物理探査研究の新時代の予感 ― 神宮司 元治 ―
物理探査研究グループは、地圏資源環境研究部門の 中でも、産総研発足時から存続している数少ない研究 グループの一つです。当グループはその発足以来、20 年以上にわたって日本の物理探査をリードする存在と して重要な役割を果たしてきました。現在も質の高い 研究を行っており、その研究レベルは国内外で最高レ ベルと認められています。当グループも社会に役立つ べく研究を続けてきましたが、日本社会の状況は産総 研の発足時から大きく変化しており、その変化に合わ せて要求される研究内容や方向性も大きな変革を求め られています。特にここ数年、基礎研究・応用研究だ けでなく、実際の問題解決や具体的な製品開発などを 目指す実用研究も重視するようにシフトしています。 物理探査研究グループもこの変化に対応し、実用研究 の推進に貢献しています。物理探査研究は比較的具体 的な研究開発目標を定めやすく、技術開発もハードウ ェアや解析技術など実用研究に適しています。そのた め、基礎研究がしっかりしていれば、応用研究から実 用研究までスムーズに進むことが期待でき、今後の実 用研究の進展が期待されています。
ところで、物理探査に関連する技術として、生成 型 AI やその他の新しい人工知能技術が近年急速に発 展し、注目を集めています。物理探査の分野では、ニ ューラルネットワークを用いた逆解析など、機械学習 の技術的な応用が以前から行われていますが、生成 AI はこれとは異なる特性を持つ人工知能です。生成 AI の特徴の一つは、データや画像の言語化能力です。物 理探査では、測定した地下データを可視化し、その解 析画像や様々な補助データを基に探査対象の解釈や推 論を行うことが一般的ですが、たとえば、図 1 のよ うな比抵抗断面図(埋立地での例)を生成 AI である ChatGPT に読み込ませ、事前説明なしに解説を依頼す ると、以下のような回答が得られます。驚くべきこと に、人間が解析画像を見て考えることと同じような回 答を出してきます。
地表付近(0 ~ 1m):比抵抗が非常に高く、黄色やオ レンジ色で示される部分が見られます。この領域はお そらく乾燥した土壌や砂利が存在することを示唆して います。
中間層(1 ~ 2m):緑色で示される部分が多く、これ は比較的平均的な比抵抗を示しています。この層はお そらく、普通の土壌や岩石層を示しています。
深い層(2 ~ 3m):青色や紫色で示される部分が多く、 比抵抗が低いことを示しています。この領域はおそら く水分が多い、または導電性の高い物質が存在するこ とを示唆しています。
このような画像情報の言語化や解釈は生成 AI の得 意分野であり、他のデータとの融合や高度なプロンプ トを与えることで、より専門的な推論が可能です。物 理探査データの人工知能による解釈は未来的な展望を 示し、物理探査の専門家でない人も、AI を活用して一 般向けの説明や解釈ができるようになれば、物理探査 技術の一般利用は増加すると考えられます。そのため には、一般の人々が AI による解釈を通じ、物理探査 データを多角的に利用する時代が来ることを見越し、 様々なフィールドで、低コストでデータを入手し、目 的に応じた結果を提供できる探査技術の開発やデータ 提供の環境を日々整備していく必要があります。物理 探査研究グループは、これからも社会課題の解決や科 学的探求に貢献する、新時代をリードする実用的かつ革新的な物理探査技術の研究開発を推進します。
図1 埋立地での比抵抗断面図の例(地表付近は路盤、中間層は埋め土、深い層は海水が存在)