠を超えた融合になっており,多分,産総研でなければできないものである.

今年こそ,結果を出さなければならない. 
その結果を国際社会(特にOECDを通して)発信したい.また,米国EPA(環境保護局)との共同研究を進める.

2−3.リスクトレードオフ評価研究のkick off

マルチプルリスク評価研究のひとつとしての,リスクトレードオフ評価手法の研究が今年度から始まる.これのkick offをうまく進めること,これも今年度の大きな課題である.

2−4.次世代ADMERの開発とセンターへの信頼感の獲得

本研究センターはこれまで,いくつかのソフトを公開することで,共通の議論の基盤構築に寄与し,また,センターの信頼も勝ち得てきた.次世代ADMERの開発は,つぎの課題となろう.

2−5.我々が行ってきたリスク評価の理論の集大成

7年間,我々が使ってきたリスク評価手法,その原理,理論的背景をまとめて本として出版する.タイトル(仮名)は,「リスク評価の知恵袋」.全3冊が目標だが,2冊になるかもしれない.


3.ユニットの研究開発の方針

3−1.リスク評価と本格研究(研究を進める上での姿勢)

産総研は,第二種の基礎研究を積極的に推進し,それを軸とした本格研究を成功させることを自らの使命と規定している.本格研究とは,社会のニーズに応えることを目標にしつつ,第一種の基礎研究,第二種の基礎研究,開発という段階を経て,ある場合にはそれらの段階を何回か行きつ戻りつで,最終的に新しいサービスや商品を生み出すための研究である.
 
リスク評価は,物質ではないが,立派な商品である.社会が効率的に動くために,また,富や負の富を分配するルールを作るために,欠かせない道具である.

その意味で,我々の最終目標もまた,社会の中で,「我々のリスク評価が多用されること」「リスク評価により省資源的運営が可能となる」「リスク評価により,よりリスクの少ない社会をつくることができる」「リスク評価手法の共有により合意形成が容易になる」などを最終の事業目標にして,リスク評価手法という商品を世に出すために,第二種の基礎研究に軸足をおきつつ,本格研究に励みたい.
 
ただ,リスク評価は,通常の商品とちがって,感性で“良さが体感できる”ものではなく,極めて高度な理性が求める商品である.したがって,その必要性を,社会に対して常に説く必要があり,それもまた,本研究センターの任務である.

3−2.縦糸研究と横糸研究:横糸研究の性格の変化に注意が必要

研究者は,縦糸研究と横糸研究の両方を行わなければならない(この方針は,これまでと同じ).縦糸研究とは,環境リスク管理のための要素研究であり,いわば基礎研究であり,萌芽的研究も含まれる.横糸研究とはリスク評価の実施であり,研究的実務とも言えるものです.第二期中期計画では,この横糸研究に求められるレベルが非常に高くなると思う.今までとは異なる横糸研究をしなければならないという覚悟が必要である.

3−3.マルチプルリスク評価の課題に向けた野心的な提案を!

前項に書いたが,マルチプルリスク評価研究,リスクトレードオフ評価研究には新しい視点,切り口が必要になる.この問題に勇気を持って挑戦しよう.

3−4.研究成果の社会的活用の重視,すべての研究員が営業活動ができるようになってほしい

成果物が社会的に利用されることを重視する.リスク評価書が,行政や事業者,国民の意思決定に使われること,開発した評価ツールが広く使われることに重きをおく.
 
評価書の商業出版はすでに流れにのったが,それを売ること,買ってもらうことは軌道に乗っているとは言えない.すべての研究員は,営業部員になった積もりで,売ることに努力してほしい.“頭を下げることのできる”人になってほしい.国民の税金で研究をすることに甘えてはならない.

3−5.分野融合課題の重視

ナノリスクプロジェクトは,はじめて試みた大規模な分野融合課題である.太陽電池のリスク評価などもこれに続いている.これを成功させ,徐々に融合課題の比重を増やし,融合研究の中心的なplayerになろう.


4.ユニット内マネジメントの方針

4−1.研究センターのリスク管理・コンプライアンス管理

研究者倫理について意識し,センター内でそのことに関する話し合いを持ち,常に注意を喚起したい.
特に,間違った評価結果や,十分な根拠のない評価結果が出されることが最も大きなリスク要因であるので,内部での徹底的な相互批判が望まれる.
これまで,ルーズになっていたが,論文の外部発表の際のルールの遵守を求める.
環境や安全をテーマにする研究機関としての,環境保全,安全管理等に対する責任と配慮(使用する薬品等の管理にも留意)
実験室の管理と実験精度の管理についてのさらなる注意.
3)公共的な資金で運営されていることの自覚と責務

4−2.研究員の評価について

研究員の短期評価については,以下の三つの軸で評価し,それを業績手当などに反映する.
1)成果物(能力,将来性,態度などは評価対象ではない)
2)成果物の質(どのくらい使われたか,社会に与えた影響力,個性的な解析や創造的視点など)
3)研究プロジェクト推進のための貢献度
4)被評価者がたてた目標の達成度(年度目標については,年度はじめにチーム長,またはセンター長などと相談の上決める)
ここで,成果とは,本研究センターの存在意義を社会に知らしめるような“目に見える成果”です.

「長期評価は,原則として短期評価の積み重ね」という考え方はとりません.長期評価は,1)研究能力(*),将来性,指導力(*ある場合は,実務能力,マネジメント能力などセンターが必要とする能力,研究者だけでは研究所はうまく運営されないと思う)(要求される能力は,2級から3級,3級から4級によって異なる)
2)研究の方向性(研究の必要性や,方向性についての説明力が必要)
3)これまでの成果
などを軸に評価したい.いずれの項目についてもevidenceが求められます.

4−3.若手研究員の重視

18年度に,研究センター運営のためのADVISOR会議を設置した.積極的な若手研究員にADVISORになって頂き,この組織が中心になって,新しい研究プロジェクトを立ち上げた.研究プロジェクトの推進をさらに若手に比重を移すことにする.

 

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