平成19年7月17日 独立行政法人 産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター
結晶シリコン系太陽電池に関して、製造時の投入エネルギーを回収し、CO2排出量をトータルでゼロまで相殺するために、その太陽電池パネルを10年近くも稼働(発電)させる必要がある、と言う指摘が今でも散見されますが、これは古いデータに基づく誤った認識であることを、指摘させていただくと共にEPTに対する当研究所の中立的研究機関としての見解を以下にご説明させて頂きます。
持続可能な社会を実現するために不可欠なクリーンで枯渇することのない再生可能エネルギーとして、太陽光発電への期待は近年益々高まっています。太陽光発電は、有害ガスやCO2の排出が無く、燃料代も掛からないクリーンな発電システムですが、製造時には一定量のエネルギーが必要で、それに伴うCO2の排出もあります。この投入エネルギーの回収と、製造時排出分のCO2削減に必要な時間は、それぞれ「エネルギーペイバックタイム(EPT)」「CO2ペイバックタイム(CO2PT)」と呼ばれ、これらがシステムの寿命に比べて十分短くなければなりません。
これらのペイバックタイムは、システムを構成する全ての機器類の製造エネルギーや製造時のCO2排出量と、システムから毎年得られる発電量やCO2削減量の比率から計算されますが、前者は新しい太陽電池の開発や製造技術の改良、製造規模の拡大等によって次第に減少し、後者は太陽電池の変換効率やシステムの利用効率の改善によって増大するため、技術革新の途上にある太陽光発電のペイバックタイムは年々急激に短くなっています。太陽光発電システムは本格普及始めてから10年ほどであり、10年前のデータは現状を全く反映していない場合も多々あります。これは太陽光発電だけでなく、風力発電を始めとする他の再生可能エネルギーについても同様です。また、ペイバックタイムは設置場所やシステムの形態によって大きく変化することにも注意する必要があります。
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図1 太陽光発電システムの製造時投入エネルギーとペイバックタイム |
※算出条件 多結晶Si(1991年) / 地上設置1MW、生産規模=不明、運用エネルギー=1% その他 / 住宅用3kWシステム、生産規模=100MW/年、運用エネルギー=省略 ※多結晶Si(現状)の値は、参考文献[2]を元に当センターにて再計算を行ったもの。
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最新のペイバックタイムの値の周知が不十分なこともあり、古いデータ(例えば参考文献[1])を基に太陽光発電のペイバックタイムが非常に長いという間違った指摘がなされることが時々あります。
現在、我が国において公表されている最新の値(住宅用屋根設置の場合)は、EPTについては、多結晶シリコンで1.5年、アモルファスシリコンで1.1年、化合物薄膜(CIS)で0.9年、CO2PTについては、多結晶シリコンで2.4年、アモルファスシリコンで1.5年、化合物薄膜(CIS)で1.4年となっています(参考文献[2])。但し、結晶シリコンについて本計算では原料シリコンの製造方法として、現在開発中の新製法が想定されています。そこで現状に即した製造法から算出するとEPTは約2.0年、CO2PTは約2.7年となります(図1)。欧州では結晶シリコンで1.5~2.0年(将来0.8~0.9年)、薄膜系で1.2~1.3年(参考文献[3])、米国では多結晶シリコンで3.7年(将来2.1年)、薄膜系で3.0年(将来1.1年)[4]と見積もられています。
古い文献(参考文献[1])では、結晶シリコンの使用量が25g/Wと現状を反映した文献[2]の12g/Wの約2倍になっており、太陽電池を支える架台としても実験プラントとして愛媛県西条市に建設された1,000kWシステムの過剰に強固な鉄骨架台が想定されていたため、EPTが約10年と過大な値になっており、この値は現在のシステムを反映した値とはなっていないと考えられます。
太陽電池の寿命は、少なくとも20~30年程度と考えられていますので、最新のデータに基づくEPT、CO2PTはともに寿命に比べて十分短いといえます。薄膜系が結晶シリコン系に比べてEPTで優れるということは間違いではありませんが、結晶シリコン太陽電池は効率が高いので(最も効率の高い市販モジュールで約17%あり薄膜系の1.5倍はあります)設置面積が少なくて済むという住宅屋根用にとって大きな優位性があり、エネルギー収支やCO2削減効果の点でも十分優れた発電システムであると言えます。
(2008年10月追記)EPTやEPRの最新の見積もりも、併せてご参照ください。
参考文献[2] NEDO成果報告書「太陽光発電評価の調査研究」、太陽光発電技術研究組合、(2001.3)
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