TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
産総研発ベンチャー・地球科学可視化技術研究所株式会社(以下、地球技研)は、地球科学に関する野外調査や研究を行い、研究成果を可視化する技術の研究開発に携わっています。博物館の地質学分野から始動した大変珍しいベンチャーで、「未来の博物館」を創造するため、最先端のものづくり技術で地球の悠久の歴史を可視化します。
地球科学可視化技術研究所 株式会社 CEO/代表研究員。筑波大学自然学類卒業、同大学博士課程(生命環境科学研究科)修了。筑波大学博士研究員、産総研特別研究員などを経て、2011年から産総研地質標本館に学芸員として所属。2016年に産総研発ベンチャーとして地球科学可視化技術研究所株式会社を設立し代表に就任。「世界の恐竜MAP 驚異の古生物をさがせ!」(2016年、エクスナレッジ)など書籍監修・著書多数。
地球科学可視化技術研究所 株式会社 副代表(取締役)。成蹊大学法学部卒業後、損害保険会社勤務を経て、ニシムラ精密地形模型に入社。2001年より同社代表者となり、2007年3月に法人化。2016年6月、NHK番組制作への協力を機に、芝原暁彦氏と意気投合。地球科学可視化技術研究所を設立し、副代表に就任。
「地球技研起業のきっかけとなったテレビ番組と2人の研究者・技術者の出会い」
― 起業のきっかけとなるテレビ番組があったそうですが、経緯を教えてください。
私はもともと化石の研究が専門で、学芸員として産総研の地質標本館に所属していました。陸上や海底などのさまざまな精密地形模型を作り、そこに自身の調査結果やGSJ(産総研地質調査総合センター)の地質図などをプロジェクションマッピングする研究をしていたのです。
しかし当時、私が作っていた模型は30cm角ほどで、番組に求められたのは3m角のものでした。とても自分だけでは対応できないので、模型づくりに実績のあるローランドD.G.株式会社に相談したところ、日本で一番模型づくりの技術が高いという大道寺さんを紹介されたのです。
大道寺覚さん(以下、大道寺):私は最初、その話を聞いてお断りしました。模型とプロジェクションマッピングの組み合わせの実績はありましたが、そのような大きな模型に対するプロジェクションマッピングはできないと考えたのです。しかし芝原さんが、画像を歪ませながら模型に画像を正確にプロットする技術を持っていると聞き、驚くと共に「やってみようか!」となったのです。
番組の打ち合わせで私たちは意気投合し、まずこの番組の企画を成功させる、そしてその後何か一緒にやりたいと話したことを覚えています。番組では3m角の東京の立体模型にプロジェクションマッピングを投影し、東京の隠れた地形など地下の様子を写し出すことに見事に成功し、視聴率も高くて何度も再放送されたと聞いています。
3Dカラーマッピング模型(十和田湖)
3Dカラーマッピング模型(秩父)
― 番組を終えて、起業に至った何か大きなきっかけがあったのですか?
まったく接点のない2人でしたが、お互いに突拍子もないアイデアを持っていて、どんどん掛け合いをしていくような感じで企画を進めました。最初は起業するというよりも、一緒に何かプロジェクトをするというスタンスでしたね。
大道寺:模型について、今後こうするべきだという考えを披露すると、それ以上の熱量で返ってくる関係で、芝原さんは研究者でありながらものすごい情熱と意欲を持った人でした。
芝原:起業しようと決断したのは、何かきっかけがあったわけではなく、機が熟したという感じです。NHKでの番組放送以降いろんな依頼が舞い込んで来て、最初はボランティアベースで対応していましたが、それも限界にきていましたし、これはもう法人を作らないといけないなと考え、2016年に起業しました。
「他にはない大型の精密三次元模型と精緻なプロジェクションマッピング」
― 現在の会社の体制はどうなっていますか?
私と副代表の大道寺さんの2人だけです。分野は違うのですが、交わっている部分が三次元模型に関わるところで、その部分を最大限に活かしてお互いに刺激を与え合いながら研究を進めています。
大道寺:事業を展開していくためにはもちろんスタッフの力が必要ですが、それぞれの仲間の協力を得て進めています。芝原さんと密に連携を取って、それぞれの仲間が会社という壁を意識せずに入ってくる状況で、これは地球技研の強みでもあると考えています。
― 現在、産総研の地質標本館において、「日本列島の地質模型」が展示されていますね。
大型の模型製作は大道寺さんにお任せして、プロジェクションマッピング用のコンテンツづくりは私が中心で行っています。オープンデータの時代で、地形のデータひとつでも数十億点という座標データが蓄積され公開されています。これら大量のデータを限られたリソースでどう効率よく処理して、プロジェクションマッピングに落とし込むかが腕の見せ所だと思っています。
大道寺:普通は三次元模型にプロジェクションマッピングをすると、画像に歪みが生じます。しかし芝原さんが開発した歪み補正の方法は非常に精度が高く、大きな模型に対しても精度をもって投影することが可能なものです。現在、産総研の地質標本館では、9m角の日本地図を立体模型で作って展示しています。
9m角となるとプロジェクター1台では無理で、5台に分割してプロジェクションマッピングを行っています。連携や調整が非常に難しかったのですが、仲間たちの力も借りて実現することができました。
「博物館を再定義して「未来の博物館」を創造する!」
― 会社の運営に際して、大切にしていることは何ですか?
利益を上げるとか、技術開発を進めることの重要性はどこの会社でも同じだと思います。しかし私たちは作って売って終わりではなく、ユーザーに届いたところまで見たいという想いがあります。自然科学だけではなく、社会インフラや防災、都市計画に至るまで、さまざまな分野に私たちの技術を届けたいと考えています。
大道寺:この2人が面白くないと思うことはやりたくないと考えていて、起業の時もそう約束した覚えがあります。楽しんで研究開発を進めて、楽しいものができて、世の中の人が驚くという状況を作り出せればいいですね。
― 将来の展望をお聞かせください。
地球科学の可視化にはさまざまな表現方法があり、それをさらに分厚くしたいと考えています。三次元模型にプロジェクションマッピングをし、別にタブレットを用意して、そこに子どもたちがお絵描きをしたら模型にもその絵が投影されるような商品はすでに作成しています。さらに人工知能などを採り入れながら、より可視化する、分かりやすく理解できるような表現方法を開発していきたいです。
芝原:未来の博物館を作るというのが究極の目標です。博物館にはその地域の多くの情報が集まりますので、例えばプロジェクションマッピングを写した模型を見て、新しい街づくりや防災について語り合うような環境を創り出したいです。そこには地質学の専門家も一般の方も参加して、分け隔てなく議論ができる。そのような場所ができれば、博物館の概念は再定義され、イノベーションの苗床になっていくのではないでしょうか。
精密地形模型(磐梯山)
地下の構造がわかる精密地形模型(神戸~西大阪)
※本記事内容は平成30年3月1日現在のものです。
地球科学可視化技術研究所株式会社
〒305-0047 つくば市千現二丁目1番地6
Research Institute for Earth Science Visualization Technology Co.,Ltd.
2-1-6 Sengen, Tsukuba City, Ibaraki Prefecture, Japan 305-0047
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