スピンデバイスチーム
1. メンバー
研究チーム長 Team Leader |
谷口 知大 Yakushiji Kay |
Researcher ID | research map |
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主任研究員 Senior Research Scientist |
田丸 慎吾 TAMARU Shingo |
Researcher ID | |
主任研究員 Senior Research Scientist |
常木 澄人 TSUNEGI Sumito |
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研究員 Research Scientist |
日比野 有岐 HIBINO Yuki |
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研究チーム付 Team Leader |
薬師寺 啓 Yakushiji Kay |
Researcher ID | research map |
2. 主な研究テーマ
一般に“スピントロニクス” と称される、電子工学と磁気工学を融合させた研究領域において、スピントロニクスならではの新機能・高機能を活かしたスピンデバイスの研究開発を、基礎学理の探求から実製品に近いデバイス開発まで幅広く行っています。チームのセールスポイントは、世界トップレベルの高い成膜・加工・評価の実験技術、そして理論提唱力です。これまでに、不揮発メモリSTT-MRAM(すでに製品化)、高周波発振デバイス、乱数発生器、人工知能デバイス、磁気センサーといった新しいデバイス創出や実用化開発を行ってきています。現在の具体的な研究テーマを以下に示します。 |
@ 磁気メモリおよび乱数発生器(スピンダイス)
当チームの強みである「磁気トンネル接合(厚さ1ナノメートル以下の絶縁体薄膜を強磁性体薄膜でサンドイッチした構造)」の作製技術力を背景に、磁性体を用いたメモリデバイスの研究開発を長年にわたり行っています。既に製品化されている垂直磁化型STT-MRAM(STT:スピントルク反転型、MRAM:磁気ランダムアクセスメモリ)は、2006年の研究プロジェクト発足時は世の中に存在しないものでしたが、メモリセルである磁気トンネル接合の開発進展によって、製品として世に出るまでになりました。 現在は、これまでの研究開発に引き続いて、新しいコンセプトや構造、材料の磁気メモリ開発を行っています。最近のトピックスとしては、高性能参照層実現(主要論文1、プレスリリース1)、シリコンウェハ上への単結晶化実現(主要論文4) 、3次元積層化実現(主要論文2、プレスリリース2) 、スピン異常ホール効果の実証(主要論文3、プレスリリース3) 、ワイル反強磁性体での動作実証(主要論文5) 、などがあげられます。現在は、単結晶MRAMの高機能材料への展開、スピン軌道トルクを用いた新しい3端子メモリ構造の研究開発(主要論文6)、を行っています。単結晶化については、世界でも当チームの技術力が抜きん出ており、メモリ以外にも幅広い応用が期待されています。 スピントロニクス技術を応用した乱数発生器(スピンダイス)は、高速で情報量の多い真性乱数を生成するデバイスです(主要論文7)。デバイス構造がSTT-MRAMと類似のため、磁気メモリ開発と並行して開発を行ってきました。真性乱数はソフトウェア乱数などとは異なり極めて高い予測不可能性を持ち、暗号通信の用途に理想的な乱数です。1秒あたりギガビット以上の乱数を安定的に生成でき、既存シリコンテクノロジーとの整合性は抜群に良いことから、その将来性は大きく期待されます。現在は人工知能系への応用など、広範な研究展開を見せています。 |
A 高周波発振スピンデバイス
スピンデバイスの大きさを、数十nm程度以下の微小サイズ領域にまで微細化すると、スピンダイナミクスと呼ばれるスピン動的特性が様々な新しい機能性を産み出すことを、これまでに見出してきています。その一例が高周波発振です。高周波発振スピンデバイスは、特別に設計した磁気トンネル接合を数10nm程度に微細化した素子です。この素子では、ある程度の直流電流を流すと磁化歳差運動が励起され、高周波発振信号が発生します(図)。これまでの10年程度の期間で要素技術開発を行い、発生周波数や出力、線幅など特性チューニングに対しての様々な研究実績とノウハウの蓄積を行ってきました。例えば、位相同期による発振線幅の狭小化と出力増大(主要論文1、プレスリリース1)、水晶振動子に匹敵する大きな出力の実現(主要論文2、プレスリリース2)といった成果をあげています。 現在は超小型マイクロ波発振器としてその応用開発を中心に継続的な研究を行っています。高周波スピンデバイス開発では、測定技術の開発とそのデータ解析がデバイス作製と同等以上に重要です。チームでは評価のための測定装置を新たに開発するなど、デバイス作製に加えて、評価・解析の面も重視しています。 |
Bニューロモルフィックコンピューティング
当チームで技術蓄積のある高周波発振スピンデバイスの新たな応用として、人工知能デバイスの創成を目指しています。生体の脳細胞などにおける神経回路網ではニューロンの瞬間的な発火によって高度な情報処理が行われています。これをスピンデバイスの機能性により模倣的に動作実証する試みに注力しています。着眼点は、高周波発振による非線形信号の発出です。これを複数素子間で伝搬させることができれば、スピンネットワークが構築され、神経回路網の情報処理の模倣が可能になります。これまでには音声認識に成功するなど先駆的な成果をあげています。ニューロン研究と併せて、理論と共同でスピンデバイスのカオス生成によるリザバー計算機の動作実証を目指した研究も行っています。 |
Cスピンデバイスの理論研究
現在行っている理論研究は(1)スピン異常ホール効果の研究、(2)スピントロニクス・リザバー計算の研究です。前者では、磁気メモリのさらなる高速動作や安定動作を目指し、スピン異常ホールという新しい効果により新機能を付与した高性能磁気メモリの実現を目指しています(主要論文1,2、メディア掲載1)。後者は、スピントロニクスを利用することで高性能で超小型の人工知能デバイス(物理リザバー計算機)の実現を目指した理論研究です(主要論文3)。最近は、ナノメートルサイズの磁性体に現れる“カオス”などの複雑なダイナミクスを取り入れることで、全く新しいデバイスの提唱を行いました。いずれのテーマともチーム内外の実験担当と密接な議論を行いながら、研究開発を進めています(主要論文2、プレスリリース2,3、メディア掲載1)。 |
D磁気センサー
磁気センサーは、強磁性体の磁化方向を磁気抵抗効果を利用して電気的に検知するデバイスであり、 磁気トンネル接合を基本構造としています。強磁性体の磁化方向は、例えば外から磁石などの磁界を与えることで変化させることができます。ハードディスクドライブの読み取りヘッドは、磁気ディスクの記録を検知する一種の磁気センサーです。他に磁界としては、微弱なものは生体磁気や紙幣、地磁気などを挙げることが出来、磁気センサーの用途は拡大の一途にあります。近年は電気自動車などにおける大電流制御の要請も高まっており、電流磁界の強弱を磁気センサーで検知することで、逆に電流量を測ることが可能です。磁気センサーの開発現場では、デバイス基本構造である磁気トンネル接合の特性向上(感度特性・線形性・ヒステリシス制御など)が課題となり、最近ではそのための先進的技術開発として単結晶化や3次元積層にも成功しています(主要論文1、プレスリリース1)。その上で、スピンダイナミクスがノイズなどのデバイスの動作にも関係していることから、その把握と制御も課題として重視しています。チームでは様々な側面から、磁気センサー実用化に向けた研究開発に取り組んでいます。 |
E高SHF帯に対応する電磁波吸収体
無線通信機器などでは、機器内部において発生した電磁波ノイズがアンテナに結合することで受信感度が低下します。これを防ぐために、一般にノイズ抑制シート(Noise Suppression Sheet, NSS)が用いられています。しかしながら、5G無線通信で主流となる24~30 GHzの高SHF帯に適用できる有効なNSSはまだ世の中に存在しません。高SHF帯5G無線通信を普及させるためには、その開発が急務であり、当チームでは磁性粒子の共鳴吸収が電磁波吸収に有効であることに着眼した高SHF帯向けNSSの開発を行っています(図) 。 また用いる磁性粒子の評価手法を開発し、この研究開発に活用しています。開発した装置(トランス結合型透磁率測定装置)では、図に示すように、被測定試料を2つの短絡終端された平面導波路に挟み込む構造とすることで、従来と比較し飛躍的な感度および帯域の向上を達成しました。これにより世界で初めて数10μm程度の単一磁性粒子の磁化率の測定が可能となりました。 |
3. 主な研究設備・技術の紹介
スピンデバイスは薄膜堆積と微細加工により作製します。すべてのスピンデバイスの性能向上と新コンセプトの創出は、デバイス作製技術の進展・発展・革新がカギを握ります。スピンデバイスに要求される素子サイズは数十nm程度です。このような超微細スピンデバイスでは、電流・電圧・光・熱とスピン動的特性の間のエネルギー授受を介した新しい機能が数々産まれており、未知の機能も多く埋もれていると考えられています。超微細スピンデバイスの機能とその性能は、薄膜品位と加工後品位により左右されますが、培った高い技術をもって数々の新機能を見出すことが出来ました。そのような技術力が評価され、当チームで作製したスピンデバイスは、チーム内での研究開発だけでなく、国内外の連携研究先(国内大学・国研、フランス、ポーランド、アメリカなど)でも活躍しています。 デバイスに用いる薄膜の厚さは、ナノメートル(nm: 10億分の1メートル)よりもさらに1桁以上薄い領域です。これをスパッタリング法により精緻に品質コントロールし、直径200mmや300mmのシリコンウェーハ上に均一に形成(成膜)します。そのための装置はオートメーション化された量産向けの大型装置です。実験室レベルでよく用いられる小型装置とは異なり、独自かつ高い成膜技術が要求されますが、得られる薄膜は極めて高品質であるとともに、その量産への技術移管を速やかに行える(=実生産に近い)メリットがあります。当チームの成膜技術、特に厚さ1ナノメートル以下の絶縁体薄膜を強磁性体薄膜でサンドイッチした構造である「磁気トンネル接合」の開発技術力は、世界でも指折りの高さです。 薄膜の多層構造を形成した後に、高度な微細加工技術を施します。この技術力も非常に高いものです。当チームの微細加工ファシリティでは、20mm角?φ3インチの小片基板を受入可能であり、最短3日程度で加工完了することが可能な小回りの効くラインです。スピンデバイス作製に特化した特注の成膜加工複合装置を用いるなど、ノウハウを反映させたプロセスを施すことができます。このほかに産総研内のTIAファシリティを利用して12インチ(φ300mm)の加工を行います。12インチ品は、ArF液浸露光機や130kV電子ビーム露光機を用いたパターニングとなります。 スピンデバイス評価を行うための測定装置群も、数量、質ともに充実しています。1人あたり1台以上の磁界中測定プローバーや、複数台の360o回転磁界プローバー、などを備えており、それぞれにおいて目的とするスピンデバイスに応じた改造を施しています。測定系も数十ギガヘルツ以上の高周波測定や、メンバーが一から開発した高感度測定装置など多彩です。以上は研究開発に欠かすことができないマニュアル操作の評価装置ですが、多数測定が一挙に可能なオートプローバーも保有しています。 |
装置一覧薄膜成膜装置 薄膜評価装置 微細加工装置 【小片基板用】 g線ステッパー(他Gr所有)、マスクレス露光機(共用)、50kV EBリソ(共用)、130kV EBリソ(共用)、イオンビームミリング(IMP付)、RIE、スパッタ x3、成膜加工複合装置 <IMP付ミリング・スパッタ・MBE>、リフトオフ装置各種 【300mmウェハ用】 130kV EBリソ(共用)、ArF液浸露光機(共用)、KrF露光機(共用)、300mmウェハ用ミリング・CVD・RIE・スパッタ(2021年度導入)、300mmウェハ用フルオートダイサー(マウンター・UV照射機・エキスパンダー付) 測定評価装置 垂直磁界プローバー x4、 面内磁界プローバー x2、 360º回転磁界プローバー x3、オートプローバー x2(小片、300mmウェハ) 300mmウェハ用12元スパッタ装置 小片基板加工に用いる成膜加工複合装置 成膜加工複合装置にて35ナノメートルに加工した磁気トンネル接合 300mmウェハ用ArF液浸露光機(TIA共用) 300mmウェハ用フルオートダイサー |
4. 主な外部資金プロジェクト
薬師寺: JST-CREST, 分担: |