平成26年5月更新
サービス産業は経済の7割近くを占める重要な産業であり、今後もその重要性は高まり、一層の市場拡大が見込まれています。製造業においても、製品のライフサイクル全体設計の視点や使用価値向上の視点から、サービス機能への関心が高まっています。このような背景の中で、サービスの提供において、サービスの品質を高め顧客満足度を高めていくと同時に、サービスのコストを低減し提供者側の価値(収益)を高めていくことを両立して実現する「サービス・イノベーション」が求められています。
この「サービス・イノベーション」を理論的に支える科学的研究や、技術的に支援するサービス工学の研究が国内外で進められています。しかしながら、これらの科学的理論や工学的技術が実際に現場に導入されて、活用されている事例は、まだまだ数が少なく限定的です。研究者(大学等)と利用者(産業)の情報共有、連携が十分でないことが一因と考えています。研究者が技術の詳細情報を提供するとともに、利用者側からも技術導入の障壁や期待される技術開発、導入事例などを紹介いただき、ニーズとシーズのマッチングを進めていくことが必要です。
そこで、産業技術総合研究所サービス工学研究センターでは、研究者(大学等)と利用者(産業)の情報共有、連携を推進し、サービス工学技術の導入と活用を促進するために、「サービス工学コンソーシアム」を設立することといたしました。本コンソーシアムは、サービス工学技術に関連する情報の共通認識形成を図りつつ、サービス工学の研究開発を産学官が連携して推進する体制を構築し、サービス工学をサービス現場に適用しようとする企業、技術をコンサルティングに利用したりソフトウェアとして提供する企業、技術の基盤研究を担う大学・研究機関の技術交流の場を提供することを目的とします。コンソーシアム活動を通じ、先端研究、技術シーズ、現場ニーズのマッチングを促進し、サービス工学全般の一層の技術向上と普及を促進していきます。なによりも、このコンソーシアムが「世界で進むサービス工学研究の定点観測拠点(=ここを見ていれば世界が分かる)」として機能することを目指していきます。
なお、ここで、「サービス工学」とは、サービスの現場における顧客、従業員、プロセスを「観測」し、それを「分析」して、その結果に基づき顧客、従業員、プロセスを再「設計」し、「適用」するための技術体系を指しています。産総研ではサービスに関わる人(顧客、従業員、経営者)に注目し、その観測とモデル化の技術を中心に「サービス工学」研究を進めています。ただし、コンソーシアムでは、産総研のアプローチにこだわることなく、広く「サービス工学」を紹介していく予定です。
サービス工学コンソーシアムは、主に下記の3つの機能を持ちます。
会員側から見たとき、その活動は大きく3つに分けることができます。第一は、情報収集です。招待講演、学会報告、産総研や公的研究機関所属の個人会員からの研究報告などがこれに相当します。コンソーシアム機能の(2)に対応する活動です。第二は、技術討論会です。法人会員メンバーから、技術への期待、導入の障壁、あるいは、導入実績や事例等を紹介いただき、それをベースに参加メンバーでの気楽なディスカッションを行います。コンソーシアム機能の(1)に対応する活動です。また、平成26年度から、特定のトピックにフォーカスし、より密な議論や具体的な実践を行う研究会を設置します。産学官連携を促進するために、実際のサービス現場やそこでのデータを用いて、サービスの分析の実践を行う「データ活用プラットフォーム研究会」、各業種におけるサービス化のあり方、各種デザイン・設計手法の企業での活用方法を、ワークショップ等を通じて検討する「サービスデザイン研究会」の2つの活動を行います。第三は、サービス工学の技術ロードマップの作成です。5年、10年というスパンを見据え、社会で何が起きそうか、それに対応するようにどのような技術開発を推進していくべきか、それを見据えて企業側で何を準備していくべきかを議論していきます。年度末には技術ロードマップとしてとりまとめ、経済産業省へ提案することを目標とします。コンソーシアム機能の(3)に対応する活動となります。
コンソーシアムは産総研サービス工学研究センターが中核となって運営していきます。産総研の規定するルールに則って、設立、運営いたします。外部講師の謝金や旅費、また、国際会議へ産総研メンバーを派遣するための参加費や旅費、さらに、コンソーシアムの運営のための非常勤職員人件費などは参加会員の皆様からいただく参加費によって賄われます。これらの使途は、産総研のルールに基づきコンソーシアムの総会によって決議され、その決議に則って運用されます。会員には、サービス事業者、製造事業者、コンサルティング事業者などの法人会員の他に、大学や公的研究機関の研究者が参加するための個人会員資格を用意します。前者には会費(全ての活動に参加できる法人A会員(年額20万円)、講演のみに参加できる法人B会員(年額5万円))をお願いするとともに、総会での議決権を付与します。後者は会費無料としますが、年1回程度、会合で研究報告をいただくかたちにします。また、ユーザコミュニティを巻き込み、情報交換を活発化するため、産総研と情報開示契約を締結した法人又は団体には特別会員資格(原則1年間会費無料、議決権なし)を用意します。