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大気圏環境評価チーム

 
大気圏環境評価チームのメンバーは、吉門洋チームリーダー以下4人(内、常勤研究員2)です。平成16年度中にこのチームから環境暴露モデリングチームが分離独立しましたが、両チームの研究分野には重なる部分が大きく、多くの面で連携して仕事を進めています。

事業所等から環境中に排出される化学物質への暴露は、その多くが主として大気経由で起こります。従って、そのプロセスを解明し、リスクの定量的評価・管理技術の開発に結びつけることは当研究センターの主要課題の一つであり、そのために当チームは下記の課題を掲げています。

1) 大気への諸排出源の解明と高精度の排出量把握
2) 大気中の輸送拡散や大気中での生成変質過程の解明とモデル化
3) これらの結果として与えられる大気中濃度や沈着量に対応する暴露量の定量的評価
4) 環境濃度・暴露量の評価に対応した排出源管理手法
5) 大気暴露を主要経路とする化学物質の詳細リスク評価
 
上に掲げた排出量の把握、大気中の濃度分布・暴露量の評価のために開発・高度化した技術はできる限り一般化し、マニュアル(取り扱い指針)やモデルソフトとして公開し、広く活用していただくことを目指しています。


1.公開中のモデルソフト:ADMERとMETI-LIS

二種類の大気暴露モデルを開発し、実地検証を重ねたうえで広く一般の利用に供しています。詳しくは「環境濃度予測モデル」のページをご参照ください。AIST-ADMERは、関東地方や近畿地方など広域での化学物質の平均的な時空間濃度・暴露分布を対象とするモデルであり、現在は、環境暴露モデリングチームが維持管理と改良、高度化を進めています。

もう一つのモデルMETI-LISは、「経済産業省(METI)低煙源工場拡散(Low-rise Industrial Source dispersion)モデル」を意味しており、発生源周辺の比較的狭い区域を対象としています。工場などの煙突や建屋開口部などから大気中に排出される気体または粒子状の諸化学物質の周辺濃度分布を計算、表示します。

必要な入力データは対象物質の排出量、排出条件(排出位置、排気量、温度等)および対象期間の毎時の気象です。濃度分布を精度良く求めるにはこれらの入力データがなるべく正確であることが必要です。気象データとしては、気象庁が全国で測定しているアメダスのデータを利用できます。

METI-LISは規制対象物質を排出している事業者自身や、相談・指導に当たる官庁・自治体、市民団体、教育機関に利用していただく目的で、扱い易いパソコンソフトとしてインターネット上で公開しました。本ホームページの「環境濃度予測モデル」から入れます。取扱説明書も同じアドレスからダウンロードできます。また、海外協力等にご利用いただける英語版が本ホームページの英語サイトからダウンロードできます。

図1

図1 METI-LISによる点源・線源からの拡散シミュレーション例
 

もう一歩、掘り下げたMETI-LIS解説:
従来対策がとられてきた窒素酸化物(NOx) 等の大気汚染物質は、固定発生源としては高煙突からの排出が主でした。このような大気汚染物質の拡散にはプルームモデルと呼ばれる数式が適用され、ある程度の精度で周辺濃度が推算されます。

しかし、私たちが対象とする化学物質の多くはもっと低い排出源から出され、拡散の初期に建屋等の影響を受けて近距離で高い地上濃度が出現します。そのような場合には周辺建屋の位置やサイズも考慮したプルームモデルの補正が必要になります。

この種の補正モデルとしては米国の環境保護庁(EPA)推奨のISCが知られていますが、経済産業省はISCを基礎としつつ、国内の要請にマッチした更に高精度のモデル開発を企図し、2001年にMETI-LIS Version 1を公開しました。

その後、当センターの主唱によりデータ入出力・グラフィック機能を中心に飛躍的な改善を加え、付随的な線源の組み込み、粒子状物質の沈降効果への対応も追加したVersion 2を完成させ、2003年12月に無償公開しました。また、2005年に英語版が完成しました。

METI-LISでは排出源から半径10km程度までの範囲を対象に、特定の日や時間帯における気象条件のもとでの濃度分布を再現する短期予測と、1日から1年までの任意期間の平均濃度分布を求める長期予測が可能であり、ユーザー独自の気象データがない場合は気象庁アメダスデータが利用できます。(アメダスデータCDは別途販売されています。)



2.新たなモデルや手法開発の取り組み

1) 実測濃度分布情報から大気排出物質の発生源を特定する逆解析ツールの開発を、平成17年度以降進めています。基本構造は、METI-LISをベースとして実測濃度データに最もフィットする排出源データを見つけ出すシステムとなっています。ただし、実測濃度データの量や質には多様なものがあり得るため、ツールの運用を全自動とするのは困難であり、多様な事例への対応方法を逐次追加して拡充を図る予定です。

 

図2

図2 実測濃度データを用いた逆解析による発生源の探索
(M,A,Bは濃度測定地点を表す。対象物質:アクリロニトリル,対象地域:堺)
 

2) ベンゼン等の自動車排出化学物質による沿道暴露評価を円滑に行い、ADMERやMETI-LISと組み合わせて詳細リスク評価に用いるための沿道暴露モデルを18年度に構築しました。ただし、暴露評価に必要な沿道人口分布の推定方式の検証が未だ十分とはいえません。

3) 環境暴露モデリングチームが中心となって、オイラー型次世代広域大気評価モデルのシステム化を推進しており、オゾン等の大気中生成物質の詳細リスク評価への活用を進めています。

 

3.化学物質の詳細リスク評価
 
前記のようなモデル技術と排出量算定技術の具体的活用として、大気チームでは2001年度以降、我が国における1,3-ブタジエン、ジクロロメタン等の詳細リスク評価を実施したほか、センター内の各チームが実施中の詳細リスク評価作業を支援し、有害大気汚染物質11種の現況暴露評価の取りまとめ等を行ってきました。 

大気チームが中心となって平成19年度中の公開を準備している詳細リスク評価書は、トリクロロエチレン、ベンゼン、アクリロニトリルです。

 


化学物質リスク管理研究センター

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