TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
産総研との共同研究をベースに生まれた英語発音矯正ソフトの普及を通して、日本の英語教育に大きな一石を投じる株式会社プロンテスト。独自の発音判定技術によって、発話者の舌や唇、歯の位置や状態を認識・視覚化し、どうすれば正しく発音できるかまで教えてくれる画期的なソフトを開発し、現在、学校教育や英語学習教材などに次々と導入されています。
株式会社プロンテスト・代表取締役社長。1988年 つくば市にて英会話スクール創立、2004年 (国研)産総研の招聘研究員となり共同研究開始。同社の有する発音矯正指導ノウハウや英語音声学の知見をもとに、英語の発声時の口や舌の位置などを音響分析処理により自動的に判定、英語発音を自動判定・矯正指導するシステム開発に成功。2005年 産総研技術移転ベンチャーの称号授与。2012年「発音矯正ソフト⇒発音判定・矯正ソフトのアルゴリズムについて特許取得」今秋⇒2017年、(社)国際発音検定協会®も稼働。世界の主要言語の“通じる発音”の基準値を目指している。
「音声学研究と英会話教室の経験をもとに産総研と共同研究」
― もともと文系出身の主婦だった奥村さんが、産総研ベンチャーで起業した経緯を教えてください。
そもそものきっかけは、父が洋楽好きで、小さい頃からいつもわが家に英語の歌が流れていたことかもしれません。何を歌っているのか意味はわかりませんでしたが、なぜか子ども心に英語の「音」にとても惹かれました。やがて親に英語塾に通わせてもらい、大学では言語の発音を分析する「音声学」を専攻することになります。結婚後は専業主婦となって米国に4年ほど滞在。帰国後につくば市に住むことになりましたが、もともと学んでいた「音声学」や米国で身につけた英語を活かしたいと思い、まず大手英会話スクールの講師を経て、1988年に独立して教室を開設しました。つまり最初の起業時には英会話スクールだったのです。それが現在のような会社になったのは「つくば」という土地柄と人の縁としか言いようがありません。生徒さんには産総研などの研究者の方々が多く、また地元の商工会議所、ロータリークラブの方々など、次々に人脈が広がっていきました。
大きな転機になったのは、米国留学を希望する全聾(ろう)の女性に英語を教えたことでした。まったく耳が聞こえないわけですから、唇や舌の状態を伝えて発音を教えなければなりません。その時、「なんとか英語の発音を目で見せてあげることができないか?」と思ったことが、現在、弊社のメイン事業である「目で見る、発音矯正ソフト」の製品開発につながっているのです。その時、産総研に相談にうかがわなかったら弊社は存在しなかったでしょう。「英語学習者が発音したときに、その口の調音器官の状態が詳しくわかるもの」という私のアイデアを伝えたところ、音響分析の研究者の方に関心を持っていただきました。その後、2004年に私を招聘研究員として迎えていただき、産総研との共同研究がスタートしました。「プロンテスト」という社名もそのタイミングで付けたもので、翌年リリースされることとなった発音判定矯正エンジンにも社名と同じ名前を付けました。その由来はPronunciation Test=「発音テスト・検定」の省略形です。
― それまで技術系の研究経験がまったくなかった奥村さんがいきなり産総研で研究を始められて戸惑いはありませんでしたか?
もちろん最初はわからないことだらけ(笑)。でも、必要は発明の母という言葉通り、頑張って音響分析の基本や音響音声学などを勉強しながら、2005年秋になんとか研究者の方々とアルゴリズムの完成にこぎ着け、「産総研技術移転ベンチャー」の称号を受けました。
「"通じない"日本人の英語の発音を口の中の動きで判定」
― そうやって生まれたのが、世界初の発音判定矯正エンジン「プロンテスト®」ですが、その技術的な独自性はどこにありますか?
従来の音声認識を使った発音判定技術は、音声情報をテキスト化するためのものでした。しかし、私たちの目的は「その音が発せられるとき、口の中がどうなっているか」を発話者に見せ、具体的にどう直せば正しい発音になるかを教えられるということです。「通じない」日本人の英語の発音を音声学に基づいて科学的に解決する世界で唯一の技術と言ってもいいでしょう。そのため「産総研技術移転ベンチャー」に認定された当時も注目を浴び、NHKの朝のニュース番組でも紹介されたのですが、実はそこからが大変……。パッケージソフトウェア『発音力®』の製品化から事業を軌道に乗せるまで、まさに〝苦節3年〟を味わいました。
― 現在、御社の技術は多くの教育機関などに導入され、実績を重ねていますが、ブレークするきっかけは何だったのですか?
奥村:事業が軌道に乗るきっかけの一つは、地元である茨城県商工労働部に産総研さんがご紹介くださったことで、県認定の新分野開拓商品事業者に選ばれたことです。その後、そちらから県の教育委員会に紹介され、指導主事の先生方からも注目されて、2011年より県内のすべての中学校での英語教育に使われることになりました。また、英語教育で名高い青山学院大学で『発音力®』を使ったクラスと使わないクラスの比較実験をしていただき、リスニング力向上などの効果が確かめられました。そうした評判が広がって次々と他の大学や専門学校、都立高校でも導入され、代表的な中学校「英語」デジタル教科書にも導入されるようになるなど、おかげさまで大きな広がりを見せています。その間、弊社も発音矯正ソフトの技術的な進展を図っており、現在は当初の『発音力®』に加えて、独自の母音判定や文章判定機能を充実させた『発音検定®』をリリースして、各方面からの好評を得ています。
さらに、近年は英語教育関連製品に力を入れているカシオ計算機さんとのコラボレーションが進んでいます。カシオ計算機の電子辞書には2015年から『発音力®』と『母音判定』、2016年からは『発音検定®』が全機種に搭載されるようになりました。また、今年2月に発売されたばかりのロボット型英会話学習機『Lesson Pod』にも『発音検定®』が搭載され、私は『Lesson Pod』が対話して発音や文法の反復練習を指導するシナリオや付属のテキストの執筆もさせていただきました。カシオさんとは今後も様々なアイデアを具現化していく予定で、私もとても楽しみにしています。
「人間の主観を排除した純粋に客観的で均一化された発音評価」
― 奥村社長は「株式会社プロンテスト」での事業と並行して、一般社団法人「国際発音検定協会」も立ち上げられ、理事長に就任されていますね。
はい。Pronunciation Test=「発音テスト・検定」という社名の由来の通り、もともと私が現在の事業を手がけることになった動機は、日本の英語教育に「発音」を取り入れて「通じる英語」教育を普及させたいという願いでした。「国際発音検定協会」が実施する「発音検定試験」は、まさにこの願いに向けた大きな一歩で、科学的根拠に基づき、人間の主観を排除した客観的で均一化された基準による評価が行われる世界初の発音テストです。英検やTOEFL、TOEICなど他の英語資格と併せて受験していただいても効果的だと思います。また協会では、発音の指導者にふさわしい能力を身につけていただく「発音トレーナー認定講座」も開講しております。これらの活動を通して日本の英語教育をグレードアップし、日本の国際的な地位向上に貢献したいというのが私の夢です。
「英語教育のグレードアップで、日本の国際的な地位向上を!」
― 「国際発音検定協会」を含めた今後の事業展開について教えてください。
まず、これまで取り組んできた日本人の英語発音の研究をベースにして、英語以外の多言語による発音判定への事業展開を考えています。また、アジア各国の日本語教育に活かせる「日本語の発音分析・矯正ソフト開発」なども行っています。英語教育を通して日本人が世界で活躍できるようになることと同様、海外の人に日本語を身につけてもらうことで、日本に対する海外の理解を深め、また、日本で働きたい人たちや日本企業のお役にたち、世界における日本の地位を向上させる一助になりますから。
教育以外では、口の中の動きを認識する技術を応用し、言語療法や歯科矯正など医療分野に、役立てていきたいと考えています。
「発音検定試験」に関しては、今後、学術団体である日本英語音声学会との連携した活動もさせていただけるよう、予定しています。技術的にも現状に満足せず、さらなる技術開発に取り組みます。たとえば人工知能(AI)・音声認識との融合や最先端の音響分析の研究成果を取り入れた製品のグレードアップなど、技術的トレンドを取り入れながら、使う人が使いやすいソフトや教育システムを考えていきます。
このように弊社ではやりたいことがたくさんありますので、現在、一緒に仕事をしてくれる社員=パートナーを切実に求めています。音響分析やプログラミングなどの技術を身につけている人はもちろん、私たちの事業に興味を持っていただき、意気込みのある方なら歓迎します。もし、将来的に独立起業を考える方であれば、私の経験からアドバイスとお手伝いもします。もともと専業主婦だった私をここまで導いてくれたのも産総研や様々な出資者・支援者の方々のご尽力があってこそ。今度は私が若い人の夢を支援できればいいなと思っています。
電子辞書やロボット型英会話学習機などにも使われている『発音検定®』
波形や文字でリアルタイムに発音の評価と指導を行うことが可能
※本記事内容は平成29年2月3日現在の情報に基づくものです。
株式会社プロンテスト
東京事務所
〒103-0023 東京都 中央区日本橋本町4-15-11
岩月日本橋ビル7F
tel:03-5577-6035 fax:03-5577-6375
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