TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
中国から来日して約20年。X線やレーザーを使った非接触・非破壊検査分野を歩み続けてきた研究者が、 日本国内でビジネスマンに転身したその想いは、大陸の懐の深さを感じさせる広大さを持っていた。
つくばテクノロジー株式会社代表取締役社長。1993年の来日以来、10年にわたって日本の研究機関でX線を中心にした非接触検査分野の研究者として活動。産総研起業支援プロジェクトに賛同し、これまでの研究成果をもとに2005年に起業する。
中国の友人たちは次々と起業しました。そして、もちろん私も。
― まずは、研究者としての来日と、当時の研究分野についてお聞かせください。
王 波さん(以下、王):レーダー機器の研究開発から研究の世界に入りましたが、1993年に来日してからは筑波大学で5年半、CTやMRIなどの機器から得たデータの再構成や画像処理などを研究しました。おもにデータを処理する上でのアルゴリズムなどのソフトウェア面の研究開発です。続いて情報通信研究機構に移籍して2年間、遠隔医療手術に関わる高速3次元医療画像再構成を研究しました。レーダー技術から医療分野へ移りましたが、さまざまなセンサーから取得したデータを可視化することが、共通したテーマといえるでしょう。その後、産総研のスマートストラクチャー研究センターに参加しました。
― スマートストラクチャーとは、どのような技術なのでしょうか。
王:まず「ストラクチャー」とは、部材や部品などのことを指しています。そして、それらの部品たちが「スマート」であることがスマートストラクチャーなのですが、この場合のスマートとは「人間のように痛みを感じる」ということをイメージしてください。
― つまり、痛みを感じる部品、ということでしょうか。
王:はい。センサーを部材に埋め込み、自己診断と自己修復を行なわせる、という技術です。もともとは航空宇宙分野への応用を想定していました。スペースシャトルなどを構成する部品が自己診断をすることによって、重大な危険を回避することが目的です。
― その後、2005年に起業なさいましたが、どのような経緯だったのでしょうか。
王:将来は、ずっと研究を続けて大学の教授になるものと思っていました(笑)。中国でも10数年、日本に来てからも10年以上研究してきましたから。ですが、産総研がベンチャー開発戦略研究センターを設立して数年、これまでの長い研究成果を産業界に還元して、より社会に貢献できないかという想いから、つくばテクノロジーを設立しました。
― 研究者からビジネスマンへの転身を決断させたきっかけとは何でしょう。
王:最初は全然会社を作るつもりはなかったのですが、産総研に来てからは徐々に考えが変わってきました。そして、中国の深センに旅行したときのことですが、集まった友人・クラスメートたちの半数以上が起業して、会社の規模に大小はありますが多くの友人たちが成功していました。友人たちの活躍に勇気づけられて、いよいよ、起業して社会に貢献するという決心をしました。
― 周囲は反対しましたか?
王:私は、やると決めたらやり抜くことを信条にしています。どんな困難があっても乗り越えて成功するように行動するようにしています。
→ つくばテクノロジー株式会社のスタッフ。手前左から王社長、高坪さん、奥左から鈴木さん、楊さん、海老原さん。
非破壊検査は、すべての分野に応用できる可能性があります。
― 続いて、つくばテクノロジーの中心技術のひとつ、レーザー超音波を用いた非破壊検査システムについてお聞きします。そもそも、「レーザー超音波」とはどのようなものなのでしょうか。
王:レーザー光線と超音波を組み合わせることを指しています。まず、レーザー発振器を使って、検査対象にレーザーを照射します。すると、照射された部分はレーザー光線のエネルギーを受けて熱を発し、(ほんの少し)膨張します。その膨張が周囲に伝わっていくのですが、これが人間の耳には聞き取れない波、つまり超音波となっているのです。そして、その超音波を検出してデータを取得し、データ処理によって可視化していきます。
― 超音波の検出にもレーザーを使うことが可能なのですか。
王:はい。レーザーを発信して、レーザーで検出するというのが、完全に非接触な検査手法となります。ただ、検出側としては、圧電素子を素材に密着させて超音波を拾うこともできますし、発信側としてもレーザーを使わないという選択肢も考えられます。検査対象にあわせて変えられるのです。
― 非破壊検査ということですが、レーザー超音波による検査によって、内部の構造も分かるというその仕組みとはどのようなものでしょうか。
王:レーザーの照射によって発生した超音波は、表面はもちろん検査対象の内部にまで伝播していきます。もし内部に欠陥があれば、その欠陥があった箇所で反射して波が戻ってきます。そして、戻ってきたその反響がまた表面に達するので、それをセンサーで感知するのです。センサーが感知する超音波は、そのままではただの複雑なデータに過ぎませんが、さまざまなデータ処理や画像処理を行なって可視化します。
― 検査機器にも増してソフトウェアが重要だ、ということでしょうか。
王:検出したデータのアルゴリズム開発がとても重要です。たとえば、検査対象に穴があった、異物が混入していた、裂け目や劣化部分があったなどの場合、それぞれどのような波形データが検出されるのかという実験を行ない、サンプルを多く集めます。そして、それらのデータをもとにアルゴリズムや画像処理のソフトウェアを開発していくのです。これからは、もっと3次元的に見られるようにソフトウェアに工夫が加えられていくでしょう。
― つくばテクノロジーでは、レーザー超音波検査装置の他に、X線を用いた検査装置も展開なさっています。
王:はい。X線装置の開発にあたっては、リアルタイム性、ポータビリティ、そしてその前提となる安全性を重視しています。現在、机に置ける程度のサイズのX線検査装置が実用化されています。このようなコンパクトな検査機器を使えば、今まで入っていけなかったような狭い場所にある配管などのインフラストラクチャーの検査もできます。さらに、いわゆるレントゲン検査がもっとすばやく、しかも在宅医療や救急医療などの分野でも行えるようになると期待しています。
― これら非破壊検査機器は、どのような場所で活躍しているのでしょうか。
王:あえて「すべての分野」といっていいと思っています。製品出荷前の品質管理はもちろん、建築物や航空機など、高い安全性を保つ必要があるものには必ず定期的な品質検査がありますので、そういったところではすでに広く非破壊検査が実用化されています。将来的には、たとえばトンネルの内壁の強度検査を行なう場合に、コンパクトな機器を自動車に載せて走行しながらスムーズに非破壊検査を行なう、というようなことが可能になってきます。
写真左側のレーザー発振器と受信機から取得したデータは、ノートパソコンにインストールされたソフトウェアによって可視化される。
非破壊検査分野でのトップになることが目標です。
― これから、いっそうの浸透が期待される非破壊検査技術ですが、今後の課題としてはどのようなものがあるのでしょうか。
王:私どもでは、「小型化」、「可視化」、「無線化」、「スマート化」ということを研究課題としています。小型化、可視化はこれまでお話ししてきたとおりです。今後、高いところや離れたところなど、これまで検査できなかった分野に応用していくためには、リモートコントロールができたり、取得したデータを無線送信したりする、無線化も重要になってきます。また、今の検査システムはまだまだ自動化が進んでいません。もっと人間のように自律的に動作する「スマートな」装置も登場が待たれています。
― 非破壊検査機器は、世界中に多くのニーズがあると思われますが、現在、どのような営業活動をなさっていますか。
王:展示会でのPRがメインです。日本国内はもちろん、中国、アメリカ、ヨーロッパなど、世界中の展示会に参加しています。専門家が多く集まる展示会は、やはり効果が高いですね。そして、あとはホームページです。現在、日本語、英語、中国語、韓国語に対応しています。非破壊検査機器には、さまざまな国から問い合わせがありますので、それに対応していくために海外人材を積極的に採用しています。特にこれからのマーケットとして期待されている国や地域からの採用に前向きです。
― 最後に、つくばテクノロジー社の今後の展望をお聞かせください。
王:今は20名程度の小さなベンチャーですが、将来的にはどんどん大きくしていきたいと考えています。ソフトバンク社さんほど、とはいいませんが(笑)。日本国内にとどまらず、世界中に支社を築き、ネットワークを広げていきたいと思います。現在、ベンチャーキャピタルの支援を受けることを検討中ですし、数年以内に上場する計画もあります。どこまでできるかは分かりませんが、少なくとも非破壊検査の分野ではトップになりたい。そして今後は、医療分野にも領域を広げていきたいと思います。
X線検査装置。コンパクトな筐体だが、これからもサイズダウンに向けた開発が継続しているという。
レーザー超音波装置による可視化の例。検査対象にスリットが入っている場合、超音波の伝達時に渦が発生する。
※本記事内容は、平成26年4月23日現在の情報に基づくものです。
つくばテクノロジー株式会社
〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-14-11
Mail. info@tsukubatech.co.jp
http://www.tsukubatech.co.jp
*Application field
・出荷前製品の品質検査
・航空機などの大型機械の安全性検査
・インフラストラクチャーの安全性検査
・レントゲン装置の在宅医療への応用
・その他、高度なデータ再構築および可視化
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