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技術資料 第2章 調査・評価項目の設定

はじめに

この章では閉鎖後の安全評価に必要な事項について,国際FEPに基づき概要調査の調査・評価項目の設定を行なう.また,調査・評価項目で対象にした自然事象で,特廃法に述べられている要件に対応した評価事項の設定を行なうとともに,評価事項の対象としている事象以外の処分システム領域に影響を与える事象を対象に,サイト影響評価事項を設定する.調査・評価項目は概要調査段階で野外調査を実施できるすべての安全評価事項を対象として設定しているが,評価事項については,サイト選定の視点から特廃法に規定されている内容に限定している.

概要調査は,地層処分事業の立地段階で実施される文献調査・概要調査・精密調査のうち2番目に行なわれる調査であるが,現地調査という意味では最初の調査である.地層処分の安全確保について,原子力安全委員会(2000)は第1次報告の中で,サイト選定と工学的対策からなる「長期的安全確保」と「安全評価等による安全確認」により実現されると述べており,概要調査でのサイト選定の係る要件は特廃法第7条に書かれている.第7条の要件の中で「長期的安全確保」に係る事項は,「地震等の自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと」と包括的に表現されている.ここで表現された内容を調査データに基づいて評価するには具体的な調査・評価項目が必要であり,この技術資料では国際FEPに準拠してこの調査・評価項目の設定を行なう.

処分地の地層に影響を与える自然現象は,国際FEP(OECD/NEA, 2002)では処分システム領域に影響を与える外的要因の中に整理されている.外的要因としての長期変動について,すでに廃棄物安全小委員会で検討が行なわれており,「地質及び気候関連事象」として55の事象が特定されている(総合資源エネルギー調査会, 2003).この「地質及び気候関連事象」の中にわが国で地層処分を実施した場合の閉鎖後安全評価にかかる安全評価事項が網羅されているので,この技術資料では概要調査の調査・評価項目のうち長期変動に関するものについては,これに依拠して項目の設定を行なった.結果的にこの技術資料では,閉鎖後の安全確保に必要な概要調査の調査・評価項目として,「侵食・堆積及び海面変化」,「地震活動」,「火山・マグマ活動」,「深部流体」,「泥火山」,「マスムーブメント」の6項目を設定した.

地層処分の安全確保のためのもう一つの方策である安全評価については,特廃法に述べられていない.安全評価は,原子力安全委員会が将来策定する安全審査基本指針及び安全審査指針の中に記述され,安全審査の時に調査データを総合的に解析して地下水シナリオ等に基づく安全評価が行なわれるものと考えられる.この技術資料では,閉鎖後の安全確保に必要な安全評価事項をカバーできるように,「地質環境」を概要調査における調査・評価項目とし,地質環境の特性を把握するための調査内容の検討を行なっているが,上記の状況を鑑みると,概要調査段階で個別の地質特性について評価を行なうことは適切でないため,地質環境の中で評価事項の設定は行なっていない.なお,「鉱物資源」については,地下水シナリオの安全評価とは別であるが,人間侵入にかかる閉鎖後の安全評価事項であるので,この技術資料では「地質環境」の中での評価事項にしている.

要件のレビュー

国際FEPに基づき処分システム領域に影響を与える外的要因である「地質及び気候関連事象」から,概要調査の調査・評価項目を設定するにあたり,「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(以下では「特廃法」と略記)がカバーしている範囲を理解することは勿論のこと,その背景となっている「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ-」(以下では「第2次取りまとめ」と引用)(核燃料サイクル開発機構, 1999)の理解は重要であり,さらに原子力安全委員会(2002)の「概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件」(以下では「環境要件」と引用)との整合性を考慮する必要がある.以下にこれらの法律及び報告の関連する部分について概観する.

第2次とりまとめのサイト選定要件

第2次取りまとめ(核燃料サイクル開発機構, 1999)では「地層処分の場として不適切な地域を,選定の対象から除外するうえでの判断基準となる」ものとして,「サイト選定の可否にかかわる地質環境の要件」を設定している.要件としては,「地質環境の長期安定性,処分地の建設可能性及び人間侵入に関連する項目」を提案しており,「これらの要件を満たさない地域は,可能な限り処分候補地の選定段階における文献調査によって除外しておくことが重要である」と述べ,さらに「これらの要件に関しては,処分予定地の選定段階において,現地調査による確認を行なう必要がある」と述べている.ここで第2次取りまとめで用いている処分予定地という用語は,特廃法の精密調査地区に対応しているので,「処分予定地の選定段階での現地調査」は概要調査を指す.

第2次取りまとめでは地質環境の長期安定性に関して,以下の3つの要件を挙げている.

  1. 断層活動の影響(岩盤の破断・破砕,変位)によって,処分システムの所期の性能が損なわれるような場所でないこと.
  2. 火山活動の影響(マグマの貫入,地熱,熱水の侵入)によって,処分システムの所期の性能が損なわれるような場所でないこと.
  3. 隆起・侵食によって,地下深部に埋設した廃棄体が地表付近に接近するような場所ではないこと.

また,処分場の建設可能性と人間侵入に関する要件が設定されており,前者としては,「処分場を建設するうえで十分な規模の岩盤が,適切な深度に分布していること」が要件となり,明らかに適性に劣ると考えられる第四紀の未固結岩が地下深部まで分布しているような地域は除外されるとしている.また,後者については,処分場への人間侵入の可能性をできるだけ低減させる観点から「地下資源が存在する地域でないこと」が要件となるとしている.

特廃法の要件

特廃法では第6条から第8条にかけて立地段階の要件についての条文がある.まず,文献調査地区では,「地震,噴火,隆起,侵食その他の自然現象(以下「地震等の自然現象」という)による地層の著しい変動の記録がないこと」と「将来にわたって,地震等の自然現象による地層の著しい変動が生じるおそれが少ないと見込まれること」の2つの要件が設定されている.ここで,処分システム領域に影響を与える外的要因について,特廃法は「地震等の自然現象」と非限定的は表現を用いている.また,将来予測に加え,過去の変動の評価が重要であることを示している.このほか,特廃法の施行規則(経済産業省令)には,第6条に関連して,「採掘が経済的に価値が高い鉱物資源の存在に関する記録がないこと」と「第四紀の未固結堆積物であるとの記録がないこと」という要件に関する2つの条文がある.

概要調査に対応する第7条には,「地震等の自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと」と第6条と同様に自然現象について記述しており,実際の現地調査により「著しい変動が長期間生じていないこと」の確認が求められている.このほか第7条には「地層等が坑道の掘削に支障のないものであること」と「活断層,破砕帯又は地下水の水流があるときは,これらが坑道その他の地下の施設に悪影響を及ぼすおそれが少ないと見込まれること」と,主として施工の視点からの要件が述べられている.

さらに精密調査に対応する第8条では,「地下施設が当該対象地層内において異常な圧力を受けるおそれがないと見込まれることその他当該対象地層の物理的性質が最終処分施設の設置に適していると見込まれること」,「地下施設が当該対象地層内において異常な腐食作用を受けることがないと見込まれることその他当該対象地層の化学的性質が最終処分施設の設置に適していると見込まれること」,「当該対象地層内にある地下水又はその水流が地下施設の機能に障害を及ぼすおそれがないと見込まれること」と,地質環境について物理学的,化学的,水理学的視点から,それぞれ要件が述べられている.

 

環境要件

原子力安全委員会(2000)は,「高レベル放射性廃棄物の安全性は,例えば長期的に安定な地質環境を選定するなど長期的安全確保対策を講じることと,安全評価による安全確認を行なうことにより確保される」という安全確保の原則のもとで,「地層処分においては,高レベル放射性廃棄物を長期に亘って人間の生活環境から隔離し,公衆の安全確保を図るため,その多重バリアシステムが長期に亘って所期の性能を発揮できるよう,適切な環境要件を満たす処分地が選定されることが重要である」と述べている.原子力安全委員会では,概要調査地区,精密調査地区,最終処分施設建設地のそれぞれの選定段階において考慮すべき環境要件を定めることとしており,これらのうち概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件が2002年に公表されている.

それらは次の5つの項目からなる

  1. 隆起・沈降・侵食
  2. 地震・断層活動
  3. 火山・火成活動
  4. 鉱物資源の賦存
  5. 岩盤の特性

これらうちはじめの3つが長期変動に係る環境要件であり,「処分地は,放射性核種の閉じ込めに好ましく,高レベル放射性廃棄物を物理的に生活環境から隔離でき,地表における自然環境の変化に伴う著しい影響を受けない地質環境を有していることが必要である」という視点から,特に配慮することが必要な事項となっている.

また,概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件についての考え方を次のようにまとめている.「実際に概要調査を行なうまでもなく,明らかに処分地として不適切と考えられる環境要件を示す.その内容は,情報源が既存の文献などに限られたものであることを勘案し,国内の地質環境に対して一律に適用できると考えられる範囲に留める.また,概要調査あるいはそれ以降の調査の結果をもとに判断することが適当と考えられる事項や,処分施設の設計・施工との関連において検討されるべき事項は環境要件にしない.」

また,原子力安全委員会(2002)はこの報告書の中で,考慮すべき環境要件の考え方として「最終処分施設建設地選定後には,国による安全審査で,立地条件の妥当性が審査される」と述べている.高レベル放射性廃棄物の場合は,今後原子力安全委員会で検討される安全審査基本指針及び安全審査指針の中に,環境要件を含め立地条件の評価についての考え方が述べられるものと想定される.なお,高レベル放射性廃棄物の処分に先行して実施されている低レベル放射性廃棄物の処分地に立地に関しては,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(炉規法)に関連して制定された「核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄物埋設の事業に関する規則」(埋設規則)と,原子力安全委員会(1985)の「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」において,安全審査における立地条件の評価の考え方が示されている.

高レベル放射性廃棄物地層処分は,長期にわたる事業であるので,安全確保のためにすでに確立されている技術を適用時点での最新の内容もので見直す作業を行なう方策(Best Available Technology)をとる国が多い.立地条件の評価に際しても,そのときの最新の科学的知見に基づいて判断されるべきである.したがって,とくに将来予測の不確実性が大きい事項については,原子力安全委員会で概要調査地区選定段階でも考慮されたのと同様に,精密調査地区選定段階においても,過度の制約をあたえるような要件の設定は好ましくなく,将来の研究成果が反映される形で,より適切な判断がなされることが望ましいであろう.

長期変動に関する要件設定に共通する基準

第2次取りまとめのサイト選定要件(核燃料サイクル開発機構, 1999),特廃法の第6条から第8条,原子力安全員会(2002)の環境要件は,表現の仕方は異なるが,ともに立地選定において地層処分に適さない地域を除外するための基準が要件という形で述べられている.ここで,概要調査を対象にして,閉鎖後の安全評価について検討するこの技術資料では,精密調査について述べた特廃法の第8条及び,それぞれの中で施工にかかる要件を述べたものは検討の対象から外し,長期変動についての要件について検討する.

すなわち長期変動に関しては,立地選定では安全評価を行なうまでもなく,明らかに地層処分に適さない場所は避けるという選定基準が,特廃法では「地震等の自然現象による地層の著しい変動の記録がないこと」と表現されている.この「著しい変動」の内容を具体的に述べている環境要件および関連する第2次取りまとめの記述を,多重バリアの安全機能との関連でみると,これまでの要件とされてきたものは,いずれも物理的隔離機能にかかる事項であることがわかる.環境要件では,地震・断層活動と火山活動に対して共通して「処分施設及び廃棄体が直接破損する」という表現が用いられている.これに至る自然界の行為は,地震・断層活動では,「岩盤の破砕や破断」であり,火山・火成活動では「マグマの貫入あるいは噴出」である.また,隆起・沈降・侵食では,「処分施設及び廃棄体が地表近くに接近すること」という表現が用いられているが,これは「高レベル放射性廃棄物処分にかかる安全規制の基本的考え方について(第1次報告)」の接近シナリオで述べられている「廃棄物,処分場の露出」とした方が,バリアの喪失という点で理解しやすい.いずれにしても,物理的な隔離機能が大きく損なわれないこと(処分施設・廃棄体の破損,岩盤の破砕・破壊,侵食によるバリアの喪失がないこと)が要件設定の基準となっている.

第2次取りまとめでは,「処分システムの所期の性能が損なわれる」事項として,これらのほかに,断層活動の影響では「変位」を,火山活動の影響では,「地熱」と「熱水の侵入」を取り上げている.これらは,「処分施設及び廃棄体が直接破損する」ことには該当せず,また文献のみから判断することが困難な場合もあることから,概要調査地区選定段階で考慮すべき環境要件とはなっていないが,概要調査を行ない,精密調査地区を選定する段階では,その評価のあり方を決めておかなくてはならない事項であろう.

なお,立地要件に関連して,これらのほかに原子力発電環境整備機構(NUMO)(2002)により,「概要調査地区選定上の考慮事項」が,また,土木学会(2001, 2006)により,「概要調査地区選定時に考慮すべき地質環境に関する基本的考え方」「精密調査地区選定段階における地質環境調査と評価の基本的考え方」が公表されている.これらについては,具体的に個々の評価項目を選定する際に参照していく.

国際FEPと「地質及び気候関連事象」

国際FEP

この技術資料が依拠している国際FEPについて,以下にその概略を述べる.経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA, 2002)では,放射性固体廃棄物埋設処分場の閉鎖後の安全に関する要因を,特徴(Feature),出来事(Event),プロセス(Process)から特定,分類し,要因の一覧を国際FEPリストとして文書に取りまとめている(本技術資料の巻末に付録として添付).廃棄物安全小委員会報告書資料編では,この国際FEPの文書について以下のように紹介している.

国際FEPの位置付けについては,「処分場に関する安全解析の開発における主要な活動は,①関連する「特徴,出来事,プロセス(FEP)」と称される要因の包括的な特定と,②論理的な選別と,③性能評価に含まれるべき要因の選択である.このFEPの特定,分類及び選別のプロセスは,FEP解析と呼ばれている.この活動は,処分場の安全評価に関して選択すべき将来像の特定と選択という,シナリオ開発と呼ばれるものの第1段階である」と説明している.また,国際FEPリストでは,使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の地層処分から低レベル放射性廃棄物の浅地中処分まで幅広く適用できるよう,包括的にFEPが特定,分類されており,個別具体的な安全評価のシナリオを検討する際に,国際FEPを参考にすることができるとされている.国際FEPは図2-1に示すように,4つの階層とその下位にいくつかのカテゴリーが設けられている.

図2-1 国際FEPの構造(OECD/NEA, 2002)
この技術資料では階層1の外的要因のうち「F1.2地質学的プロセスとその影響」「F1.3気候プロセスとその影響」の2つのカテゴリーと,階層2の処分システム領域の「F 2.2地質学的環境」を取り扱う.なお,今回とりあげたFEPの中には放射性核種の挙動にかかる階層3のFEPは含まれていない.地質学的環境における核種移行の評価においては,階層3の放射性核種/汚染物質に関する要因も含めて考察しなければならないが,この技術資料では核種移行評価にまでは言及せず,記述を核種移行の場としての地質環境の調査までに留めている.

 

「地質及び気候関連事象」

国際FEP階層1外的要因の「F1.2地質学的プロセスとその影響」「F1.3気候プロセスとその影響」に含まれるFEPから,わが国で地層処分において処分システム領域に影響を与える長期変動として55の「地質及び気候関連事象」が抽出されている(総合資源エネルギー調査会,2003).これについて山元・小玉(2004)による解説があるので,以下に関連部分を要約する.
国際FEPでは考慮すべき要因の羅列に止まっていること,岩塩に関するFEPなど明らかにわが国には存在しないものが含まれていること,反対に変動帯で想定される要因が細分化されていないなど,日本列島にそのままあてはめることには少々無理もある.そのためFEPごとにそれが影響を及ぼすFEPを特定し,必要に応じて細分化を行いつつ,FEP相互の影響関係を相関関係図にとりまとめることにより,処分システム領域への影響を及ぼし得る事象を特定した(図2-2).

図2-2 地質及び気候関連事象(山元・小玉,2004を一部改変)

 

FEP相関図から導き出した「地質及び気候関連事象」について,事象毎に「メカニズムと現象」「時間的特徴」「空間的特徴」「影響度」を検討している(これらについてはこの技術資料の巻末に付録として,「地質及び気候関連事象の一覧」を添付).さらにその中で同じ事象であっても影響が異なるものについては,可能な限り細分化している.たとえば,「構造運動→地震活動」事象については,発生場所の違いから海側プレートの沈み込み境界付近で起きる大地震,陸側プレートの活断層沿いで起きる大地震,陸側プレートの活断層沿い以外で起きる大地震等に細分化している.活断層沿い以外としたものには,現在認定されていない未知の活断層も含め,既存地震断層の再活動や断層の新生も可能性として考えられる.さらに「構造運動→地震活動」事象を現象の違いから地震動が引き起こす諸現象(泥火山や地すべりの発生)と地震断層の出現(地震を発生させた断層のずれが地表付近に達すること)に分けている.同様に「構造運動→火山・マグマ活動」についても,既存の火山(この場合は第四紀火山)の噴火と,第四紀火山以外の場所に新規に出現する火山の噴火に細分している.さらに大規模火砕流噴火のように極端に影響範囲が広いものについても区分している.その結果,検討された事象の数は55になっている.なお,今回この技術資料を作成するにあたり,「地質及び気候関連事象」の見直しを行い,周氷河現象を追加したので,事象の数は56となっている(表2-1).
図2-2 地質及び気候関連事象(山元・小玉,2004を一部改変)

長期変動に関する調査・評価項目,評価・考慮事項設定の考え方

この技術資料では,閉鎖後の安全評価に必要な,長期変動に関する概要調査の調査・評価項目を,国際FEPによる安全評価事項に基づいて設定する.ここでの調査・評価項目の中の評価には,精密調査地区選定のために行なう評価と,安全審査時の安全評価において行なう評価が含まれる.前者はサイト選定の視点から特廃法の規定に依拠して行なう評価で,その対象となる事項を,この技術資料では概要調査評価事項とする.一方,サイト選定の視点からの評価事項とはならないが,サイトへの影響が想定され,安全審査時には評価が必要になる事項については,サイト影響考慮事項と区分する.なお,概要調査評価事項を用いて調査結果を評価することにより,地層処分に適さない地域は除外されるが,そのことをもって,その評価事項を安全審査時の安全評価において除外してもよいということにはならない.これらの関係についての概略を図2-3に示す.

図2-3 概要調査の調査評価項目と閉鎖後の安全確保との関係

さて,概要調査の調査・評価項目は,概要調査に先立って行なわれる文献調査の内容を踏まえて設定される必要がある.文献調査においては,特廃法第6条の要件及びそれを具体化した原子力安全委員会の環境要件に照らして,既存の文献が検討され,概要調査地区が選定されることになる.これを受けて行なわれる概要調査では,実際に野外調査により取得したデータを用いて,文献情報に基づいて選定された地区が地層処分に適さない地域ではないことを確認する必要があるものと考えられる.

上記の考えに従うと,特廃法第6条の2つの要件(「地震,噴火,隆起,侵食その他の自然現象(以下「地震等の自然現象」という)による地層の著しい変動の記録がないこと」及び「将来にわたって,地震等の自然現象による地層の著しい変動が生じるおそれが少ないと見込まれること」)と,施行規則にある2つの要件(「採掘が経済的に価値が高い鉱物資源の存在に関する記録がないこと」と「第四紀の未固結堆積物であるとの記録がないこと」)は,概要調査において現地調査により確認すべき事項となる.なお,最後の岩盤特性に関する要件は,閉鎖後の安全評価の視点からのものではないので,この技術資料ではこれを除く要件について,調査・評価項目として検討する(鉱物資源については,閉鎖後の安全評価事項ではあるが,長期変動ではないので,この章の6節「地質環境」で検討).同様に,文献調査に適用される原子力安全委員会の5つの環境要件(隆起・沈降・侵食,地震・断層活動,火山・火成活動,鉱物資源の賦存,岩盤の特性)についても,ここでは,鉱物資源,岩盤の特性を除いた他の3項目について調査・評価項目として検討する.

次に,概要調査段階での要件については,特廃法では第7条に「地震等の自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと」という形で述べられている.これについて具体的な調査・評価項目を提案することがこの章の課題である.特廃法は上記のような記述であり,具体的にどのような事項を評価すべきかについて書いていないが,文献調査段階での原子力安全委員会の環境要件の設定を参考にするなら,概要調査段階でも近い将来,原子力安全委員会により具体的な環境要件が設定されるものと予想される.この技術資料を執筆している段階では,精密調査地区選定段階において考慮すべき環境要件は,特定放射性廃棄物処分安全調査会で審議中であり,具体案はまだ示されていないが,概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件を原子力安全委員会がまとめた際に,今後審議すべき検討事項が報告書に併記されているので,この技術資料で概要調査の調査・評価項目および概要調査評価事項,サイト影響考慮事項を設定するにあたり,この記述を随時参照することにしたい.

以上述べてきた考え方を整理すると,長期変動に関する概要調査の調査・評価項目,概要調査評価事項,サイト影響考慮事項は以下のように要約される.
長期変動に関する概要調査の調査・評価項目:概要調査段階で野外調査を実施できる,閉鎖後の安全評価に必要な調査・評価項目であり,国際FEPの処分システム領域に影響を与える外的要因のうち「地質及び気候関連事象」(56の事象)を対象にする.特廃法では第6条及び第7条に書かれている「地震等の自然現象」が調査・評価の対象となる.概要調査の調査・評価項目の対象となる事象は,概要調査評価事項とサイト影響考慮事項の対象になる.

●概要調査評価事項:地層処分システムの物理的隔離機能に大きな損傷を与える事象を対象にして,サイト選定の視点から評価すべき事項で,しかも概要調査の取得データで,その事象が将来起こることの有無が評価できる事項とする.概要調査評価事項は,地層処分に適さない地域あるいは地層処分に適さない範囲を除外する基準となる.
◎サイト影響考慮事項: 概要調査の調査・評価項目で対象とする事象のうち,評価事項で対象にする事象以外の処分システム領域に影響を与える事象を対象にして,安全評価の視点から考慮すべき事項とする.サイト影響考慮事項は,安全評価のほか人工バリアの設計において考慮すべき内容のものである.

なお,この技術資料では評価期間について,次のように扱っている.地質現象の将来予測についての評価を行う場合,評価期間の設定が必要となるが,わが国ではまだ高レベル放射性廃棄物に対して,放射線防護の基準値も評価期間も定められていない状況にある.このような中で,この技術資料では過去の変動履歴とテクトニクスを考慮に入れた外挿法により,できるだけ長い期間が評価できるようにしたいと考えている.過去の変動履歴をもとに将来の活動を予測する場合に,できるだけ長い過去の記録が必要であるが,一方で過去の遡るほど地質現象の記録が断片的になるというジレンマがある.このような観点から,次節で提示する評価事項の中で,火山と活断層については調査により変動履歴を得ることが可能な第四紀の活動を評価対象にしている.しかし,地域によっては十分な記録が取れない場合もあることは考慮しておく必要がある.将来予測の手法については第3章で述べる.

長期変動に関する概要調査の調査・評価項目

前のセクションで述べた特廃法,環境要件の枠組みの中で,この技術資料では国際FEPに従って「地質及び気候関連事象」(56の事象)を用いて,処分システム領域に影響を与える長期変動に関する調査・評価項目を以下のように設定した.

まず,概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件を踏襲するものとして,「侵食・堆積及び海面変化」,「地震活動」,「火山・マグマ活動」(これらの用語は国際FEPに準拠しているため,特廃法,環境要件で用いられている用語と多少異なっているが,内容的にはほぼ対応している)を調査・評価項目とした.これらの調査・評価項目では,文献調査の結果,地層処分に適さない地域が除外されていることの現地調査による確認と,文献調査では評価できなかった事項についての現地調査等による評価(精密調査地区選定のための評価)と,将来の安全審査に向けて必要なデータの取得および解析が求められる.

また,国際FEPに依拠してより幅広い視点から処分システム領域に大きな影響を与える事象について検討した結果,上記の3項目に加え,この技術資料では物理的隔離機能に大きな損傷を与える可能性のある泥火山,マスムーブメントと,プレートの沈込帯に位置するわが国特有な現象としての深部流体を調査・評価項目に追加する.これらの事象を調査・評価項目に加えた理由については,それぞれの調査・評価項目の記述の中及び第3章の関連する項目の中で述べる.

以上の長期変動を対象にした6つの調査・評価項目について,この節では個別の項目ごとに文献調査終了後の状況を想定し,原子力安全委員会でのこれまでの検討内容を踏まえ,評価事項及び考慮事項を設定し,閉鎖後の安全評価の視点から概要調査における現実的な調査及び評価が実施きるようにした.なお,これらの調査・評価項目に関する科学的知見については第3章に,また具体的な調査の進め方については第4章に記述する.

 

侵食・堆積及び海面変化

この技術資料では,国際FEP(OECD/NEA, 2002)の中で,F1.2.07侵食と堆積,F1.3.03海面変化を1つの項目にまとめ,「侵食・堆積及び海面変化」を調査・評価項目とした.ここで海面変化とは相対的海面変化(テクトニックな隆起・沈降と氷河性海面変化)のことであり,環境要件等で用いられている「隆起」はこの海面変化という用語に含まれる.

a)文献調査結果のレビュー

概要調査の前に行なわれる文献調査の結果に基づき,原子力安全委員会(2002)の環境要件と原子力発電環境整備機構(2002)の考慮事項に照らして,地層処分に適さない地域が除外される.

隆起・侵食について原子力安全委員会(2002)では,概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件として,「対象地域の隆起・侵食量からみて,処分場及びその周辺の地質環境に対し著しい変動をもたらすおそれがあることが,文献調査で明らかな地域は,主に,処分施設及び廃棄体が地表近くに接近することを避ける観点から,これを概要調査地区には含めない」と述べている.

また,原子力発電環境整備機構(2002)は,「過去10万年間の隆起の総量が300mを超えていることが明らかな地域は含めないように,概要調査地区を選定します」と述べている.

このような環境要件及び原子力発電環境整備機構の考慮事項に基づき調査結果がレビューされると,文献調査段階では300mを超える著しい隆起量のある地域が除外されることになる.文献調査では明らかに地層処分に適さない地域が除外されるが,侵食はどの地域がサイトになるにしても避けることができない事象であるので,除外されなかった地域でも将来の侵食量についての評価が必要であることはいうまでもない.
b)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会(2002)は,概要調査地区選定段階以降の段階での審議事項として,「隆起・沈降・侵食等により地下水の流動特性や水質が変化し,廃棄体中に含まれる放射性物質が漏出し,周辺の地質環境を移行しやすくなること等の影響」について審議するとしている.地下水との関係については,報告書の中では,今後審議すべき事項として,「隆起・沈降・侵食等により地下水の流動特性や水質が変化し,廃棄体中に含まれる放射性物質が漏出し,周辺の地質環境を移行しやすくなること等の影響」が挙げられている.

気候変動・海水準変動に関しては,概要調査地区選定段階での環境要件を審議した際に,「気候変動・海水準変動による影響については,当調査会において,概要調査地区選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に,設計・施工での対応や処分システム全体の安全性能との関連も踏まえ,その取り扱いを審議する.なお,近年の人間活動に伴う地球温暖化については,当調査会において,国内外における研究の動向にも留意しつつ,必要に応じて審議する」と,この問題の重要性をするとともに,後日審議することとしている.
c)FEPによる安全評価事項

この項目に関連する国際FEP(OECD/NEA,2002)は,「F1.2.01構造運動と造山運動」,「F1.2.02弾性,塑性または脆性的変形(地質構造の変形)」,「F1.2.03地震活動」,「F1.2.04火山・マグマ活動」,「F1.2.07浸食と堆積」,「F1.2.10地質の変化に伴う水文学的/水文地質学的変化」,「F1.3.02地域的で局所的気候変動」,「F1.3.03海水準の変動」,「F1.3.07気候変動に伴う水文学/水文地質学的変化」(それぞれにFEPの内容は巻末の資料を参照)と多数ある.この技術資料では国際FEPの番号にはFを頭に付け,国際FEPから導いた地質及び気候関連の56の事象にはGを番号の頭につけている.

侵食・堆積及び海面変化が処分システム領域に影響を与える事象には,テクトニックな隆起・沈降に起因して侵食・堆積が起こる事象(G2),隆起・沈降が水文地質学的変化をもたらす事象(G1)と地震活動に伴う隆起・沈降に起因した侵食・堆積が起こる事象(G8,G14,G20,G26),同じく水文地質学的変化が起こる事象(G7,G13,G19,G25)に分けられる.また,氷河性海面変化(環境要件では海水準変動と記述)に伴う侵食・堆積を考慮する必要があり(G53,G55),また,氷河性海面変化に伴う水文地質学的変化を考慮する必要がある(G52,G54).さらに地域によっては周氷河現象を考慮する必要がある(G56).
d)概要調査の評価・考慮事項

原子力安全委員会及び廃棄物安全小委員会でのこれまでの検討を踏まえ,概要調査により取得されたデータおよび科学的知見に基づき論理の構築が可能な評価・考慮事項として,以下を提案する.侵食・堆積及び海面変化に関する調査・評価項目では,地層処分システムの物理的隔離機能に大きな損傷を与える事象としての侵食を評価事項の対象とし,また,処分システム領域に影響を与える事象として,相対的海面変化(テクトニックな隆起・沈降と氷河性海面変化)に伴う水文地質学的変化を考慮事項の対象とする.さらに長期的予測の不確実性にかかるテクトニクスの安定性を考慮事項の対象とする.

調査・評価項目:侵食・堆積及び海面変化

●(概要調査評価事項) 予測侵食量が埋設深度以上になり,廃棄体が地表に露出する可能性のある地域は,避ける必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 隆起・沈降および氷河性海面変化による相対的海面変化により,将来放射性物質を閉じこめておく機能に影響を与える可能性のある地下水の流動あるいは水質の変化が予想される地域は,相対的海面変化の影響について考慮する必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 隆起・沈降に影響を与えるテクトニクスについて,将来におけるその安定性を考慮する必要がある.

これらを調査・評価項目に取り上げた妥当性については,第3章「調査・評価項目に関する科学的知見」その科学的根拠を述べるが,以下に上記の評価事項・考慮事項ごとに若干の補足的説明を加える.

廃棄体の地表への露出は避けなければならない.このような状態が現実とならないように,廃棄体の放射能の減衰と侵食予測量を求めて埋設深度が決められる必要がある.但し,この評価を行ない地層処分に適さない地域を除外するには,高レベル放射性廃棄物に関して放射線防護の基準値,評価期間が示されている必要がある.

隆起・沈降及び氷河性海面変化による相対的海面変化の影響は避けて通れない現象であり,特に海岸沿いの地域が調査地区になった場合には大きく考慮すべき事項である.地下水シナリオによる安全評価に必要な変動予測のデータの取得が必要である.なお,考慮事項の文章中にある「放射性物質を閉じこめておく機能」は,地層処分システムの多重バリアとしての放射性物質を閉じ込めておく安全機能を表現したものであり,物理的隔離機能だけでなく,遅延機能,拡散機能等を含むものである.以下の項目においても同様の文章表現を用いているが,意味する内容は上記の通りである.

テクトニクスの問題は「F1.2.01構造運動と造山運動」に関係する部分で,「F1.3.01地球規模気候変動」に起因する事象以外のすべての事象の起因事象である.ここでは現在のプレート運動の枠組みによるテクトニクスの場が,将来においても続いていくことを,安定性という言葉で表現している.

 

地震活動

a)文献調査結果のレビュー

原子力安全委員会(2002)による「概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件」には,「処分施設を合理的に配置することが困難となるような活断層の存在が,文献調査で明らかな地域は,主に,処分施設及び廃棄体が直接破損することを避ける観点から,これを概要調査地区には含めない」との記述がある.

一方,原子力発電環境整備機構(2002)は地震について以下のような評価事項を設けている.

「陸域では空中写真判読等,海域では海上音波探査等に基づいて全国的に調査された文献に示されている活断層がある場所は含めないように,概要調査地区を選定します.
くり返し活動し,変位の大きい活断層等について,次の事項に該当すると判断される場所,範囲は含めないように,概要調査地区を選定します.

(1)全国一律に評価する事項で用いた以外の文献よって認められる活断層がある場所

(2)活断層の幅(断層破砕帯)およびその外側の変形帯に含まれる範囲

(3)活断層の分岐等の発生する可能性の高い範囲

(4)顕著な活動をしている活褶曲や活撓曲」

この環境要件及びNUMOの評価事項に基づき調査結果がレビューされると,文献調査段階では文献により存在が明らかな活断層は確実に除外される.しかし,未発見の活断層が存在している可能性は残されているので,文献調査の結果選定された概要調査地区において,すべての活断層が除外されているということはできない.また,既存断層の将来における活動可能性についての検討も残されている.
b)特廃法による要件
活断層については特廃法で特記されている.精密調査地区の選定要件として,特廃法では第7条に「当該対象地層等において,地震等の自然現象による地層の著しい変動が長期間生じていないこと」に加え,「当該対象地層等内に活断層,破砕帯又は地下水の水流があるときは,これらが坑道その他の地下の施設(次条第二項各号において「地下施設」という.)に悪影響を及ぼすおそれが少ないと見込まれること」という条文がある.この内容は直接的には閉鎖後の安全評価という視点からではないが,活断層が存在する場合には十分な調査が要求されている.
c)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会(2002)では地震に関して今後審議すべき事項として,「岩盤に破断や破砕に伴って卓越した地下水移行経路が形成されることや,岩盤ひずみに起因して地下水圧が変化することなどの地下水流動特性や水質が変化すること等の影響」が取り上げられており,「地震・断層活動による地質環境への影響については,活断層の有無からだけでは十分に判断できない場合も想定される」との指摘がなされている.
d)FEPによる安全評価事項

この技術資料で調査・評価項目にした地震活動が依拠する国際FEPは,「F1.2.03地震活動」,「F1.2.04火山・マグマ活動」,「F1.2.01構造運動と造山運動」,「F1.2.02弾性,塑性または脆性的変形」,「F1.2.06熱水活動」,「F1.2.10地質の変化に伴う水文学的/水文地質学的な変化」である.

これらのFEPにより処分システム領域に影響を与える事象で,地層処分システムの隔離機能を大きく損傷する事象には,地震断層の出現と,泥火山,大規模なマスムーブメントがある.「地質及び気候関連事象」(56の事象)でみると,地震断層の出現については,「海側プレートの沈み込み境界付近での地震」(G4),「プレート衝突に伴う地震」(G10),「陸側プレート内の浅い地震[活断層沿い]」(G16),「陸側プレート内の浅い地震[活断層沿い以外]」(G22)に起因するものとして記述されている.これらのうち「陸側プレート内の浅い地震[活断層沿い以外]」(G22)には,存在しているのも関わらず調査により発見されていない未知の活断層と,将来再活動する可能性のある既存断層を含んでいる.

また地震が誘発する事象でサイトに影響のあるものとして,「液状化現象,泥火山の活動,地すべり(マスムーブメント)の発生」(G28,G29,G30,G31)の事象が識別される.ここで,泥火山および地すべり(マスムーブメント)については,「地質及び気候関連事象」(56の事象)の中では,地震活動との関連で整理しているが,地震が誘因とならない場合もあるので,この資料では別に項目を立てて記述する.また,液状化については,通常は地表近くの部分で起こる現象であるので,埋設深度が300mを超える高レベル放射性廃棄物では考慮する必要はない.たとえ深い場所で起こることがあったとしても,未固結体積物の分布地域は環境要件で排除されるので,液状化現象については,閉鎖後の安全評価に向けて改めて項目立てをする必要はない.

一方,地震による地下水系の変化を通してサイトに与える影響については,地震で生じた地層内の圧力変化,裂か系の形成が地下水流動系に及ぼす現象(G5,G11,G17,G23),地震により移動した熱水が地下水系に注入,混入する現象(G6,G12,G18,G24),地震性の変形が累積することで,地下水系が変化する現象(G7,G13,G19,G25)等が想定される.これらのうち最後の累積的変化については,この技術資料では「侵食・堆積及び海面変化」に関連する水文地質学的変化の中で取り扱っている.
e)概要調査の評価・考慮事項

原子力安全委員会及び廃棄物安全小委員会でのこれまでの検討を踏まえ,概要調査により取得されたデータ及び科学的知見に基づき論理の構築が可能な評価・考慮事項として,以下を提案する.地震活動に関する調査・評価項目では,地層処分システムの物理的隔離機能に大きな損傷を与える事象としての第四紀に活動した断層を評価事項の対象とする.既存断層の再活動性については,第四紀に活動した記録のない断層でも規模が大きい断層の場合,将来再活動した場合に地層処分システムの物理的隔離機能に大きな損傷を与える可能性があるが、かならずしも概要調査で再活動についての有無を判断できるとは限らないので,評価事項とはしない.断層が活動した場合の影響については,安全評価の一環として評価すべきであることから,既存断層の再活動性についてはサイト影響考慮事項の対象とする.

調査・評価項目:地震活動

●(概要調査評価事項) 第四紀に活動した断層の存在が明らかとなった地域では,断層沿いのずれ破壊により廃棄体が直接破損する可能性があり,その断層の影響が及ぶ範囲は避ける必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 第四紀に活動したものでなくとも,地表やその地下に大規模な断層が存在する場合は,その断層の再活動や誘発変位の可能性が想定されるので,ずれ破壊の影響が及び得る範囲を考慮する必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 地震活動により,将来放射性物質を閉じ込めておく機能を著しく低下させるような地下水の流動あるいは水質の変化が予想される範囲では,地震活動の影響を考慮する必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 地震活動に影響を与えるテクトニクスについて,将来におけるその安定性を考慮する必要がある.

これらを調査・評価項目に取り上げた妥当性については,第3章でその科学的根拠を述べるが,以下に上記の評価事項・考慮事項ごとに若干の補足的説明を加える.

第四紀に活動した断層で既知のものについては,文献調査において確認され,その分布範囲は概要調査地区の範囲から外されているが,2000年鳥取県西部地震でも明らかなように,わが国にはまだ確認されていない活断層が数多く存在している可能性が高い.これらの分布する領域は,精密調査地区選定にあたっては回避することが必要である.なお,この技術資料で用いている活断層の定義については第3章で説明する.

第四紀に活動した断層でなくとも,地表やその地下に規模の大きな断層が存在する場合は,ずれ破壊が及び得る範囲を考慮する必要がある.既存断層の再活動性については,サイト影響考慮事項にしているが,調査の結果,再活動の可能性があると判断された場合は,断層の影響の及ぶ範囲を避けることが必要である.プレート境界地震等の大地震で地下水系に変化が生じる場合は,地下水系の変動を十分に把握する必要がある.また,断層近傍において地下水系の変化が予想される地域も地震活動の影響についてのデータを十分取得する必要がある.

テクトニクスの安定性については,現在のプレート運動の枠組みが続くかぎり,現在活動している断層が引き続き活動するものと考えられるが,一方,プレート運動との関係で最近広域応力場が変化している場においては,長期的に見た断層運動の評価の確度が下がる.

火山・マグマ活動

a)文献調査結果のレビュー

原子力安全委員会(2002)では,概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件として,火山・火成活動について「第四紀に活動したことのある火山の存在が,文献調査で明らかな地域は,主に,処分施設及び廃棄体が直接破損することを避ける観点から,これを概要調査地区には含めない」と述べている.

一方,原子力発電環境整備機構(2002)は,火山について,以下の評価事項を設定している.

「将来数万年にわたるマグマの活動範囲の拡がりを考慮し,第四紀火山に中心から半径15kmの円の範囲内にある地域は含めないように,概要調査地区を選定します.

第四紀火山に中心から半径15kmの円の外側の地域でも,将来数万年にわたるマグマの地殻への貫入や地表への噴出が明確に判断される地域は含めないように,概要調査地区を選定します.また,将来も含め,マグマによる著しい熱の影響,強酸性に熱水,あるいは著しい熱水対流が存在すると明確に判断される地域は含めないように,概要調査地区を選定します.」

文献調査結果がこのような評価事項に基づきレビューされると,文献により存在が明らかな第四紀火山は確実に調査地区から除外される.また,顕著な熱の影響がある地域及び火山性熱水の活動が著しい地域も除外される.しかし,将来出現する可能性のある新規火山については文献調査段階では未検討であり,また,火山性熱水の影響については文献での検討は限定された内容となっている可能性が高い.
b)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会(2002)では,火山・火成活動についての今後の審議事項として,「火山フロントよりも日本海側の地域や単成火山の周辺地域での新たな火山の発生の可能性など」と,「マグマの熱等による地温上昇や熱水対流の発生,また,熱水・火山ガスの混入による地下水の水質変化等の影響」を取り上げている.このうち後者については,場所によってその範囲が異なることがあるので,実際に調査を行なわずに地層処分に適さない地域を排除することは困難であるので,火山によるその影響の程度や範囲に留意して,今後検討するとしている.
c)FEPによる安全評価事項

この技術資料で調査・評価項目にした火山・マグマ活動が依拠する国際FEPは,「F1.2.04火山・マグマ活動」,「F1.2.03地震活動」,「F1.2.06熱水活動」,「F1.2.01構造運動と造山運動」,「F1.2.02弾性,塑性または脆性的変形」,「F1.2.10地質の変化に伴う水文学的/水文地質学的な変化」である.

これらのFEPにより処分システム領域に影響を与える事象で,地層処分システムの隔離機能を大きく損傷する事象は,噴火・貫入を伴うものである.これを「地質及び気候関連事象」(56の事象)でみると,「既存火山の噴火・貫入(巨大噴火を含む)」(G33,G34,G40),「新規火山の噴火・貫入(巨大噴火を含む)」(G41,G42,G48)が,これに相当する.

火山・マグマ活動が熱水活動を通してサイトに水文地質学的変化を与える事象は,既存火山の噴火・貫入が熱水活動や地質構造の変形を通して地下水系に影響を与える事象
(G36,G39)と新規火山の噴火・貫入に関連する同様の事象(G44,G47)がある.また,これらのほかにも,侵食や地震活動を通してサイトに影響を及ぼす事象(G35,G37,G43,G45)がある.
d)概要調査の評価・考慮事項

原子力安全委員会及び廃棄物安全小委員会でのこれまでの検討を踏まえ,概要調査により取得されたデータおよび科学的知見に基づき論理の構築が可能な評価・考慮事項として,以下を提案する.火山・マグマ活動に関する調査・評価項目では,地層処分システムの物理的隔離機能に大きな損傷を与える事象としての噴火・貫入を評価事項の対象とする.噴火・貫入は第四紀火山のみでなく,将来出現する可能性のある新規火山についても評価の対象とする.また,カルデラを形成する巨大噴火も含め噴火・貫入に伴う水文地質学的変化とテクトニクスの安定性を考慮事項の対象とする.

調査・評価項目:火山・マグマ活動

●(概要調査評価事項) 第四紀火山の存在が明らかとなった地域は,噴火により廃棄体が直接破損あるいは地表に放出される可能性があり,避ける必要がある.

●(概要調査評価事項) 第四紀火山が存在しなくとも新たに火山が出現し得る地域は,噴火により廃棄体が直接破損あるいは地表へ放出される可能性があり,避ける必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 第四紀火山の周辺あるいは巨大噴火の可能性のある範囲の周辺で,将来放射性物質を閉じ込めておく機能に影響を与える可能性のある地下水の流動,水質の変化あるいは地温の変化が予想される地域では,それらの火山・マグマ活動の影響を考慮する必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 火山・マグマ活動に影響を与えるテクトニクスについて,将来におけるその安定性を考慮する必要がある.

これらを調査・評価項目に取り上げた妥当性について,第3章でその科学的根拠を述べるが,以下に上記の評価事項・考慮事項ごとに若干の補足的説明を加える.

既存の第四紀火山については,文献調査によりそれらの分布域が調査地区から排除されているはずであり,概要調査ではその確認を野外調査で行なうことになる.一方,新規に出現する可能性のある火山については文献調査では未検討であるので,これまでに蓄積されている科学的知見を概要調査において取得した調査データを用いて,将来噴火の可能性のある場所を除外することが必要である.概要調査段階では,地下深部の構造調査等の調査結果に基づき,将来の噴火の可能性が高いと評価される場合と,将来の噴火の可能性はない評価される場合のほか,不確実性が多く残る場合が想定される.火山・マグマ活動についての将来予測に不確実性が大きい場所については,次の精密調査における調査及び評価の課題を整理する必要があるであろう.なお,この項目を評価するには,事前に評価期間が定められている必要がある.

熱水活動についてはカルデラが形成される巨大噴火に伴う活動も含め,十分その影響を考慮する必要がある.熱水活動の処分システム領域への影響について,具体的には第3章で述べる人工バリア設置環境に影響を与える要因との関係で考慮する必要がある.

テクトニクスの安定性については,現在のプレート運動の枠組みが続くかぎり,現在の火山の分布パターンは大局的に見て変化しないものと考えられるが,プレート運動との関係で広域応力場が変化する場合には,個々の火山の活動範囲が変化すること等が予想される.

 

深部流体

この技術資料では,非天水起源の地下水を深部流体と定義する.

a)文献調査結果のレビュー

原子力安全委員会の環境要件にも,原子力発電環境整備機構の評価事項にも深部流体についての記述はないので,文献調査段階では深部流体について検討がなされない可能性がある.
b)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会ではこれまで深部流体についての検討はなされていない.今後の審議予定の中にも現時点では深部流体についての書き込みはない.
c)FEPによる安全評価事項

この技術資料で調査・評価項目にした深部流体が依拠する国際FEPは,「F1.2.03地震活動」,「F1.2.06熱水活動」,「F1.2.01構造運動と造山運動」,「F1.2.02弾性,塑性または脆性的変形」,「F1.2.10地質の変化に伴う水文学的/水文地質学的な変化」である.

わが国において深部流体が処分システム領域の地下水系に影響を与える事象は,「地質及び気候関連事象」(56の事象)でみると,構造運動が熱水活動を引き起こし地下水系に影響を与える事象(G6,G12,G18,G24,G49)であり,この影響としては,地下水の高塩濃度化とCO2,CH4等のガス濃度の変化が想定されている.
d)概要調査の考慮事項

廃棄物安全小委員会でのこれまでの検討を踏まえ,概要調査により取得されたデータおよび科学的知見に基づき論理の構築が可能なサイト影響考慮事項として,以下を提案する.

調査・評価項目:深部流体

◎(サイト影響考慮事項) 深部流体の活動により,将来放射性物質を閉じ込めておく機能に影響を与える可能性のある地下水の水質変化が予想される地域では,深部流体の影響を考慮する必要がある.

◎(サイト影響考慮事項) 深部流体に影響を与えるテクトニクスについて,将来におけるその安定性を考慮する必要がある.

これらを調査・評価項目(考慮事項)に取り上げた妥当性については,第3章でその科学的根拠を述べる.火山のところで述べたことと同様に,深部流体の処分システム領域への影響については,第3章で述べる人工バリア設置環境との関係で考慮することが必要である.

 

泥火山

泥火山とは,泥ダイアピルが地表に噴出して形成される火山に類似した地形のことである.
a)文献調査結果のレビュー

原子力安全委員会の環境要件および原子力発電環境整備機構の評価事項の中に泥火山はない.したがって,泥火山については文献調査では検討が行なわれず,概要調査地区が選定される可能性が高い.
b)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会では,泥火山についての環境要件を設けていない.近い内容のものとして,異常間隙水圧が取り上げられており,今後必要に応じて審議することとなっている.一方,泥火山については土木学会では注目しており,「施設の破壊や核種の封じ込め機能を低下させるなどの影響」を理由に避けるべきとして,「考慮すべき要件」としている.
c)FEPによる安全評価事項

OECD/NEAの国際FEPには,泥火山についてのFEPはないが,「F1.2.09 岩塩のダイアピル作用と溶解」で,岩塩以外のダイアピルについても言及している.関連するFEPとしては,「F1.2.03地震活動」,「F1.2.01構造運動と造山運動」,「F1.2.06熱水活動」がある.

廃棄物安全小委員会(総合資源エネルギー調査会, 2003)においては,泥火山をわが国での地層処分においては評価すべき事象として捉え,「地質及び気候関連事象」の中では,地震活動の中に泥火山を位置づけている(G28,G29,G30,G31).わが国では泥火山は北海道新冠と新潟県松代,紀伊半島沖(熊野泥火山)等に存在している..新冠泥火山が近年地震に伴って活動していることから,廃棄物安全小委員会報告書では地震活動の中に位置づけているが,世界的に見た場合は自発的に活動する例が多いので,この技術資料では地震活動から独立させて項目立てを行った.
d)概要調査の評価事項

廃棄物安全小委員会でのこれまでの検討を踏まえ,概要調査により取得されたデータおよび科学的知見に基づき論理の構築が可能な評価事項として,以下を提案する.

調査・評価項目:泥火山

●(概要調査評価事項) 第四紀に活動した泥火山の存在が,概要調査で明らかとなった地域は,廃棄体が直接破損あるいは地表へ放出されることが懸念されるので,避ける必要がある.

泥火山を調査・評価項目に取り上げた妥当性については,第3章でその科学的根拠を述べるが,以下に評価事項について若干の説明を加える.
わが国で泥火山が分布している地域は限られているので,立地段階でこれらの区域を除外するのは,それほど困難なことではない.泥火山周辺の異常間隙水圧の分布域を避けることで,泥火山の影響は回避できる.

マスムーブメント

マスムーブメントとは地表の構成物質がそれ自体の重みで塊(マス)として動く現象で,地崩れ,地すべり,クリープからなる.
a)文献調査結果のレビュー

マスムーブメントは原子力安全委員会による環境要件にもなく,また,文献調査段階のNUMOの評価事項にもないので,未検討の状況で概要調査にはいる.
b)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会の環境要件において,マスムーブメントは未検討であり,今後の審議予定の中にも現時点ではマスムーブメントについて書き込まれていない.
c)FEPによる安全評価事項

OECD/NEAの国際FEPにおいて,この項目に関連する国際FEPは,「F1.2.03地震活動」,「F1.2.01構造運動と造山運動」,「F1.2.02弾性,塑性または脆性的変形」,である.廃棄物安全小委員会(総合資源エネルギー調査会, 2003)においては,地すべり(マスムーブメント)をわが国での地層処分においては評価すべき事象として捉え,「地質及び気候関連事象」の中では,地震活動の中に地すべり(マスムーブメント)を位置づけている(G28,G29,G30,G31).マスムーブメントは地震に誘発されて発生する場合もあるが,必ずしも全てがそうではないので,この技術資料では地震活動から独立させて項目立てを行った.
d)概要調査の評価事項

廃棄物安全小委員会でのこれまでの検討を踏まえ,概要調査により取得されたデータおよび科学的知見に基づき論理の構築が可能な評価事項として,以下を提案する.

調査・評価項目:マスムーブメント

●(概要調査評価事項) 大規模なマスムーブメントの徴候が概要調査で明らかとなった地域では,斜面変動に伴うクリープやずれ破壊により廃棄体が直接破損することが懸念されるので,クリープやずれ破壊の影響が及ぶ範囲は避ける必要がある.

マスムーブメントを調査・評価項目に取り上げた妥当性については,第3章でその科学的根拠を述べるが,以下に若干の補足的説明を加える.

わが国では300mを超える深度でも大規模クリープは発生するので,調査地区が山岳地域である場合にはマスムーブメントは評価しなければならない事項になる.一方,他の調査・評価項目と比較した場合に,現在の地表近傍の地質体を対象にした短期的な現象が評価の対象となっている.長期的には侵食の中で考慮すべき事項である.

地質環境に関する調査・評価項目

この節では,「地質環境」という用語を,国際FEPの「F2.2地質環境」に依拠して,地質環境の特徴(Features)及び地質環境におけるプロセス(Processes)を内容とする言葉として用いる.

 

調査・評価項目の設定の考え方

地質環境に関する調査・評価項目設定の考え方は,長期変動に関する調査・評価項目設定の考え方と多少異なる点がある.長期変動に関しては,特廃法に記述されている事項に関して概要調査の結果が評価され,地層処分に適さない地域が除外されることになるが,地下水シナリオでの安全評価のための調査の対象となる地質環境に関しては,概要調査段階では特廃法に安全評価の視点から指示されている評価事項はない.したがって,長期変動に関する調査・評価項目で設定したような調査・評価項目の細分化や評価・考慮事項の設定は,地下水シナリオによる安全評価の対象としての地質環境に対しては行なわず,ここでは将来の安全評価に向けて国際FEPに基づき,概要調査段階で必要な調査の内容について検討する.

なお,地質環境のFEPの中には「F2.2.13地質資源」という項目があり,特廃法の施行規則に要件として書かれている鉱物資源がこれに該当する.鉱物資源は,国際FEPの体系の中で階層1の外的要因の人間侵入にも関連する項目であり,社会学的な分析等を含め多くの視点から検討すべき内容であるため,全体的な視点からの評価は地質を扱っているこの技術資料の範囲を超えているが,鉱物資源の存在の有無の確認は,概要調査段階での地質環境の調査の中で可能であるので,この事項のみをここで検討する地質環境の中での特廃法施行規則の要件に対応した概要調査評価事項とする.

特廃法及び関連する施行規則には,鉱物資源以外にも地質環境に関連して文献調査段階及び概要調査段階で評価すべき事項が書かれている.これらはいずれも施工上重要な事項であるが,閉鎖後の安全評価事項ではないので,この技術資料ではこれらについて評価・考慮事項とはしていない.
以上のことより,この技術資料では地質環境に関する概要調査の調査・評価項目および概要調査評価事項を,以下のように設定する.
地質環境に関する概要調査の調査・評価項目: 概要調査段階で野外調査を実施できる,閉鎖後の安全評価に必要な調査・評価項目であり,国際FEPの処分システム領域のうちF2.2地質環境(地下水シナリオでの安全評価に関連するFEPと人間侵入に関連するFEPがある)を対象にする.特廃法には地下水シナリオによる安全評価に関して概要調査段階で評価が求められている事項はないので,これに関連した調査・評価項目の細分化は行なわず,また評価事項・考慮事項の設定は行なわない.一方,人間侵入に関連する「鉱物資源」は,文献調査段階での特廃法の施行規則で評価すべき項目を引き継ぐ形で評価事項とする.
概要調査評価事項: 人間侵入の可能性がある鉱物資源の確認を評価事項にする.特廃法との関係では,地層処分に適さない範囲を除外する基準となる評価事項である.

地質環境

概要調査の調査・評価項目である地質環境について,以下に文献調査終了後の状況を想定し,原子力安全委員会でのこれまでの検討内容を踏まえ,国際FEPから閉鎖後の安全評価事項を抽出し,概要調査において具体的な調査内容の策定に対応できるように以下の検討を行なう.なお,地質環境に関する具体的な調査の進め方については第4章に記述する.
a)文献調査結果のレビュー

文献調査では,地質環境に関して鉱物資源と未固結堆積物が特廃法の施行規則の要件及び環境要件として評価され,それらが除外された地域として概要調査地区が設定される.その他,地質環境について文献調査では,付加的に評価する事項として,地層の物性・性状,地下水の特性等についての調査を行なうことが,NUMOにより検討されている(原子力発電環境整備機構, 2004).

概要調査地区が設定にあたっては,上記のサイト選定の要件を満たしていることとともに地層処分の安全確保で重要な安全評価での視点,すなわち地下水シナリオでの安全評価を行なうという視点からの調査地区の設定を,あわせて考えていく必要がある.

b)原子力安全委員会による今後の検討

原子力安全委員会(2002)では,概要調査地区選定にあたり考慮すべき環境要件の設定を行なった際に,概要調査以降において検討すべき内容を報告書で述べている.この中で,地下水シナリオによる安全評価に関連あるものとして,地下水の流動特性と地下水・岩石の地化学特性について,以下のように記述している.

「地下水の流動特性は,廃棄体中に含まれる放射性物質が漏出し周辺の地質環境へ移行するという,いわゆる安全評価上の地下水移行シナリオにとって重要な要件である.しかしながら,その点に関して概要調査地区選定段階において得られる情報は極めて不十分と考えられる.したがって,地下水の流動特性に関しては,概要調査あるいはそれ以降の調査において,十分に調査する必要があり,当調査会において,概要調査地区選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に,設計・施工での対応や処分システム全体の安全性能との関連も踏まえ,その取り扱いを審議する.」

「例えば,酸化還元状態・pH等の地下水の化学特性や岩石の鉱物・化学組成などの地化学特性は,人工バリアの金属材料の腐食速度,放射性物質の地下水への溶解性,放射性核種の地下水中存在形態や天然バリアへの収着による移行遅延などに影響する.これらの事項は,いずれも安全評価における地下水移行シナリオにとって重要な要件である.しかしながら,その点に関して概要調査地区選定段階において得られる情報は極めて不十分と考えられる.したがって,地下水・岩石の地化学特性に関しては,概要調査あるいはそれ以降の調査において,十分に調査する必要があり,当調査会において,概要調査地区選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に,設計・施工での対応や処分システム全体の安全性能との関連も踏まえ,その取り扱いを審議する.また,コロイドなどの影響についても,同様に,当調査会においてその取り扱いを審議する.」

また,岩盤の特性については,以下の記述がある.

「第四紀の未固結堆積層を除く岩盤の特性の違いによる影響については,“実際に概要調査を行なうまでもなく,明らかに処分地として不適切と考えられる環境要件を示すこと”は困難なことから,概要調査地区選定段階において考慮すべき環境要件とはしないが,断層破砕帯の分布などに係る地質構造,岩盤の規模や形状,岩盤に熱や力学に関する特性,及び岩盤の付近質性などに留意し,当調査会において,同選定段階以降の段階で考慮すべき環境要件の検討の際に,設計・施工での対応や処分システム全体の安全性能との関連も踏まえ,その取り扱いを審議する.」
c)FEPによる安全評価事項

地質環境に係る安全評価事項については,処分システム領域に影響を与える外的要因のように,廃棄物安全小委員会においてスクリーニングや細分化などが検討されていないので,ここでは国際FEPをそのまま用いることにする.

地質環境に関する国際FEPは階層2の処分システム領域の中にまとまった形で記述されている(「F2.2地質環境」).これらのうち地質環境の構造的側面に関連するものとしては,「F2.2.01掘削で影響を受けるゾーン・母岩」,「F2.2.02母岩」,「F2.2.03地質ユニット」,「F2.2.04不連続性・大スケール(地圏内)」,「F2.2.05汚染物質移行経路の特性(地圏内)」がある.一方,地質環境の動的側面に関連するものとしては,「F2.2.06力学プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.07水理学/水文地質学的プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.08化学/地球化学的プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.09生物学/生化学的プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.10熱的プロセスとその状態(地圏内)」が記述されている.また,これらのほかに「F2.2地質環境」の中には,「F2.2.11ガス源とその影響(地圏内)」,「F2.2.12検出できない特徴(地圏内)」,「F2.2.13地質資源」がある.ここで「地質資源」の中には,概要調査地区選定時の環境要件である鉱物資源が含まれている.
d)概要調査における地質環境の調査内容

特廃法および原子力安全委員会の環境要件にかかる検討事項を踏まえ,閉鎖後の安全評価に向けた,概要調査における地質環境の調査内容について国際FEPに依拠して記述する.

地下水シナリオによる安全評価に向けて,概要調査及び精密調査で必要なデータが取得されることになるが,概要調査段階でどこまでの調査を行なえばよいかについての規定はない.制約条件としてあるのは特廃法第7条の条文及び関連する施行令にある「概要調査の方法」である.これまでに述べてきたことを踏まえ,また概要調査が安全評価のための初期段階での調査であることを考慮し,この技術資料では概要調査の調査内容を以下のように提案したい.すなわち,概要調査段階での地下水シナリオによる安全評価に向けた地質環境に関する調査を,(1)地下水システムの解析と概念モデルの構築,(2)地質環境の初期状態であるベースラインの把握とする.また,人間侵入に関する安全評価に向けた地質環境に関する調査を,(3)鉱物資源がないことの確認とする.これらの調査内容は,国際FEPによる安全評価事項との関連で,以下のように整理される.

(1)地下水システムの解析と概念モデルの構築に関連する国際FEPは,F2.2地質環境のカテゴリーに含まれるすべてであるともいえるが,概要調査が調査の初期段階であることを考慮し,モデルに統合する.データを地質および水文地質に絞り込むと,FEPとしては,「F2.2.01掘削で影響を受けるゾーン・母岩」,「F2.2.02母岩」,「F2.2.03地質ユニット」,「F2.2.04不連続性・大スケール(地圏内)」,「F2.2.05汚染物質移行経路の特性(地圏内)」及び「F2.2.07水理学/水文地質学的プロセスとその状態(地圏内)」が該当する.

地下水シナリオにより安全評価に向けて,調査の初めの段階で取り組む主要な課題の1つが,地下水システムの概要の把握であろう.地質調査,物理探査,地化学調査,水文調査等により対象となる地域のデータを取得し,次に行なわれる精密調査の計画立案に活用できる地下水システムの概念モデルを構築することが,少なくとも概要調査現段階で行なわれなくてはならない事項であろう.

地下水システムの解析と概念モデルの構築については,第4章で詳しく述べる.

(2)地質環境の初期状態であるベースラインの把握に関連する国際FEPは,「F2.2.06力学プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.07水理学/水文地質学的プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.08化学/地球化学的プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.09生物学/生化学的プロセスとその状態(地圏内)」,「F2.2.10熱的プロセスとその状態(地圏内)」である.これらのFEPに関連して取得されるデータは,必要に応じて上記の概念モデルに組み込まれていくものでもある.

概要調査における「プロセスとその状態」に関する調査では,坑道の掘削を伴う本格的調査(精密調査)開始前の地下の状態の把握が,優先度の高い課題である.ここで概要調査のデータは,まだ地下に大きな改変が加えられていない状態で取得されているので,ベースラインデータと呼ばれる.また,このベースラインは閉鎖後の核種移行を含めた地下で進行するプロセスのベースラインでもある.概要調査の次のステージでは坑道を掘削して地下施設が作られるが,ここで坑道掘削による影響として,水理プロセスでは水位の低下が想定され,力学プロセスでは掘削で影響を受けるゾーン(EDZ)の形成,化学プロセスでは通気による酸化,生物化学プロセスでは,工事による微生物汚染,熱プロセスでは通気された坑道の配置による熱構造の変化等が生じることになる.ベースラインの把握に必要な調査の具体的な内容については,第4章に記述している.

(3)鉱物資源の有無の確認に関連する国際FEPは,「F2.2.13地質資源」である.このFEPは地圏内の天然資源に関するもので,特に将来処分場の近くで,調査や掘削を行なわせる原因となるものである.これについては前述したように,特廃法施行規則の要件に対応した概要調査評価事項とする.

具体的な調査については第4章に記述している.

調査・評価項目:地質環境

●(概要調査評価事項) 経済的価値のある鉱物資源の存在が概要調査で明らかになった範囲は,将来において人間侵入が懸念されるので避ける必要がある.