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【地域トピックス−岡山県の海砂採取全面禁止,その後−】

昨年(平成15年)4月から岡山県は自県の行政区画海域内において海砂採取の全面禁止措置を施行しましたが,これは本ホームページの「最近のトピックス」(拙文)で紹介しました.

本条例の施行によって同県内各地の土木・建築現場では,細骨材として貯砂されている海砂を使い切れば海砂の代替え細骨材へ急速に切り替えが進捗する,と推察されました.

海砂採取禁止発効日の昨年4月から10ヶ月を経た現在,岡山県内で代替え細骨材への切り替えは円滑に進捗しているのでしょうか.

海砂の代替え細骨材として最も適材とされるのは砕砂ですが,その砕砂の需給動向を示す2種類の統計資料に基づき,海砂から砕砂への移行状況を探ってみました(土石製造品のうち,砕砂などの種別の移出入量については統計資料がないため,土石製造品の需給動向を示す下記の統計資料から砕砂の移出入状況を推察しました.なお,下記統計資料から砕砂の移出入量を正確に把握することは困難です).

岡山県における昨年(平成15年)1月〜9月期の3ヶ月毎のコンクリート用砕砂の生産量は約27万トン前後で,コンスタントに生産されています.この生産数量は前年(平成14年)同期と比較しても殆ど変動なく推移しているので,同県では平成15年4月以降9月までに砕砂の増産体制は採られていない,とみて良いでしょう.

それでは,同県で砕砂が増産されなかった事由は何でしょうか.唯一考えられるのは,『昨今の長引く経済不況下で土木・建築工事の着工件数が激減して,細骨材の砂の消費量が落ち込んでいる』からかも知れません.しかし,統計資料によれば岡山県における平成15年1月〜9月期までの3ヶ月毎の生コンクリート用砕砂消費量は上げ基調にあり,同県の砕砂の消費は落ち込んでいません(約14.9万トン/1〜3月期 → 約17.3万トン/4〜6月期 →約17.4万トン/7〜9月期).

一方,岡山県に隣接する2,3の府県における平成15年1月〜9月期の3ヶ月毎のコンクリート用砕砂生産量と,同期の生コンクリート用砕砂消費量は次のようになっています.

広島県の平成15年1月〜9月期の3ヶ月毎のコンクリート用砕砂生産量及び生コンクリート用砕砂消費量は,ともに漸減しています(砕砂生産量:約12万トン/1〜3月期 → 約11.4万トン/4〜6月期 → 約10.2万トン/7〜9月期.砕砂消費量:約24.8万トン/1〜3月期 → 約23.4万トン/4〜6月期/ → 約22.7万トン/7〜9月期).このように広島県は砕砂の生産・消費量がともに漸減していることから,岡山県など他県へ移出できるような状況ではない,と言えるでしょう.

次に,岡山県の東側に隣接する兵庫県の平成15年1月〜9月期の3ヶ月毎のコンクリート用砕砂生産量は上げ基調に推移しており,前年(平成14年)同期の生産量と比較して約10万トン増加しています(約40.6万トン/1〜3月期 → 約48万トン/4〜6月期 → 約43.4万トン/7〜9月期).

しかし,同県の同期の生コンクリート用砕砂消費量は大きな変動がなく推移しており,前年(平成14年)同期の消費量と比較しても大差ありません(約13.3万トン/1〜3月期 → 約15.4万トン/4〜6月期 → 約14.5万トン/7〜9月期).

このように兵庫県ではコンクリート用砕砂の生産量は増加しているのに対して消費量には大きな変動がみられないことから,兵庫県の砕砂の生産数量には他県への移出量が含まれている,と解されます.兵庫県から県外へ砕砂や砕石などが移出される場合,その移出先としては東側に隣接する大消費地・大阪府が有力です.

しかし,大阪府の平成15年1月〜9月期の3ヶ月毎のコンクリート用砕砂生産量及び生コンクリート用砕砂消費量は,ともにやや下げ基調に推移しています(砕砂生産量:13.6万トン/1〜3月期 → 13.1万トン/4〜6月期 → 13.3万トン/7〜9月期.砕砂消費量:約17.2万トン/1〜3月期 → 約18.3万トン/4〜6月期/ → 約16.8万トン/7〜9月期).

このように生産・消費量がともにやや下げ基調に推移している大阪府へ,兵庫県で生産された砕砂が移出されたとしてもその移出量は少ない,と考えられます.

上述した岡山県とその近隣府県の砕砂の生産・消費動向から,同県における海砂の代替え細骨材としての砕砂への移行状況については,次のように総括できましょう.

岡山県では昨年(平成15年)4月の海砂採取全面禁止施行以降,同県内における細骨材の海砂の不足分は隣県の兵庫県からの移入砕砂によって補充されている,と推察します.しかし,岡山県では現在も生コンクリート用細骨材として海砂が使用されており,使用比率は平成15年7月〜9月期の3ヶ月間で砕砂の24.4%に対して海砂の18%となっています(但し,生コンクリート用原材料として,河川・山陸・海の砂利・砂及びその他の砂(含・砕砂)・砕石・人工軽量骨材・高炉スラグの総計比に対して).使用されている海砂は,平成15年4月以前に同県の行政区画海域内において採取され貯砂されている海砂か,または最近に他県から移入された海砂かは判然としません.いずれにせよ同県内各地の土木・建築現場において使用される細骨材が,海砂から砕砂へ全面的に切り替わるにはまだ少し時間が掛かりそうです.

(小村 良二,2004.2)

〔本記事執筆に当たっては,「砕石統計四半期報」及び「生コンクリート統計四半期報」(経済産業省製造産業局住宅産業窯業建材課編)を参照しました〕

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