グループ長挨拶 

 地下水研究グループ長の町田 功です。当グループでは、主に2つのミッションを継続的におこなっています。1つは水文環境図の出版、もう1つは高レベル放射性廃棄物処分に係る深層の地下水流動研究です。水文環境図は本年度からインターネットでの配信をおこなっています。さらに、全国水文環境図データベースという、全国大での地下水水質情報を表示するシステムも作成しました。水文環境図、全国水文環境データベースともに、今後、数年をかけて完成度を高めて参ります。
 私はこれらに加えて持続的な地下水の利用と保全に対しても貢献していきたいと考えています。2014年に制定された水循環基本法により水は国民共通の貴重な財産となり、公共性が高いものであることが謳われました。これにより地方自治体で地下水を管理しようという動きがでてきています。私は日本における地下水マネジメントの中心的な考え方として、ローコスト(Low cost)、ローテクノロジー(Low technology)、ロングタイム(Long time)の3つのLからなる持続性を最大限に重視した方法を提案してきました。持続的な地下水の利用と保全を考える際には、運用の経済性を重視しなくてはなりません。日本では水の値段は諸外国と比較して安いので、地下水を管理するために多額の資金を投入すべきではないのです。また、ローコスト化と住民理解のために、ハイテクを用いない、人の手による“ローテク”を基本としたモニタリングが必要だと思います。将来の地下水利用と保全について、私がイメージする将来のビジョンは、地域の方々が水位計を片手に週に1回、井戸水位を測定し、それを地場のコンサルタントに報告し、地場のコンサルタントが時期ごとに自治体や地下水利用協議会等に報告する、という形です。この形により、地域の人々の中に根ざした日本型の地下水マネジメントシステムが構築されていくでしょう。そしてこれを長期間継続すること(ロングタイム)が必要です。なぜなら、地下水の専門家には良く知られている通り、地下水位変動や水質データなどは、季節変動等の“ノイズ”によって、その本質を掴むことが難しく、その変化傾向は長期的なモニタリングでのみ確認できることがあるためです。この長期間の変化を追跡する体制をつくることが、持続的な地下水の利用と保全に関して最も大事なことだと思います。
 水文環境にかかる理論的に正しいと思われる回答も、地域の方々にとっては受けいれられるとは限りません。地下水は資源と環境両面をあわせもつため、地下水に対する人々の思いは様々です。理論的な正しさを保ちつつ、社会に受け入れられる最適解を探すための、息の長い調査が必要だと考えています。