"魚類個体群の生態リスクの簡易評価手法

勝川 木綿1, 宮本 健一2, 松田 裕之3, 中西 準子2 

1東京大学海洋研究所
2産業技術総合研究所
3横浜国立大学大学院

保全生態学研究, Vol.9 No.1 pp.83-92 (2004)


概要

化学物質の生態リスク評価では、内的自然増加率rが指標として使われる。しかし、数多くの卵を水中に放出する多くの魚種では、自然環境下の卵から仔稚魚までの生存率を得ることは困難である。

データから推定されたrの絶対値は、推定誤差が大きい。本論文では、化学物質の毒性が魚類個体群に与える影響を評価するため、不明または推定誤差の大きいパラメータを使わずに生態リスクを評価できる簡易方法を提案した。

はじめに、化学物質による内的自然増加率rの減少分(デルタr)をリスク評価の指標と定義し、齢構成モデルから計算可能である事を示した。デルタrは推定誤差の大きい初期生残率のデータを用いずに計算できる値であり、化学物質が魚類個体群に与える影響を相対的に比較することができる。

次に、生活史パラメータが不明な場合、種間外挿によって未知のパラメータを求め、齢構成モデルを構築する方法を示した。デルタrは、個体の繁殖率や生存率の減少など化学物質毒性が生活史パラメータに与える影響により決まる値である。

個体群増加率の減少率デルタrを指標として使う場合、(1)成熟齢や極限寿命など生活史の異なる生物の生態リスクを相対的に比較することが可能である、(2)卵の受精率、孵化率の減少や仔稚魚期の生存率の減少、あるいは成魚の生存率や繁殖率の減少など暴露が様々な生活史段階に与える影響を評価できる、(3)推定誤差が大きい初期生存率のデータを用いずに、化学物質が個体群に与える影響を相対的に比較できる、(4)乱獲など質の異なる生態リスクとの比較が可能である。

実際に、ブルーギルについて個体への影響を調べた毒性試験結果から、デルタrを用いて個体群への影響を評価した。

キーワード

生態リスク,個体群,リスク評価


化学物質リスク管理研究センター

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