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技術資料2012 Appendix 深部流体の影響評価・予測手法

目次

深部流体の起源評価手法

水素,酸素同位体,Cl濃度の利用による地下水区分と起源評価

深層地下水に混入する深部流体の評価のため,まず,その深層地下水の成因・起源を明らかにする必要がある.地下水の水素・酸素同位体比やCl濃度は,化学反応等により変質しにくいことから,地下水の混合状態の把握や起源,成因区分に最適である.西南日本地域(中国・四国地域)および東北日本地域(福島−新潟地域)のそれぞれにおける深層地下水データについて,水素・酸素同位体比(δD−δ18O)の関係(図2-1),δDとCl濃度の関係(図2-2)およびδ18OとCl濃度の関係(図2-3)を図示した.

今回,図2-1から図2-3に示した起源区分は,以下に示す方法で分類した.まず,天水起源が卓越する深層地下水については,Clのしきい値を1000mg/Lとして,その濃度以上のものを塩水,以下のものを天水とした.西南日本地域(中国・四国地域)の深層地下水は図2-1に示されるように天水線の幅は比較的狭く,d値(= δD –8δ18O) が,10から20の範囲にあり,比較的単純な水の同位体組成を持つ.東北日本地域(福島−新潟地域)の深層地下水では,天水線そのものの幅が広い(d=10から30).次に,海水起源のものは,現在の海水であるのか古い海水であるのかも検討対象とした.同一地域の天水の同位体組成と現在の海水の同位体組成およびCl濃度が単純混合により説明できるものを“海水”起源と定義した.しかし,単純に現在の海水と天水の混合で説明できない多様な水の同位体組成およびCl濃度を持つ塩水が多く存在することも同時に明らかとなった.また,海水の特徴を残しながらも,微妙に同位体組成や化学成分が異なる“古い海水”と考えられる特徴を有する深層地下水が存在するのも事実である.これらは,海水が起源と考えられるが,現在の海水とは明らかに異なる水として,“古い海水”と定義されるべきものである.東北地方には内陸部にも,この定義に合致する深層地下水が見いだされたが,その特徴は一定しておらず“内陸塩水”として区分した(図2-1から図2-3).“火山性熱水”については,1)第四紀火山の近傍であること,および,2)同一地域の天水とマグマ水の混合が水の同位体組成およびCl濃度の関係で成立することを条件として定義した.また,“非火山性熱水”については,1)構造線等の近傍であること,および,2)同一地域の天水と有馬型熱水の混合が水の同位体組成およびCl濃度の関係で成立することを条件として定義した.一方では,これらの区分の定義に収まらない塩水もいくつか存在する.これらについては,起源が“不明”として分類した.西南日本地域(中国・四国地域)における起源不明の水は,図2-2 および図2-3で特徴的に見いだすことができ,天水と海水の混合線から大幅に外れている.これらの一部は,海水よりも高いCl濃度を持つ端成分と天水の混合の結果と考えられるが,その端成分は同位体組成でみると火山性熱水でも有馬型熱水でもない水である.東北日本地域(福島−新潟地域)においては,内陸地域に塩水が多数見いだされた.図2-1〜図2-3における“内陸塩水”である.この塩水の一部は,その同位体組成は天水の範囲に入るもの(図2-1)や,図2-2および図2-3の天水と海水の混合線上にくるものから,Cl濃度が高い方向に大幅にはずれているものまであるが,一部は明らかに火山性熱水とも有馬型の深部上昇熱水とも異なる起源の端成分を持つ水が関与していることがわかる.また,福島の沿岸部において,水の同位体組成が海水と有馬型熱水の間の方向にシフトし,Cl濃度が非常に高い塩水がある.これは,変質した海水起源の水の可能性が考えられるが,ここでは起源“不明”の水として分類した.

  • 図2-1 既存地下水試料の酸素同位体比(δ18O)と水素同位体比(δD)との関係,および推定される起源.

(a) 中国-四国地域,(b) 福島-新潟地域.

  • 図2-2 既存地下水試料の塩素(Cl)濃度と水素同位体比(δD)との関係,および推定される起源.

(a) 中国-四国地域, (b) 福島-新潟地域.

  • 図2-3 既存地下水試料の塩素(Cl)濃度と酸素同位体比(δ18O)との関係,および推定される起源.

(a) 中国-四国地域, (b) 福島-新潟地域.

炭素同位体,DIC濃度の利用による深部起源炭素の起源評価

本項では,深層地下水に含まれる無機炭酸(CO2 および炭酸イオン種:DIC)の成因および評価手法についてまとめる.日本の深層地下水中にDICは多く含まれ,その濃度は9000mg/Lに達することもある.特にCO2は,地下深部においては高濃度で溶解している場合があるため,処分地に腐食,溶解等の化学的な影響を与える可能性があり,重要な成分である.その起源については,炭素同位体比(δ13C)を用いることにより,ある程度評価が可能である(産業技術総合研究所深部地質環境研究センター編,2007).一般に浅層地下水では,表層の土壌に含まれる有機物起源のCO2が地下水に溶解することにより,δ13Cが-30から-25 ‰のDICを持つことが多い.このCO2が地層中のCaCO3と反応することにより,鉱物からの炭素も地下水に含まれるようになる.地層中のCaCO3のδ13Cは,陸成の-15‰から海成の0‰の範囲を持つため,下記反応によって,地下水中のDICは-20から-10‰の値を持つことになる.
CaCO3+CO2+H2O=Ca2++2HCO3-

しかし,日本列島においては,深層地下水中のDICはさらに高いδ13C値(-10から+20 ‰)を持つ場合も多く認められる.これらは,より地下深部において,有機物の分解反応が生じたCO2が関与した場合(δ13C値:-5から+20 ‰)や,マントルやスラブ起源の深部から供給されるCO2(δ13C値:-5から0 ‰)が関与した場合などが原因として挙げられる.日本においては,火山近傍では火山性熱水のDIC(δ13C値:-5から0 ‰)や有馬型熱水をはじめとする断層・構造線沿いに上昇する深部上昇流体( δ13C値:-10から0 ‰)等が確認されている.
西南日本地域(中国・四国地域)および東北日本地域(福島-新潟地域)における深層地下水に含まれるDICを評価するため,図2-4に溶存全炭酸(TDIC)濃度とその炭素同位体比(δ13C)の関係を示す.図中に端成分として,堆積物中の有機物により生成するDIC の範囲と深部起源となる海成炭酸塩岩(スラブ起源を想定),火山ガス・深部上昇流体中のCO2およびそれらの混合線を示す.大部分の地下水 は高いδ13C値を持つCO2 (火山ガスやスラブの海成炭酸塩起源成分などを起源とする深部上昇流体)と,δ13C値およびTDIC濃度が低い端成分(堆積物や生物起源成分など)との混合であることがわかる.しかしながら,一部の試料で端成分との混合線から外れるものがみられた.δ13C値が高くなり,TDIC濃度が高いデータについては,有機物等の分解等によるメタンやCO2の生成に伴う同位体分別作用が考えられ,実際に地下水中にメタンガスを伴っているものも存在する.これらの試料は,四国の仏像構造線付近の深層地下水,いわき周辺の深層地下水,新潟の油田鹹水や水溶性ガス付随水でみられる.また,非常に低いTDIC濃度を持つ地下水は,CaCO3の沈殿などによるDICの除去が原因と考えられる.

これらの関係から,TDICについて,δ13C値のマスバランス計算により,δ13C値およびTDIC濃度が高い深部起源炭素 (Cds) の濃度を求めた.ここでは,深部起源および表層の有機物起源の炭素のδ13Cをそれぞれ-4‰,-25‰としている.端成分として用いた値よりそれぞれ高いもの,低いものはその端成分のみが寄与しているとした.この深部起源炭素濃度は,深層地下水にさらに深部から付加されるCO2量の程度を示す指標として有効であると考えられる.求められたCdsの濃度分布および地質構造との関連性については,2.3.3.5で述べる.

  • 図2-4 中国-四国地域(西南日本)および福島-新潟地域(東北日本)の溶存全炭酸(TDIC)濃度と炭素同位体比(δ13C)の関係.

TDICは,温度,pH, HCO3-濃度と純水の解離定数を用いて計算した.

 

DIC濃度および3He利用による地下水プロセス評価

次に,深層地下水系におけるプロセスとして,深部起源やガス成分の付加など,炭素成分の付加あるいは除去の有無を検討するための手法をまとめる.図2-5にTDICのδ13C値と TDIC/3He値の関係を示す.本図は,DICの起源および反応履歴などをみるのに最適である.図中には,主に表層の堆積物に由来する炭素種,スラブ起源を代表とする海成炭酸塩とマントルを代表するMORBを端成分として示す(Sano and Marty,1995).これらは,地球上に存在する炭素種の端成分であり,本来すべての炭素種はこれらの混合で表されるべきものである.図2-5から大部分のデータが,上記の端成分による混合線で囲まれた範囲に収まる.TDICのδ13C値の高いものについては,図2-4においてすでに説明されているとおりである.混合線内のデータは,火山ガスや深部上昇流体を起源とするCO2が地下水中に溶解してできたDIC,および,比較的表層に存在する堆積物中の有機物を起源とするCO2が溶解してできたDICの2つの起源成分で説明可能なものが多い.日本列島は海洋プレートが沈み込む場に位置しているため,スラブに含まれる海成炭酸塩岩の影響を大きく受け,マントル値を代表するMORBの値は持たないと考えられている(Sano and Marty,1995;佐野,1996).したがって,MORBに近いあるいはそれ以下のTDIC/3He値(1010以下)を持つ地下水は,端成分の混合以外の別の原因により値が変化したと考えられる.TDICの濃度が低くなる原因としては,帯水層内において方解石(CaCO3)の沈殿による炭素の除去が考えられ,その際,残ったDICのδ13C値も同位体分別作用によって低くなる(Ohwada et al.,2007).図2-5において,その傾向をみることができ,西南日本のグリーンタフ地域の深層地下水や新潟地域の油田鹹水でδ13C値が低く,TDIC/3He値も端成分の混合範囲から大きく外れている.特に,新潟地域の油田鹹水については,多量の有機物起源のCO2の付加が想定されるが,それ以上にCaCO3の沈殿の影響が大きい.油田鹹水の胚胎層は主にグリーンタフ層であることから,グリーンタフを帯水層とする地下水(いわゆるグリーンタフ型地下水)が,TDICに欠乏する事実と矛盾しない.この種の地下水の水質形成機構については,Ohwada et al.(2007) に詳しい.

以上のように,TDIC/3He値は,地層内の反応の評価に用いることができる.特に,北陸地域における事例で明らかなように,高い3He/4He値を持つ深部流体の上昇場に位置するグリーンタフ地域の深層地下水においても,地層中でDICの除去プロセスが働く場合があり(Ohwada et al.,2007),深部上昇流体による影響を評価する上では大変重要なプロセスである.堆積物中の有機物や海成炭酸塩起源等によるCO2の付加,地層内での方解石の沈殿によるDICの除去の影響およびその度合いについて数値情報として扱うためのパラメータとして,試料のTDIC/3He値(Fs)をMORB値のTDIC/3He値(=1.5×109)の一桁上の1010(F)で規格化し,対数表記(log(Fs/F))したものをP値と定義した(図2-5の右軸).

  • 図2-5 中国-四国地域(西南日本)および福島-新潟地域(東北日本)の炭素同位体比(δ13C)と溶存全炭酸(TDIC)/3He値の関係.

TDICの反応パラメータP値(=log(Fs/F); Fsは,各試料のTDIC/3He値,Fは規格化の値として1010とした(MORBのTDIC/3He値 (=1.5×109)より一桁高く設定).日本の火山ガス等の範囲は,Sano and Marty (1995)のデータを基に示した.

 

放射性炭素,トリチウム濃度の利用による地下水の混合と起源水評価

地下水中のトリチウムや14C濃度は,通常,地下水の平均滞留年代を導き出す場合に使用される.この手法を単独で用いる場合には,地下水が単一起源のものであり,さらにそれぞれの半減期(12.3年,5730年)において適用可能な年代範囲(精度にもよるが,おおむね半減期の一桁上まで)でのみ有効である.また,4He濃度も年代に適用可能であり,かなり超長期の年代推定に用いることができる(Morikawa et al.,2005).地下水の混合によるこれらの成分から導き出される年代不整合の可能性について一例を挙げると,地下水涵養直後の水“A”(トリチウム濃度=10 TU,14C濃度=100 PMC,過剰4He濃度=0 cm3STP/gH2O),14Cの半減期程度の比較的古い水“B”(0 TU,50 PMC,5.7×1016 cm3STP/gH2O) ,10万年程度の古い水“C”(0 TU,0 PMC,1×10-4 cm3STP/gH2O)が1:1:1で混合した水の年代値はトリチウム,14C,4Heでそれぞれ,約20年,5700年,33000年と全く異なった年代が計算されることになる.地下水の混合は,水質の形成とともに,このように大きく年代測定にも影響を及ぼす.

本項では,今回行なった実際の分析値を用いて検討する.図2-6にはStuiver and Polach (1977) の方法に従って得られた14C年代とトリチウム濃度の関係を示した.いずれもトリチウムが検出されており,トリチウム濃度から求められる年代は100年以内ということになるが,14C濃度の示す年代では1万数千年までの年代が得られており,年代不整合の概念が実際の地下水試料について見られることが分かる.この場合,それぞれの成分から導き出された年代値は意味をなさなくなる.しかし,一つの地域内での14C,トリチウム,4He濃度の関係を見ると,地下水の混合・起源に関する解析を行えるケースもある.以降,放射性炭素同位体比はδ14C表記とする.δ14Cは標準試料からの14C/12Cのずれをパーミル表示したもので,δ14C=0がmodern carbon(現在の14C濃度を持つ炭素),δ14C=-1000がdead carbon(14C濃度が0の炭素)を意味する.

  • 図2-6 トリチウム濃度と14C年代との関係.

”yBP”は暦年代(1950年から何年前であるかを示す).
図2-7 (a)はある地域内(半径300m以内)の異なる深度から得られた深層地下水であるが,δ14Cとトリチウム濃度の間には負の相関がある.つまり,トリチウムを含む若い水とトリチウムを含まない14C濃度の低い古い水の混合であることが考えられる.図2-7(b)ではδ14CとCl濃度には正の相関がある.また,水素-酸素同位体の関係(図2-8)では狭い範囲内ではあるが天水線とは異なる混合線上にある.したがって,トリチウム濃度とδ14Cは水素-酸素同位体値の分布とも関連性があるようにみえる.つまり,2つの端成分の年代が異なっていることを反映していると考えられる.この場合,端成分の一つは若くてδD およびδ18O値の高い水,もう一つは涵養年代が古くてCl濃度がやや高く,δD およびδ18O値の低い水であることになる.

  • 図2-7 δ14Cとトリチウム濃度(a),Cl濃度(b)との関係

  • 図2-8 水素同位体比と酸素同位体比の関係.

図中の数値はトリチウム濃度(TU)およびδ14C値(‰).

 

次に,東北日本太平洋側の深層地下水の例(図2-9)では,いずれもトリチウムが検出され,最大で4.9TUであり,涵養年代の若い水が大量に含まれていることを示している.それにもかかわらず14C年代は5400年という古い年代を与えている.δ14Cと,4He濃度では正の相関が見られており(図2-9), 14C濃度の低い炭素かつ4Heを多く含む水の混入を意味している.つまり,この深層地下水においてもトリチウムを含む若い水と14C濃度の低い古い水の混合であると考えられる.

図2-9には,(A)若い水として,ほとんどmodern carbonからなる表層水(δ14C=0,4He = 4.5×10-8 cm3STP/gH2O)と,(B)古い水として,14Cを含まず(δ14C=-1000),C/4He=1×104〜1×105の値を持つ水(この地域の3He/4Heの端成分は1×10-7程度であるので,C/3He =1011〜1012)を端成分とした混合線も示した.この図のように,各地下水試料は若い水と古い水の混合で説明できる.なお,トリチウム濃度と,δ14Cに相関はない.混合した若い水の滞留時間に数十年程度の違いがあればδ14Cはほぼ同じでも,トリチウム濃度は大きく異なる.それぞれの試料について混合された若い水の滞留時間に若干の違いがあれば説明できる.
以上のように,トリチウムや14Cは年代トレーサとして有効であるとともに,両データをあわせて比較することにより地下水混合が検討できる非常に有効なツールとなる.

  • 図2-9 表層水と14Cを含まない古い水との混合時におけるδ14Cと4He濃度の関係.

図中の数値は東北日本の深層地下水のトリチウム濃度(TU)を示す.

 

微量成分,同位体の利用による起源等の評価

本節では,深層地下水の微量成分や同位体の利用による起源,成因等の評価手法をまとめる.用いる成分,同位体は,ホウ素濃度,硫黄同位体,ストロンチウム同位体,微量元素組成およびシリカ濃度である.それぞれ単独では,地下水情報として得られる内容に限りがあるが,複雑な地下水系などを評価する場合に,有用と考えられる.

 

ホウ素濃度等による深部流体の検出手法

ホウ素は地下水中では微量成分であるが,岩石や鉱物に取り込まれにくい元素であることから,Cl等と同様に地下深部由来の流体からも供給される可能性がある.今回,ホウ素を用いて深部流体の特徴等の解明が可能かどうかを検討した.

中国・四国両地域における深層地下水のホウ素濃度とCl濃度の関係を図2-10に示す.図より,(1)ホウ素濃度が高くCl濃度が低い“タイプA”,(2)ホウ素濃度もCl濃度も高い“タイプB”,(3)ホウ素濃度が相対的に低い“タイプD”および(4)各タイプに挟まれている“タイプC”の4つに区分した.図上には,水溶性ガス付随水(十勝川,長万部,象潟(福田,1985b)),北海道北部(豊富,遠別)(福田,1985a,b),有馬温泉(福田,1985c)および地熱発電所(大沼および葛根田地熱発電所(茂野・阿部,1987))の例も同時に示した.

  • 図2-10 中国・四国地域における既存地下水試料のClとBとの関係.

比較のため,北海道,岩手および有馬地域のデータも記載.
各タイプの深層地下水のキーダイアグラムを図2-11に示す.“タイプA”はNa-HCO3型で,地層中に長期に滞留したいわゆる深層地下水,“タイプB”はCl-HCO3型,“タイプD”はCl型(海水起源)であることがわかる.“タイプC”は“タイプB”のようなCl-HCO3型と,Cl-SO4型に区分できることがわかる.四国地域の“タイプA”,“タイプB”と“タイプC”のうちのCl-HCO3型のものおよび“タイプD”を上記図から抽出し,その水素・酸素同位体組成を図2-12に示した.“タイプA”は天水ライン上のみに分布しており,天水を起源とする地下水そのものであることが裏付けられた.“タイプB”および“タイプC”のうちのCl-HCO3型のものは,天水ラインと有馬型の深部流体の間に分布している.また“タイプD”のものは,天水ラインと海水との間に分布している.次に,A-Dにタイプ分けした各深層地下水の地理的分布を図2-13に示した.四国地域では,海水を起源とすると考えられる“タイプD”に属する深層地下水以外は,中央構造線,御荷鉾構造線,仏像構造線などに沿って,“タイプA”の深層地下水や“タイプB”,“タイプC”の高いCl濃度の深層地下水が分布している.一方,中国地域では四国地域ほどはっきりした各タイプの分布の特徴が見られない.このように,ホウ素,化学組成,水の水素・酸素同位体組成の特徴を検討することにより,深層地下水の様々な起源端成分の寄与について評価することが可能である.また,特に四国地域では,有馬型深部流体の分布が比較的容易に捉えられることも明らかになった.

  • 図2-11 ClとBの関係によって分類された各既存地下水試料のキーダイヤグラム.

  • 図2-12 ClとBの関係によって分類された各既存地下水試料のδDとδ18Oとの関係.

  • 図2-13  ClとBの関係によって分類された各既存地下水試料の地理的分布.

(a) B/Cl分布, (b) Cl> 1000mg/L以上のB,C,Dタイプ分布. 画像を拡大

 

硫酸イオン濃度と硫黄同位体利用による地下水成因評価

既存地下水試料の硫酸イオン(SO4)濃度と,SO4の硫黄同位体組成(δ34S)の関係(図2-14)から,中国・四国両地域の深層地下水の硫酸イオンの起源は,海水を起源とするものと,海水よりもδ34Sが低いSO4を起源とするものが存在すると考えられる.グリーンタフ地域では,その地層内にCaSO4(硬石膏)などの硫酸塩鉱物が海底における堆積時に続成作用などにより生成し,海水起源のδ34S(〜+20‰)を持つことが知られている(例えば,松尾(1989,p.162)).このCaSO4が地下水に溶解することにより,高いδ34Sおよび比較的高いSO4濃度の地下水が生成する.酒井・松久(1996,p.271)によると世界の各種熱水鉱床から得られる硫酸塩あるいは硫化鉱物のδ34S値の分布から,今回観測されたような非常に低いδ34S値を持つ硫化鉱物は山口県の河山鉱山等で観測されていることがわかる。このような硫化物鉱床の近傍では,バクテリアによる硫化物の酸化により生成されたSO4が湧出することがあり,時としてpH2〜3の非常に低いpH値を持つことがある.したがって,海水よりもδ34S値が低い硫酸イオンは地層中に存在している硫化鉱物に起源を持つ可能性が考えられる.

  • 図2-14 中国,四国地方,有馬温泉および四国の掘削井から得られた試料のSO4濃度とそのδ34Sの関係.

 

ストロンチウム同位体利用による地下水胚胎場

ストロンチウムには4種類の同位体(84Sr,86Sr,87Sr,88Sr)が天然で安定に存在している.このうち,87Srは87Rbのβ壊変(半減期489億年)によっても生じる.この87Srの存在比(通常87Sr /86Srで表される)は一般に,Rb/Sr値の高い岩石(花崗岩等)や年代の古い岩石で高く(多くは87Sr /86Sr >0.710),Rb/Sr値の低い塩基性岩や火山岩などでは87Sr /86Srは低い(多くは0.703-0.707).軽元素の安定同位体が蒸発・拡散といった物理過程,或いは生物活動により変動するのに対し,ストロンチウムはこうした過程では変化せずに,異なる値を持つ水の混合や,水と岩石・鉱物等との化学反応を通してのみ変化する.つまり,深部流体の胚胎或いは流動してきた場所を検討するための手法となる.

Notsu et al. (1991) によると,日本における第四紀から新第三紀火山地域周辺の深層地下水(主に東北日本)の87Sr /86Srは0.703-0.708の範囲に入り,(主に紀伊半島の)堆積岩・変成岩・花崗岩地域では87Sr /86Srは比較的高く0.706-0.712の範囲に入る.特に第四紀から新第三紀火山地域周辺の深層地下水の87Sr /86Srは,深層地下水の胚胎する火山岩の87Sr /86Srと一致する.その他の地域については,火山岩地域ほどの整合性は見られていない.しかし,Franklyn et al. (1991)は花崗岩体における塩水の87Sr /86Srが花崗岩を構成する鉱物のうち斜長石と整合性があることを報告している.今回,西南日本(中国—四国地域)において87Sr /86Srの分析を行ったが,その範囲は0.707〜0.713であり,上述した火山性特有の87Sr /86Srをもつ深層地下水は見いだせなかった.本地域においては,主に,堆積岩・変成岩・花崗岩等の地質地域であることが原因であると考えられる.

 

微量元素濃度利用による地下水の起源

深部上昇流体と停滞水の判別手段の一つとして,既存地下水試料の濃度分析の結果から,Ga濃度により正規化したSr,B,Ba,Li,V,Rb,Mn,CsおよびPbを表示順に並べた分布パターン(以下,微量元素分布パターンと呼ぶ)を求めた.本分析を地下水試料に用いるのは,まだ一般的ではないため基本図(図2-15)を示す.深部上昇水に関連すると考えられる試料は「Particularly mineralized water(以下,深部上昇水型)」に類似のパターン(大沢ほか,2006)となり,また停滞水に関連すると考えられる試料は「Gas-field brine(以下,停滞水型)」に類似のパターンとなることが期待される.分析結果を図2-16と図2-17に示した.両図から,今回分析した四国地域および有馬温泉の試料からは,「停滞水型」に類似したパターンは全く見られないことがわかる.また,分布パターンが「深部上昇水型」に類似したもの,あるいは「深部上昇水型」に類似しているがMn濃度のみ上昇しているものの2つに分類できることがわかる.後者には有馬温泉のすべての試料が含まれている.Mnが増加するパターンも「深部上昇水型」の1パターンに含まれると考えると,今回分析した四国地域および有馬温泉の試料はすべて「深部上昇水型」のパターンに含まれることになる.試料の地域は他の化学成分の解析などから深部上昇水(非火山性)の卓越する地域であり,今回の微量成分パターンの解析とは調和的である.さらに,広域にわたり本分析値を収集できれば,深部上昇型の水と超長期停滞型の水を区別できる可能性がある.

  • 図2-15 微量元素パターン解析を行うための基本図.

  • 図2-16 四国地域および有馬温泉の既存地下水試料の微量元素パターン(その1).

深部上昇水型のパターンを示す試料群.

  • 図2-17 四国地域および有馬温泉の既存地下水試料の微量元素パターン(その2).

深部上昇水型に類似するが,第7成分のMnが上昇するパターンを示す試料群(有馬温泉はこちらのグループに含まれる).

 

シリカ濃度利用による地下水情報

既存地下水試料のシリカ濃度を用いて,シリカ温度計のうちカルセドニー温度計およびαクリストバライト温度計を計算し,深層地下水の実測温度との比較を行った.両温度計の計算方法については,例えば地質学ハンドブック(2001,p.451)を参照されたい.その結果,深層地下水の水温が25℃以上の場合は,カルセドニー温度あるいはαクリストバライト温度と概略一致していることがわかる.中国,四国両地域には比較的低温の深層地下水が多いので,シリカ濃度はカルセドニー,あるいはαクリストバライトの溶解度により規制されていることが推定される.

 

4Heおよび36Clの生成量と起源

多くの深層地下水の主成分である塩素(Cl)は,処分場を化学的に腐食するおそれがあることから,その濃度のみならず供給や流動を理解することが重要である.また,その影響の将来予測のためには,地下水に含まれるClが深部から上昇してくる熱水由来のものか,あるいは海水を起源とする停滞水なのか,その起源を明らかにする必要がある.さらに影響評価のためには,地下水年代等を求め流動に関する情報も明らかにする必要がある.Clの起源推定のため,本節では,36Cl/Cl を用いた解析手法の検討を行なう.また,超長期地下水年代測定に用いるヘリウム地下水年代法の精度を向上させるため岩石からの4He発生量の検討を行う.地下水中4Heは,帯水層内,より深部の地殻,マントルから上昇した4Heの混合物であるがいずれも岩石から生成されたものである.ここでは,岩石から発生するヘリウム量を岩石の化学組成分析より計算し,帯水層内で発生する4He量と地殻から上昇した4He量について検討する.

 

岩石から生成される4Heおよび36Cl/Cl

岩石中に含まれるウラン・トリウム系列核種のα壊変により4Heが生成される.また,その壊変に際し発生する中性子の捕獲反応により,36Clが生成される.岩石の化学組成を知ることにより岩石から発生する4He量,36Cl/Clを計算することが出来る.詳細な計算方法については,4He発生量はAndrews (1985),36Cl/ClはAndrews et al. (1986)に詳しい.化学組成を用いて花崗岩体からの4He発生量(1gあたりの岩石から年間発生する4He量)は1.4±0.8×10-12 (cm3STP/g/y),36Cl/Cl放射平衡値は2.8±1.5×10-14と計算された.掘削孔による違い,深度による有為の違いは見られない(図2-18).また,風化花崗岩,鍵岩部,変質部を含む部分の分析においても大きな違いは見られない.ここでは,この花崗岩鍵岩部・変質部を含む試料の平均値を代表値とし,計算された4He発生量を用いて,地下水中の4Heの起源解析,36Cl/Clを用いて塩水の起源解析をそれぞれ行なう.

  • 図2-18 岩石(主に花崗岩)の化学組成より計算された4He発生量および36Cl/Cl放射平衡値.

図は3本の既存コア試料それぞれの深度でプロットし,掘削孔ごとに色分けしている.

 

地下水中の4Heの起源

日本列島において地殻から上昇する4He量(Crustal 4Heフラックス)は約1×10-6cm3STP/cm2/yと報告されている(Sano,1986).地下水中のヘリウムの起源が帯水層起源であるかCrustal 4Heフラックス起源であるか,それぞれどの程度の寄与率であるかを計算した.図2-19のように,帯水層が薄い場合は帯水層内で発生する4Heは無視できる程度であるが,帯水層が厚くなる場合(数100mを越える場合),その寄与率は大きくなる.また,多段階の帯水層を考える場合は,地殻起源のフラックスが少なくなるため,より帯水層起源の4Heが多くなると考えられる.このため,地下水年代測定を行なう場合,地殻起源フラックスとともに帯水層で発生するヘリウム量についても考慮に入れる必要がある.

  • 図2-19 地下水中に溶解する帯水層起源及び地殻フラックス起源4He量および帯水層起源4Heの寄与率.

4He溶解量の絶対値はこれに空隙率等のパラメータを用いて計算する必要があるため,ここでは単位を記載していない.

 

塩素の起源

36Cl/Clから塩素の起源を解析する場合,まず各流体の36Cl/Cl値を明らかにする必要がある.海水,有馬・石仏地域の塩水のデータより,現在の海水,深部より上昇する代表的な流体である有馬型熱水の36Cl/Cl値を検討する.また,停滞水の36Cl/Cl値は時間とともに変化し,最終的には放射平衡に達し岩種に依存した値をとる.岩石の化学組成分析より停滞水の36Cl/Cl値について検討する.
浅層地下水,海水の36Cl/Clについて

海水の36Cl/Clの分析結果(2回)は一方が検出限界以下,もう一方が2.7×10-15という値を示した.文献値では,1.1×10-15 (Galindo-Uribarri et al.,2007),0.3-5×10-15 (Mahara et al.,2004),などの報告例があり,正確な値は定まっていないが,一般的に10-15台の前半の値を持つと考えられている.今回の結果も矛盾のない値といえる.浅層地下水のデータは宇宙線起源の36Cl多く含み高い36Cl/Cl値を示す.また,1950年代以降に涵養された水は核実験起源の物も含まれ更に高い値を示す(Pearson et al.,1991).ここでは,浅層地下水の36Cl/Clとして1×10-13程度を指標とする.
有馬型熱水の36Cl/Clについて

現在手に入る最も有馬型熱水そのものに近い試料と思われる有馬・石仏地域の高塩濃度の塩水の36Cl/Cl値と塩化物イオン濃度の関係を上記中国・四国,福島・新潟地域および,近畿・東海,北海道,関東地域の結果とともに図2-20に示す.有馬・石仏の8試料のうち5試料が1-2×10-15付近と非常に低い値を取っている.1試料はCl濃度が非常に低く,36Cl/Cl値は1×10-13を越えている.この試料は,浅層地下水の特徴を示しているものと考えられる.8試料の内2試料(有馬,石仏それぞれ1試料)は約6×10-15とやや高めの値を示している.これらは,塩化物イオン濃度がそれぞれ13000mg/L,6900mg/Lであり,有馬型熱水の混入率は低い.やや高い36Cl/Clを示した2試料の解釈については今後検討する必要があるが,最も高塩濃度の試料からは有馬型熱水そのものの36Cl/Cl値は1-2×10-15であることが予想される.

  • 図2-20 有馬・石仏地域の高塩濃度の塩水の36Cl/ClとCl濃度の関係.

中国-四国,福島―新潟地域および,近畿・東海,北海道,関東地域の結果もともに示した.

 

長期停滞水の36Cl/Cl

長期停滞水は帯水層内で中性子捕獲反応によって生ずる36Clの影響で時間とともに変化し,最終的には放射平衡に達し岩種に依存した36Cl/Cl値をとる(Pearson et al.,1991).岩石の化学分析の結果より,花崗岩での36Cl/Cl放射平衡値は2.8±1.5×10-14の範囲に入る.また深度による有為な違いもみられない(図2-18).この値は,上記3つの端成分の間に位置する.つまり,長期停滞水の場合,海水・深部流体起源のような36Cl/Cl値が岩石の放射平衡値よりも低い水は,時間とともに比が高くなっていき,岩石の放射平衡値に近づく.

 

36Cl/Clによる塩水の起源推定

東北日本(福島・新潟),西南日本(中国・四国)地域

福島・新潟地域の36Cl/ClとCl濃度の関係を見ると福島地域では3つのグループに分けられる(図2-21).つまり,Cl濃度が低く,高い36Cl/Cl値を持つ地下水,Cl濃度が高く,36Cl/Cl値が海水・深部流体レベルに近い地下水,あるいは36Cl/Cl値が6.1-8.5×10-15とやや高い値を持つ地下水に分かれる.Cl濃度が低く,高い36Cl/Cl値を持つ地下水は,浅層地下水の影響であるといえる.Cl濃度が高く,高い36Cl/Cl値を持つ地下水は,海水と浅層地下水の混合線から外れ36Cl/Clが高い方にずれる.浅層地下水の36Cl/Cl値を1×10-13とおくと,この傾向を説明するにはCl濃度を100mg/L以上の高い数値を設定しなければ混合線に乗らず,単なる混合では説明が難しい.停滞型の水である可能性も考えられる.

中国・四国地域における36Cl/Clと1/Cl濃度の関係(図2-22)では,福島・新潟地域に比べてCl濃度が相対的に低く,浅層地下水と海水・深部流体レベルの塩水との混合領域に入る地点が多い.また,相対的に36Cl/Clは低く,有馬型熱水の範囲内に入るものもいくつか見られる.しかし,福島・新潟地域と同様に,明らかに混合線上から外れて,36Cl/Cl値が高い方向にずれている試料もある.

  • 図2-21 福島-新潟地域の高塩濃度の塩水の36Cl/ClとCl濃度の関係.

図中の曲線は浅層地下水と海水の混合ライン(馬原ほか (2006)に従った).端成分は浅層地下水として36Cl/Cl = 1×10-13 (Cl: 10mg/L),海水として36Cl/Cl = 2.3×10-15(Cl: 19,000mg/L)の場合と浅層地下水として36Cl/Cl = 1×10-13 (Cl: 100mg/L),海水として36Cl/Cl =3×10-16 (Cl: 19,000mg/L) の場合を仮定した.

  • 図2-22 中国-四国地域の高塩濃度の塩水の36Cl/ClとCl濃度の関係.

図中の曲線は浅層地下水と海水の混合ラインで,端成分は図2-21と同じ.
近畿(一部東海地域も含む)

近畿(一部東海地域も含む)の36Cl/ClとCl濃度の関係を図2-23に示した.近畿・東海地方の中央構造線周辺の深層地下水,近畿地方北西部の深層地下水は,有馬・石仏地域や海水よりも有為に高い値を示している.大阪平野深層の地下水の36Cl/Clも同様の結果が得られている.この理由は,これらの地下水が停滞型のためと考えられる.

  • 図2-23 近畿-東海地域の高塩濃度の塩水の36Cl/ClとCl濃度の関係.

図中の曲線は浅層地下水と海水の混合ラインで,端成分は図2-21と同じ.
以上の記述のように,Clの起源としてあげられる表層水,海水,深部上昇流体の36Cl/Cl値はそれぞれ,約10-13,10-16〜3×10-15,約1-2×10-15であると予測される.現時点では,海水と有馬型熱水などの深部上昇流体の36Cl/Cl値はオーバーラップしいずれも高塩濃度であるため,Cl同位体のみのデータでは区別できない.また,古い海水(地層中に長期間閉じこめられている海水起源の水)は時間とともに36Cl/Cl値が高くなっていくことが理論的に考えられているが,Cl濃度の比較的低い試料においては,高い36Cl/Cl値を持つ表層水の影響も考慮しなければならない.今後,表層起源の地下水の端成分化学組成やその混入率の推定などが必須であり,それらから得られる地下水の起源,混合等の情報と関連づけた解析を行う必要がある.

 

深層地下水の成因および深部流体のフラックス評価手法

 

深層地下水の成因

 

水理地質構造と深層地下水の分布

事例とした新潟地域は,天然ガスおよび石油を産出しているため深深度の掘削井が多数あり,深層地下水の成因の評価手法を検討する上で非常に適した地域である.今回用いた試料で最深部の構造性ガスおよび油田鹹水の胚胎層準は,後期中新世後期に堆積した椎谷層(2700〜3050m)であり,実際にはさらに下位の寺泊層(3500〜4500m)および七谷層(グリーンタフ層:4500m以深)にも油田鹹水が存在する.一方で,上位に位置する水溶性ガスおよびその付随水の胚胎層準は,鮮新世後期から更新世前期に堆積した西山層(1000m〜2500m),灰爪層(450〜1000m),魚沼層群(250〜430m)である.下位の椎谷層は,後背地の隆起が顕著な時期に,海底扇状地や堆積盆が形成した半深海成の海成層であり,おもに砂岩と泥岩の互層や泥岩層からなる.中位の西山層・灰爪層は,椎谷層に引き続き海底扇状地や堆積盆の形成とともに堆積した半深海〜潟成の海成層である.西山層は泥岩・砂岩と泥岩の互層からなり,灰爪層は細〜中粒砂・砂質シルト・砂泥互層からなる.上位の魚沼層群は数度の海進・海退が生じ複雑に埋積が進行した汽水〜陸成層で粗粒砕屑物などからなる(日本の地質「中部地方I」編集委員会,1988;「日本の石油・天然ガス資源」編集委員会,1992;新潟県,2000).以下では,本項で扱う深層地下水を胚胎する帯水層の層序として,上位の魚沼層をA層,中位の西山層・灰爪層をB層,そして,下位の椎谷層をC層と表す.

AおよびB層の水溶性ガス付随水の採水時の水温は,22.6〜41.9℃であり,深深度ほど温度が高くなる.また,採水時のC層の油田鹹水の水温は27.8〜38.2℃で,水溶性ガス付随水と比べて深深度であるにもかかわらず水温は同程度であった.本新潟地域の周辺地域の油田・ガス田における深度2000〜3000m程度のグリーンタフ鉱床の油・ガス層の温度は,80〜200℃と報告があることから(加藤,1987),本地域における実際の胚胎深度における温度は,上記の値よりも高い可能性が考えられる.水溶性ガス付随水のpHは7.0〜7.6,油田鹹水は6.1〜7.0であり,両者とも中性であるが,油田鹹水の方がややpHが低い.ガスと水の産出量比(ガス/水比)は,水溶性ガス田で0.4〜2.7,構造性ガス田(油田)で680〜170000であり,油田鹹水の産出量は非常に少ない.

水溶性ガス付随水は,深度が深くなるにつれ塩化物イオン(Cl)濃度が高くなる傾向があり,最も深いB層下部からの付随水のCl濃度は海水と同程度に達するが,水素同位体比(δD)および酸素同位体比(δ18O)は海水組成より低い(図2-24).海水組成との類似性から古い海水と推定された.A層は,B層に比べCl濃度,δD,δ18O値が低く,天水成分の寄与が大きい.それに対し,C層の油田鹹水はB層より深深度であるが,Cl濃度が海水より低く,海水の1/2程度である.また,δD,δ18O値も水溶性ガス付随水や海水とも異なり,δ18O値は18O-shiftしている(例えば,加藤・梶原,1986).

 

水質形成機構

水溶性ガス付随水について,Cl濃度,δDとδ18Oの関係(図2-24,図2-25)から,A,B層それぞれの関係の傾向が異なり,それぞれで異なる組成の天水と古い海水との混合であることが考えられている.今回,それぞれの端成分の同位体組成を古い海水端成分についてはCl濃度を現在の海水と同値とし,天水成分についてはCl濃度を0と仮定して端成分値を求めた.古い海水の端成分のδDおよびδ18O値は,A層で-2.7‰,-2.8‰(端成分A-sw),B層で-1.5‰,-2.3‰(端成分B-sw)であり,ともに現在の海水組成と比べ低い.地層中に地下水が長期間にわたり停滞すると,地層中の鉱物種との同位体交換反応が進行し水の同位体組成は変化すると考えられる.これらの端成分同位体比は古い海水が長期間停滞した結果であると考えられる.別の可能性として,A層の最深部の塩水は,B層と時期の異なる海水起源のものではなくて,B層最浅部の塩水と天水の混合により形成されるという考え方である.この場合は塩水の端成分はひとつであり,希釈率の違う時代の異なる天水の涵養によって,深度分布が形成されたことになる.天水起源の端成分については,A層で-77.0‰,-11.5‰(端成分A-mw), B層で-77.7‰,-12.1‰(端成分B-mw)と求められ,それぞれの帯水層に涵養した天水の同位体組成を示していると考えられる.B層の同位体比の方がわずかではあるが低く,これはB層の方がより寒冷な時期に涵養したのではないかと考えられる.また, A層およびB層の地下水がそれぞれ異なる端成分を持つ原因は,生成年代の違い(A層:1 Ma,B層:1〜4 Ma)および生成環境の違い(A層:汽水〜陸成層,B層:海成層)を反映している可能性がある.

C層から産出する油田鹹水については,Cl濃度が海水より低く,δDおよびδ18O値が,それぞれ-1‰程度,-10‰程度に分布しており(図2-25),水溶性ガス付随水と異なる傾向を示す.すなわち,水溶性ガス付随水で示されたような単純な天水起源成分および海水起源成分の混合では説明できない.

  • 図2-24 水溶性ガス付随水および油田鹹水の水素同位体比と酸素同位体比の関係.

図中に,各胚胎層準における端成分と混合直線を示す.

  • 図2-25 (a)水素同位体比(δD)と塩化物イオン(Cl)濃度の関係,b)酸素同位体比(δ18O)と塩化物イオン(Cl)濃度の関係.

図中には,各胚胎層準における端成分と混合直線を示す.
次に,主成分化学組成について検討する.A層〜C層の地下水の主成分化学組成は,同位体組成の結果と同様に胚胎層準によって異なっている.図2-26に,推定された古い海水の2つの端成分(端成分A-swおよびB-sw)とともに,A層〜C層の陽イオンおよび陰イオン化学組成をそれぞれ示す.古い海水の端成分値(A-sw,B-sw)は現在の海水組成とは異なりB層は,現在の海水組成に比べ,Na,Kに富み,Mg,Ca,SO4に乏しい.A層はB層に比べると,Na,Kに乏しく,Ca,Mgに富む特徴がある.地下水中の陽イオン組成は,地層中の鉱物や岩石とのイオン交換反応によって変化しやすい.一般に,イオン交換反応が進行するほど,CaやMgに乏しく,NaやKに富む地下水が形成される.下位のB層の方がよりNaやKに富んでいる傾向がみられ,A層にくらべ地層中の鉱物種とのイオン交換反応がより進行した古い地下水であると考えられる.一方,C層の油田鹹水については,A層およびB層の水溶性ガス付随水に比べ,さらにCa,Mgに乏しく,Na,Kに富んでいる(図2-26(a))特徴がある.この原因は,C層の地下水がより地層中における滞留時間が長く,反応が進んだ可能性が考えられる.また,C層の地下水は,A層およびB層の水溶性ガス付随水に比べ,SO4に非常に富んでいる(図2-26(b)).グリーンタフ層においては,層中の硬石膏(CaSO4・H2O)との反応により,地下水中にSO4が溶出することから(酒井・大木,1978; Ohwada et al.,2007),下位にグリーンタフ層を配置する同地域の油田鹹水においても,硬石膏からのSO4の溶出が起きていることが示唆される.A層からC層の地下水について,鉱物の飽和度を検討した結果,硬石膏の 飽和指数(SI)は,-4.3〜-2.6と不飽和であるのに対し,方解石のSIは,0〜1.3と過飽和であった.これは,地層中のCaSO4を溶解し,CaCO3を沈殿する機構が働く可能性が示唆される(Ohwada et al.,2007).今後,鉱物反応を取り入れて,より詳細な検討を行う必要がある.

図2-27にA層およびB層の水溶性ガスおよび付随水と,C層の構造性ガスおよび油田鹹水の3He/4Heと4He/20Neの関係を示す.構造性ガス(C層)と水溶性ガス(A層およびB層)では,それぞれ3He/4He値が異なる深部起源成分を端成分として持っていることがわかる.C層の構造性ガスおよび油田鹹水の深部起源成分の3He/4Heは,大気の値(1Ra=1.4×10-6)よりも高い3Ra程度であり,マントル起源成分の寄与を大きく受けている.それに対し,A層およびB層の水溶性ガスおよび付随水の深部起源端成分の3He/4He値は,地殻起源成分の寄与を受けており大気の値よりもわずかに低い0.7Ra程度である.浅層のA層ほど4He/20Neが低く,溶存空気成分の影響が大きい.A層およびB層の3He/4He比については,水のδDおよびδ18Oや化学組成でみられたような胚胎層準の違いがみられなかった.したがって,水溶性ガス付随水の希ガス成分については,深部起源成分と天水起源成分との単純混合であり,かつ,大きな年代差がない可能性がある.これは,水溶性ガスが深部や周囲から移動,集積する過程で希ガスも移動した結果を示しているからかもしれない.C層の油田鹹水は,Cl濃度をはじめ,水のδDおよびδ18O値,3He/4Heも上位の水溶性ガス付随水とは,まったく異なることが明らかとなった.今後,C層の地下水生成過程については,さらに調査が必要である.

油田鹹水(formation water)の起源・形成機構については,天水(meteoric water)が地層から塩を得て,頁岩層のフィルタリング効果や周辺の岩石・地層との反応等によりδD,δ18Oとも大幅に変化したという考え方がある一方で,もともと地層に封入されていた地層水(connate water)から進化したものであるという考え方(Hoefs,2004,p.125を参照)もある.日本では,加藤・梶原(1986),加藤ほか(2000)が新潟〜秋田県下から得られる油田鹹水の化学的,同位体的特徴を報告している.両論文とも油田鹹水が天水起源とは考えにくいことを述べているが,周辺の岩石・地層との反応等については存在の可能性を述べ,また海水(古い海水)から進化した可能性が考えやすいことを述べている.頁岩層のフィルタリング効果については文献を引用するに留まっている.

  • 図2-27 水溶性ガスおよびその付随水,構造性ガスおよび油田鹹水の3He/4Heと4He/20Neの関係.

 

深部流体のフラックス評価

 

深層地下水年代:多重帯水層に対するヘリウムによる地下水滞留時間推定モデル

ヘリウムを用いた地下水年代法は,地下水に蓄積されるヘリウム濃度を年代の指標とした手法である.地下水に蓄積されるヘリウムの起源として,帯水層中の岩石に含まれるウラン・トリウム等の放射壊変により生成される4He,より深部の岩石からの4He(地殻起源のHe)や深部流体を介したヘリウムの供給が挙げられる.従来のモデルでは,より深部の岩石からの4Heの供給を全地殻から生成されるヘリウムが定常的に当該帯水層に溶解するとし,深部流体として有馬型熱水を考えていた(Morikawa et al.,2005).これは,モデル対象地域が堆積層最下部に胚胎する帯水層であり,その下部は結晶質岩が広く分布し,大規模な帯水層が考えられず深部からの流体は亀裂を通して移動すると考えられるために適用したものである.

今回は,Morikawa et al. (2005)のモデルを用いて,本調査地域の水溶性ガス付随水の滞留時間の推定を試みたが,水質・同位体組成の結果から得られたような明瞭な胚胎層準間の違いが滞留時間の計算結果ではみられなかった.この要因として,本調査地域の水溶性ガス胚胎層の下部に構造性ガス胚胎層やグリーンタフ層があり,地殻深部から上昇する4Heが下位の層に蓄積され,上部層には供給されていないためと推察された.そこで,本調査地域のように帯水層が幾層も存在する地域においても適用可能な地下水滞留時間推定モデルの検討を行った.
帯水層が鉛直方向に幾層も重なる場合,上部の帯水層では下部の帯水層や深部から加わるヘリウムのフラックス・起源を検討する必要がある.全地殻から生成されたヘリウムや有馬型熱水のような超深層から上昇してきた成分は,最下部の帯水層に一旦溶解あるいは混合すると考えられる.上部の帯水層では,深部から加わるヘリウムは,下部の帯水層に胚胎する地下水の断層などを通して上昇とともに加わる移流成分と,上部と下部の帯水層間に横たわる難透水層で発生したヘリウムのフラックス成分からなると考えられる.

つまり,Morikawa et al. (2005)で提示した地下水滞留時間(Tr)を求める1)式において

Tr = C(^4He)_o\biggl(1-\cfrac{R_o}{R_{ext}}\biggl)\cfrac{p \rho_w}{\biggl(P(^4He)+\cfrac{F(^4He)}{h}\biggl)} 1)

深部流体のヘリウム同位体比(Rext)がここでは,下部にある帯水層の地下水のヘリウム同位体比(Rc)に相当する.また,より深部の岩石からのヘリウムのフラックスは,2)式で表される難透水層(b層)からのヘリウム生成速度(P(4He)b)に,難透水層の厚さ(図2-28に示すhb)を乗じた値に相当する.各記号の説明を表2-1にまとめる.

p(^4He)_b = (1-p) \cdot \rho_R \cdot \{1.2 \times 10^{-13} [U]_b +2.9 \times 10^{-14} [Th]_b\} 2)

1)式及び2)式より,多重帯水層構造を持った地域について上部帯水層の地下水滞留時間は,下部帯水層のヘリウム同位体比,帯水層間の厚さ等の情報が得られれば,求められる.なお,ここでは下部帯水層からのヘリウムの上昇は流体を介して起こり,難透水層内で発生したヘリウムの上部帯水層への移動は定常状態にあるとしている.なお,1)式はRextが帯水層で発生するヘリウム同位体より十分高い場合の近似式(Morikawa et al.,2005)であり,多重帯水層構造を持つ場合のRc値が低いケースでは適用できない.今後,これらの適用可能範囲の検討を行なう必要がある.

 

  • 表2-1 深層地下水年代計算に必要なパラメータ.

  • 図2-28 多重帯水層に対するヘリウムによる地下水滞留時間推定モデル概念図.

超長期停滞水の滞留時間推定には,4He濃度,3He/4He,帯水層パラメータなどの情報が必要である(Morikawa et al.,2005).調査地の新潟ガス田井では,セパレータにより水とガスが分離されている.滞留時間推定手法を適用するためには,水とガスが分離する前に地下水に溶存していた4He濃度・20Ne濃度が必要であり,ガス-水の産出量比から見積もった(図2-29).最深部のC層の構造性ガスタイプの試料の4Heおよび20Ne濃度は,地下水の溶解平衡値に比べはるかに高かった.これは,高い4He濃度については,UやThの放射壊変によって生成された4Heの付加,あるいは,地下水中へ4Heや20Neを含むガス成分の付加があったためと考えられる.それに対し,より浅層に位置するA層およびB層の水溶性ガスタイプの試料では,4He濃度は溶解平衡値に比べてすべて高かったが,20Neについては,溶解平衡値に比べ低いものが存在した.地下で生成される20Neはほとんどなく,地下水中の20Ne濃度は,涵養時の情報を保持しているはずである. それにも関わらず,溶解平衡値より低いということは,地層中での滞留環境において,水とガスの分離が起こり,溶存していた希ガス成分が一部抜けたためと考えられる.そこで,20Ne濃度を基に,気相に分配された割合およびその気相-液相の体積比を求め,この体積比から気相-液相間の平衡状態において,分離によって気相へ抜けた希ガス量(ここでは4He量)の見積もりを行った(Ballentine et al.,2002).上述の方法で見積もられた地下で分離する前の4He濃度とCl濃度との間には相関があった(図2-29(b)の網掛け部分).この関係から,Cl濃度が高い端成分B-swの4He濃度を得ることができた.

  • 図2-29 (a)20Ne濃度と塩化物イオン濃度の関係,(b) 4He濃度と塩化物イオン濃度の関係.

次に,前述の多重帯水層に対するヘリウムによる地下水滞留時間推定モデルをB層-C層の二段の帯水層として,B層の古い海水端成分(B-sw)の平均滞留年代の概算を行った.3He/4He比にA層とB層間の違いが見られなかったことから(前節参照),ここでは帯水層の厚さはA層とB層を合わせたものとし1000mとした.C層-B層の帯水層間厚さは700mとした.このC層-B層の二段の帯水層における地下水推定モデル計算において,概算された端成分B-swの平均滞留年代は60万年から90万年程度となった.B層は鮮新世後期の400万年以降に堆積した海成層であることから,概算された端成分B-swの年代は,堆積時に間隙水として取り込まれたものよりも若いことになる.したがって,B層の堆積後に新たな海水の浸入や隆起した後背地からの地表水(天水)の涵養があったことが示唆される.A層の堆積期は,海面変動による海進・海退が生じており,これによる堆積層中への天水涵養や海水の浸入があったと考えられる.これらが様々な比率で混合したものが,水溶性ガス付随水を形成していると考えることができる.A層の端成分は,下位のB層の端成分の組成が異なっていたことから,B層とは異なる時期に浸入した古い海水と涵養時期が若い天水とが混合して形成されたと考えられる.

さらに,多重帯水層に対するヘリウムによる地下水滞留時間推定モデルにおいて,C層の油田鹹水の年代についても,C層とその下位のグリーンタフ層を二段の帯水層と仮定して,見積りを行った.ここで,グリーンタフ層の3He/4He値は,今回の調査対象地域外であるが見附および吉井油田で得られた5.7 Raという値を用いた.モデル計算の結果は,まったく非現実的な10億年以上の値になった.油田鹹水の胚胎層準である椎谷層は,石油の貯留岩層準であり,大規模背斜あるいはドーム構造のような背斜型トラップに集油・集ガスしている.油田鹹水の溶解平衡値に比べ非常に高い4He・20Neは,トラップによって集められたためと考えられる.特に20Neは,大気の溶解平衡値の1000-10000 倍の濃度になっているため,本手法では少なくとも1000-10000倍古い年代がでてしまう.これが水溶性ガス付随水から見積もられた年代に比べ,非常に古い年代値となった原因であると考えられる.各種仮定をおけば,20Ne濃度を用いて,おおまかな年代を出すことは可能である.しかし,基本的に20Ne濃度を何桁も高くするようなガス種の濃縮を伴う地下水については,今回提示した地下水の長期年代測定法は適さないことが明らかであり,本手法の取り扱いおよび適用の妥当性判断には注意を要する.

 

深部流体の特徴とフラックス

上記のようにA層・B層に胚胎する塩水は数十万年の滞留時間を持ち,深部起源の3He/4He値はいずれも0.7Ra程度で,A・B層よりも下部に胚胎するC層の3Raと比べて低いことが示された.まず,A層・B層に胚胎する水に混入している深部流体のフラックスを求めるモデルについて考える.ヘリウム同位体の観点からすると0.7Raという値は深部(=マントル)起源のヘリウムの寄与は相対的に低いが,有意の量が含まれていることは確かである.また,この地域の地質構造からして下部に胚胎するC層のような構造性ガス田に一旦トラップされたものがA層・B層に入ってきたと考えられる.

深部起源Heのフラックスは1)式を変形することにより得られる次式によって計算できる.

F(^3He)_a^D = \cfrac{C(^3He)_a^D}{C(^4He)_a}\cfrac{1}{\biggl(1-\cfrac{R_a}{R_c}\biggl)} \cdot F(^4He)_a^R 3)

なお3)式は,帯水層より発生するHeの寄与(P(4He))が帯水層底面からのフラックス(F(4He))に比べて無視できるほど十分に小さい場合においてのみ成り立つ.

フラックスは,単位面積・時間あたりに上昇する量で表される.ここで,添字のD,Rはそれぞれ深部起源,放射壊変起源(帯水層・地殻由来を意味する)である.計算の結果A層・B層へのマントル起源3Heフラックスは9.0×10-15 mol/m2/yとなった.なお,同様の方法でC層へのフラックスを計算したところ3.2×10-12 mol/m2/yとなり,A層・B層と比べて約360倍高くなっている.近畿・関東・北海道地域の深層地下水のマントル起源3Heフラックスと比べると,C層へのフラックスは近畿地方での最大値に比べると少ないが北海道地域の最大値と類似した数値になっている.A層・B層へのフラックスはそれぞれの地域の最小値に近い値になっている.近畿・関東・北海道地域で見積もったフラックスは多重帯水層の影響を考えていないため,各深層地下水の値は過大評価になっている可能性もある.これを鑑みると構造性ガス田であるC層へのマントル起源流体のフラックスは,全国的に見てもかなり高いことが予想される.そして,多重帯水層構造を持つ地域の場合,上部への深部流体のフラックスは著しく阻害されうることがこの計算結果から分かる.阻害の程度は断層などの存在の有無・帯水層間の距離(言い換えれば難透水層の厚さ)等の地質構造に依存することが考えられる.

 

深部流体の分布・特徴と地質との関係の評価

深部流体は,天水や現在の海水と異なる起源の水や表層起源のガス種と異なる起源の水・ガスの総称である.日本列島に存在する深部流体は,火山性流体起源のもの,スラブの脱水由来の深部上昇水や古い海水が変質した塩水など,様々な成因が考えられる.深層地下水にはこれらの成分がその程度は地域により大きく異なるものの混入しており,将来にいたる深層地下水系の変動を評価する上でその成因と質的および量的な影響を明らかにする必要がある.

深部流体として,1)深部上昇流体:マントルあるいは地殻下部の深部から上昇する流体と,2)長期停滞水:古い海水など深層に長期にわたり停滞し変質している地下水などが考えられる.このうち1)の深部上昇流体のものは,地下深部からの水,ガスの通路が必要であり,活断層,構造線や活火山(火山性流体を放出)と関連が深いと考えられる.さらに,現在活動を休止している火山の古い火道や岩脈等や古い断層,地質構造線等も水,ガスみちになりうると考えられるので考慮すべきである.一方,2)の長期停滞水は,長期にわたり停滞する安定な地質構造を有する場に存在するはずである.この両者には,深部流体の将来にわたる地下水系への影響を評価する上で,大きな違いがある.すなわち,1)深部上昇流体は評価対象の地下水系へ外界から供給されるガス成分や水であり,深部から上昇してくるため,熱を供給する場合もある.火山性流体は,強酸性であり高温である.非火山性熱水である有馬型深部熱水は,高濃度のClや多量のCO2を含む.つまり,長期的に地下水系へ多大な化学的影響を及ぼすと共に,変動要因を持つ.2)長期停滞水は,長期的に安定であるが,ガスを含む塩水であることが多い.変動は小さいと考えられるが,その成分が腐食性である場合は,化学的な影響が問題になる.このような深部流体の特性を明らかにしつつ,その存在場と地質環境の関係を詳しく調査することにより,日本列島における深部流体の成因,影響の範囲や影響の質等について評価が可能になると考えられる.

本節では,まず,今回の評価対象地域である西南日本地域(中国・四国地域)と東北日本地域(福島-新潟地域)における深層地下水について,その性状および化学的特徴の空間分布について概要を示す.次に,これまでに我々が提示してきた様々な深部流体の判別および評価手法について,西南日本地域(中国・四国地域)と東北日本地域(福島-新潟地域)における深層地下水について適用し,その特徴,化学的性状により区分し,分布特性および地質等との関連性に基づいて成因を示す.さらに,両地域の深部流体に関する比較検討を行い,日本列島全域にわたる分布の特徴等を考慮し,深部流体の広域分布の原因について考察することにより,深部流体の評価手法をまとめる.

 

西南日本および東北日本地域における地質および構造に関する特徴

本節では,西南日本地域(中国・四国地域)と東北日本地域(福島-新潟地域)における地質,地質構造,テクトニクスについて概説する.記述にあたっては,日本列島の地質編集委員会編(2002)と産業技術総合研究所地質調査総合センター編(2007)を参考にした.図2-30に中国・四国地域の地質図を,図2-31に福島-新潟地域の地質図をそれぞれ地域名称,構造線名,火山名などを記載した白地図とともに示す.

西南日本地域(中国・四国地域)

中国・四国地域の基本的な地質・地質構造は中央構造線を境に,その北側(内帯)と南側(外帯)とで大きく異なる.内帯では,先カンブリア紀の岩石を原岩とするユーラシア大陸東縁の変成岩類に対比され隠岐島後の隠岐変成岩類を取り巻くように,石炭紀〜二畳紀の付加コンプレックス(中国帯),二畳紀〜ジュラ紀の堆積岩類(舞鶴帯),石炭紀〜ジュラ紀の付加コンプレックス(超丹波帯),二畳紀〜ジュラ紀の付加コンプレックス(丹波帯),高圧型変成岩類(三郡変成帯)が,それぞれ衝上断層を境にして累重する押しかぶせ構造を形成しながら分布しているが,白亜紀-第三紀の火成岩類がこれらに貫入し,あるいはこれらを広く覆っているために,帯状構造は不明瞭である.中央構造線に沿っては,当時の左横ずれ運動で生じた盆地を埋積した白亜紀末の堆積岩類(和泉層群)が分布する.外帯では,中央構造線の南側に後期ジュラ紀-前期白亜紀の付加コンプレックスを原岩とし白亜紀後期に高圧型の変成作用を受けた三波川変成岩類(三波川帯),御荷鉾構造線を挟んでその南側に二畳紀〜ジュラ紀の付加コンプレックス(秩父帯),仏像構造線を挟んでその南側に後期白亜紀〜古第三紀の付加コンプレックス(四万十帯),更に南海トラフの北側には現世の付加コンプレックスが帯状に分布する.

これらの基本的な枠組みに加えて,内帯では,白亜紀の深成岩類が中央構造線の北側の領家地域や山陽地域に分布し,周囲の付加コンプレックスや堆積岩類に熱変成を与えている.後期白亜紀の高田流紋岩類などの火砕流堆積物や溶岩は中国山地全域に分布する.古第三紀の深成岩体は山陰地域に分布が限られており,周辺の岩石に熱変成を与えている.一方,外帯では,新第三紀の深成岩類が高知県の室戸岬,足摺岬や沖の島周辺地域,愛媛県の宇和島地域や石鎚山などに点在し,周辺の岩石に熱変成を与えている.また,古第三紀の堆積岩類(付加コンプレックスを除く)は極めて少なく,愛媛県久万地域に認められるのみである.新第三紀(後期漸新世-中期中新世)の堆積岩類や火山岩類からなる,いわゆる緑色凝灰岩類が,隠岐諸島や山陰地方の日本海沿岸にまとまって分布する.このほか新第三紀の堆積岩類(付加コンプレックスを除く)が,中国山地の山間盆地,瀬戸内海沿岸部や愛媛県石槌地域に点在する.第四紀の地層は,宍道地溝帯や中央構造線沿いにまとまって分布するほか,海岸沿いに狭小に分布するのみである.第四紀の複成火山は大山や三瓶山に限られるが,このほか山口県-島根県の日本海沿岸部に単成火山群が存在する.活構造としては,中央構造線の他に宍道地溝帯や中国山地内の大原湖断層系などが認められる.また,南海地震時には室戸岬・足摺岬が隆起し,高知県中央部が沈下する傾向が認められる.

中央構造線の活動は白亜紀後期に火山フロント前縁を切る左横ずれ断層として始まり,その後断続的に活動している.中央構造線の活動は海洋プレートの沈み込みにともなう圧縮力によるものであり,構造線の横ずれの方向は海洋プレートの沈み込みの方向に応じて変化したと考えられる.宍道地溝帯や島根半島などは,日本海拡大後に南北方向に圧縮されて生じた褶曲活動の表れと考えられる.

  • 図2-30 中国・四国地方の地質図.

東北日本地域(福島-新潟地域)

福島-新潟地域の地質・地質構造は,脊梁山地(奥羽山脈)の火山列の地下に存在する火山フロントを境にして,その東側(前弧域)と西側(背弧域)に大きく分類される.前弧域の畑川破砕帯以東には,デボン紀〜ジュラ紀の堆積岩類が分布し,白亜紀の珪長質深成岩類(北上花崗岩類)がこれらに貫入している(北上帯).畑川破砕帯以西では,石炭紀(?)〜ジュラ紀の付加コンプレックスを白亜紀の珪長質深成岩類(阿武隈花崗岩類)が広範囲に貫き,付加コンプレックスに低-中圧型の熱変成を与えている(阿武隈帯).阿武隈花崗岩類の西南西側には,棚倉破砕帯(構造線)が存在し,それ以西には三畳紀〜ジュラ紀の付加コンプレックスが分布し,後期白亜紀の珪長質深成岩類(八溝花崗岩類)がこれらを貫いている(足尾帯).白亜紀及びそれ以前の時代・性状を異にする地質体による断層・構造線を挟んだ配列は,棚倉破砕帯・畑川破砕帯などの後期白亜紀の左横ずれ断層運動によるものと考えられている(例えば,越谷,1988など).

脊梁山地及びそれ以西では,阿武隈花崗岩類や足尾帯の三畳紀〜ジュラ紀の付加コンプレックスとこれを貫く後期白亜紀の珪長質深成岩類を基盤岩として,その上位に後期漸新世-前期中新世の変質した火山岩類(いわゆる緑色凝灰岩類)が広く分布する.また阿武隈山地北部地域には,これとほぼ同時期に霊山層と呼ばれる苦鉄質火山岩類が分布する.これらの火山岩類を覆う中期中新世以降の堆積岩類や火山岩類は,阿武隈山地西縁から日本海側まで広範囲に分布する.このうち,いわゆる緑色凝灰岩類と呼ばれる火山岩類は日本列島が大陸から分離した時期に噴出したものであり,安山岩-流紋岩組成のものが多いが,日本海側では玄武岩組成のものが存在する.中期中新世以降の堆積岩類は上部ほどその分布域が日本海側に後退し,その堆積環境も次第に浅海性となる.

最も背弧側に位置する新潟平野は,その東南側の新発田-小出構造線を境として,基盤深度が著しく深くなっており,新潟油田地域と呼ばれる.緑色凝灰岩類等を含む後期漸新世以降の岩石の層厚は,新潟平野中央部付近で最も厚く5km程度以上である.これは日本海拡大期にこの付近が深く地溝状に沈降したことを示唆する.

第四紀の地層は,新潟平野(新潟油田地域)にまとまって分布するほか,会津・猪苗代・米沢・郡山・福島の各山間盆地のほか,双葉断層以東の沿岸平野部や常磐地域に分布する.また,那須野原では扇状地堆積物が発達する.第四紀の火山としては,吾妻山・安達太良山・磐梯山・那須岳・高原山が脊梁山地に,これらと離れて独立した火山として沼沢火山が存在する.

福島-新潟地域では,鮮新世以降強まった東西方向の圧縮により,日本海拡大時に生成した正断層が逆断層として活動する(インバージョン・テクトニクス)ようになったほか,南北方向の褶曲等も形成され,現在も変形を続けている.福島-新潟地域における山地と山間盆地の形成は,この鮮新世以降の変形によるものと考えられる.

  • 図2-31 福島-新潟地域の地質図.

 

西南日本および東北日本地域における深層地下水の性状,化学的特徴の分布

本節では,西南日本地域(中国・四国地域)および東北日本地域(福島-新潟地域)の各種深層地下水の既存データ(村岡ほか,2007)および既存地下水試料を分析した結果を20万分の1日本シームレス地質図(産業技術総合研究所地質調査総合センター編,2007)を基に編纂した地質図上にマッピングし,それぞれの地域における深層地下水の特徴と地質,地質構造との関連性について,比較も含めて記載する.本分布図の元になるデータは,飲用あるいは工業用に利用される深度数10m程度までの浅層地下水データを含んでいない.自然湧出する鉱泉,温泉および主に温泉開発による掘削井から採取された地下水を選んでおり,深層地下水が主に対象となっている.ある程度地域的に拡がりのある帯水層を構成すると考えられる第三系より若い堆積岩地域では,本データが同一地層内で地域的に拡がりを持つことが期待されるが,花崗岩や非常に古い堆積岩,変成岩地域等の亀裂地下水系を形成する場では,比較的狭い場所を反映する点データとして扱うべきであることを最初に断っておく.したがって,そのような場所においては,深層地下水特性の地域的拡がりについては,データ密度の高い場所について有効である.

 

水温およびpHの分布

西南日本地域(中国・四国地域)

中国・四国地域の水温の分布図を図2-32(a)に,pH値の分布を図2-32(b)に示す.まず,本地域の水温については,日本海側に60℃以上高温の深層地下水が存在し,大山や三瓶山といった第四紀火山と無関係に帯状に分布する特徴が明確である.この地域は,第三紀の堆積岩類からグリーンタフの地域であり,ある程度の拡がりがあるものと思われる.島根県松江周辺や鳥取県三朝周辺の一部では80℃以上の深層地下水が存在する.中国地方の内陸部においては,比較的低温であるが,本地域の東側(岡山県)に30℃以上の深層地下水が点在分布する.四国においては,愛媛県の松山,中央構造線沿いに高温の地域が見られる.また,高知市,西予市でも若干高い場所がある.

pH値については,全域で6〜8の値であり,中国地方の花崗岩地域および四国の付加体の一部で9の値を持つ.岡山および島根県内に異常に低いpH値を示す場所があるが,金属鉱床に含まれる硫化鉱物がバクテリアにより酸化され,硫酸酸性化した水であると考えられる.三瓶山周辺のpH値が周囲よりも若干低めであるのは,その地域で広範囲に見られる遊離CO2ガスの存在によるものと考えられる.中央構造線沿いでは,pHは7以上のものが大部分である.ただ,愛媛県の石鎚山近傍の地域には6程度の場所があり,遊離CO2が観測されている.pH値はそれぞれ地域的な特徴を持つようにみえる.その場の地質を構成する鉱物種を反映し,地質に依存した地域的拡がりを持つと考えられる.

東北日本地域(福島-新潟地域)

次に,福島-新潟地域の水温の分布図を図2-33(a)に,pH値の分布を図2-33(b)に示す.本地域の水温分布は中国・四国地域と比較して,かなり複雑である.まず,明らかな傾向は,福島県の西側(太平洋側)にある阿武隈花崗岩地域で水温が低いことである.阿武隈花崗岩地域のさらに海側の第三紀堆積岩地域では,水温の高い場所が点在している.特に常磐の炭田地域では,60℃以上の高温となっている.阿武隈花崗岩の西縁と棚倉構造線の間にある第三紀堆積岩地域では水温の高い地域が阿武隈西縁に沿って帯状に拡がっている.これらの地域は,前弧域であり,火山等の熱源を起源としていないことは明らかであるが.熱源については,よくわかっていない.新潟平野でも水温は低い傾向がある.一部に60℃以上の高温の地域があるが,これらは水溶性ガス田や油田の水温も含まれ,掘削深度が非常に深いものがある.東北の火山フロントにある火山周辺では,火山性熱水の影響で高温化している.その火山列の西側から新潟の新発田-小出構造線までの間の東西120kmの範囲の背弧域では,60℃以上の地域が広範囲に認められ,全体に非常に温度が高い傾向がみられる.奥会津地熱地域,沼沢火山周辺およびその西に位置する只見川上流部でも帯状に高温域が存在する.その他の高温域は,広範囲にわたるため,火山や大構造線とも関連性は低いようである.しかし,この地域では,第三紀に活動した火山の貫入岩や噴出物がいたるところにみられるのも特徴であり,高温域と関連があるかもしれない.

次に,図2-33(b)に示したpHの分布について記載する.太平洋側沿岸の堆積岩地域から阿武隈花崗岩の東半分については,pH値が7以上のものが目立つ.沿岸域に存在する非常に低いpHの深層地下水周辺では多量の硫化水素が放出されていることが知られており,硫化水素の酸化により硫酸酸性化した深層地下水水であると考えられるが,硫化水素の起源については不明である.阿武隈西部ではpHは6-7である.西部の阿武隈花崗岩は風化が進んでいる(あるいは風化しやすい)ことと関係があるかもしれない.水温異常があった阿武隈花崗岩の西縁と棚倉構造線の間にある第三紀堆積岩地域では,pHは8以上であるのが特徴的である.本地域の深層地下水水には重炭酸イオンが多く含まれる(後述)ことから,深層地下水水中からのCO2の離脱現象がpHを支配している可能性が考えられる.火山フロントに沿って,低いpHのものがみられるが,火山性熱水の影響であると考えられる.火山フロントよりも西側の新潟に至るまでの地域のpH値は6-7の範囲のものが卓越し,8以上のものが点在する.pH7-8以上のものが,グリーンタフ地域にあるのは一般的である.

 

主成分化学組成(水質)の分布

西南日本地域(中国・四国地域)

まず,中国・四国地域の主成分化学組成の分布について検討を行う.主成分陰イオンである塩素(Cl),重炭酸(HCO3),硫酸(SO4)濃度およびホウ素(B)の分布図をそれぞれ図2-32(c),(d),(e)および(f)に示す.起源,成因に踏み込めるものについては,2.1で解析した内容に基づき記載する.
Cl濃度

Cl濃度の分布(図2-32(c))では,沿岸域に高濃度Clが分布する.これらの大部分は現在の海水か,古い海水の可能性が考えられる.内陸部においては,山陰地方に高Cl濃度のものが点在し,島根県の三瓶山周辺,津和野において高濃度を示す.鳥取県では,高Cl濃度のものは水温が高い傾向になる.しかし,島根県では水温とCl濃度に関係はみられない.これらは,いずれも内陸に位置するため,少なくとも現世の海水の影響ではない.古い海水,火山性熱水あるいは深部上昇熱水の影響などが考えられる.四国地域の内陸部では,中央構造線上およびその南側の付加体に高Cl濃度のものがみられる.石鎚にあるものは標高700m地点から湧出している.これらは,近畿—東海地方の中央構造線で確認される有馬型深部熱水の影響の可能性が考えられる.
HCO3濃度

次にHCO3の分布(図2-32(d))について記載する.中国地方の瀬戸内から内陸部では,全体に低いHCO3濃度である.この地域は,ClおよびSO4(図2-32(e))もほとんど含まれないため,溶存成分自体が少ない地下水が存在している.四国地方では全体にHCO3濃度が高い傾向があるが特に中央構造線近傍で顕著である.当地域で最も高いのは,石鎚山近傍にあり,上述したように高いCl濃度と遊離CO2が同時にみられる場所である.四国地方全域でHCO3濃度が高い原因については,次節で全炭酸の炭素同位体比(δ13C)を用いた解析結果とともに検討を行う.水温が高い特徴のあった山陰地域でも全体に高いHCO3濃度を示している.特に島根県の三瓶火山の周辺では,その西方から南東にかけて幅60kmに及ぶ高HCO3濃度を示す地域が存在する.当地域では,水温はそれほど高くないが,先に述べたように遊離CO2も多くみられる.範囲が比較的広域であること,火山のない場所でも高いHCO3濃度の地域があることなどから,この地域は三瓶山の火山の影響のみにより説明することはむずかしいと思われる.津和野においても,同様の特徴がある.島根県内の地域では,今回は同位体組成等の詳細データがないが,今後,さらに,他のデータ等と総合的に検討を行う必要がある.
SO4濃度

SO4濃度の分布(図2-32(e))では,沿岸域で高濃度を示すものは,Cl濃度も非常に高く,海水を起源としていると分類される.山陰地方では,HCO3 濃度が高かったが,SO4濃度についても同様に高く,比較的内陸部(2-30km)にまで存在する.これらのSO4は同位体的には高い値を示し,海水を起源とするSO4であることを示唆している.しかし,Cl濃度はそれほど高くないことから,海水中のSO4を起源とした地層中の硬石膏(CaSO4)の溶出によるものと考えられる.本地域は,海成の火山堆積物であるグリーンタフ層が卓越し,その地層内には多くの硬石膏が存在することが知られている.一方,四国地方では全体にSO4濃度は低い傾向がみられる.四国の内陸(徳島県内)に存在する高めのSO4濃度を示す地域では,そのδ34S値が低いことから地層内に存在する硫化物の酸化に関連するものであると考えられる.また中国地域(岡山県西部)の内陸部に孤立してSO4濃度の高濃度部分がみられるが,これは非常に低いpH 値を持ち,先にpHの項で示したように金属鉱床に関連した硫酸酸性水であると考えられる.
B濃度

B濃度は装置導入の関係により新たに測定したものである.既存地下水試料の制約により,中国・四国地方では広島,島根,香川県のデータが欠落している.Bの分布(図2-32(f))で特徴的なことは,高知周辺および中央構造線およびその南側に高濃度の地域が存在することである.その存在のパターンはCl,HCO3,SO4のいずれとも合致しない.2.1.4.1において,BはClと比較することにより,深部流体の検出に用いることが可能であることが示された.Cl濃度に比べ高い量比でBが存在した場合は深部上昇流体の混入が考えられる.今後さらにデータ数を増やすことにより,深部上昇熱水の分布について,詳細に検討できるものと期待される.
東北日本地域(福島-新潟地域)

福島-新潟地域について,西南日本地域と同様に主成分化学組成の分布について検討を行う.主成分陰イオンである塩素(Cl),重炭酸(HCO3)および硫酸(SO4)濃度の分布図をそれぞれ図2-33(c),(d)および(e)に示す.ここでも,起源,成因に踏み込めるものについては,2.1で解析した内容に基づき記載する.
Cl濃度

Cl濃度の分布(図2-33(c))では,沿岸域では,阿武隈地域の東に位置する海岸部,新潟平野部であり,内陸部では,磐梯山,奥会津地熱地域,会津盆地南部,南会津南郷,小国盆地(南縁を除く),新発田-小出構造線および只見川周辺部で高Cl濃度がみられる.これらの地域では水温もおおむね高温の特徴がある.一方,阿武隈花崗岩の西縁と棚倉構造線の間にある第三紀堆積岩地域では水温は高い地域であるが,Cl濃度が低い.新潟地域は,水溶性あるいは構造性の油・ガス田地域であり,地層内に滞留する古い海水や油田鹹水の存在によりCl濃度が高くなっている.構造線とCl濃度の明瞭な関係がみられないのも,この地域の特徴のひとつと考えられる.
HCO3濃度

次にHCO3の分布(図2-33(d))について記載する.HCO3の高い濃度の地下水の分布は, 全般的にみてCl濃度が高いかあるいは水温が高い地域と一致している.棚倉構造線上および同構造線と阿武隈花崗岩の西縁に挟まれる地域では,Cl濃度は低いがHCO3濃度が高い.只見,沼沢,奥会津にいたる地域では水温,Cl濃度と同様に高く一部では,遊離CO2が存在する.水温やCl濃度で関連がみられなかった構造線上でHCO3濃度が高い傾向にある.特に阿武隈東部の双葉断層近傍では,低温でHCO3のみ高い地下水と高温でCl濃度のみ高い地下水が混在している.HCO3は,深部からももたらされる成分であるため,そのδ13C値とともに議論することが望ましい.次節で詳細に検討する.
SO4濃度とB濃度

SO4濃度の分布(図2-33(e))では,阿武隈南東部海岸地域,火山フロント周辺,会津盆地,小国盆地,只見川周辺部において高濃度部分がみられる.いずれも高温,高Cl濃度,高HCO3濃度の特徴も合わせて持っている.逆に,高温,高Cl濃度,高HCO3濃度であるが,SO4濃度の低い地域は,新潟平野部である.これは,ガス田等の影響により地下水が還元的であり,硫黄化学種が硫化物となっているためであると考えられる.高温,低Cl濃度,高HCO3濃度の特徴を持つ棚倉構造線と阿武隈花崗岩の西縁に挟まれる地域では,SO4濃度が小さい.阿武隈地域のみ分析を行ったホウ素濃度については,海岸部も含め全般に低濃度であった.

  • 図2-32 中国・四国地域における既存地下水試料の水質分布.

(a) 水温,(b) pH,(c) Cl,(d) HCO3,(e) SO4,(f) B.

  • 図2-33 福島-新潟地域における既存地下水試料の水質分布.

(a) 水温,(b) pH,(c) Cl,(d) HCO3,(e) SO4 .

 

水の水素・酸素同位体比(δD,δ18O)の分布

西南日本地域(中国・四国地域)

中国・四国地域の水の水素および酸素同位体比(δD,δ18O)の広域分布を図2-34に示す. δDが高い地域はそのほとんどが海岸部に集中している.同様にδ18Oが高い地域もその大部分は海岸部に存在している.海水のδDおよびδ18O(いずれも0‰)値は,天水(浅層地下水)のそれと比較して非常に高いので,一部は海水と天水混合による影響が反映されている(2.1参照).また,図2-34からは,δD,δ18Oとも四国地域の方が中国地域にくらべ高い値であることが読み取れる.これは例えばMizota and Kusakabe(1994)に示されたように,天水(浅層地下水)の値が四国地域の太平洋側から,中国地域の日本海側に向けて徐々に低くなるような傾向を持つことによる.四国地域および中国地域の標高が高い内陸部では,δD,δ18Oとも非常に低い値になっていることも読み取れる。これらは天水のもととなる降水のδD,δ18Oが,標高,内陸度(海からの距離),雨量,降水の方向等に関係して変化する現象(標高効果,内陸効果,雨量効果,雨蔭効果等と呼ばれる)を反映している.

  • 図2-34 中国・四国地域における既存地下水試料の(a)δDと(b)δ18Oの分布.

東北日本地域(福島-新潟地域)

福島-新潟地域の水の水素および酸素同位体比の広域分布を図2-35に示す.非常に高いδ Dが,新潟平野の全域,只見川の最上流部,山形県小国地域および阿武隈地域の海岸部にみられる.また,非常に高いδ18Oが,新潟平野の全域,只見川の流域および阿武隈地域の海岸部にみられる.新潟平野では古い海水起源の停滞水および油田鹹水の影響であり,只見川流域については起源不明の塩水となっている(成因については,次節にて記載する).また,阿武隈地域の海岸部では古い海水を起源としている可能性がある(2.1参照).また,図2-35からは,δD,δ18Oとも脊梁地帯で一番低く,太平洋側,日本海側とも海岸に近づく程高くなって行く傾向が見られる.これは,Mizota and Kusakabe(1994)が示した結果と調和している.これらも降水の標高効果等を反映したものである.

  • 図2-35 福島-新潟地域における既存地下水試料の(a)δDと(b)δ18Oの分布.

 

ヘリウム同位体比(3He/4He)の分布

西南日本地域(中国・四国地域)

中国・四国地域の地下水の溶存ヘリウムの3He/4He値の分布を図2-36に示す.3He/4He値の高い地域は中国地方山陰地域に集中する.中国地方では南の地域ほど3He/4He値が低くなる傾向がある.四国地方では全般的に3He/4He値は低いが,中央構造線沿いにはやや高い地域があり,最大で3.4Ra(大気中の3He/4He=1.4×10-6を1Raとする)となっており,中央構造線沿いに上昇すると考えられる有馬型深部熱水の存在と調和的である.ただし,これは近畿地方・東海地方の中央構造線沿いに比べると低い値である.

  • 図2-36 中国・四国地域における既存地下水試料の3He/4He(Ra)の分布.

3He/4Heは大気混入の影響を取り除いた“Corrected” Ra値を使用している.
東北日本地域(福島-新潟地域)

福島-新潟地域の地下水の溶存ヘリウムの3He/4He値の分布を図2-37に示す.東北日本地域の3He/4Heは地域による違いが明瞭にみられた.南北に延びる火山フロントを境にして,その東側の前弧域では3He/4He値は極端に低く,大部分が0.1Ra周辺の値となっている.これに対し,火山フロントおよび背弧側では,全体に高い3He/4He値を示す.特に第四紀火山周辺,会津盆地,只見川周辺部では,最も3He/4He値が高く,最大で7.8Raを示している.この数値は島弧マグマの最も高い数値にほぼ等しい.新潟地域でも2.6〜6.8Ra と3He/4He値は高い.新潟地域の一部において低い3He/4Heを持つ地点があるが,これは水溶性ガス田の付随水であり,深部より供給される高い3He/4He値を持つマントル起源ヘリウムが下部の帯水層に溶解し滞留しているためである(2.2.1.2参照).これらの結果は,Sano and Wakita (1985)で明らかにされた傾向と一致する.高い3He/4He値は,マントル起源ガスの上昇を意味するので,深層地下水の起源を解析する上で非常に重要なデータとなる.詳しくは次節にて記載する.

  • 図2-37 福島-新潟地域における既存地下水試料の3He/4He(Ra)の分布.

3He/4Heは大気混入の影響を取り除いた“Corrected” Ra値を使用している.

 

放射性塩素同位体比(36Cl/Cl)の分布

西南日本地域(中国・四国地域)

中国・四国地域の放射性塩素同位体比(36Cl/Cl)の地域分布を図2-38に示す.4試料において,36Cl/Clは検出限界以下,あるいは10-16台の非常に低い値を示した.このうち3試料は沿岸域の深層に胚胎する深層地下水である.もう1試料は三瓶山近傍に位置する.これらは,非常に低い36Cl/Cl値であるので,現在の海水かあるいは深部上昇型の熱水(火山性含む)のいずれかと考えられる.36Cl/Cl比が2〜4×10-15と低い値を示す地点は愛媛県内に数カ所みられ,これらは中央構造線沿いかその南側に位置し,比較的高いCl濃度,HCO3濃度を持ち,有馬型熱水起源の可能性を示唆する.36Cl/Cl比が10-14を越す地点は四国の各地,岡山の内陸部あわせて6地点あり地域的な特徴はない.6地点のうち4地点は塩化物イオン濃度が低い(24〜540mg/L)が,2地点(徳島・高知)においては塩化物イオン濃度が2300,9000mg/Lと高い値を示している.したがって,前者4地点については,36Cl/Cl値の高い現在の浅層地下水の影響が考えられ,後者2地点のものは古い海水の影響が考えられる.

  • 図2-38 中国・四国地域における既存地下水試料の36Cl/Clの分布.

東北日本地域(福島-新潟地域)

福島-新潟地域の36Cl/Cl比の地域分布を図2-39に示す.福島地域では内陸部では36Cl/Cl比は1×10-14を越えているが,塩化物イオン濃度が低い(140〜630mg/L)ため,浅層地下水の非常に高い36Cl/Clの影響を受けている可能性がある.阿武隈地域の東に位置する海岸部では,Cl濃度が高く,海水レベルの36Cl/Clもあれば,36Cl/Clが高い地点も多く,非常に古い塩水の可能性を起源としていることは36Cl/Clからも考えられる.新潟地域においては,いずれも10-15台を示す.最も高い36Cl/Cl値を示す地点は,Cl濃度が低く,分析した試料の中では最も浅層に位置するため,浅層地下水の影響が考えられる.次に高い36Cl/Cl値を示す試料は,それとは反対に最深部に位置し,最もCl濃度が高い.構造性ガスの胚胎する椎谷層からの試料であり,こちらは非常に古い塩水であると思われる.

  • 図2-39 福島-新潟地域における既存地下水試料の36Cl/Clの分布.

 

ストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)分布

四国地域のストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)の地域分布を図2-40に示す.87Sr/86Srは0.7075〜0.7132までの値を示した.有馬地域は0.7084〜0.7086までと狭い範囲に入り,四国においても中央構造線より北側は0.708台の数値を示す.中央構造線よりも南側付加帯地域では総じて高い値(0.708-0.713)を示す.太平洋沿岸部では0.709台の固有の値を示す地点が多く,海水の影響が可能性としてあげられる(海水=0.7092;Dia et al.,1992).

Notsu et al. (1991)による日本の深層地下水水の87Sr/86Srでは,東北日本火山フロント周辺は0.703-0.706と低い値を示している.有馬温泉の水の水素-酸素同位体比・ヘリウム同位体比などが,マグマ水・火山ガスに近い値を示すのに対し,87Sr/86Sr値は明らかに異なる.有馬温泉の南側に分布する花崗岩からの浅層地下水の87Sr/86Sr値は0.708と有馬温泉に非常に近い値を示している(井上他,2000).したがって,地下水の87Sr/86Sr値に関しては,比較的浅層の水-岩石反応を反映していることが考えられる(McNutt,2001).四国地方の中央構造線北側に湧出する深層地下水においても同様のことがいえる.海岸付近の塩水の起源の推定時に現在の海水であるのか,古い海水であるのかの議論に役立つと考えられる.

  • 図2-40 中国地域における既存地下水試料の87Sr/86Srの分布.

左上図の各地質地域の87Sr/86Srの範囲はNotsu et al. (1988;1991)による.

 

20Ne濃度

深層地下水の流動中や深部流体の上昇中に減圧などにより気液分離を起こし,溶存ガス成分が遊離ガスを形成した場合,希ガス成分はガス相に選択的に移動する.He以外の希ガス成分(20Ne,36Arなど)は地下での生成或いはマントル成分の寄与などがごく僅かであるため,地下水中のこれらの成分は涵養時の溶解した大気成分のみで,どの試料もほぼ一定の値を示すが,ガス相の生成・移動がある場合,20Ne濃度の大きな変動が起こりうる.実際,深部流体の上昇が顕著に起っている紀伊半島においては20Ne濃度に大きな変動が見られ,Cl濃度との相関が見られている(Morikawa et al.,2004).したがって,20Ne濃度は,CO2等のガス成分を多く含む深部流体の上昇の指標となる.西南日本(中国-四国地域)および東北日本(福島-新潟地域)における20Ne濃度の分布とCl濃度の関係を図2-41および図2-42に示す.

図2-41の中国-四国地域においては,Cl濃度の高い深層地下水では,愛媛県の一部を除きほぼすべてで20Ne 濃度が低い(青色)ことがわかる.これは, 20Neを含まない深部上昇流体が混入したか,あるいは,この塩水が地下でガス分離をしたことによるものと考えられる.いずれにしても,深部上昇流体の混入かCO2等のガスが多量に含まれていて,脱ガスしたことを意味する.

  • 図2-41 中国-四国地域における既存地下水試料の20Ne濃度とCl濃度の関係.

図2-42の福島-新潟地域においては,新潟地域において,20Ne濃度が高いことがわかる.これは油田,ガス田形成に伴い,水以外のガス種が濃縮されているので,その過程において希ガスの濃縮も生じた結果だと考えられる.一方で,福島東側の沿岸部および内陸部のほとんどの塩水で,20Ne濃度が低い(青色).これは,中国-四国地域で考えられるのと同様に,深部上昇流体が混入したか,あるいはCO2等のガスが多量に含まれていて脱ガスしたことを意味する.

  • 図2-42 福島-新潟地域における既存地下水試料の20Ne濃度とCl濃度の関係.

次に,両地域における20Ne濃度の分布と深部起源炭素(Cds)濃度の関係を図2-43および図2-44に示す.四国地方においては,深部起源炭素(Cds)濃度が高いところで20Ne濃度が低くなる傾向がみられる.したがって,深部から供給されたCO2が地下において分離された結果と考えられる.深層地下水から分離されたCO2は,浅層地下水系に注入されると考えられることから,同地域の浅層地下水系において20NeおよびCO2に富む地下水が存在すると予想される.山陰地方では,深部起源炭素(Cds)濃度が非常に低いが,これは2.1.2.1で議論したようにグリーンタフ地域であるため,地層中における反応により,深部起源のCO2が沈殿除去されたためと考えられる.一方,福島-新潟地域では,油田・ガス田地域を除き高い深部起源炭素(Cds)濃度を示す地下水がみられ,深部から供給されたCO2が過飽和となり分離された結果によるものと思われる.

  • 図2-43 中国-四国地域における既存地下水試料の20Ne濃度と深部起源炭素濃度の関係.

  • 図2-44 福島-新潟地域における既存地下水試料の20Ne濃度と深部起源炭素濃度の関係.

 

放射壊変起源ヘリウム(4Her)濃度および3Hem/4Her比

地下水に溶存する4Heのうち,大気およびマントル起源成分を除いた残りの成分は岩石から発生した成分(放射壊変起源4He)であり,溶解量は時間とともに増えていくため,地下水年代の指標となる.放射壊変起源ヘリウム(4Her)濃度は,大気・マントル起源成分と3He/4He値,4He/20Ne値が大きく違うことを利用して,3He/4He,4He/20Ne分析値よりその寄与率を求め,4He濃度を乗ずることにより得られる.寄与率の計算方法はSano and Wakita (1985)に従った.西南日本(中国-四国地域)および東北日本(福島-新潟地域)における放射壊変起源ヘリウム(4Her)濃度の分布を図2-45および図2-46に示す.図2-45の中国−四国地域においては,中国山地および高知県の一部において,4Her濃度の高い,つまり滞留時間の長い地下水が見られる.マントル起源ガスの濃度が高かった山陰地方および中央構造線沿いでは,4Her濃度は相対的に低い.図2-46の福島−新潟地域では,新潟の油田・ガス田地域,福島の東側沿岸部,内陸部の一部に4Her濃度の高い,つまり滞留時間の長い地下水が見られる.

  • 図2-45 中国・四国地域における既存地下水試料の放射壊変起源4Her濃度分布.

4Her濃度は深層地下水の平均滞留時間の指標となる.放射壊変起源4Her濃度は,4He分析値より20Ne濃度を基に,脱ガスによる濃度の低下量の補正を行なった後,その数値に放射壊変起源ヘリウムの寄与率を乗算した数値を使用した.放射壊変起源ヘリウムの寄与率は3He/4Heを基にSano and Wakita (1985)の式に従って求めた.

  • 図2-46 福島-新潟地域における既存地下水試料の放射壊変起源4Her濃度分布.

4Her濃度は深層地下水の平均滞留時間の指標となる.

 

次に,マントル起源ヘリウム(3Hem)濃度と上述の放射壊変起源ヘリウム(4Her)濃度を用いた3Hem/4Her値について示す.3Hem/4Herは,マントル起源の3Heのフラックス指標とすることができる.マントル起源ヘリウム(3Hem)濃度も,分析値とマントル起源ヘリウムの寄与率より求めることができる.また,ここでは,遊離ガスの発生と希ガス成分のガス相への移動による濃度の低下或いは,ガス相の付加による濃度の上昇の補正を施すため,20Ne濃度を大気成分の溶解度平衡値(2×10-6mmol/kg)に規格化した数値を使用する.西南日本(中国-四国地域)および東北日本(福島-新潟地域)における3Hem/4Herの分布を図2-47および図2-48に示す.図2-47の中国-四国地域においては,山陰地方に高い値がみられマントル起源ガスのフラックスが高いことがわかる.一方,図2-48の福島-新潟地域では,新潟地域の一部と内陸部の一部において高い3Hem/4Her値がみられた.新潟については,マントル起源ガス濃度と放射壊変起源のヘリウム濃度が共に高いことが一つの特徴として挙げられる.内陸部の3Hem/4Her値の高い場所は,後述するように火山性流体の上昇起源の塩水および深部上昇流体の場所と一致する.

  • 図2-47 中国・四国地域における既存地下水試料の3Hem/4Her分布図.

3Hem/4Her値はマントル起源ガスのフラックスの指標となる.3Hemはマントル起源3He濃度,4Herは放射壊変起源4He濃度を意味する.マントル起源3He濃度は放射壊変起源4He濃度と同様に3He/4He比よりマントル起源ヘリウムの寄与率から求めた.

  • 図2-48 福島-新潟地域における既存地下水試料の3Hem/4Her分布図.

3Hem/4Her値はマントル起源ガスのフラックスの指標となる.

 

深部流体の分布,特徴と成因についての評価手法

本節では,西南日本地域(中国・四国地域)および東北日本地域(福島-新潟地域)における深部流体の起源成分の広域分布を調査・確認し,各種深部流体の分布と地質,構造等との関連性について検討する.2.1にて記述した深層地下水の同位体組成とCl濃度の関係から導いた深層地下水に混入する高いCl濃度を持つ深部流体成分の起源の区分の分布についてまとめる.また,同様に2.1.2.1において解析した深層地下水に混入する深部起源由来の炭素濃度の分布および炭酸種の反応・付加プロセスを表すTDIC/3He値の分布についても考察する.そして,2.1.1にて,深層地下水の同位体組成とCl濃度の関係だけからでは起源の解明ができなかった“起源不明の塩水”について,その分布状態と地質,構造との関連および地下水の溶存ヘリウムの3He/4Heなどの情報も加えて,さらに解析,検討を行った結果を示す.

 

水の水素・酸素同位体およびCl濃度による高Cl型深部流体の起源分布の評価

西南日本地域(中国・四国地域)

2.1において,中国・四国地域におけるCl濃度1000 mg/L以上の塩水を対象とし,深層地下水の同位体組成とCl濃度の関係から導いた深層地下水に混入する深部流体成分の起源の区分を行った.その結果,本地域の深層地下水に混入する海水および深部流体成分は,その起源として,1)海水,2)内陸塩水,3)火山性熱水(本地域では大山および三瓶火山に可能性あり),4)非火山性熱水,および,5)起源分類不明の水(2種類)である.各塩水はこれらの端成分起源水と天水の混合で形成されていると考えられる.この塩水の起源分類についての広域分布を図2-49に示す.まず図2-49において,1)海水起源と区分された塩水は基本的に沿岸域に分布しており,このことは地下水のδD,δ18OおよびCl濃度の関係が天水と現在の海水の混合で説明できることと調和的である.

  • 図2-49 δD,δ18O,およびCl濃度との関係から推定した中国-四国地域における既存地下水試料の起源とその分布.

この海水起源の水を図2-50に示すキーダイヤグラム上でみると,現在の海水とは異なる場所にプロットされており,陽イオン成分ではCa濃度比が高くなる方向に分布がシフトしているようにみえる.海水は,地層内に侵入後,地層中の鉱物種とのイオン交換反応や沈殿などにより,その組成が変化する.その際,陽イオンは一般にMgが失われる.さらに,天水により希釈された場合は,NaとCaの交換反応によりCa濃度が上昇する場合がある.したがって,キーダイヤグラムで示されるように,ここで海水起源と区分されたほとんどの地下水は,現在の海水ではなく,ある程度地層中の鉱物種と反応した変質海水である可能性が考えられる.2)内陸塩水に区分されたものは,島根県出雲近傍の2点のみである.水質は図2-50のキーダイヤグラムにみられるように,ほとんどHCO3を含まず,CaおよびSO4濃度比が高いグリーンタフ型の地下水である.3)火山性熱水起源のものは第四紀火山である三瓶山近傍に一点のみ認められた.同じく第四紀火山である大山周辺には認められていないが,今回の分析試料は大山の南西部に限られているためかもしれない.4)非火山性熱水に区分されたものは,中央構造線沿いに存在する.これらの地下水の成因は,有馬型熱水端成分の塩水と天水の混合で説明できる.これは,近畿—東海地方における中央構造線上あるいはその近傍に有馬型熱水の寄与がみられることと整合的であり,有馬型熱水が,西南日本全域において大規模構造線を通じて地下深部から上昇してきていることを示している.いずれにも区分されない塩水については,起源が“不明1”および“不明2”の塩水と定義している(2.1.1).起源“不明1”の塩水は,その水質の特徴として,陰イオンのClと陽イオンのCaの濃度比が共に高く,主としてCaCl型である.この“不明1”の塩水は四国南部,瀬戸内沿岸部から山陰地方の日本海沿岸まで存在する.一方,“不明2”の塩水については,高知県の沿岸域の2箇所にて見られた.

  • 図2-50 中国-四国地域における既存地下水試料のキーダイヤグラム.(各起源により分類(2.1.1)した結果を示した)

 

東北日本地域(福島-新潟地域)

西日本地域と同様に,福島-新潟地域においても,Cl濃度1000 mg/L以上の塩水を対象とし,深層地下水の同位体組成とCl濃度の関係から深部流体成分の起源の区分を行った(2.1.1).その結果,福島-新潟地域では,深層地下水に混入する塩水の起源成分は,1)油田鹹水(新潟),2)水溶性ガス付随水(新潟),3)海水(太平洋側),4)内陸塩水,5)火山性熱水(本地域では,沼沢,磐梯山,安達太良,吾妻火山等の第四紀火山に起因する熱水が考えられる),および,6)起源部類不明の水となった.各塩水はこれらの端成分起源水と天水の混合で形成されていると考えられる.塩水の起源分類についての広域分布を図2-51に示す.図2-51において,1)油田鹹水および2)水溶性ガス付随水と区分された塩水は,新潟地域に広く分布していることがわかる.図2-52をみると,陰イオンではCl濃度比が高い場合に,陽イオンではNa+K濃度比が高い場所にプロットされている.3)海水起源と分類された水は,この地域では太平洋側のみにみられる.図2-52をみると現在の海水とは主成分化学組成が異なっているのがわかり,Ca濃度比やHCO3濃度比が高くなる傾向がみられる.4)内陸塩水は,本地域には広範囲にみられ,一点を除きすべて脊梁を形成する火山フロントよりも西側にある.これらは,比較的水温が高いという特徴も合わせもつ.図2-52における水質にはばらつきがあるが,SO4濃度比およびHCO3濃度比が比較的高いものが多い傾向がみられる.5)火山性熱水に分類された塩水は,磐梯山—会津盆地—奥会津地熱地域に至る線上に分布している.特に,奥会津において最も火山性熱水の寄与率が高い.図2-52では,HCO3濃度が高い傾向が見られる.福島—新潟地域において,6)起源が“不明”とされた塩水は,内陸塩水を別にすれば,福島県の阿武隈地域東側の沿岸部に存在する.図2-52では,陰イオンにおいてSO4およびHCO3濃度比が著しく低いという特徴がみられる.また,本地域においては,塩水はほとんどすべて水温が高い特徴がある.非火山地域においても高温かつ高いCl濃度であることから,この塩水の起源の検討と同時に熱源についても検討する必要があると考えられる.

  • 図2-51 δD,δ18O,およびCl濃度との関係から推定した福島-新潟地域における既存地下水試料の起源とその分布.

 

  • 図2-52 福島-新潟地域における既存地下水試料のキーダイヤグラム.(各起源により分類(2.1.1)した結果を示した)

 

深部起源炭素の濃度および希ガス分布による深部流体の評価

西南日本地域(中国・四国地域)

2.1.2では中国・四国地域において,TDIC濃度およびそのδ13C値を用いて,各々の地下水中含まれる深部起源炭素 (Cds)濃度を求めた.これは,地下深層から上昇し地下水系に混入した無機炭酸種の量と考えられる.このCds濃度の分布を図2-53(a)に示す.また,2.1.2.1において,TDIC/3Heという地下水中のDICが付加されたのか,CaCO3として沈殿して失われたのかを示すパラメータPを導入し,試料のTDIC/3He値(Fs)を日本列島の最下限値と考えられるMORB値のTDIC/3He値(=1.5×109)の一桁上の1010(F)で規格化し,対数表記(P=log(Fs/F))で表した.この値は,たとえば,-2の場合,少なくとも元々存在したDICの1/100しか地下水中にDICが残っていないことを示し,99%のDICはCaCO3の沈殿として地下水から失われたことを示している.したがって,上述したCds濃度値はこのDIC反応パラメータ(P)値が負の値を持つ場合には,実際に供給される深部起源炭素の量を評価する場合には,大幅に過小評価していることになる点に注意を要する.このDIC反応のパラメータであるP値の分布を図2-53(b)に示す.

まず,図2-53(a)に示した深部起源炭素(Cds)濃度の分布について記載する.特徴的であるのは,四国地方において,高濃度のCdsがみられることである.中央構造線でみられるのは,前節に述べたように有馬型熱水の影響であることと矛盾しないが,付加体,特に四万十帯においても高濃度のCdsが認められた.これらは,2.1において海水起源と分類されたものではなく,起源不明とされた塩水およびそもそも塩水と分類されていないCl濃度の低いHCO3型の深層地下水である.ただし,高知市周辺の起源不明水においては,Cdsが低濃度である.深部から上昇してくると考えられるCds濃度が全般に高いにもかかわらず,3He/4He値は中央構造線沿いを除き低い値である.これは,地殻下部,およびマントルの位置などと関係している可能性がある.すなわち,3Heはマントル起源であるが四国の付加体直下にマントルはないことや,Cdsは地殻直下を沈み込むスラブ起源であることと関係している可能性がある.四国におけるCdsが広域にわたり高いという特徴は,近畿地方においても認められ,紀伊半島でも,ほぼ全域にわたり高濃度のCdsが認められている(Morikawa et al.,2004).一方で,中央構造線より北の地域および中国地方全域(東部の内陸部を除く)でCds濃度が低い傾向がある.中国地方東部の内陸部にCds濃度が高い地域がある.この地域では,3He/4He値(図2-36)も若干高い傾向がみられる点で調和的である.山陰地域でCds濃度が低いのは,非常に特徴的である.この地域では,図2-36で明らかなように,広域にわたり非常に高い3He/4He値を持つ.しかも,火山性熱水に分類された地下水もこの地域内の三瓶山近傍に存在する.Cdsは,深部から供給される炭酸濃度であるから,3He/4He値の高い地域では,高いCds濃度を持つことが予想されるが,矛盾していることになる.しかし,後述するようにCaCO3の沈殿によりCdsが失われた地域もあると考えられるため,全域にわたり深部からのCdsの供給が小さいとはいえない点については注意が必要である.

次に,DIC反応パラメータ(P)値の分布について記載する.P値は,四国のほぼ全域でプラスの値であり,Cdsはほとんど失われずに地下水中に含まれていることを意味する.山陰地域では,P値がマイナス値を持つ地域が存在し,その値は約-2であり,相当量のCdsが沈殿していることが考えられる.最も低いP値(=-3)を示したものは,内陸塩水に分類された出雲周辺の深層地下水であり,前述したようにグリーンタフ型の水質を示す.また,本地域では低Cl濃度の地下水ほどSO4濃度が高くなる傾向があり(図2-32),それらはすべてグリーンタフ型の水質を示す.Ohwada et al.(2007)により,富山地方におけるグリーンタフ型の地下水の形成機構が解明され,それによると,このタイプの地下水が形成される際に地下からのCO2の供給が必要であり,さらに多量のCaCO3の沈殿も伴うと考えられている.出雲のグリーンタフ型地下水でも同様のプロセスで水質が形成されているとすれば,高いCO2供給量を推測させる高い3He/4He 値と低いCds濃度の関係が矛盾なく説明できる.

  • 図2-53 中国・四国地域における既存地下水試料の深部起源炭素濃度およびP値の分布.

(a) 深部起源炭素濃度(Cds),(b) P値(=log(Fs /F),Fsは各試料のTDIC/3He比,Fは規格化の値として1010とした(MORBのTDIC/3He比(=1.5×109)より一桁高く設定)

 

東北日本地域(福島-新潟地域)

新潟の水溶性ガス田および油田地域に高いCds濃度が存在する(図2-54(a)).これらの起源は2.1.2に記載したように,δ13C値が異常に高い特徴があることから,有機物の分解に伴い生成したCO2と考えられる.そのため,正確なCds濃度の見積りができない可能性がある.しかし,図2-37にみられるように,この地域ではマントル起源ヘリウムの寄与を表す3He/4He値が油田のあるグリーンタフ層内において非常に高いことから,深部起源のDICの寄与がある可能性は非常に高い.

次に,火山フロントよりも東側の前弧域においては,全般にCds濃度が低い傾向が見られる.これはこの地域の3He/4He値が同様に低い値を持つことと調和的である.阿武隈地域の太平洋沿岸部および棚倉構造線と阿武隈花崗岩の西縁に挟まれる地域では,いくつかの高いCds濃度の地点が存在する.したがって,東北地方の前弧域においては,マントル起源ガスは上昇してこないが,スラブ起源のCO2が上昇している可能性がある.本地域の内陸部において,高いCds濃度を持つ地下水がいくつか存在する.まず,第四紀火山では,磐梯山周辺において高いCds濃度が見られる.奥会津地熱地域—沼沢火山を含む只見川周辺地域および南会津地域でも高いCds濃度である.奥会津地熱地域では,塩水の起源として火山性熱水が推定されており,Cdsも火山性であると考えられる.沼沢火山を含む只見川周辺地域では,高温かつ高Cl濃度で,さらに,3He/4He値も高い特徴を有する.また,会津盆地北縁から西北西に帯状に高いCds濃度を示している.この場所では,塩水も存在し,内陸塩水と分類されている.水温は高く3He/4He値も非常に高い値である.よって,本地域では,マントルと地表をつなぐガスの通路となりうる地下構造が存在する可能性が考えられる.これらの地域の深層地下水の成因については,次節において塩水の起源とともに議論する.

次に,DIC反応パラメータ(P)値の分布(図2-54(b))について記載する.新潟地域では一地点を除きすべてマイナスの値である.すなわち,相当量の炭酸が沈殿により失われていることを意味している.それにもかかわらず,比較的高濃度のHCO3を含有している地域でもある点が非常に特徴的である.阿武隈東の太平洋岸地域では,基本的にP値はプラスであるが,一部でマイナス値を持つ.その一点は,起源不明に分類され,前節において,陰イオンがほぼClのみとなっている塩水である.この塩水に関しては,実際には深部起源炭素の供給がある可能性がある.3He/4He値が高く,火山性熱水の寄与が考えられる会津盆地—奥会津地熱地域においても,このP値はマイナス値(約-2)であった.つまり,供給されたCdsの99%が沈殿により失われたと考えられる.奥会津では,Cds濃度が高いので,実際には,さらにその100倍に達するCdsの供給があると推定される.会津盆地において,3He/4He値が高いにもかかわらずCds濃度が低いが,CaCO3によりCdsが沈殿したためと考えられる.

  • 図2-54 福島-新潟地域における既存地下水試料の深部起源炭素濃度およびP値の分布.

(a) 深部起源炭素濃度(Cds),(b) P値(=log(Fs /F),Fsは各試料のTDIC/3He比,Fは規格化の値として1010とした(MORBのTDIC/3He比(=1.5×109)より一桁高く設定).

 

東北日本地域の内陸塩水の成因解釈

本節では,福島-新潟地域において,数多く見つかる内陸塩水について詳細に検討を加える.図2-37および図2-54(a)により明らかになった非常に高い3He/4He値およびCds濃度を示す内陸塩水を,その地理的分布から“不明1”および“不明2”と分類した.まず“不明1”は,沼沢火山を含む会津盆地の西から只見川周辺へ60kmのびる地域に分布する内陸塩水である(図2-55).次に“不明2”は,磐梯山から西北西に約80kmのびる地域に分布する内陸塩水である.また,南会津から只見にいたる帯状地域の高いCds濃度を示す地域の内陸塩水を“不明3”とし,さらにいずれにも当てはまらない内陸塩水を“不明4”とした.

  • 図2-55 福島-新潟地域における内陸塩水の区分.

 

これらの関係をδD,δ18OおよびCl濃度の分布(図2-56,図2-57)でみたところ,それぞれの不明グループで固有の関係があることがわかった.“不明1”に分類した塩水は,水の同位体組成では端成分がマグマ起源水の方向に,δ18O値とCl濃度の関係でも同じ方向に分布することがわかる(図2-56,図2-57(b)).この帯状分布の中心には沼沢火山が存在しており,本地域の塩水(不明1)は,マグマ起源の火山性熱水の可能性がある.一方,“不明2”の塩水についても,同様の同位体組成およびCl濃度の関係から,そのグループ内でとじた混合関係があるようにみえる(図2-56,図2-57).“不明2”の塩水の端成分は,δD値はあまり変化せずCl濃度とδ18O値が増える方向にある.この方向の端成分は,マグマ起源水でも有馬型深部熱水でもない高い塩濃度の熱水であると考えられ,マントル起源のヘリウムと深部起源炭酸を多量に含むと推定される.深部から上昇してくる流体であることは間違いないが,その成因についてはよくわからない.次に,“不明3”に分類した塩水について,同様に同位体組成とCl濃度の関係がみえてくる(図2-56,図2-57).この端成分はほぼ只見における塩水そのものと考えられ,天水との混合線上に塩水が存在する.この塩水はδ18OとClの関係でみると,現在の海水よりもかなりCl濃度が高い端成分,あるいは,現在の海水よりもδ18Oがかなり低い塩水の特徴を持つ.ここで,2.2.1に詳述した新潟の水溶性ガス付随水(図2-25(b))に着目し比較すると,端成分のδ18O値が若干低いが,非常によく似た関係があることがわかる.水溶性ガス付随水は,非常に古い年代をもつ変質した海水と考えられる.本地域は新潟のガス田よりもさらに内陸にある.δ18O値がマイナスにシフトする原因の一つとして,100℃以下の低温で岩石と海水が同位体交換反応を起こした可能性が考えられる.以上から,只見の塩水(“不明3”の端成分)は,非常に古い変質した海水である可能性が考えられる.“不明4”に分類された塩水は,福島新潟地域の内陸部にひろく点在するが,水の同位体組成とCl濃度の関係は非常に明瞭である.すなわち,天水線上に分布するが,δDとδ18O値が高くなるとともに,Cl濃度が増加する.その延長には,新潟の水溶性ガス付随水の端成分が存在する.この“不明3”および“不明4”の塩水には若干のCdsの付加が考えられるが,3He/4He値はそれほど高くない特徴を持つ.したがって,これらの起源“不明3”および“不明4”の内陸塩水は,深部上昇型ではなく,非常に古い海水を起源とする停滞型の塩水であると推定される.

  • 図2-56 福島-新潟地域における内陸塩水の各区分の水素酸素同位体比.

 

  • 図2-57 福島-新潟地域における内陸塩水の各区分の(a) Cl-酸素同位体プロット, (b) Cl-水素同位体プロット.

 

内陸塩水と区分した塩水は,図2-52のキーダイヤグラム上の水質では,ほとんど違いがみられなかった.しかし,実際には,この内陸塩水は,少なくとも3つの成因に分類され,火山性熱水や深部上昇型の非火山性熱水あるいは非常に古い海水と考えられる.これら内陸塩水はいずれも温度が高い特徴がある.古い海水を起源とする停滞型塩水でも水温が高く,一部についてはマントル起源ガスの寄与も有意に認められる.これらの停滞型の古い海水は例外なく第三紀堆積岩層の地域にあり,その層厚は数kmにもおよぶ地域がある.したがって,これら停滞型の非常に古い海水を起源とすると考えられる塩水にしても,ある程度深い深度に超長期にわたり胚胎し,応力場による胚胎層の圧縮や圧密により深層から上昇してきた可能性も否定できない.また,今回新たに可能性が指摘された有馬型とは異なる深部上昇熱水の存在についてもより詳細な調査および検討を行うべきであろう.

深部流体の特徴,特性と地質,構造との関係

まず,西南日本弧と東北日本弧の沈み込み帯の違いについて,3He/4He値の分布からわかる事項を記載する.中国—四国地域では高い3He/4He値は中央構造線よりも北でみられ,このことはその地域の地殻直下でよりマントル由来の3Heが上昇していることを示している.一方,中央構造線よりも南側の付加体地域において,3He/4He値による深部起源物質の検出はほとんどできなかったが,同地域では深部起源炭素濃度が高いため,深部からの物質供給はあると考えられる.一方,東北日本においては,火山フロントを境にして3He/4He値が大きく異なり,背弧側で高く,前弧域では低い値を示している.

深部流体活動と深部低周波地震の関連

西南日本においては,有馬型と分類される深部流体が有馬—高槻構造線および中央構造線に沿って上昇している.地下深部から上昇していると考えられる深部流体はCO2を含む塩水であり,深部では熱水として存在していると考えられる.本節では,その濃度に高温の履歴を反映すると考えられるリチウム(Li)濃度,塩素(Cl)濃度および深部起源炭素(Cds)濃度について深部流体活動の指標として着目する.そして,その深部流体活動の将来予測のため,活動に関連すると考えられる自然事象である深部低周波地震(DLF地震)との関連について調査を行った結果を示す.
深部低周波地震(DLF)の分布と成因

図2-58に示すように,本地域では特徴的な深部低周波微動(DLF微動)が東海—紀伊半島—四国にいたる約1000kmにわたり帯上に生じ,その深度は約35kmで沈み込むフィリピン海プレートと上盤のユーラシアプレートの境界に位置する(Obara,2002).この微動の原因は,フィリピン海プレートの沈み込みに関連するスラブの脱水により発生した熱水活動によるものと推測されている(Obara,2002).また,本地域においては,孤立型のDLF地震も多数起きており,大阪湾,有馬,京都府中部,鳥取県西部,三次北部,三瓶山等でも生じている(高橋・宮村,2009).これらの震源の深さは20-40kmであり,地殻下部に相当する.Ohmi and Obara (2002)によれば,2000年に起きた鳥取県西部地震の震源域では,それ以前からDLFが起きており,DLFの観測から地震断層の活動に際し流体の関与を指摘している.また,長谷川ほか(2008)は,それまでの地震波の研究の総括として,スラブからの水の供給と地震の関係をまとめており,その中でDLFが内陸型の地震を引き起こす引き金となる熱水活動の存在を示しているとしている.

  • 図2-58 調査地域における第四紀火山,断層・構造線,深部低周波微動・地震の分布.

 

深層地下水のLi濃度分布

先に述べたようにLiは,高温環境で岩石・鉱物から水に濃集し,低温になった後でもその濃度が維持される性質がある(James et al.,2003).したがって,Li濃度の分布は高温の熱履歴を持った深部上昇流体の深層地下水への混入の指標として活用できる.深層地下水データベースに収録されているデータのうち,Cl濃度が1,000 mg/L以上の塩水について, Li濃度の分布図を作成した(図2-59).本図より,Li濃度が10 mg/L以上(赤系の色)の地下水の多くは構造線沿いに分布しており, このうち100 mg/L以上の深層地下水は近畿地方中央部に集中している.

Liは塩水によりもたらされると考えられるので,深部上昇流体起源の塩水を含む深層地下水はLi/Cl比が高くなると考えられる.Cl濃度が200 mg/L以上の塩水について,Li/Cl(重量比)を図2-60に示す.Li/Cl比で深部上昇流体起源の塩水の分布をみた場合,より多く地点で深部上昇流体の影響がみられる.特に山陰地方と四国において顕著であり,DLF微動上および鳥取県西部の近傍に高いLi/Clが見つかる.これは,Cl濃度が200mg/L以上のものについて解析したため,より浅層地下水による希釈が大きな地下水についても,深部上昇流体の痕跡を把握できたためであろう.

  • 図2-59 Li濃度の分布(Cl濃度>1000mg/L).

 

  • 図2-60 Li/Cl(重量比)の分布(Cl濃度>200mg/L).

 

深層地下水のCl濃度分布

深部上昇流体が高いCl濃度を持つという特徴は,それが地表へ上昇する深部流体活動の評価に利用可能であると考えられる.しかし,特に沿岸域や堆積盆などに存在する海水起源の塩水と区別する必要がある.まず, Cl濃度が1000 mg/L未満の地下水を天水起源とし,それ以外の地下水について2.1および2.3.3に示した起源解析手法を用い,水の水素・酸素安定同位体比から海水(または古い海水)起源と海水起源以外の地下水に分類した.後者には深部上昇流体起源の塩水を多く含むはずであり,本節では,これを深部上昇流体起源のものとして扱う.東海地方沿岸域の一部の試料については,油田かん水起源であることが明らかとなっているため,深部上昇流体の区分からはずした.このようにして求めた,深部上昇流体が混入する深層地下水のCl濃度分布を図2-61に示す.図よりCl濃度の分布がLi 濃度あるいはLi/Cl比が高い地下水の分布(図2-59;図2-60)とほぼ類似していることがわかる.どちらも独立した地下水パラメータであり,その類似性の存在にはこの手法の妥当性の評価の面で大きな意味がある.高濃度の深部上昇流体起源のClの分布は,中央構造線,有馬-高槻構造線沿いおよび近畿地方中央部に顕著である.構造線以外の場所では,孤立型のDLF地震近傍にみられる.Li濃度が低い瀬戸内東部や近畿南部沿岸域の深層地下水はいずれも海水起源に区分されており整合的である.一方,近畿南部の深部低周波地震が集中している地域や瀬戸内西部の試料などLi濃度あるいはLi/Cl比は高いものの海水起源として区分された深層地下水も存在する.これは水の同位体組成による区分が,感度的に完全ではないことを示しているのであろう.

  • 図2-61 Cl濃度の分布(Cl濃度>1000mg/L.

 

深層地下水のCds濃度分布

本項では,深部上昇流体の検出という面では感度があまりよくない水の同位体組成に代わり,検出感度面では優位である深部起源炭素(Cds)濃度の指標を用いる(2.1.2).Cds濃度を用いる利点は,深部上昇流体に含まれるCdsが主にCO2として浅部に運搬されると考えられるため,深部上昇流体が炭酸濃度の低い浅層地下水の混入を受けても,痕跡が残りやすいことによる.また,近畿地方では,地下水中のネオン(Ne)濃度が大気平衡値から大きくずれ,Cl型の地下水ではNeが脱ガス,HCO3型の地下水では,Neがガスとして付加されていることがわかり,その原因として以下に述べる過程が生じていると提案されている(Morikawa et al.,2004).深層に供給された深部上昇流体は,CO2(+Ne)を分離し,より浅層の地下水に深部起源のCO2(+Ne)を供給し,CO2を分離した塩水自体は深層にとどまるため中々観測できないというものである.もし,これが事実であれば,Cdsは上述のLi濃度あるいはCl濃度よりも,より広範囲に深部上昇流体の上昇する場についての情報を与えると考えられる.

Cds濃度の分布を図2-62に示す.Cds濃度は,Li濃度,Li/Cl比や深部上昇流体起源のCl濃度の分布と同様に,中央構造線や有馬-高槻構造線沿いで高いことがわかる.また,他のパラメータでは関連がわからなかった三次北部や香川北部に存在する孤立型のDLF地震に対応する地点で高いCds濃度の地下水が存在することがわかる.Cds濃度分布の特徴は,Li濃度およびCl濃度に比べ,Li/Clの分布に近い.深部上昇流体の検出感度がこの両者のパラメータで高いためであると考えられる.

  • 図2-62 Cds濃度の分布.

 

深部上昇流体の上昇場とDLF地震域との関連

本項で検討した結果をまとめると以下のようになる.深層地下水のLi濃度,Li/Cl比,Cl濃度(水の同位体比による区分が必要),およびCds濃度により,深部上昇流体の検出が可能であり,上昇域についての情報が得られた.一方,熱水の存在が推定されるDLFの震源位置と深部上昇流体の上昇場は完全な一致はないものの,強く関連を示唆する分布となっている.DLFの震源は地殻下部にあり,その直上に熱水は湧出できず,上部地殻における熱水上昇の“水みちとしての断層,構造線”に沿って上昇していると考えられる.以上により,深部上昇流体による熱水活動の発生場所および上昇場所についての情報を得ることができた.本検討結果に基づいて,今後研究をすすめることにより深部流体活動の規模の評価や将来予測手法の開発につながると考えられる.
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