グローバル産業支援拠点(仮)

「グローバル産業支援拠点(仮)」は、次世代のコンピューティングの中でも中長期的な取り組みが求められる量子デバイスの研究開発と試作サービス提供を行う拠点です。量子アニーリング・コンピューティング、量子標準、量子センシング、そしてこれらを制御する集積回路等について、産総研が蓄積してきたデバイス技術をコアとし、多階層の技術の統合に取り組んでいます。研究者のみならず量子技術のユーザーも含めた産官学のプレーヤーの結節点として、基礎研究を事業化につないでいきます。

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国立研究開発法人 産業技術総合研究所エレクトロニクス・製造領域

領域長 

グローバル産業支援拠点(仮)について

  • 統合イノベーション戦略推進会議「量子技術イノベーション戦略」に基づいて産総研は2020年に量子デバイス開発拠点として活動を開始
  • 量子コンピュータ・量子センシング・量子標準等のための量子デバイス開発を実施
  • 2022年には、「量子未来社会ビジョン」に基づき、グローバル産業支援拠点(仮称)への強化に着手
統合イノベーション戦略推進会議(第8回)に基づき、量子技術の基礎研究から技術実証・知財管理・人材育成に至るまで産官学が一気通貫で取り組む、8つの「量子技術イノベーション拠点」が2020年に発足しました。産総研は、量子デバイスの設計・製造・実装・集積化・評価を担う「量子デバイス開発拠点」(拠点長:安田哲二)として研究開発を行ってきました。そして2022年、同会議にて「量子未来社会ビジョン」が策定されたことで、新たな拠点の形成とともに(全10拠点)、拠点機能を強化する方針が示され、産総研は、「量子デバイス開発拠点」から「グローバル産業支援拠点(仮称)」へとその役割を大きく展開することが求められています。現在の主要開発テーマは、量子コンピュータ・量子アニーリングマシン・量子センシング・量子標準ですが、これらの量子デバイス作製・評価技術をコアとし、多階層の技術をグローバルな連携の下で統合して、基礎研究を事業化へと展開していきます。さらに、テストベッドの提供を通じて、研究者のみならず量子技術のユーザーも含めた産官学のプレーヤーの結節点となることで、「グローバル産業支援拠点(仮称)」としての役割を担っていきます。また、産総研の中に「量子活用テクノロジー連携研究ラボ」を設置している日本電気株式会社を始めとした企業・大学等との連携を引き続き積極的に推進していきます。

ー プロジェクト ー

施設

産総研では、超伝導量子ビット・超伝導量子集積回路に対応したQufab、シリコン量子ビットの試作が可能なCOLOMODE、ナノプロセシング施設(NPF)の3つのクリーンルーム施設を、2022年度から「PoCファブ」として一体的に運営しています。また、スーパークリーンルーム(SCR)は、半導体プロセス装置を用いて、300mmウエハへデバイスや回路を試作することができる施設です。これらの共用施設は産総研内外のユーザーが利用可能です。また、超伝導回路評価用の希釈冷凍器を有した極低温量子特性評価施設も稼働しています。

共用試作施設

 超伝導量子回路試作施設

Qufab
(superconducting quantum circuit fabrication facility)

超伝導量子デバイス・集積回路・3次元実装に対応した世界有数の量子試作施設

 未踏デバイス試作共用ライン

COLOMODE
(communal fabrication line for outstanding modern devices)

100mm対応試作施設

 ナノプロセシング施設(NPF)

小片試料・小口径ウエハから8インチウエハまでのナノ加工、計測・分析

TIA推進センター

https://www.tia-kyoyo.jp/npf/

 スーパークリーンルーム(SCR)

300mmウエハ用半導体試作施設

TIA推進センター

https://www.aist.go.jp/aist_j/information/organization/tia-co/orp/scr/

極低温量子特性評価施設

無冷媒型希釈冷凍機の外観(左)と内部(右)

研究内容

超伝導量子アニーリングマシン

  • 超伝導集積回路技術及び低温評価技術を駆使して量子アニーリングマシンを製造・評価
  • 量子アニーリングマシンを日本で最初に実現
産総研が長年培ってきた超伝導集積回路製造技術および独自アーキテクチャ技術を用いて超伝導量子アニーリングマシンを製造し、10mKにおける動作実証に成功しました。特定の組合せ最適化問題に特化した独自アーキテクチャの採用により、大規模な組合せ最適化問題を解くことが可能となります。人工知能や創薬などの幅広いビジネスへの貢献が期待できます。
日本初の量子アニーリングマシン(6量子ビット)。特定最適化問題専用アーキテクチャを採用。

川畑 史郎新原理コンピューティング研究センター

超伝導量子コンピュータ

  • 設計・製造・実装から極低温評価まで実施
  • 超伝導量子ビットの高コヒーレンス化・大規模集積化に関する研究開発
現在、世界規模で超伝導量子コンピュータの研究開発が行われています。産総研は、超伝導量子回路の設計・製造・実装から極低温性能評価まで一貫して実施可能な施設・装置群「超伝導量子ファブ」を有しています。産総研の得意とする超伝導・シリコン・スピンデバイスの各製造技術と実装技術を融合し、超伝導量子ビットの高コヒーレンス化・大規模集積化に関する研究開発を実施しています。
超伝導量子ビットにおけるジョセフソン接合のSEM像
トランズモン超伝導量子ビットの位相緩和時間評価結果

水林 亘/猪股 邦宏新原理コンピューティング研究センター

シリコン量子コンピュータ

  • 大規模集積の実現に向けてシリコン量子コンピュータのハードウェア技術を中心に研究開発
  • LSI用途デバイス開発で培った技術力を活用
産総研が長年培ってきたシリコンデバイス技術を活用し、シリコン量子コンピュータに向けたデバイス・集積化・回路技術を研究開発しています。量子コンピュータの性能がフルに発揮されるとされる100万ビット級の量子デバイス集積に向けて、シリコンデバイス微細化技術を活用し、現代LSIに匹敵する量子超集積技術の創成を目指しています。
産総研独自技術の高温動作量子ビット
稠密デバイス構造に向けた微細加工技術開発
周辺回路と量子ビットの連結動作
量子ビット特性シミュレーション技術

森 貴洋デバイス技術研究部門

量子電気標準デバイス

  • 3つの基本電気関係量(電流・電圧・抵抗)の量子標準を実現できる世界有数の拠点
  • 量子素子の標準応用で培った技術を現場計測やセンシングヘと繋げる
量子電流には単一電子移送素子、量子電圧にはジョセフソン素子、量子抵抗には量子ホール素子が必須です。産総研は、これらの量子素子を自在に作製できる世界トップの量子電気標準デバイス拠点です。国内外大学・研究機関との連携も重視し、小型汎用量子電圧標準、量子化ホール集積素子など世界をリードする成果を挙げています。開発した技術は精密電気計測コンソーシアムなどを通じ産業界で有効に活用されています。
単一電子移送素子と量子電流
微小量子電圧発生用ジョセフソン素子
量子メトロロジートライアングル実験:3つの量子効果はオームの法則を満たすか?
量子異常ホール効果を利用した次世代量子抵抗標準(理化学研究所との共同研究)

金子 晋久物理計測標準研究部門

ダイヤモンドNV中心を用いた量子技術

  • 優れたダイヤモンド成膜技術により室温で世界最長のスピン寿命を実現
  • 量子センサの集積化に向けた単一光子源の開発
  • デバイス内部の温度・電界計測およびスピン情報の電気的読出しに成功
半導体ダイヤモンドの気相成長ならびにプロセス技術を用いて量子センシング・量子インターフェースに資する材料・デバイス開発を展開します。NV(窒素-空孔)中心の優れたスピン特性から室温でも高感度な電磁界計測が可能となり、ライフサイエンス、環境磁場計測、バッテリーやパワエレ機器のヘルスモニタリングなど幅広い応用が期待されます。

加藤 宙光/牧野 俊晴先進パワーエレクトロニクス研究センター

展開

超伝導デジタル・アナログ集積回路

  • 高品質・高信頼な超伝導集積回路作製技術
  • 世界トップレベルの超伝導デジタル・アナログ集積回路を製造・実証
産総研の超伝導集積回路作製技術は、世界トップのパラメータ制御性と高い信頼性を有しており、数多くのデジタル・アナログ集積回路を実現してきました。デジタル回路では、9層のNb配線を用いた超伝導プロセッサ等の高速動作に成功しています。アナログ回路では、世界最大ピクセルX線検出器や超伝導マイクロ波多重読出回路等を実現しています。今後、これらの技術を量子アニーリングマシンや量子ビット制御用集積回路技術へ展開します。
ジョセフソン接合と9層のNb配線により作製された超伝導集積回路
世界最大ピクセル(4096ピクセル)超伝導X線検出器
超伝導40画素多重読出回路
4ビット超伝導プロセッサ

山森 弘毅デバイス技術研究部門

量子ビット制御用極低温CMOS集積回路

  • 量子コンピュータチップの制御と読み出しを行う半導体低温集積回路の技術開発
  • 従来CMOS技術開発で培った技術力を活用
量子コンピュータの中核をなす量子演算チップは、その演算の実施と結果を読み取るために、それらを制御する周辺回路が必要となります。これまでCMOS集積技術に関する研究開発を実施してきた経験を生かし、極低温で動作するCMOS集積回路技術を開発、量子コンピュータ・量子アニーリングマシンへの応用を目指しています。デバイス単体の技術から集積回路化する技術までをトータルにカバーし、シミュレーション技術までを含めて研究開発を実施しています。
極低温CMOS評価実験室

森 貴洋デバイス技術研究部門

量子ビット制御・読み出し用超伝導集積回路

  • 超伝導集積回路設計・作製技術を用いて量子ビットの制御・読出し回路を開発
  • 量子コンピュータ・量子アニーリングマシンの大規模化に必須の技術
産総研が有する超伝導集積回路製造技術を用いて、量子ビット制御回路の要素技術である低電力超伝導デジタル回路や、量子ビットの読出しに必須となる広帯域量子極限増幅器を開発しました。これらの超伝導デバイスを用いることで、高集積化された量子ビットの制御・読み出しを可能とし、実用レベルの量子コンピュータや量子アニーリングマシンの実現に貢献することが期待されます。
1113ユニット(3339ジョセフソン接合)から構成される広帯域量子極限増幅器チップ

竹内 尚輝/猪股 邦宏新原理コンピューティング研究センター

量子コンピュータと量子アニーリングの理論

  • 超伝導量子回路のシミュレーション技術
  • 人工知能・量子化学計算・セキュリティ等のアプリケーション探索
量子コンピュータと量子アニーリングマシン実現のためには、理論・シミュレーション技術を用いたデバイス設計・アルゴリズム開発・アプリケーション探索が必須となります。産総研においては、超伝導量子回路シミュレーション技術の開発と人工知能・量子化学計算・セキュリティなどの量子アルゴリズム開発・アプリケーション探索を行っています。また、量子センシング・量子IoT・量子制御の理論研究も進めています。
超伝導量子回路シミュレーション
量子アニーリングを用いた量子化学計算
量子機械学習のための量子回路

松崎 雄一郎/増田 俊平新原理コンピューティング研究センター

超伝導転移端センサによる単一光子検出技術

  • 単一光子のエネルギーを超伝導センサで検出
  • 世界最高の検出効率で光子や光子数を量子センシング
光の最小単位である「光子」の高精度検出技術は、量子分野では不可欠な要素技術です。この実現に向け、超伝導現象を用いて光子を量子検出する技術を開発しました。産総研の超伝導集積回路製造技術や光結合技術を駆使して、世界最高の検出効率と応答速度で光子数状態を量子測定できる技術の開発に成功しました。素粒子としての光子を高精度に検出できることで、量子シミュレータや量子光標準、超低侵襲バイオ計測などへの貢献が期待できます。
光子の量子制御に向けた量子光回路の集積化
超低侵襲バイオ計測用共焦点蛍光分光顕微鏡
超伝導転移端センサによる光子検出素子
コヒーレントパルス光の量子センシング

福田 大治/服部 香里計量標準総合センター

連携研究ラボ

NEC-産総研量子活用 テクノロジー連携研究ラボ

  • 量子技術分野におけるNECとの連携強化を目的に2019年に設立
  • 量子アニーリング、量子センシング技術を中心に研究開発を推進
NECは超伝導回路の固体量子ビット実証(1999年)、カーボンナノチューブ(CNT)の発見(1991年)などの世界初の技術を持ちます。当ラボはNECとの連携によりナノ・量子領域での技術強化を目指します。量子アニーリングでは、超伝導パラメトロンと呼ばれる独自量子ビットと4ビットの基本構成を繰り返す方式を採用し、組合せ最適化問題を高速・高精度に解くことを目指します。量子センシングでは、産総研で開発された小型原子時計を活用し、より正確に「時を計り」、超高精度に「位置を測る」技術を広く社会実装することを目指します。このほか、CNTを利用した赤外線センサデバイス、人工知能を材料開発に活用するマテリアルズインフォマティクスなどの研究開発にも取り組んでいます。

白根 昌之NEC-産総研量子活用テクノロジー連携研究ラボ

超伝導パラメトロン回路とそれを利用する量子アニーリングマシン
正確な時計、測位の社会実装イメージ

お問い合わせ

グローバル産業支援拠点(仮)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所エレクトロニクス・製造領域

E-mailrpd-eleman-ml at aist.go.jp(送信時はatを@に置き換えてください)

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