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マルチモーダルAI

人工知能が未来を切り開く、新たなシンギュラリティの時代に向けて

これからの未来、人工知能が私たちの生活を劇的に変える「シンギュラリティ」という時代が近づいています。シンギュラリティは、人工知能が人間の知能を超える時期を意味しています。人工知能によって、技術や知識の限界を一気に越えた時、今まで見たことのない未来が広がるでしょう。
近年、デジタル技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)によって私たちの生活は大きく変わりました。シンギュラリティが現実になると、人間だけができると思われた仕事や発見が、人工知能によって次々に達成されます。例えば、人工知能が病気の診断や治療を正確に行い、地球の環境データを分析して効果的な策を提案し、個々のニーズに応じた最適な教育プログラムを提供する未来が近づいています。
シンギュラリティがもたらす未来は、チャンスと課題が同時に存在します。人工知能が人間の知能を超える時代に、私たちは恩恵を受けながら、多くの人や組織と連携し、困難な課題に立ち向かうことが求められます。
この時代において、私たちはマルチモーダルAIという、人間の脳のように様々な情報を同時に扱う最先端の人工知能技術を使い、社会に新しい価値を生み出すことに挑戦しています。シンギュラリティの時代がもたらす未来は未知の領域ですが、新しい技術を活用して未来を切り開くことで、わくわくする無限の可能性が広がっています。

オール産総研で切り開くマルチモーダルAIによる日本独自の価値の創出

2022年10月から産総研では、「マルチモーダルAI技術の多様な材料・プロセス開発への展開」を目指す、所内最大級のDXプロジェクトがスタートしました。異なる分野の80名以上の研究者が集まり、新しい未来を切り開くために共同で研究に取り組んでいます。 私たちは、材料や化学だけでなく、幅広い専門性を持つメンバーが集まり、これまでとは異なる未来像を目指して研究を進めています。それぞれの分野や研究テーマを越えて、一つのチームとなり、最先端のスーパーコンピュータを活用した高度な人工知能の計算や、現場で得られる実験データの問題解決に取り組んでいます。 異なる専門性を持つ多くの研究者が一緒に研究を行うことで、日本の研究DXをリードする強力なチームが誕生し、産業競争力の強化に大きく貢献できると考えています。私たちの目標は、AIのための研究ではなく、社会の課題に対して有益な技術を生み出すことです。産総研を中心に、多くの大学や企業と協力して、日本独自の新しい未来の価値を創造することを目指しています。


新たな未来の価値に繋がるマルチモーダルAI

マルチモーダルAIは、人間の脳のように、さまざまな種類の情報(モーダル)を同時に処理・解析する能力を持った人工知能です。従来の人工知能は、テキストや音声、画像、動画などの単一のデータ形式に特化していましたが、マルチモーダルAIは複数のデータ形式を統合して高度な認識や理解を実現します。このようなマルチモーダルAIは、現実世界の複雑な問題を解決するため、多くの分野での応用が期待されています。実際、世界中で医療診断や広告・マーケティングなどへの適用を目指した研究開発が進められています。
その中で、産総研は世界に先駆けて、複雑な材料やプロセスに対応するマルチモーダルAIの開発に成功しました。この新技術は、新しい材料や製品開発を促進するマテリアルズインフォマティクスや、安定したスケールアップや量産プロセスの確立を後押しするプロセスインフォマティクスにおいて、新たな時代を切り開くとされ、注目を集めています。私たちの身の回りにあるさまざまな製品や素材は、長年の研究開発を経て作られてきました。しかし、人間の脳のようにデータを処理するマルチモーダルAIの登場で、研究者たちはデータ分析の効率を大幅に向上させ、今までよりも速く新たな発見へと導くことができます。この技術の活用により、例えば、軽くて強い新素材の開発や、環境にやさしい部材の製造法の確立、エネルギー効率の高い電池やデバイスの設計が加速されるでしょう。
こうした人間に近い情報処理能力を持つマルチモーダルAIは、現実の問題解決に貢献し、新たな価値創出に繋がると確信しています。マルチモーダルAIを活用したさまざまな技術が社会に導入されることで、私たちの暮らしはより持続可能で豊かな未来へと変わっていくことでしょう。マルチモーダルAIを用いたシンギュラリティと、その先にあるわくわくする未来の実現を目指して、私たちは日々マルチモーダルAIをさらに進化させる取り組みを続けています。マルチモーダルAIの技術革新によって、新たな時代が幕を開けることを期待しています。

マルチモーダルAIの位置づけと高分子複合材料への適用事例

これまで、コンピュータを使って材料の評価を行う試みがさまざまな研究分野で行われてきました。例えば、原子や電子の詳細な状態を計算する方法は、高い精度で材料を評価できますが、単純な構造を持つものしか対象とできませんでした。そのため、これらの方法をさらに拡張させる研究が行われてきましたが、計算上の限界がありました。しかし、最近のデータ科学の発展により、コンピュータが扱える材料の範囲が大きく広がりました。それでも、日常生活でよく使われる複雑な材料のさまざまな性質を予測するには、最先端の技術でもまだ課題が残っています。こうした背景を踏まえて私たちはマルチモーダルAIの開発に取り組んできました。

私たちが実現した材料に関するマルチモーダルAIは、物理的な構造や化学的な構造を認識するためのさまざまな計測データを組み合わせた新しい人工知能のシステムです。例えば、素材や製造プロセスの情報だけでなく、顕微鏡画像や分光スペクトルなどのデータを利用し、一つのデータだけでは材料のすべての状態を把握できない場合でも、複数のデータを組み合わせて処理するAIによって高度な予測が可能になると考えました。こうした考えから、私たちは計測データを生成するAIや複数のデータを統合して判断するAIなど、いくつかの人工知能を組み合わせた新しいシステムを提案しました。実際に、10次元の成分を持つ高分子複合材料において、8次元の力学物性、熱物性、電気物性を予測するマルチモーダルAIの構築に成功しました。

それでは、マルチモーダルAIが実現できるとどのような嬉しいことがあるのかを紹介します。多くの成分を含み、様々な製造プロセスを経て作られる材料は、目的に合った物性を持たせるために条件を調整することがとても大変です。マルチモーダルAIが提案する多くの条件の物性を、人間にとって見やすい形に整理することで、さまざまなことが理解できます。例えば、4つの成分の濃度を変えて性質がどのように変化するかを三角錐で表現すると、まさに人間が物性の「地図」を見ることができ、複雑な成分が作り出す多様な「地形」を解明することができます。たとえば、材料の硬さと柔らかさを示す物性では反対の傾向が見られることや、材料の柔らかさに関連する破断伸びと損失正接のような物性でも、材料の濃度による変化のパターンが異なることがわかります。
これまでに説明したような、異なる性質を持つ複数の物性を考慮することで、複雑な条件下での材料設計が可能になります。例えば、10万以上のパターンでマトリックス、添加剤、フィラーの濃度を網羅的に変化させたとき、物性がどのように変わるかを素早く計算することができます。このとき、異なる物性同士を比較すると、同じ方向に変化するもの、反対方向に変化するもの、独特な非連続的な挙動を示すものなど、様々な傾向が見られます。こうした複数の性質を見つつ、どのようなメカニズムが物性に作用したかを考察し、目的物性に応じた最適な材料を実現する方法を得ることができます。
提案するマルチモーダルAIの仕組みは、画像や分光スペクトルだけでなく、さまざまな次元の時空間データに対応したモデルを作ることができます。また、AIが出力するデータの多面的な解析方法は、高分子複合材料だけでなく、あらゆる複雑な材料や製造プロセスにおいて条件調整や現象の解釈に非常に効果的であると考えられます。このようなマルチモーダルAI技術は、新しい材料開発や製造プロセスの最適化に大きく貢献し、さまざまな産業分野で効率向上やイノベーションへの道筋を開くことができるでしょう。




産総研マルチモーダルAI技術とは?産総研公式YouTube



【参考リンク】
産業技術総合研究所ニュースリリース,2022年6月30日
複数のAIを活用し、複雑な材料データからさまざまな機能を予測する技術を開発―配合条件の選定から成形加工・評価までの材料開発を大幅に加速―


"A Comprehensive and Versatile Multimodal Deep Learning Approach for Predicting Diverse Properties of Advanced Materials".
Shun Muroga, Yasuaki Miki, Kenji Hata, arXiv:2303.16412 (2023).


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国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ナノカーボンデバイス研究センター

〒305-8565 茨城県つくば市東1-1-1 中央第5
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