研究内容 Research

「高温用標準白金抵抗温度計の開発と評価」

研究概要:半導体の製造現場など、高精度な温度測定が必要な場合には、センサ部に白金線を用いた白金抵抗温度計が利用されていますが、1000 ℃付近の高温域では、白金線自体に熱ひずみが生じて抵抗値が不安定になるため、精度の高い温度測定は困難とされています。我々は、国家標準(温度標準)を用いた熱サイクル試験などを行い、高温域で使用する白金抵抗温度計の適度な熱処理の評価に取り組んでおります。最近、株式会社チノーと共同で、高温において白金線に生じる熱ひずみを低減できるセンサ構造を新たに導入することにより、0.001 ℃レベルの精度で温度測定できる新たな白金抵抗温度計を開発しました。今後、材料プロセスなど高温域での高精度な温度測定・温度制御の実現が期待されます。

1000 ℃付近の高温で使用できる高精度な温度計を開発

「1600 ℃以上の金属-炭素共晶点を用いた熱電対校正技術の開発」

研究概要:1600 ℃以上での高温域では鉄鋼、半導体、ガラス、セラミックスなどの素材産業等の分野で、製品の品質管理やエネルギー効率の向上のため、熱電対を用いた高精度の温度測定が重要となっています。一方で、産総研から供給されている熱電対による温度標準の上限は現状で1554 ℃であり、そのため1600 ℃以上の高温域における熱電対校正技術の確立が求められています。そこで、我々は産総研発の技術である金属-炭素共晶点を用いて熱電対校正用のRh-C共晶点(1657 ℃)、Ru-C共晶点(1953 ℃)実現装置の開発を進めています。

「温度計評価技術の開発」

研究概要:高精度に温度標準を実現するために開発された温度計測技術を応用して、温度計を高精度に比較測定・評価する技術を研究・開発しています。温度計の高精度比較測定技術は、近年新エネルギーとして注目されている-253 ℃の液体水素の温度を下回る-260 ℃ (14 K)から、上述の1600℃を超える広い温度域で有しており、新規開発された温度センサ等を高精度、かつ、国家標準に基づく信頼性の高い計測により評価することが可能になっています。また、温度計を高精度に比較評価する技術を応用して、表面温度計を校正するための基準表面温度を評価する技術、精密海洋温度計の性能を評価する技術など、産業や科学において使用されている温度計の評価技術の開発にも取り組んでいます。

「音響気体温度計(AGT)による熱力学温度の測定」

研究概要: 国際単位系(SI)における熱力学温度の単位であるケルビン(K)の定義は、2019年5月に、 水の三重点温度による定義からボルツマン定数による定義へと改定されました。
定義改定の際には、それまでの定義と新定義との間に不一致が発生しないよう、水の三重点である273.16 Kにおいて、 熱力学の法則に従った様々な方法でボルツマン定数の精密測定が行われましたが、 ボルツマン定数が決定された現在、これらの方法は熱力学温度を精密に測定する一次温度計として引き続き活用されています。
我々は、高精度な熱力学温度測定技術の確立のため、 他国で不確かさが小さく測定の実績が多い一次温度計である音響気体温度計(AGT)を開発しており、 より広い温度域において熱力学温度の測定が高精度に実施できるシステムの構築を目指しています。

「熱力学温度の計測」

研究概要:現在、温度標準として産業や科学で広く利用されている1990年国際温度目盛(ITS-90)は、ITS-90が採択された当時に報告されていた熱力学温度の結果と近似的に合うように定義されていました。しかし、近年、熱力学温度Tの計測技術の向上により、ITS-90に基づく温度T90との間に差が生じていることが分かってきました。SI単位系の下では、温度の計測は熱力学温度に一致することが望まれるため、近年、世界的にT-T90を調査し、その国際的な合意値を高精度に求めるための研究が盛んに行われています。我々は、近年、定積気体温度計により、25 K以下1.9 KまでのT-T90を高精度に求めることに成功し、2016年に開催された国際会議(Tempmeko2016)にて報告を行っています。