メートル条約締結150周年記念式典がパリで開催されました
5月20日、フランス・パリのユネスコ本部で、メートル条約締結150周年記念式典が開催されました。
当日は、世界各国から代表団が集まり、盛大なシンポジウムが開催されました。 まず、世界各国からのお祝いメッセージを収録したビデオが上映され、UNESCO(※)自然科学担当事務局長補佐Ms. Brito、Mr. Abdrakhmanov、国際度量衡委員会(CIPM)委員長 Dr. Louw、国際法定計量委員会(CIML)委員長Dr. Mathewからの祝辞がありました。
そのあと、レーザー冷却の業績で1997年にノーベル物理学賞を受賞した、NISTのProf. William D. Phillips が、古代エジプトの時代から現代までの長い歴史の中で、単位を統一し、基準となるモノをつくり、さらには物理現象、量子により、よりアクセスしやすく、より便利で、より正確な計量を実現してきた歴史について講演しました。そして、まだ基礎物理定数による定義に至っていない「秒」の再定義に向けた国際協力を求めました。
また、午後には、科学技術歴史学者のNorthwestern Univ. のProf. Ken Alder が、メートルを決めるための測量の詳細、メートル法ができ、メートル条約が締結されて、世界にいかに広がったか、について、講演しました。1 メートルを決めるために、ドランブルとメシェンがどのような測量を行ったか、必要となった補正の秘話などについて、詳細な解説が行われました。このような苦難を乗り越えながら、 “人類に託された最も重要な使命である“ 世界で統一した単位を作った先人の努力が語られました。
午前後半、午後後半に行われたパネルディスカッションにおいては、科学と技術の多国間主義の挑戦、グローバルメトロロジーへの未来の挑戦、と題した議論が行われました。ここでは、正確な計量、国際単位系(SI)へのトレーサビリティが、世界のどこにおいても社会の発展にとって重要であること、また、科学技術の発展と相互に作用し、不可欠であること、正確な計量は生活の中で概して意識されないが、ウェルビーイング(社会的幸福)を支えていることが共有されました。そして、これからの課題として、距離的、地政的に離れている国々、地域にもメートル条約が等しく普及することの重要性と、そのための支援の必要性が語られました。また、教育の重要性、若い人材、多様な分野からの人材確保の重要性も認識されました。そして、最新の科学の活用、最新のニーズへの対応が急務であることが共有されました。計量先進国と言われるヨーロッパ諸国だけでなく、アフリカ、アジア地域からのパネリストが多く登壇し、また女性も多く登壇し、多様性が感じられる構成となっていました。
閉会式では、国際度量衡委員会(CIPM)幹事の臼田孝から、閉会の言葉が述べられました。
CIPM幹事 臼田孝(産総研 計量標準総合センター長) (日本語訳・一部略)
「本日世界中からお集まりいただいた皆様、講演者、パネリストの皆様、式典を開催してくださったUNESCOに感謝申し上げます。そして、これまでメートル条約を支えてこられた、メトロロジスト、行政、政府機関の皆様への感謝を表したいと思います。そして、BIPMのスタッフへ、感謝を述べたいと思います。
今日の式典では、150年にわたるメトロロジーの素晴らしい進歩と、これからの50年、100年にわたる国際協力の重要性について共有することができました。先人たちの努力により、現在では共通語としての国際単位系(SI)と共通の時間スケール(UTC)を共有することができています。これらは、科学的な努力の勝利であっただけでなく、国際協力が成し遂げた輝かしい事例でもあります。そして、我々の仕事はまだ終わっていません。世界には環境破壊や健康課題、持続可能な発展のための喫緊の課題があります。信頼性のある計測は、信用の礎です。これらの課題を解決するため、我々はメートル条約の枠組みでの国際協力を続けていかなければいけません。メートル法の創設の精神「Measurements for all times, for all people(計測をすべての時代にすべての人々に)」はかつてないほど重要になっています。今日の祝典は、すべての人のよりよい未来に向けたメトロロジーの力を再認識するものとなりました。
この瞬間まで我々を導いてくださったすべての方々に感謝し、これからをともに築きあげていきたいと思います。」
単位統一の150年の歴史を築いてきた先人たちの努力への敬意と、これまでもこれからも続く国際協力の重要性が再確認された、メートル条約150周年の記念日となりました。
(※)5月20日世界計量記念日は、2023年にUNESCOの世界的記念日に制定されたため、記念式典はUNESCO主催で開催されました。

