量子・AIハイブリッド技術を活用したアプリケーション開発を支援するチュートリアルを公開
発表・掲載日:2026年5月28日国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と株式会社長大は、量子コンピューティングとAIを組み合わせた技術を活用し、アプリケーションの開発・検証を行うためのチュートリアルを公開しました。 量子・AIハイブリッド技術の活用方法を具体的なサンプルを通じて実践的に学ぶことができ、産総研が整備する量子・古典計算基盤(ABCI-Q )上で実行・評価することができます。
研究の背景と概要
近年、製造・物流・エネルギー分野をはじめとするさまざまな業界において、問題の規模や複雑さが急速に増大しており、従来のコンピューティング技術だけでは、実用的な時間内で解くことが難しいケースが増えています。
こうした背景から、量子コンピューティングや量子インスパイアード技術、AIなどの先端技術を組み合わせ、計算能力やデータ活用の高度化を図る取り組み(量子・AIハイブリッド技術)が注目されています。
産総研および長大は、従来技術では対応が困難であったビジネス課題に対し、分野横断的に活用可能な量子・AIハイブリッド技術の有効性を検証するとともに、実際に活用可能な利用環境の整備に取り組んできました。
今回公開するチュートリアルは、こうした研究開発の成果の一環として、量子・AIハイブリッド技術を用いたアプリケーションを、より容易に開発・検証できるようにすることを目的としています。
チュートリアルの内容
本チュートリアルは、アプリケーション開発者や研究者が、量子・AIハイブリッド技術を活用した開発の基本を理解できるようJupyter Notebook形式で提供されます。具体的なサンプルコードを通じて、実際の開発・検証の流れを体験できる構成となっています。
チュートリアルでは、以下の量子・AIハイブリッド共通ライブラリを取り上げています。
1. SWIFT-FMQA(ブラックボックス最適化)
ブラックボックス最適化手法であるFMQA (Factorization Machine with Quadratic-optimization Annealing)を拡張した手法で、複雑な最適化問題への適用が可能なライブラリです[1]。慶應義塾大学田中研究室により開発されました。
https://github.com/Shu-Tanaka-Group/amplify-bbopt-ext
2. Qukit-learn(クラスタリング)
Scikit-learn互換のインタフェースを備え、量子機械学習を用いたクラスタリング手法を量子・AIハイブリッド環境で実装するライブラリです。東北大学小松研究室により開発されました。
https://github.com/kazukomatsu/qukit-learn-nedo
3. QuantumCircuitCutting(量子回路分割)
大規模な量子回路を分割し、小規模な量子コンピュータでも実行可能とするためのライブラリです。PwCコンサルティング合同会社により開発されました。
https://github.com/QuantumCircuitCutting
本チュートリアルでは、これらの共通ライブラリを活用した具体的なアプリケーションの作成のための応用的なチュートリアルとなっています。各共通ライブラリの基本的な使用方法は、それぞれのサイトに掲載されています。
さらに本チュートリアルでは、入出力変換ライブラリQudas(本事業にて開発)を活用しており、異なる量子/AIフレームワークの異なるデータ形式を統一的に扱う方法を学ぶことができます。これにより、複数のソルバー間での結果比較やベンチマーキングへの活用が可能となります。
→本チュートリアルは以下のWebページにて公開しています
https://github.com/QuAILib/quailib-app-samples
ABCI-Q上での実行環境
産総研が整備する量子・古典計算基盤(ABCI-Q)上で本チュートリアルを実行し、評価できる環境を整備しました。ABCI-Qでは、Open OnDemand機能を利用することで、ウェブブラウザからJupyter Notebookを起動し、ABCI-Qが提供するGPUやイジングマシンを用いて本チュートリアルを実行できます。ABCI-Qの利用方法については、用語説明に記載のURLを参照してください。
図:チュートリアルの実行画面
今後の予定
産総研と長大は、量子・AIハイブリッド共通ライブラリの継続的な管理体制の確立を進めるとともに、量子・AIハイブリッド技術を活用した実用的なユースケースの創出に向けて、研究開発を推進していきます。
なお、本研究の成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) の委託業務 「量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業/量子・古典の最適化等に向けたライブラリ開発/量子・AIハイブリッド技術の活用を加速する共通ライブラリ基盤の研究開発」(JPNP23003)の結果得られたものです。
用語の説明
ABCI-QABCI-Qは、量子コンピュータを活用するアプリケーション・ユースケース創出のための量子・AIハイブリッドコンピューティングのための計算基盤です。GPUを搭載したスーパーコンピュータである「システムH」を中核とし、3種類の量子コンピュータから構成されます。
• システムH:GPUスーパーコンピュータ
• システムF:超伝導量子コンピュータ
• システムQ:中性原子量子コンピュータ
• システムO:光量子コンピュータ
https://unit.aist.go.jp/g-quat/HowToUse/abci_q/ [参照元へ戻る]
量子・AIハイブリッド共通ライブラリ
単一及び複数の分野で共通的に使用可能な、量子・AI ハイブリッド技術を活用したアルゴリズム等で構成するソフトウェアライブラリです。NEDO委託業務「量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業/量子・古典の最適化等に向けたライブラリ開発」において開発されました。[参照元へ戻る]
Qudas
量子計算における最適化問題の入出力データを変換するためのPythonライブラリです。異なるデータ形式間の変換をサポートし、さまざまな量子計算環境での統一的なデータ処理を可能にします。
https://github.com/devel-system/qudas [参照元へ戻る]
Jupyter Notebook
プログラムコード、実行結果、説明文を一つの画面上で扱うことができる、対話型の開発・実行環境です。データ分析やアルゴリズム検証、教育用途などで広く利用されており、本チュートリアルではサンプルコードを実行しながら内容を理解するために用いられています。[参照元へ戻る]
Open OnDemand
ウェブブラウザを通じてスーパーコンピュータや計算基盤を利用できるポータル環境です。利用者は専用端末や複雑な設定を行うことなく、ブラウザ上から計算資源の利用やJupyter Notebookの起動が可能となります。[参照元へ戻る]
本件問い合わせ先
国立研究開発法人 産業技術総合研究所量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター 企画室
E-mail:M-G-QuAT-plan-ml *aist.go.jp(*を@に変更して使用してください。)
株式会社長大
事業戦略推進統括部 クオンタム推進部
E-mail:nishioka-hir*chodai.co.jp(*を@に変更して使用してください。)
[1] M. Nakano et al., "SWIFT-FMQA: Enhancing Factorization Machine With Quadratic-Optimization Annealing via Sliding Window," IEEE Access 14, 10977 (2026)