地層の調査と分析室内分析

地層の分析

1堆積物を観察する

そのままを肉眼で観察
はぎ取り標本を作って観察
X線で観察

X線CT撮影装置 *

2砂粒の特徴を調べる

沈降管による粒度分析
画像解析による粒度分析

カムサイザー *

3顕微鏡で化石を観察する

実体顕微鏡で観察
光学顕微鏡で観察

光学顕微鏡 *

4堆積物の年代を知る

放射性炭素年代測定
ガンマ線測定

ガンマ線測定装置 *

地層の研究で一番大切なことは「観察する」ことです。地層は何からできているのか? 泥っぽいのか? 砂っぽいか? 植物がどれだけ残っているか?などを丁寧に記録します。

また、地層がどのように積み重なっているかも大切な情報です。そのような地層の特徴を、現地に行っていない人にも分かりやすく伝えるために、様々な方法で地層を分析していきます。

分析には機械を使う方法や、人の目で見たものを記す方法があります。「化石の観察」は人の目を使った分析の代表的なもので、非常に時間がかかります。

1堆積物を観察する そのままを肉眼で観察

堆積物の観察は、まず肉眼で行います。多くの場合は、調査を行った現地で観察した内容を書き留め、実験室に持ち帰った試料をさらに細かく見ていきます。

機械ボーリングで採取された試料は密封された状態で地下から上がってくるため、現地で確認することができません。そのため、実験室で半分に割って(縦方向に切って)はじめて観察することができるようになります。

現場での記載方法は研究者によって違います。縦書きや横書き、日本語や英語、柱状図(その場所の地層の重なりを柱のように描いたもの)の記号の使い方など、それぞれの個性がでます。

現地で記録した例

堆積物採取した後、可能であれば、表面を削って堆積物の変化(色、砂っぽいか、泥っぽいかなど)を記録します。

楽しそうに見えますが、その堆積物をはじめて見た時の印象は重要なので、研究作業のなかで大切な作業となります。

現地で見た堆積物を写真として記録する場合もあります。

現地で堆積物を観察する様子

実験室でさらに細かい観察を行います。観察するときには、現地で残した記録やX 線写真と比較しながら記載します。

堆積物中の残された化石などを見つけることもあります。

実験室で堆積物を観察する様⼦

1堆積物を観察する はぎ取り標本を作って観察

地層の表面を固めて、堆積物を標本として残すことによって、後から観察結果を見直したり、複数の研究者間で確かめることができます。
また、標本にすることによって地層を持ち運ぶことができるため、展示や学校の授業で使用することもできるようになります。

1地層を採取する

ジオスライサー(地層抜き取り装置)等で、地層を採取する。

板状に抜き取った地層 *

2地層の表面を接着剤で固める

使用する接着剤は特殊な樹脂で、シートの上から流すとシートの網目を通り抜け、試料へとしみ込んでいく。

シートの上から接着剤を流している様子 *

3接着剤が乾いたらシートをはがす

接着剤が乾いたら、シートを慎重にはがします。シートには地層の表面がはぎ取られる。

シートをはがした後に残った地層は、研究のためのいろいろな分析に使われる。

地層からシートをはがしている様子 *

4はぎ取り標本を加工する

はぎ取ったシート(標本)は、用途に合わせて形を整え、加工する。

大型のものは博物館で展示したり、小型のものは小学校等での学習のため、貸し出すこともある。

産総研の地質標本館(茨城県つくば市)に展示されている標本 *

1堆積物を観察する X線で観察

地層を観察するときには、肉眼で表面を見るだけではなく、X線を利用して内部の構造も確認します。

比較的エネルギーの小さい「軟X線」を使った方法と、医療用X線CT(日本語では「コンピュータ断層撮影」)を使った方法があります。軟X線を使った写真撮影は簡単ですが、堆積物を薄く加工する技術が必要です。医療用X線CTは撮影と画像の処理に手間がかかりますが、地層の中を立体的に観察することが可能です。
X線を使うことによって、肉眼ではほとんど見ることができないような構造(堆積構造)を確認することができます。また、石ころ(礫)の向きを詳しく調べることで、地層がどのような流れでたまったのかを知ることができます。

軟X線写真撮影装置による観察

軟X線写真撮影装置の写真
SRO-i503-2(ソフテックス株式会社)*

下側にある扉を開けて、試料を入れられるようになっている。X 線を照射する時間などを調整し、最も良く堆積構造が見える条件を探す。

軟X線で撮影した堆積物の様子

2011年3月茨城県日立市で撮影された写真

2011年3月茨城県日立市 *

2011年4月北海道浜中町で撮影された写真

2011年4月北海道浜中町 *

X線CT撮影装置による観察

Supria Grande(日立製作所) *

柱状の堆積物を寝かせて地層の断面を撮影する。柔らかい堆積物だけではなく、固い岩石や化石を撮影することもできる。

X線CTで撮影した堆積物の様子
X線CTで撮影した堆積物の様子*

2砂粒の特徴を調べる

砂粒の大きさを粒度と言い、粒度を調べることを粒度分析と言います。地層をつくる砂粒の粒度を調べることによって、砂がたまったときの水の流れの様子を推定することができます。
粒度分析には様々な方法がありますが、私たちの研究グループでは、水のたまったパイプ(沈降管)に堆積物を落とす方法と画像解析を利用した方法を使います。

沈降管による粒度分析

⽔で満たされた沈降管の上部から試料を投⼊すると、⼤きくて重い粒⼦がより早く落ち、細かくて軽い粒⼦がより遅く落ちていきます。

落ちてきた粒⼦は、電⼦天秤に吊るされた試料受け⽫に次々と堆積します。電⼦天秤のデータはコンピュータに送られ、リアルタイムで試料受け⽫に堆積した粒⼦の重さを計測することができます。

この堆積した粒⼦の重さの時間変化を、計算によって粒⼦の⼤きさとその存在割合に変換することで、粒度を知ることができます。

沈降管 *

画像解析による粒度分析(カムサイザー)

画像解析を利用した方法は、実際に粒の形状を写真撮影して調べる方法です。

私たちが使用している機械では、試料を上からふるい落とし、落ちていく粒の写真を大量に撮影していきます。撮影した写真はコンピュータが解析してどのような大きさや形のものがどれだけ落ちていったのかを計算します。

カムサイザーの本体
Camsizer (Retsch GmbH)*

中央のトレイが振動し、均等に粒子が落ちるようになっています。
計測結果はカムサイザーに繋がったコンピュータの画面で見ることができる。

カムサイザーの測定の様子を表したイラスト

ベーシックカメラで大粒子、ズームカメラで小粒子を撮像します。2台のカメラで撮影することにより、高精度の測定ができる。

3顕微鏡で化石を観察する

堆積物の中には、非常に小さい生物の遺体(化石)が含まれています。
化石を詳細に調べることにより、地層の起源が海か陸なのか、津波によって堆積したものなのか、また津波が浸水した当時の環境がどのようなものだったのかなど、様々なことを知ることができます。

実体顕微鏡による観察

篩(ふるい)を使って堆積物を洗うと、細かい粒々が残ります。これらを実体顕微鏡で観察すると、植物の種子などが見つかることがあります。

植物の種子の化石は、当時の環境を推定したり、年代測定に利用したりします。

篩(ふるい)を使って堆積物を洗う様子*
分離後の様子*

篩(ふるい)を使って洗い、泥と植物化石を分離します。

実体顕微鏡 *

実体顕微鏡で観察しながら植物の趣旨などをピンセットで拾い出します。

光学顕微鏡による観察

私たちは、さらに小さい生物のケイソウ類にも注目して研究を行っています。

ケイソウ類は、単細胞藻類の一つで、淡水から海水まで水分の存在するあらゆる環境に適応して生育しています。それぞれの種は、環境によって棲み分けているので、現在と化石の種の組成を比較することで、堆積物がたまった当時の環境を推定することができます。

ケイソウ類は実体顕微鏡では観察できないほど小さいため、より小さいものを拡大観察できる光学顕微鏡を使用します。

光学顕微鏡 *
処理の様子 *

化学処理した試料を、封入剤で小さなガラス板に固定して「プレパラート」と呼ばれる状態にします。封入剤は管理が必要な化学物質を含むため、保護具を身につけて処理します。

4堆積物の年代を知る

地層中から⾒つかった津波堆積物がいつのものなのかを知るためには、堆積年代(その地層が堆積したのは何年前なのか)を調べる必要があります。
私たちは、自然界に存在する放射性物質(炭素、鉛、セシウム)を使用して年代を調べます。また、地域によっては火山灰層が降下した年代を参考にすることもあります。

放射性炭素年代測定

放射性炭素(炭素14、14C)は、大気中にほぼ一定の割合で含まれています。植物は光合成によって放射性炭素を体内に取り入れるため、植物の体には大気と同じ割合で炭素14が維持されています。

しかし、その植物が死んでしまうと、大気と同じ割合だった炭素14が時間とともに減っていきます。この減った割合を調べることで、植物化石を含む地層の年代を知ることができます。

炭素14を利用した年代測定は、約6万年前から約400年前までの時代に利用できるとされています。

放射性炭素(14C)年代

放射性炭素年代測定方法を表したイラスト(GSJ研究資料集no.741から転載)

ガンマ線測定

鉛210(210Pb)は自然界に存在する放射性物質で、水中の泥の粒子に吸着して沈降し、湖や湿地の地層中に取り込まれていきます。γ線(ガンマ線)を放出する多くの種類の核種**を検出できる機械を利用し、その濃度を計測します。

鉛210が適用可能な時代は過去100年~ 150年程度と短く、最近の津波堆積物に対して行われる方法です。

このほか、核実験などで排出された核種であるセシウム137(137Cs)の変化を利用して年代を推定する方法もあります。

**「核種」とは、特定の原子の種類のことを言います。例えば、同じ炭素でも炭素12と炭素14は異なる核種です。放射性の核種は、種類によって出す放射線の種類(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)が違います。

ガンマ線測定装置 *

本頁は、澤井・田村(2022)GSJ研究資料集 no.741に加筆・修正したものです。写真の説明に(*)を付したものは同資料集より転載したものです。