「B2Bのサービス化戦略」出版記念 Webinar
パネルディスカッション Q&A

当日回答できなかった質問
Q 本日ご提示のあった事例は、欧州のサーキュラーエコノミー実現のために出てくる事例と同じですが、本書の中では、サーキュラーエコノミーの視点から、サービス化により資源を循環することや環境負荷低減につながることは、顧客ニーズに合うということについて言及されていますでしょうか?サーキュラーエコノミーとの関係性について教えて頂けますと有り難いです。よろしくお願いたします。
A 本書の中で直接サーキュラーエコノミーという単語を使っているわけではありませんが、サービタイゼーションとサーキュラーエコノミーは現象的には重複する面が多々あります。環境視点から見るか、ビジネス変革の視点から見るか、切り口の違いだと考えます。顧客にとっての価値の中に、環境負荷低減は当然あると考えられますので、顧客ニーズとは合致していると考えられます。企業の目的としても、環境負荷低減とビジネスの成功はどちらが優先というのではなく、また、どちらかがどちらかの手段ではなく、両立が目指されるべきものかと思います。(戸谷)
Q 製品(ハード)の場合、品質を保つための物性基準が設けられていますが、サービスで顧客と共創していくとなると、サービスの品質はどのように捉えたら良いでしょうか?
A サービスの品質は、製品ほど画一的な基準はないため、基本的に顧客と共に求められる基準を見出していく工程が必要となります。講演中にも話題に上がりましたが、特に顧客の事前期待をうまくコントロールしつつ、サービスの質の管理を行なっていくことが事業、顧客満足双方の側面から重要となります。(渡辺)
Q サービス化に必要な能力というと、「既存の製品販売事業とのカニバリを回避する」といった、企業内での組織間の利害調整や、戦略の合意といった部分が思い浮かびますが、この困りごとへの対応策について話題がありますでしょうか?
A ヤマハ発動機のシースタイルの事例(事例12-3)が該当すると思います。レンタルボートビジネスを本格立ち上げすることが、プレジャーボートの新艇販売に悪影響を及ぼすという反発があったものです。トライアル利用者を増やすことが、プレジャーボート市場の将来に必須であることを説明し、戦略として合意したものです。社内のそういった利害調整については、第三章、第五章で取り上げています。(戸谷)
Q アンケートの件ですが、企業自身がサービスをやっていることを認識しているのでしょうか?サービスをやっていない企業と、サービスをやっているが認識していない企業があると思います。
A アンケートの質問では「サービスをやっていますか?」という直接的な質問ではなく、具体的な事業内容を質問しています。例えば、「製品を機能させるサービス(設置、セットアップ、ヘルプデスク、修理、点検など)を実施していますか」や「顧客毎に最適な製品利用方法を提案するサービス(利用状況の記録・フィードバック、使い方の改善など)を実施していますか」というような感じです。そのような業務をサービスだと認識していなくても、実施していれば、事実確認として「YES」と回答いただけるようにアンケートが設計されています。それに基づいて企業ごとのサービス化段階を分析しております。(持丸)
Q 「ビジネスドメインの変革」で、「コストベースから、顧客価値ベースへ」を、できればもう少し詳しく知りたいと存じます。具体事例など。この変革は、なかなか難しく、時間がかかると感じます。業種によっても、取組み方が違うと思います。
A コストベースの価格設定とは一般的な価格設定方法の1つで、サービスを提供する企業が費やした時間や、使用した材料の量に基づいてコストを計算し、それにマージンを上乗せして課金する方法です。一方、顧客価値ベースとは、サービスを提供することによって顧客にもたらされる効果や成果を顧客と共に分析し、価格を決めて課金する方法です。例えば、発電設備の稼働率保証サービス、車両のフリートマネジメントサービスなどがあげられます。顧客価値ベースの価格を設定するには、顧客のビジネスプロセスを理解する能力や、顧客にとっての成果を明確にする能力などが必要となってきます。業種によって取り組み方は違えど、顧客価値ベースの価格を設定する基本的な考え方は、共通的なものであると考えています。(戸谷)
当日回答した質問
Q 価値を、価格として実現していく際に鍵となるのは、Yesといわせる能力でなく、Noという能力だという点について、もう少し説明してください。Noといっても需要される価値に価格をつけて買ってもらうようにする、ということですか。売り手市場でないと、Noというと、そこで取引が終わってしまわないか、という不安が常にありますが。
A モノの財のセールスでは、顧客を(狩猟のように)追い詰めて最後の一押しで顧客「買います」と言わせる能力が重要とされています。一方、サービスでは、そのような方法ではなく、顧客の期待値をうまく管理する能力が求められます。具体的には、サービス契約で対象範囲が確定していても、それを超えた”やってくれるだろう(例:すぐに来てくれる、明日までに修理してくれる、など)”という期待値を顧客が持っていることが多々あります。このような契約を超えた要求が顧客から来た場合、顧客が不満にならないように営業担当がうまく断る能力が必要となります。(戸谷)
Q サービス化に必要なリソース「製品開発製造に関するリソース」「製品の営業部隊と流通・販売ネットワーク」は、従来の製造・販売の際にも重視されてきたリソースだと思います。そこで、サービス化においても同様な観点で重要なのか、あるいはサービス化に向けては全く違うポイントがあるのかを教えていただけますか?
A まず「製品開発製造に関するリソース」に関して、サービス化することでR&Dの重要性が下がるのではなく、むしろサービスを含んだ新しいソリューションを提供する際の、強力なドライバーになり得る点がポイントとなります。R&Dの成果によって、製品単体の価値が上がるだけではなく、サービスも含む事業全体の価値が上がる点が重要です。その点を押さえた上でR&Dの在り方を考慮いただければと思います。二点目の「営業部隊の重要性」について、サービス化においては、お客様と一緒に価値を生み出すこと、そこで得られた情報をR&Dや事業企画等とシェアし、より一体的に進めることが営業部隊に求められます。外部チャネルの巻き込みも重要です。(渡辺)
Q 「リソースと能力」から、どうやったら「差別化」につながるのでしょうか?
A 競合との比較において、今回ご説明した全てのリソースと能力で優れている企業は必ずしも多くはないと思います。自社の強みとなるリソースと能力をしっかり蓄え、育てることによって、他社と比べて、優れたソリューションの提供やコスト面で競争優位性が出て、差別化に繋がります。(渡辺)
Q 競合が無償サービスを提供している状況で、有料サービスへ変更しにくい現状があります。ご経験や事例から、サービス化がこういった状態で実現できることはありますでしょうか?
A サービスを有償で提供するためには、個々のサービスに価格をつけるのではなく、顧客の価値を起点にひとつのパッケージとみなすことが大事な視点になります(コスト積み上げ方式→顧客価値ベースでの価格設定)。そのためには、自社の提供サービスが競合のサービスと本当に同じかどうか、自社の提供サービスの中に顧客にとって不要なサービスが含まれていないかどうかなどを整理する必要があります。その上で、顧客が必要とするサービスについては有償化の交渉をすすめることになります。その際、顧客によって必要なサービスは異なる点に注意が必要です。(戸谷)
Q サービスの開発能力のご説明で、バックオフィスの標準化とありました。バックオフィスの標準化とは具体的にどのような事項が含まれるのでしょうか?
A 今回挙げさせていただいたので一番分かりやすいのは、モジュール化です。提供するサービスをいくつかの標準化されたモジュール(部分)に分けておいて、それを組み合わせることで、異なるニーズのお客様に対して適したサービスをより低価格に提供できる、という方法が一例です。(渡辺)
Q 飲料・食品分野は、サービス提供の割合が最も少なかったのですが、何かこの業界はサービス化しにくいなどの特徴があるのでしょうか?納品後のスイッチングコストの高い業種ほどサービス化しやすく、商品の変更のしやすい業種例えば飲料や食品ほどサービス化しにくい印象がありますがそういった理解でよろしいでしょうか?
A 調査結果より、飲料・食品業界は、他の業界よりも中小・零細企業の割合が高い傾向が見られます。そのため、サービス化が進んでいない理由の1つとしてリソース面の不足が考えられます。また、飲料・食品業界は素材産業でもあり、同じ素材産業である化学業界もサービス化はあまり進んでいません。機械業界などと違って、素材産業のような製品を顧客へインストールできない業界は、得られたデータなどから顧客に対する知識を蓄積することで顧客へのソリューションを作ることでスイッチングコストを高めることができますし、その必要があります。その際、データは電子的なものだけでなく、営業担当の持つ定性的な情報も活用し、サービスに適用させていくことが重要になります。(戸谷)
Q ヨーロッパと日本でサービタイゼーションは、同質と考えて良いでしょうか?日本やアジアは、少し考え方が異なる感じもしますのですが。海外と比較して、日本ならではのサービス提供の難しさはありますでしょうか?逆に、日本流サービス化が海外では通用しない事例は考えられますでしょうか?
A サービタイゼーション(製造業のサービス化)に関する考え方や問題の構造は、基本的に欧州も日本も同じです。業界の商習慣やその企業の歴史(文化)による違いはあると思いますが、日本だから製造業のサービス化は難しいということではないと考えています。例えば、「サービスを有償化するのは難しい。これは日本特有のものである。」と言われることが多いですが、そこは欧州でも苦労しています。ただ、業態によって(例えば、医療など)、各国の標準や制度に違いがあるので、その内容を踏まえた形でのサービス化を考える必要はあります。一方、日本の場合、現場に溜まっている知恵や知見が多いことが特徴ですので、それらをもっとビジネス全体に活かすようなサイクルが出来上がってくると、サービス化により有益になるのではないかと考えます。(戸谷)
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