独立行政法人 産業技術総合研究所 
第2回環境管理研究部門・化学物質リスク管理研究センター研究講演会

「化学物質リスク評価とリスク削減に向けた環境産業技術の開発」

日時  平成15年1月24日(金)10:00〜16:50
場所  KKRホテル東京 10F瑞宝の間
主催  独立行政法人産業技術総合研究所
協賛  (社)日本化学会、日本環境化学会、(社)大気環境学会、(社)日本水環境学会、触媒学会

◆ 開催の主旨  

何万種類という化学物質が商業的に製造・販売され、身の回りに存在していますが、その中には人の健康や生態系に有害な影響(リスク)をもたらす可能性をもつ化学物質があります。あらゆるリスクをゼロにするには膨大なコストがかかるため、そのリスクと引き替えに得られる便益(ベネフィット)と比較した相対的なリスクを評価し、リスクの高い化学物質を選択して、監視を含めた合理的な対策(リスク削減)を実施していく必要があります。

この研究講演会では、「化学物質のリスク評価とリスク削減」について、化学物質リスク管理研究センターと環境管理研究部門で進めている研究の成果を報告いたしますので、多数の方々にご参加いただき、ご意見・ご指導を賜りますようお願いいたします。

◆ 参加者(人数と分布)

◆ 講演内容  CRMメンバー(中西・東海・岸本)のスライドをPDFファイルで公開しています。

特別講演1 「産業発掘戦略(環境・エネルギー分野)とグリーン・サスティナブル ケミストリーについて」
経済産業省製造産業局化学課機能性化学品室長 河本光明

平成14年6月25日に「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」が、閣議決定された。これを受け関係府省において、環境・エネルギー、情報家電・ブロードバンド・IT、健康・バイオテクノロジー、ナノテクノロジー・材料の4分野の技術開発、知的財産・標準化、市場化等を内容とする戦略を平成14年内に策定し、内閣官房がこれを取りまとめることが決定された。このうち、特に環境・エネルギー分野の取りまとめについて概説するとともに、併せて「グリーン・サスティナブル ケミストリー」推進に向けた取組についても概説する。

特別講演2 「リスク解析の目指すもの」
化学物質リスク管理研究センター長 中西準子

リスク評価を安全性評価の裏返しと理解している人が多い。行政機関が、リスク評価を行うのは、「このリスクレベルなら安全です」と言うことが目的であることが多い。リスク評価の使われ方として、こういう目的も一部あってもいいが、それはほんの一部ではあっても、主要な部分ではない。もっと大きな目的は、我々が生きていくにあたって遭遇する、様々なリスクを如何に上手に回避していくかを知ることである。つまり、生き様を選ぶ、指針を得ることである。このように使うためには、リスク評価の中に抽象という概念が必要になる。化学物質のリスク評価に、ある種の抽象概念が入り、それが進化していく姿を紹介したい。

スライド

研究発表1 「ノニルフェノール類のリスク評価」
化学物質リスク管理研究センター 水圏生態リスク評価チーム 東海明宏

産業用洗浄剤等の用途で広範囲に使用されているノニルフェノールエトキシレートの原料であり、かつその分解産物として知られるノニルフェノールについてリスク評価を行った。この物質は、国内外の機関等による環境調査結果から、広く水環境中に分布していることが知られるに至り、また生態毒性等によるインパクトが懸念されている物質の1つである。ここでは、既往の研究知見をレビューしたうえで、ノニルフェノールによる国内の水系におけるリスクのレベルを評価し、対策のあり方について検討した結果を報告する。

スライド

研究発表2 「浮遊粒子状物質による健康影響の定量評価の現状と課題」
化学物質リスク管理研究センター リスク管理戦略研究チーム 岸本充生

近年の疫学研究の急速な進展によって、浮遊粒子状物質は、健康影響の観点から見て最も重要な大気汚染物質であることが分かってきた。適切なリスク管理を行うには、リスク削減費用とともに、リスク削減対策の効果を見極める必要があり、そのためにはリスクの大きさの定量的な評価が不可欠である。本講演では、浮遊粒子状物質やディーゼル排気微粒子に関する近年の疫学研究の進展および、これらの結果を用いて健康影響を定量的に評価するための方法を紹介する。

スライド

研究発表3 「ダイオキシンの簡易計測技術」
環境管理研究部門計測技術研究グループ 黒澤 茂

ダイオキシン類による環境汚染は深刻な社会問題であり地球環境の保全のためには、その発生状況や暴露状況の実態調査用にppm〜pptレベルでの化学物質測定を行う高度な化学計測技術が必要である。ダイオキシン類の計測にはGC/MS法のように大型で高価な装置と前処理を含めて熟練の作業者と高額な分析費用、長い測定時間が必要である。このためダイオキシン類の簡易測定技術の確立は緊急の研究課題となっている。水晶振動子の持つ超微量の質量定量性と抗ダイオキシン抗体の持つダイオキシン選択結合性を利用することにより、0.1 〜100 ng/ml(ng=10-9g)の濃度範囲で、ダイオキシン濃度を測定できることを明らかにした。

研究発表4 「揮発性有機化合物(VOC)の省エネ型吸着回収技術」
環境管理研究部門 励起化学研究グループ 小林 悟

揮発性有機化合物(VOC)の吸着回収はほとんどが水蒸気加熱脱離によって行われている。この方法は、@ボイラー装置が大型であり、エネルギーロスが大きい、Aアルコール類など水溶性VOCが扱えない、B排水処理を必要とする、の欠点を有している。そこで筆者らは、吸着剤を直接、電磁場で加熱し脱離を効率的に行う方法について検討したので報告する。電磁場による加熱原理には、@抵抗損失、A誘電損失、B磁性損失がある。抵抗損失を用いる方法としては、最も簡単な方法として電気を直接流す通電加熱法があるが、これは繊維状活性炭に適用可能である。一方、粒子状吸着剤は粒子間の接触抵抗が極めて大きいため、通電加熱は不可能である。このため、マイクロ波、高周波で加熱することになる。以上は、全ての吸着剤・吸着装置メーカーが試みてきたが、これまで成功してこなかった。筆者らはこれらに成功し、一部実用化に達する段階に至った。

研究発表5 「室内VOC対策のための光触媒技術」 
環境管理研究部門 光利用研究グループ 佐野泰三

安全・快適な生活空間を創造する光触媒技術を紹介する。家庭、学校、オフィス、病院等の様々な室内空間にVOC(揮発性有機化合物)を始めとする室内大気汚染物質が存在し、シックビルディング症候群の原因となっている。人体への影響を考慮して汚染物質濃度の低減を推進する必要があるが、VOCの室内濃度指針値は数十ppbオーダーの極めて低い濃度であり、適用可能な従来技術は限られている。このような現状において、光触媒は省エネルギー的に希薄な有機化合物を酸化分解するのに適しており、室内VOC除去への応用が期待されている。アルデヒド、芳香族炭化水素、含塩素有機化合物、悪臭物質等の分解、光触媒の高機能化、および分解性能試験方法の標準化に関する当所の取り組みを報告するとともに、今後の動向を展望する。

研究発表6 「ディーゼルパティキュレートフィルター実用化のための触媒技術」
環境管理研究部門 浄化触媒研究グループ長 小渕 存

ディーゼル車から排出される粒子状物質(PM)を大幅に低減できる技術として期待されているフィルタートラップ(DPF)方式の実用化に向けて、技術的なネックとなっているフィルターの再生プロセスを容易にするため、通常のエンジン運転で得られる比較的低い排ガス温度でもPM酸化除去を可能にするための触媒開発を行った。様々な酸化物系、貴金属系触媒を検討した結果、TiO2とSiO2を複合した担体上にPtを担持した活性の高い触媒を得た。また、その作用機構を明らかにした。


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